07
夜になり隊員達がゾロゾロと食堂へと集まる。
凱斗と桜庭も食堂で端の席に座る。
「会長からなにか報告は?」
凱斗はスケジュール帳を眺める桜庭に問い掛けた。
「いえ、まだ何も。
ただ、今回は大橋さんでは無い研究者に任せると聞きました。」
「大橋以外の研究者?」
桜庭はスケジュール帳をテーブルの上に置き凱斗の方へと視線をやる。
「はい。
今までは唯一の食屍鬼の研究者と呼ばれている大橋さんに殆どの事を任せていましたが、別に高山さんという食屍鬼の研究をしている方が見つかったとかで、大橋さんの負担を減らすべく高山さんにも依頼をするようにした、と伺っています。」
凱斗は「ふぅん。」と興味無さげに返事をすると、料理を運んできてくれたシェフから皿を受け取る。
「近々高山さんへご挨拶をすることになるかと思います。」
桜庭もシェフから皿を受け取り、テーブルの上に並べる。
凱斗は桜庭を見て頷くと「いただきます。」と箸を料理へと向かわせた。
「凱斗!!!!!」
食堂の扉がバンッと音を立て開いたかと思うと、大きな声で名前を呼ばれる。
「んだよ。」
凱斗は箸を持つ手を止め少し眉間に皺を寄せ扉の方を見る。
息を荒くし凱斗に近寄ってきたのは麗華だった。
「ねぇ、あんた瑠璃ちゃん知らない?」
麗華は凱斗の前に立ち目をジッと見つめた。
「は?知らねぇよ。部屋にいるんじゃないのか?」
凱斗は桜庭をチラリと見る。
「確かに私は部屋へお連れ致しました。
部屋にいないのであればまた屋敷で迷っているのかもしれませんね。探してきましょう。」
桜庭が立ち上がると麗華は桜庭の方へと体を向ける。
「実家での話を聞いていたので落ち込んでいるだろうと思って部屋に行ったんです。
でも部屋の中には瑠璃ちゃんはいなくて。
屋敷内も探したけど見つからなくて……。」
目を少し潤ませる麗華を見て桜庭は困った表情を見せる。
「靴はあったか?」
凱斗の問い掛けに「まだ見ていない。」と答える麗華。
凱斗が桜庭を見ると、桜庭は頷き食堂を後にした。
「とりあえず座れ。どこかには居るだろ。俺らが探すから。」
凱斗は箸を置き立ち上がると麗華の手を取り椅子に座らせる。
うるうるとさせたその瞳から零れる雫を指で拭うと、頭を撫でる。
「俺が探してくるから泣くな。」
麗華の目を見てそう言う顔はどこか寂しそうな不安そうな笑顔だった。
麗華は小さな声で「ごめん。」と呟くと凱斗は麗華から離れ近くの隊員に声を掛ける。
少しするとその隊員は麗華の元に来て「落ち着くまで俺がそばに居ます。」と麗華の隣に立った。
凱斗は食堂を後にし玄関へと向かっていたが、途中で向こうから桜庭が小走りでこちらに向かってきているのが目に入った。
「凱斗さん、瑠璃さんの靴がありません。」
桜庭の言葉を聞いた凱斗は黙ったまま玄関へと向かう。
桜庭も凱斗に続き再び玄関へと向かった。
「おい。」
靴を履き玄関から出ると出入口の見張りをする隊員に声を掛ける。
後ろから突然声をかけられた隊員達はその声の主が凱斗だと気付き背筋をピンと伸ばし敬礼をした。
「お前ら瑠璃知らねぇか?」
凱斗がそう聞くと隊員達は目を見合わせる。
「知ってんのか?」
少し苛立ったような声でもう一度問い掛ける凱斗を見て隊員の一人が口を開いた。
「瑠璃さんなら一時間程前に屋敷を出ました。」
隊員の言葉を聞いた凱斗は眉をピクリと動かす。
「誰と?」
「一人で出て行かれました。」
凱斗は話す隊員をキッと睨み付け胸ぐらを掴む。
「何で一人で外に出した?食屍鬼がいたらどうする?何かあったらお前が責任取れるのか?!」
声を荒らげる凱斗を後ろから宥める桜庭の声は凱斗の耳には届かない。
睨まれたまま胸ぐらを掴まれている隊員は身体を震わせ恐怖心に支配され声を出せなくなっていた。
周りにいた隊員達も下を向いてしまった。
凱斗は掴む手を離し腕を組んでジトリと隊員達を見る。
「桜庭、人を集めろ。瑠璃を探すぞ。」
凱斗の背中に頭を下げ慌てて屋敷へと戻る桜庭。
隊員達は小さくなり、震えていた。
その震える隊員達の中の一人が恐る恐る凱斗の方を見るが、暗く冷たい眼を見た途端また下を向いてしまう。
「俺の質問にいつ答える?」
先程よりは落ち着いた声だが、その声は低く圧があり声だけで押し潰されそうになった。
「あの……。」
隊員の一人が小さく声を発すると、凱斗は耳をピクリとさせその隊員の方を見る。
「瑠璃さんは桜庭さんとアニキから外に出てもいいと言われた、と。そう聞いて僕達は……。」
声を震わせそう言う隊員を黙って見続けていると、そこに隊員を引き連れた桜庭が姿を現した。
凱斗は震える隊員達に見張りを続けるように言うと車の方へと向かう。
「桜庭、お前瑠璃に外に出てもいいって言ったか?」
凱斗は車に乗り込み外に立つ桜庭に問いかけると、桜庭は驚いた顔をする。
「あんな事があった後にそんな事許可するわけないじゃないですか!ましてや一人だなんて……。」
「まあ、そうだよな。嘘ついてまで外に出たかったって事か。」
凱斗はハァと小さく息を吐くと「とりあえず連れて帰ってくるわ。」と言い車のドアを閉める。
屋敷門が開き3台の車が外へと走り出す。
その後を複数の隊員もついて出ると屋敷付近から山を下るようにして辺りの捜索を始めた。
先頭助手席に座る凱斗は外をジッと見つめる。
後部座席に座る隊員達も目を凝らし外を見つめている。
車はゆっくりと山道を下って行き、暫くすると暗く細い道に出る。
「道から外れた場所にいるのか、下りきってこの辺りに居るのか…。
この辺りならそう遠くには行っていないと思う。
車から降りて探すぞ。」
凱斗が運転する隊員にそう伝えると隊員は車を停め外へと出る。
後ろの二台からも隊員達が出てきて、懐中電灯と剣を手に持ち捜索を開始した。
凱斗は懐中電灯で照らしながら剣を引き摺り歩く。
「下りきらずに向こうにいてくれた方がまだ安心できんだけどな。」
凱斗は辺りを見回しながらゆっくりゆっくりと歩く。
薄暗い中で吹く風の音は不気味な笑い声に聞こえた。




