06
「連絡取れた?」
家の中に居る桜庭に声を掛け、倒れる食屍鬼を見る。
「はい。すぐこちらに向かうとの事です。」
桜庭は部屋をガサゴソと漁りながら返事をする。
凱斗は家の中に入り、部屋で漁る桜庭の後ろ姿を見つめる。
「何してんの?」
必死で何かを探してるようにも見える桜庭に凱斗は疑問を抱く。
「あの、これ。何か手がかりがあるのでは?と思いまして。」
桜庭は漁るのを中断し手に持つ紙を凱斗に見せた。
「30錠…3万円?」
紙にはそれだけが書かれていた。
「なんだこれ?薬か?」
紙を手に取り眺めながらそう言う凱斗に桜庭は頷く。
「薬だとは思いますが、何の薬なのかは分かりません。
それに少々値段が高いのも気になります。
もしかすると違法薬物の可能性が、と思い探しているのですが……。」
桜庭は辺りを見回しながらそう言うと、押し入れの方へと向かった。
「この部屋で探していないのは後はこの押し入れだけです。」
桜庭は押し入れに手をかけゆっくりと開ける。
その中には布団や物がギュッと詰め込まれていた。
桜庭は下の段にある収納箱を引っ張り出し蓋を開けた。
「凱斗さん、見てください。」
桜庭は収納箱を凱斗の方へとやると、凱斗はしゃがみこみ中を覗く。
「これか。」
凱斗は中に入れられていた錠剤を手に取る。
「これも総龍に渡して調べてもらおう。」
凱斗がそう言うと、桜庭は錠剤が入った袋を取り出し、収納箱の中をガサゴソと漁る。
「他にもなにかあるかもしれません。」
桜庭は真剣な表情で中を探るが、特に怪しいものは見つからなかった。
凱斗が立ち上がり玄関の方を見ると、丁度総龍会が到着し凱斗に頭を下げた。
桜庭は総龍会の隊員達と話、手に持つ錠剤を渡した。
隊員達は布袋を取り出し倒れる食屍鬼を詰め込み外へと運ぶ。
凱斗は隊員達に任せ桜庭と共に車へと戻り、一先ず屋敷に戻ることにした。
車内はシンと静まり返ったまま屋敷へと向かう。
凱斗は助手席の窓を開け煙草を1本取り出し火をつけ、フゥッと外に煙を吐き流れる煙を眺めた。
ガタガタとした道を進み、車は屋敷へと到着した。
桜庭は運転席から降りると、助手席のドアを開け、凱斗は灰皿に煙草を捨て、屋敷へと向かって行った。
凱斗の後ろ姿に頭を下げ、少ししてから後部座席のドアを開け瑠璃に手を差し出す。
瑠璃は桜庭の手を取り車を降り、大きく深呼吸をして空を眺めた。
「サヨウナラ……。」
小さな声でそう呟くと「参りましょう。」と少し前を行く桜庭について歩いた。
桜庭は瑠璃が寝泊まりしている部屋へと連れて行き休むように声を掛けた。
瑠璃は頷き部屋の中へ入りドアを閉める。
桜庭は食堂へと向かいシェフに温かい飲み物を瑠璃の部屋へ運ぶように伝えると、凱斗が待つ会議室へと向かった。
会議室の扉が少し開いており、中を覗くと凱斗と会長が話している姿を捉えることが出来た。
「あの錠剤、普通の薬じゃないと思う。
ただ違法薬物だとしてもそこから食屍鬼になるなんて事はまず有り得ないと思うんだけど……。」
凱斗は会長にそう言うと、うーんと腕を上に伸ばす。
会長も顎に手を当て考え込んでいる様子だった。
「失礼致します。」
桜庭は声を掛け部屋の中へと入り扉を閉める。
凱斗はチラリと桜庭を見て自分の隣に置いた椅子を指差し、桜庭は椅子に座り姿勢を正した。
「凱斗から大まかに話は聞いた。錠剤の事は調べさせよう。
今回の食屍鬼と数日前まで一緒に居た娘さんにも話を聞きたい。総龍会から人を送る。」
会長が桜庭にそう伝えると凱斗の方をジッと見つめた。
「何?」
黙って自分を見続ける会長に少し気まずそうにしながら声をかける。
「また少し目付きが鋭くなったんじゃないか?
……短期間で問題が起こりすぎて疲れが溜まっていそうだ。
今回の事も今は此方に任せて凱斗もゆっくり休みなさい。」
会長の言葉を黙って聞き、軽く頷く。
「一日ゆっくり休むよ。」
凱斗はそう言うと、じゃあ後は任せたね。と言い立ち上がり、手をヒラヒラとさせ会議室を後にした。
桜庭と会長は小さく息を吐き目を合わせる。
「少しでも疲れが取れるといいが……。
桜庭、お前はやる事が多く疲れも人の倍溜まっていると思う。
が、凱斗の事も気にかけてやってくれ。」
「言われずともそうつもりです。
私は凱斗さんの力になるべく黒龍にいるのです。
この方を一番そばで支えるのが私の役目ですので。」
会長は優しく微笑みウンウンと数回頷くと、調査報告はまた連絡する。と言い画面を切った。
桜庭は立ち上がり頭を下げ、画面を落とし椅子を片付けて会議室から出ると、凱斗の部屋へと向かった。
凱斗の部屋を数回ノックしたが中から返事は無く、瑠璃の部屋にいるのか?と瑠璃の部屋を尋ねるがここにも来てはいないようだった。
瑠璃が少し不安そうな顔をしたので桜庭は「食堂、または御手洗にでも行っているのでしょう。」と笑ってみせる。
桜庭のぎこちない笑顔を見て瑠璃もつられて笑った。
瑠璃にはまた後で来ると伝え屋敷を歩いて回った。
食堂にも医務室にも居ない。
中庭にも御手洗にも居ない。
靴は玄関に置かれている。
中央広間も覗いたがそこにも居ない。
「という事はあそこ位ですね。」
桜庭は入り組んだ廊下を歩き屋敷の奥にある部屋へと向かった。
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「凱斗さん、探しましたよ。」
大きく開かれた扉から中へと入り、静かに閉め凱斗の方へと視線を向けた。
黒く大きな剣を肩でトントンと音を鳴らしながら桜庭を見る凱斗の眼はまた闇を増していた。
「お休みになられるのではなかったのですか?」
桜庭は少しずつ凱斗の元へと近付く。
凱斗はフイッと視線を逸らし、前に立つ人型の模型を捉えると剣を構え飛び上がる。
高く飛び上がり、カッと見開かれた眼は模型を離さないまま剣を横に構え直し首を目掛けて一気に振り払った。
ゴロンと転がる模型の頭の数は数体あり、桜庭の足元にも一つコロコロと転がってきた。
「訓練場で凱斗さんが自主練…いつぶりですかね。」
桜庭は自分の足元に転がる頭を掴み上げて部屋の隅にある箱へと入れる。
「今回も俺はまた……。」
凱斗は一瞬暗い表情を見せその場に座り込むと剣を横へ起き、ゴロンと寝転ぶ。
「俺がさっさと動いていれば、親父さんは食屍鬼になんかならなかったかもしれねぇ。
瑠璃にした事は許されることじゃねぇけど、最期の姿がアレはあまりにも酷だ。」
天井を見つめる凱斗を横目に桜庭は模型の片付けをする。
「仕方ありませんよ。
アビスの事もありましたし、すぐに向かう事は不可能に近かったと思われます。
それにたった数日でこのような事になるだなんて……。」
凱斗はうーんと唸りながらコロコロコロと床を転がる。
「今一番辛いのは瑠璃だよな。」
ピタリと止まり顔を上げ桜庭を見ながら言う。
「そうですね。
自分の恋人、それに父親までもが食屍鬼になってしまい目の前で失ってしまった……。
悲しいなんて言葉だけでは表しきれないでしょう。」
「その恋人も父親も、俺が殺ったんだよ。」
凱斗はそう言うとまた顔を伏せ手足をバタバタとさせる。
「なぁ桜庭、いくら相手が食屍鬼とは言えあいつの大事な人、家族を手にかけた俺はどうすればいい。」
模型と剣を片付け終えた桜庭は凱斗の元へと行き隣に腰を下ろした。
「どうもこうも、今まで通りで良いのではないでしょうか。
相手は食屍鬼です。それを倒すのが私達龍の仕事。
凱斗さんが殺っていなければ今頃瑠璃さんはここには居ませんでした。
凱斗さんは瑠璃さんをお助けした、それだけの事なのです。」
凱斗はゴロンと転がり上を向くと、目だけを動かし桜庭を見る。
「そうだけどさ。
なんだろうな、アイツの家で二人が写った写真とか見ちゃったから変な気持ちになってんだよな。
でもまぁ気にしても仕方ないか……暫くは麗華に任せるか。」
凱斗はヨッと体を起こして桜庭を見てニィッと笑う。
桜庭も少し微笑み小さく頷く。
「とりあえず一回風呂入るわ。汗かいた。」
凱斗が立ち上がり扉へと向かうと、桜庭も慌てて立ち上がり凱斗の後ろにつく。
凱斗は少し開いた扉に手をかけ、外へと出る。
それに続いて出た桜庭は少し違和感を感じたが、気にすることをやめそのまま凱斗について進んだ。




