05
「燈龍さん、大丈夫でしょうか?」
瑠璃は立ち止まり後ろを振り返りアパートを見つめる。
桜庭も立ち止まると、少し小さくなったアパートを見つめる。
「凱斗さんの事です。
何か考えが………あると思いたいですね……。」
桜庭は少し不安そうな表情をしながら「行きましょう。」と瑠璃に声を掛け車へと向かう。
瑠璃はスタスタと歩いて行く桜庭に小走りでついて行く。
「なんだろう、このゾワゾワする感じ……。」
瑠璃は胸の当たりを軽く押さえながら呟いた。
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ピンポーン
凱斗はインターホンを鳴らし一方後ろへと下がる。
「やっぱり出ないか。」
凱斗は目を閉じスゥッと大きく息を吸い込む。
「この職に休みはねぇんだな。」
小声で呟き目を開け、扉を蹴破った。
「お邪魔します。」
部屋の中にいる瑠璃の父親と思わしき男にそう言うと、男は凱斗の方へゆっくりと顔を向けニタリと笑う。
「ア、ア、オイシ、オイシソナニオイ」
男はヨダレを垂れ流しながら凱斗の方へと走り寄る。
凱斗が男を避けると、男はそのまま外へと転がる。
「イタ、イタ、イタイタイタイ」
男はニタリとした表情を変えないままそう言うと起き上がり凱斗を見てボタボタと涎の勢いは増す。
「イタダ、キマス」
男は両腕を上げると一気に走り出す。
凱斗は後ろの壁を蹴り上げ高く浮くと、男の顔を勢いよく蹴り上げた。
蹴りの威力に耐えられず再び転がる男の上に跨り、男の顔を踏み付ける。
その足を喰らおうと男は暴れようとするが、それよりも先に凱斗に押さえ付けられた。
仰向けに転がる男をうつ伏せにし、上に座り込むと男の頭を掴む。
「イイ、ニオイ!アァ!アァ!イイ!!ニオイ!!」
男は鼻をヒクヒクさせ叫ぶ。
凱斗は黙ったまま暗い眼で男の後頭部を見つめ、そのままゆっくりとひねりあげた。
「アガッガガガッオイシソ、ガガッ」
じわじわと首を回転させられる男は苦しそうな顔をしながらも凱斗を喰おうと口を開ける。
「うるせぇよ。」
凱斗は腕に力を入れ一気に首を捻ると、男と目が合った。
男の目は赤く潤んでいた。
声を発さず動かなくなったソレの上から退くと、凱斗は部屋の中へと入る。
部屋に入ってすぐのテーブルの上を見て少し悲しい眼をした。
テーブルの上にはアルバムが広げられており、小さな女の子と男が写っていた。
女の子は可愛らしく笑い、その隣で幸せそうな笑顔を見せる男。
徐々に成長していく女の子の顔からは少しずつ笑顔が消えていく。
「この男が親父さんで合ってるみたいだな。」
凱斗は写真を見つめ呟く。
「どうして食屍鬼なんかになった?どこで感染した?」
部屋をグルッと見渡すが、そこにあるのは酒が入っていた空瓶や缶、食べカスや弁当容器が散らばるだけだった。
凱斗はゴミを踏まないよう気をつけて見回るが、ゴミが溢れている、という事以外に不思議に思う点は特になかった。
「感染経路が分からねぇとどうしようもねぇな。」
一先ず桜庭に報告しようと部屋を出ようとした時、凱斗は玄関を見て動きを止める。
「……待機してろって言っただろ。」
凱斗の瞳に映るのは、部屋の中を見て目に涙を浮かべる瑠璃と、その後ろで気まずそうな顔をする桜庭だった。
「凱斗さん……この方は……?」
桜庭はピクリとも動かなくなった食屍鬼と凱斗を交互に見る。
凱斗は黙ったまま玄関へと向かい、瑠璃の前に立つ。
「親父さん…で合ってるか?」
凱斗の問いかけに瑠璃は涙を零しながら静かに頷いた。
そんな瑠璃を見て桜庭は悲しそうな目を向ける。
「どうして食屍鬼になったのか調べる必要がある。
桜庭、総龍会に連絡してくれ。」
凱斗は桜庭にそう言うと、瑠璃の手を引き外へと出る。
桜庭は携帯電話を取り出し総龍会へ連絡をする。
凱斗は瑠璃を連れて階段を下り車の場所へと向かう。
声を押し殺し涙を拭う瑠璃の歩幅に合わせ、少しゆっくりと歩いた。
車の後部座席へ瑠璃を座らせると、凱斗は近くの自動販売機で飲み物を2つ買い車へと戻る。
後部座席のドアを開け乗り込み、瑠璃の隣に座って飲み物を渡す。
「とりあえずこれ飲んで落ち着いて。」
瑠璃が飲み物を受け取ると、凱斗は自分の分の蓋を開け一口だけ飲んだ。
話すことも無く、両手で飲み物を握り締め下を向く瑠璃を見て凱斗は黙ったまま優しく頭を撫でる。
凱斗に触れられ、瑠璃は堪えようとしていた涙をまた零す。
「我慢しなくていいよ。」
凱斗は前を向いたまま瑠璃にそう言うとまた1回、2回と頭を撫でた。
瑠璃は体を小さく震わせ、涙を抑えることを辞めた。
声を上げる瑠璃の頭を撫でる手は、グイッと頭を掴み自分の胸元へと収める。
瑠璃は優しい温もりに包み込まれたまま声を上げ続けた。
暫くして落ち着いた瑠璃は凱斗に謝りながら離れると、凱斗はニコッと笑う。
「別に謝んなくていいし。スッキリした?」
瑠璃がコクリと頷くと「良かった。」と言い凱斗は車を下りた。
「俺はもう一度現場に戻る。お前は車で待機してろ。」
凱斗はそう言うとクルリと家の方を向いて歩き出す。
瑠璃はその背中を見つめ車から飛び出し、離れていく凱斗に抱きついて動きを止める。
「……なに?」
凱斗が前を向いたままそう言うと、自分の腰の所で力を入れている瑠璃の手を解く。
「車で待ってろって。な?」
凱斗は瑠璃の方を向くと手を優しく包んだ。
「燈龍さんも……いなくなってしまう気がして……ごめんなさい。」
瑠璃が声を震わせそう言うと凱斗は手を離し頭をポンポンと叩く。
「居なくなんねぇって。
不安になるのも分かるけど、今は大人しく待ってて。」
凱斗は瑠璃の腕を掴み車へと向かう。
「すぐ戻るから。中に居て。」
後部座席に瑠璃を乗せると、凱斗はドアを閉める。
不安そうに見つめる瑠璃に後ろ髪を引かれるが桜庭を一人にしておくわけにもいかない。
凱斗は目を鋭くし、家へと向かう。




