04
「燈龍さん!」
気怠そうに廊下を歩く背中に声を掛けた。
「お?」
凱斗は振り返り、少し笑ってみせる。
「どうした?」
「私、ここにいてもいいですか?」
瑠璃が不安げな表情を浮かべながらそう聞くと、凱斗は首を縦に振る。
「いいけど、怖くないの?無理してない?」
凱斗は優しい眼差しで見つめながら問う。
瑠璃は「はい!大丈夫です!」と元気よく答えた。
「んじゃー、決まりね。親父さん所行こっか。」
凱斗はそう言うと近くに居た隊員に声を掛ける。
数秒凱斗と話した隊員は一歩下がり頭を下げて姿を消した。
「行くぞ。」
凱斗はそう言うとまた気怠そうに廊下を歩く。
瑠璃はその後ろをついていく歩き、玄関で靴を履き久しぶりに外へと出た。
「助手席と後部座席どっちがいい?」
凱斗は並ぶ車の元へ向かいながら自分の後ろを歩く瑠璃に声を掛ける。
「どちらでも大丈夫です。」
瑠璃の言葉を聞いた凱斗は一台の黒い車の前に止まると、後部座席のドアを開け瑠璃の方を見る。
「じゃあ、後ろね。」
瑠璃が車に乗り込むと、それを確認した凱斗はドアを閉め運転席へと向かい乗り込む。
「街に出たら家までの道のり案内して。」
凱斗はそう言うとエンジンをかけ車を屋敷入口付近に一度停車する。
少しすると助手席のドアが開いた。
「お待たせしました。」
そう言って乗り込んできたのは桜庭だった。
「悪いね。
さすがに一人で連れて行く訳にもいかねぇし、俺より桜庭の方が説明とか上手いだろ?頼むね。」
桜庭がシートベルトをするのを横目に凱斗がそう言うと「私もついて行く気ではいましたから。」と答える。
三人を乗せた車は瑠璃の家へと向かい走り出す。
暫く走らせ街に着くと、そこからは瑠璃の案内通りに車を走らせる。
入り組んだ道を進み、少し暗い所で瑠璃は「ここです。」と声を掛ける。
凱斗は近くに車を停め、辺りを見渡す。
「人通りが少なく建物に囲まれているせいか昼間でも少し暗いな。」
凱斗はそう言うと後ろを向き「行こうか。」と瑠璃に声を掛ける。
「はい。」と答える瑠璃の声に元気はなく微かに震えていた。
そんな瑠璃を見て凱斗は「俺と桜庭がいるから大丈夫。」と優しい声で言うと、車を降りる。
桜庭も続いて車から降りると後部座席のドアを開き「どうぞ。」と手を差し出した。
瑠璃は桜庭の手を取り車から降りると古びたアパートを見つめる。
凱斗は少し歩き戻ってくると「あそこに停めてくるわ。」と小さく見えるパーキングマークを指差す。
桜庭が「私が行きますよ。」と声をかけるが、凱斗はそれを断り運転席に乗り込み車を走らせた。
桜庭は車を見送り瑠璃へと視線を戻す。
「凱斗さんと私に任せてくれていたら大丈夫です。
瑠璃さんは私達の後ろにいてくださいね。」
桜庭はニコリと微笑む。
瑠璃は震える自分の手をギュッと握り締め頷いた。
暫くすると凱斗が小走りで戻ってきて「よし、じゃあ行くか。」とアパートへと向かう。
その後ろを桜庭がついて行き、瑠璃も続いた。
瑠璃の指示でアパートの階段を上り2階の一番端の部屋の前につくと、凱斗はインターホンを鳴らした。
ピンポーン
少し待つが何の音もしない。
ピンポーン
もう一度押すが、やはり何の音もしない。
「仕事に行ってるのか?」
凱斗は首を傾げ呟く。
「今日は土曜日なので休みのはずです……。」
瑠璃がそう言うと「休日出勤とか無いの?」と凱斗が質問をし、瑠璃は首を横に振る。
「だとしたら外出でもしているのでしょうか?」
桜庭はそう言いながら震える瑠璃の背中を優しく摩った。
「一回帰るか?」
凱斗がそう言うと、階段を上ってくる音が聞こえた。
瑠璃はその音を聞き更に身体を震わせた。
桜庭と凱斗は瑠璃の前に立ち階段の方をジッと見つめる。
カンカンと音を立て上ってきたのは一人の男だった。
男は凱斗と桜庭を見ると少し驚いた顔をするがゆっくりと此方へと歩みを進めた。
凱斗と桜庭は瑠璃の父親か?と少し身構える。
「あの……。」
男は凱斗と桜庭に声を掛ける。
「私、中谷と申します。山内さんのお知り合い……でしょうか?」
凱斗と桜庭は目を合わせ、瑠璃を見る。
瑠璃は男の声を聞き顔を覗かせた。
「あ!瑠璃ちゃん!」
男は瑠璃の顔を見るとニコリと笑った。
「親父さんじゃなくて知り合いか?」
凱斗が瑠璃に聞くと瑠璃は首を縦に振った。
「お父さんの職場の人です。何度かお会いしたこともあります。」
瑠璃が凱斗にそう言うと、凱斗は「ふぅん。」と中谷の方へ顔を向ける。
「瑠璃ちゃん、この人達はお友達……かな?」
中谷は凱斗と桜庭を見て苦笑いをする。
凱斗がジトッとした目で中谷を見ると、それに気付いた中谷はサッと視線を逸らした。
「私は総龍会黒龍幹部の桜庭と申します。
此方は黒龍隊長の燈龍と申します。」
桜庭は中谷にそう言うと軽く頭を下げた。
「総龍……?何故そんな方達と瑠璃ちゃんが……?」
中谷は驚いた表情で瑠璃に問い掛けるが、瑠璃は下を向き黙る。
「もしかしてお父さんの事でお世話に?」
中谷は続け質問をするが瑠璃は変わらず下を向き黙る。
「詳しい事情はお話できません。
瑠璃さんのお父様は今留守にしているようなのですが、居場所を知りませんか?」
桜庭が瑠璃を後ろに隠すようにして中谷に聞くと、中谷は桜庭の方を見て「いないんですか?」と聞き返した。
「おかしいな。
体調が優れないから、と昨日仕事を休んでてね。
様子を見に来たんだけど……。」
中谷は心配そうに部屋の扉の方へ視線をやる。
「体調不良で休み、か。
じゃあ寝ていて気付かなかったとか?」
凱斗はそう言うともう一度インターホンに手を伸ばす。
ピンポーン
やはりなんの音もしない。
凱斗はうーん?と首を傾げたあと、ドアに耳を当て目を閉じる。
そんな凱斗の姿を三人は静かに見ていた。
「……あ?」
暫く目を閉じて中の音を聞いていた凱斗はパッと目を開きドアから離れる。
「どうしました凱斗さん?」
「声がした。」
凱斗はそう言うとジッと扉を見つめる。
「ではやはりご在宅なのですね。」
桜庭は瑠璃の方を見て「私たちが話しますからね。」と優しく言うと、瑠璃は頷いた。
「あのー……私は一度帰りますね。山内さんにはまた来るようにお伝えください。じゃあ、またね瑠璃ちゃん。」
中谷はオドオドとしながらそう言うと階段の方へ歩き、姿を消した。
三人は中谷の姿が消えたことを確認し、扉へと視線を移す。
「桜庭、とりあえず俺が話すから瑠璃を連れて車に戻れ。」
凱斗は扉を見つめたまま車の鍵を桜庭の方へと差し出す。
桜庭は鍵を受け取ると「大丈夫ですか?」と声をかけた。
「ああ、大丈夫。連絡するまで車で待機。」
凱斗はチラリと瑠璃の方を見て頭をポンポンと軽く叩くと「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だから。桜庭と待ってて。」とヘラッと笑う。
瑠璃は凱斗の言葉を聞いて小さく頷くと、桜庭と共に階段を下りる。
階段の方からの音は止み、凱斗はもう一度扉をジッと見つめた。
「神様は意地悪だな。」
ポツリと呟きもう一度インターホンに手を伸ばした。




