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食屍鬼 -総龍会-  作者: 藤岡
覚醒
43/85

03

「さて、と。」

凱斗はうーんと体を伸ばし、瑠璃の方を見る。

「親父さんに話しに行くか。」

凱斗はニコリと微笑むが、それを聞いた瑠璃は下を向き黙る。

「どうした?」

「怖くて……。」

震える声でそう言う瑠璃を見て、凱斗は「親父さんの所へ行くのが?」と質問する。

「それもありますが……こんな短期間で……燈龍さんも桜庭さんも……隊員さん達もボロボロになって……帰らない人もいて……そんな場所に住んで私はやっていけるのか…。」

瑠璃の言葉を聞いて凱斗は頷いた。

「ま、確かに怖いか。

別にここに住む事を無理強いはしない。

お前が父親の元に戻るというのならばそれでもいい。

どちらにせよお前を家に送る為に、帰すのが遅れた事を詫びる為に俺は一緒に行くけど。」

凱斗は隊員に「車の鍵だけここに持ってきて。俺が運転して行くからお前らは休んでていい。」と言うと、隊員は鍵を取りに食堂を後にした。

「何時にここを出るのかはお前に任せるけど、今日行くからな。」

凱斗はそう言うと立ち上がりシェフが居るキッチンへと向かう。

瑠璃は下を向いたまま考え込み、隣に座る麗華は優しい表情で瑠璃の背中を摩った。

「麗華さん、私はどうしたらいいでしょうか……?」

瑠璃は顔を上げて麗華を見る。

「黒龍に限らず龍の人達は私達国民を食屍鬼から守る為に戦ってくれている。

街で暮らす人々が厳重警戒せずに暮らせるのは龍の人達のおかげ。

だから……ここに住むなら怖がるのではなく、おかえりなさいって明るく出迎えられる人じゃないとダメだと思うの。

彼達がボロボロになって帰ってくるのは全部私達の為だから怖がるのは失礼なのかな、って私は思ってる。」

麗華はそう言うとニコリと笑う。

「お父さんといる方が幸せなのか、ここにいる方が幸せなのかは私達には分からない。

瑠璃ちゃん自身が決めなくてはいけない事だから、私は、こうした方がいい!とは言いきれないかな。」

麗華の言葉を聞いた瑠璃は、うーんと考え込む。

すると、二人を見ていた桜庭が口を開いた。

「瑠璃さんは未成年。

私としては保護者と共にいるべきだとは思いますが、お父様が瑠璃さんにしてきた行為は許される事ではありません。

まだお気持ちが纏まらないというのであれば、ここで保護という形でもう暫く居て頂いても構いません。」

桜庭はそう言うと小走りで駆け寄る隊員に目をやる。

「車の鍵をお持ちしました!」

隊員は桜庭に鍵を手渡す。

「ありがとうございます。今日はもうゆっくりしてください。」

桜庭は鍵を受け取り隊員にそう言うと立ち上がり瑠璃の方を向いて「出発時刻が決まれば私か周りの者にお伝えください。」と頭を下げ凱斗の元へと向かった。

瑠璃は桜庭の背中を見送り、また考え出す。

「私は、父親の元へ帰るのは怖いです。怒られるしきっとまた……。」

瑠璃が小さな声でそう言うと、麗華は頷きながら話を聞く。

「どうしてここが怖いのか……。

それは……笑顔で接してくれた人から笑顔が消えてしまい、暗い暗い闇に飲まれてそのうち目の前から消えてしまう、そんな気がして仕方ないんです…。

自分の命を懸けてまで守る価値があるのでしょうか?

私みたいに判断能力が鈍くて人に迷惑をかけてしまうような人間や、父みたいな人間……そんな人達を守る為に自らの命を懸けてくださるここの人達が居なくなるのは……悲しくて怖いです。」

「そんな事考えてたのかお前。」

瑠璃が話終わると背後から聞き慣れた声がする。

「ヒッ!だーかーらー!勝手に話に入ってこないでって前も言わなかった?!」

麗華は後ろを向いてキッと睨みつけた。

「でも俺らの話じゃん?」

凱斗はヘラっと笑いソファーに腰をかけ瑠璃をジーッと見る。

「な、なんですか。」

暗く鋭い眼で見つめられ瑠璃はオドオドとする。

「どんな人だろうと命を懸けてまで護るべき人達なんだよ。

誰一人食屍鬼の餌になんてなってほしくねぇ。

ただ、全員を護りきる事は出来ずに被害者を出してしまっているし、龍の隊員数も減っていってる。

隊員が増えない理由はただ一つ。

誰も自分の命をかけてまで食屍鬼と戦いたいと思わねぇんだ。

総龍に入れば明日生きているのかも分からない。

自分がどんな死を遂げるのかも分からない。

先が見えねぇんだよ龍がやる事は。」

凱斗はふっと目を逸らし外を眺める。

「だから、どれだけボロボロになってようと帰ってきた時は麗華が言うように、おかえりって言われたいし言ってやってほしい。

無理に言えとは言わないが、生きて帰った事実を喜んで欲しい。

そしたら俺達はまた明日も頑張れるし、生きて帰ろうと思える。

でもそれが出来ないというならそれはそれでいい。」

凱斗は体を瑠璃の方へ向け、ニヤリと笑う。

「ま、俺は死なねぇけど。

毎日帰ってきて、お前がおかえりって言ってくれるまでただいまってしつこく言ってやる。

ここに住むならそれだけ覚悟しとけ。」

立ち上がり瑠璃の頭をポンポンと叩いて凱斗は食堂を後にする。

そんな凱斗の後ろ姿を見ながら瑠璃は頷き、麗華は呆れたような嬉しそうな顔をして笑う。

「で、凱斗はああ言ってるけどどうするの瑠璃ちゃん?」

瑠璃は「もう決めました!」と麗華にニコリと笑いかける。

「えっ?もう決まったの?」

麗華は瑠璃の言葉に少し驚きながら笑った。

「麗華さんと燈龍さんの言葉を聞いて少し考えたんです。

私……父親の元に帰ってまた我慢して過ごすのではなく、ここで皆さんにおかえりって言いたいです!」

瑠璃は麗華にそう言うと「燈龍さんにも伝えてきます!」と食堂から出て行った。

一人残された麗華は優しい表情で扉を見つめた。

「おかえりって言いたい、か。

私もそう思わされたんだよなぁー……アイツに。」

麗華は優しくも少し寂しそうな顔をしてポツリと漏らすと、静かに医務室へと戻っていった。

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