03
「どうしてお前がここに……。」
凱斗は構えたまま目を大きくした。
桜庭も困惑の表情を向ける。
「おや?凱斗くんに桜庭くん、どうしてこんな所に?へっへっへっ、私に会いに来てくれたんですか?」
そう言いながら凱斗達に近付いてきたのは大橋だった。
「俺達はアビスの捜索で……。」
「アビスの捜索?ああ、例の家の地下というやつですか。
会長からお話は伺っています…が、凱斗くんここはクレセント地区ですよー?」
大橋は凱斗の言葉に少し被せながらそう言うと横たわる猫八を見て目をパチパチとさせる。
「もしかしてソレは……猫八くんですかー?どうしてそんな姿に……。」
大橋はゆっくりと猫八の隣に行くと、穴の空いた腹を見て目を細める。
「ここに食屍鬼が現れた。
今までとはまた違い新種と呼ばれる奴と同じ程の力を持つと思われる。
猫八はソイツに殺られた。」
凱斗は背を向けたまま大橋にそう言うと、静かに剣を収めた。
「食屍鬼が…?私は外に出たまま帰らぬ助手を探しに来たのですが……もしかすると助手も……。」
大橋は猫八の顔を見つめたまま眉を下げる。
大橋の言葉を聞いた凱斗は先程食屍鬼が喰っていたモノをチラリと見て、その辺りを見回す。
最初に見つけた木にぶら下がる物をジッと見つめる。
「白衣…か?」
白いモノは大きく破れ少し汚れていた。
大橋は凱斗の横へ立ち、同じく白いモノを見る。
「私の助手のものでしょう。」
いつものふざけた感じとは違い、少し暗く大人しい大橋を見て、凱斗は大きく深呼吸をした。
「俺がアイツを殺すから。猫八と…あんたの助手の分まで俺が……。」
凱斗は目を潤ませながらそう言うと、猫八の方へ体を向け、静かに目を閉じる猫八と白龍隊員に頭を下げる。
「俺のせいだ。すまない。」
頭を下げたままそう言うと、地面をポタポタと濡らした。
白龍隊員達はゆっくりと凱斗の方へと進み、猫八を囲うようにして立ち頭を下げる。
「凱斗さんは悪くないです!自分達の大将を護れなかった俺達が悪いんです!!」
隊員の一人が涙を流しながら凱斗にそう言うと、他の隊員たちも頭を下げた。
凱斗はゆっくりと顔を上げ、隊員達を見て目を閉じる。
「大将は護られるもんじゃなくて護るもんなんだよ。お前達は悪くない。」
そう言うと鼻をすすりゆっくりと目を開けるが視界は歪みを増していた。
「すみません、凱斗くん。」
大橋が横から割って入り声をかける。
「なんだよ。」
凱斗はぶっきらぼうに小さく返事をする。
「私の研究所はこの森の中にあるのです。
食屍鬼が居るとすれば猫八くんの匂いにつられて集まるかもしれません。
私の研究所へ運びませんか?」
大橋の言葉を聞いた凱斗は「研究所がここに…?」と眉間に皺を寄せた。
桜庭と陽平は凱斗の隣へ行き周りを警戒する。
隊員達も周りを警戒しながら大橋と凱斗のやり取りを聞いていた。
白龍隊員達は猫八の傷口を自分達の隊服で隠し、その場に座り込む。
「はい。会長から聞いてませんかー?クレセント地区に研究所があるということを。」
大橋の問い掛けに凱斗は首を横に振る。
「本当に凱斗くんは私の事が嫌いなんですねー?興味なし、という事ですね、へっへっへっ。」
大橋は苦笑いをしながらそう言うと「日が暮れる前に運びましょう。」と来た道を戻る。
凱斗は隊員達に「ここからアビスへ戻るよりも研究所の方が近いだろう。とりあえず研究所に行ってみよう。」と言うと大橋の後に続き、桜庭と陽平は凱斗の左右に立ち歩みを進めた。
隊員達は大橋と三人を囲うようにして歩き、白龍隊員達はゆっくりと、優しく猫八を抱え研究所を目指した。
大橋の後ろを歩きながら凱斗は、猫八の腹に穴を開けた食屍鬼と、また護る事が出来なかった自分に対する怒りの炎を目に灯した。
大橋について暫く歩くと木に囲まれた白い建物が姿を現す。
白い建物の周りは高い塀で囲われており、有刺鉄線が張り巡らされていた。
入り口門は塀よりも高く、部外者が立ち入ることを許さない。
「着きました。ここが私の研究所です。」
大橋は門の内側に立つ警備員に鍵を開けるように言う。
「さあ、どうぞ。」
ゆっくりと開いた門の横で大橋が凱斗達に向けてそう言うと、凱斗は門の中へと進み、桜庭、陽平、隊員達も続いた。
最後に大橋が門を潜るとギィィと大きな音を立てて閉まった。
「こちらですよー!」
大橋は研究所の入口まで小走りで向かうと扉を開く。
凱斗達は大橋の元へと向かい、研究所の中へと入ると、研究所から漂う悪臭に凱斗は顔を歪めた。
そんな凱斗を見た桜庭がハンカチを渡すが凱斗はそれを拒み大橋について行く。
桜庭は自分の持っているハンカチが湿り重みを増していることに気付くと、申し訳なさそうな表情をしながらポケットへとしまった。
陽平は大きな悲しみに押し潰されそうになりながらも必死に凱斗達について歩いた。
隊員達は丁寧に猫八を運ぶが、中には涙を止めることが出来ない者もいた。
「ここに猫八くんを寝かせてあげてください。」
大橋は研究所の一室の扉を開き、中にあるベッドを指差し猫八を抱える隊員達に向けて言う。
隊員達はそれに従い、ゆっくりと猫八をベッドの上に寝かせ、猫八の顔を見て視界を歪ませたまま後ろに下がった。
少しの間沈黙の時間が流れた。
猫八を見つめ涙を流す者、猫八から目を逸らし悔しさと怒りを必死に抑える者。
そんな沈黙を破ったのは凱斗だった。
「大橋、猫八を白龍の屋敷に送ってやってくれないか?」
凱斗は猫八の横に立ち頬を軽く撫でながらそう言うと、大橋は「それは出来ません。」と返した。
凱斗は眉をピクリと動かし大橋へと視線を移す。
「なんでだよ?」
少し苛立った声でそう言うと、大橋も猫八の隣へと立つ。
「猫八くんはここで処分……いや、供養します。
私と助手達で猫八くんを天へと導きます。」
大橋はそう言うと凱斗の目をジッと見る。
「猫八は噛まれたわけじゃない。
感染を恐れての事なら問題無い。
白龍の屋敷に残る者達も最期の挨拶くらいしたいだろ。送ってくれ。」
凱斗は大橋の目をジッと見返しそう言うと、大橋は口元を緩ませた。
「凱斗くん、貴方に聞きたいことがあります!」
急に元気よく話す大橋に少し驚きながらも「なんだよ。」と凱斗が返事をすると、大橋はニヤニヤとする。
「この人が猫八くんじゃなくただの市民だった場合でも貴方はその人の故郷へこのまま返すように言いますか?」
大橋の問い掛けに凱斗は口を閉ざしたままだった。
「貴方は、凱斗くんはこれが自分と関係の無い者ならばきっとここで焼き骨だけを持ち帰れというはずですよ!?
なのに自分と親交のある仲間だと特別扱いしようとする。
新種も発見された今、噛まれていないからと感染をしていない、なんて言いきれますか?」
凱斗は頭をポリポリと搔き、小さく息を吐いた。
「言い切ることは出来ない。」
凱斗は猫八から離れ白龍隊員達の前へと立つ。
白龍隊員達は涙を拭い、地に膝をつけ頭を下げると隊員の一人が大きな声で「感染していないと言いきれないのであればここで焼き、綺麗な状態で連れ帰りたいと思います。猫八さんもきっとそれを望みます。」と凱斗に言った。
それを聞いた凱斗は「白龍隊員達がそう言うなら。」と小さく頷いた。




