02
壁の先は洞窟になっていて、壁にはチカチカと今にも切れそうなランプが疎らに掛けられており、先は暗く見えなかった。
その洞窟内もジメジメとしていたが、進むにつれ臭いは無くなっていった。
凱斗達が洞窟に入り2時間を過ぎた頃、先が少し明るくなった。
薄暗くジメジメとし、終わりが見えない道をひたすらに真っ直ぐ歩いていた隊員達はその光を目にして喜ぶ。
息を切らしながら歩く陽平を支えながら歩いていた桜庭は額の汗を拭いながら光を目指す。
猫八と凱斗は真っ直ぐと前を見て黙って進んで行く。
光が見えて10分程歩くと、その光の先に足を踏み入れることが出来た。
先頭を歩いていた凱斗は、外の明るさに少し目を細め辺りを見回す。
それに続き猫八、桜庭と陽平、そして隊員達が光の先へと踏み入れた。
洞窟の先に続いていたのは森だった。
「こんな森……見かけなかったぞ。」
凱斗はポツリと呟き森の奥へと向かう。
それに続きキョロキョロと辺りを見回す猫八は木にぶら下がる白い何かを見つける。
「凱斗、あそこに何かぶらさがってるぞー!」
猫八がそう言い白い何かに向かって進むと、微かにグヂュと嫌な音が聞こえた。
音を聞いた猫八はその場で剣を構える。
その姿を見た凱斗も剣を構えながら近付き、その後ろで隊員達も構えた。
桜庭と陽平も構え近寄ると、凱斗がサッと横に手を出したのを見て二人はその場で止まる。
「臭いがしない。
でもこの音は食屍鬼が喰らう音。
お前達は後方で待機。俺と猫八で行く。」
凱斗はそう言うと猫八の隣まで静かに歩いた。
凱斗をチラリと見た猫八は目の前にある伸びきった草を指差す。
「向こう側から聞こえるな。凱斗、挟むか?」
猫八の問いかけに凱斗は首を横に振る。
「挟むと言っても相手が一匹とは限らない。
それに奴らは喰っている時、喰うことに集中し周りをあまり気にしない傾向がある。
このまま正面突破する。」
凱斗は剣を構え猫八と目を合わせる。
「行くぞ。」
凱斗が声を掛けると共に二人は走り出す。
凱斗と猫八は、座り込みグヂュグヂュと音を立てているモノを捉えると一気に斬り掛かるが、それに気付いた食屍鬼は喰う事を辞め素早く前進した。
二人の剣は食屍鬼の首を目掛けて振られたが一歩手前で逃げられ剣同士がぶつかる。
凱斗は舌打ちをして食屍鬼の方へ目をやると、凱斗と猫八を見ながらグヂュグヂュと音を立て口を動かしていた。
「いっててて、流石に気付かれたか。」
猫八は剣を持っていた方の手をプラプラとさせながら食屍鬼の方へ視線を向ける。
「次は殺る。」
凱斗が構え直し食屍鬼を睨み付けると、食屍鬼は口を動かすのを辞めニタリと笑う。
その口からはボタボタと音を立てながら肉の塊が転がり落ちた。
「お前が黒龍……凱斗か。」
食屍鬼は真っ赤に染めた目で凱斗をジッと見ながらそう言うと、笑いながらその場に座った。
「俺の首、今のお前が斬れるかな?」
座ったまま凱斗の剣をチラリと見てそう言うと両手を上にあげる。
「お前達に邪魔されたせいで腹を満たしきれていない俺の首、斬れなかったら恥ずかしいぞ?」
ニタニタと笑うその顔を見て凱斗は眉間に皺を寄せる。
「すぐに殺ってやる。」
凱斗は強い殺気を放ちながら一気に飛びかかり、首を目掛けて剣を振り下ろす。
が、その食屍鬼は笑いながらそれを手で掴む。
「はっはははは、すぐに殺るだと?弱い弱い弱い弱い!こんなんで俺を殺ろうなんて笑わせないでくれないか?」
食屍鬼はそう言うと掴んだ剣を握りしめ立ち上がり凱斗ごと放り投げる。
飛ばされた凱斗は猫八に受け止められた。
「なんだアイツ!?凱斗、どうする?!」
猫八は今までとは違う食屍鬼を目の前にし動揺する。
後ろで見ていた桜庭と陽平は構えた状態で凱斗に近寄り、隊員達も凱斗の元へと向かうが中には足の震えが邪魔し進むことが出来ない者もいた。
「凱斗、お前の力はこんなもんか?」
食屍鬼は落ちた肉の塊を拾い上げ口の中へと放り込みゴクンと飲み込む。
「お父さんはお前を過大評価しすぎだ。
俺は今すぐにでもお前の内臓を抉り出して喰ってしまいたい。」
食屍鬼は凱斗の腹部を見つめながらヨダレを垂らす。
凱斗はもう一度剣を構える。
それに続き剣を構えた猫八の方へと視線を移した食屍鬼はまたニタリと笑う。
「お前なら、良いかな?」
食屍鬼はそう言うと一瞬にして姿を消した、と同時に猫八の叫び声が辺りに響き渡った。
凱斗が猫八の方を見ると、猫八の腹部に手を貫通させヨダレを垂らしながら凱斗を見る食屍鬼と目が合った。
「猫八…?」
凱斗は目を大きく見開き、叫びながら食屍鬼の腕を目掛けて剣を振り下ろす。
その剣は食屍鬼の腕を切り落とすが、食屍鬼は切り落とされた腕を見てまた笑う。
「黒龍として活動しているならこれ位は斬り落とせないとなあ。」
食屍鬼が切り落とされた部分にもう片方の手を当てるとゆっくりと新たな手が生えてきた。
それを見た隊員達は固まり、動けなくなった。
「もしかして初めて見た?お前らどれだけ失敗作ばかり相手にしてたんだよ。
それで俺を殺ろうなんて100万年早いわ。」
食屍鬼は元通りになった手を動かしながら隊員達を見てそう言うと、自分を睨み付ける凱斗を見下ろす。
「マナフの目玉を突き刺しそのまま落としたとアンラから聞いていたから少しは期待していたが……お前は弱い。
マナフの件もたまたまだろう。」
食屍鬼はニタリとしながらそう言うと今にも飛びかかってきそうな凱斗から二歩、三歩と離れる。
「でもな凱斗、今お前を殺れば俺はお父さんからも先生からも怒られる。
それにアンラにも何をされるか分からない。
今日はお前の大事な友達の血で我慢してやるよ。」
食屍鬼はそう言うと生い茂る草の中へと姿を消した。
「待て!!!」
凱斗の声は風の音に掻き消された。
「猫八さん!大丈夫ですか?!」
桜庭が駆け寄り猫八に声をかける。
ヘラッと笑う猫八を見た白龍隊員の一人が涙を流すと、それに続いて他の隊員達も涙を流す。
桜庭は猫八の穴の空いた腹を見て目を背ける。
陽平はガタガタと震えながら声を押し殺して泣いた。
「悪い、俺のせいで。」
凱斗が猫八の頬を撫でながらそう言うと、猫八は笑ったまま凱斗の手を掴んだ。
「凱斗のせいじゃない、避けられなかった俺が悪い。」
そう言う猫八の声に元気は無く、その場にいた者達は最悪な想像をしてしまった。
「お前ら何泣いてんだ!猫八は死んでねぇぞ。お前達がしっかりしろ!」
凱斗はグスグスと音を立てる隊員達に向かって怒鳴りつけた。
凱斗の手を掴む猫八の手の力が少し強まる。
凱斗が猫八の顔を見ると、猫八は微笑んだまま首を小さく横に振った。
「俺を置いて行け、凱斗。白龍の隊員達を頼むよ…。」
猫八はニコリと笑い一筋の涙を流すと、静かに目を閉じた。
「猫八?猫八!!おい!!猫八!!」
凱斗が猫八の名を叫ぶと、凱斗の手を握った手がポトリと地に着いた。
凱斗は目を潤ませ名前を叫び続けるが、猫八はピクリともしなかった。
桜庭が猫八の呼吸を確認するが、黙ったまま首を横に振る。
白龍の隊員達はその場に座り込み泣き叫び、他の隊員達はグッと涙を堪えて白龍隊員の背中を擦る。
陽平は猫八の傍にきて抱きつき泣いた。
凱斗は猫八の頬から手を離し、静かに立ち上がると天を仰ぐ。
「また……護れなかった……。」
凱斗は鼻を赤くし、下唇をギュッと噛み締めた。
悲しみに押し潰されそうになる一同の耳にガサガサと草を掻き分ける音が聞こえた。
凱斗は音の鳴る方をジッと見て剣を構える。
桜庭も立ち上がり構え、隊員達は白龍隊員の前に抜刀する。
陽平も桜庭の横で構えるがその手は震えていた。
それを見た桜庭は「猫八さんの傍に居てあげてください。」と陽平を下げた。
ガサガサと音は近くなり、凱斗達の前に姿を現す。




