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食屍鬼 -総龍会-  作者: 藤岡
新たな発見
31/37

04

凱斗が食堂の扉を開くとそこには隊員達が居て、皆一斉に立ち上がり頭を下げた。

「あー、気にせず飯食って。」

凱斗がそう声をかけると皆一度頭を下げ席に着く。

「シェフ~腹減った。」

凱斗がキッチンのカウンターに肘をかけシェフにそう言うとシェフはニコリと笑い「直ぐにご用意致します。」と言い、調理を始める。

凱斗はキッチンから一番近い席に座り、テーブルに顔を伏せた。

「お疲れ様。」

隣から聞こえた声に、凱斗は顔を上げる。

「お疲れ。」

凱斗はそう言うとまたテーブルに伏せた。

「燈龍さんお疲れみたいですね……。」

「あまり寝ていないし、ご飯もあまり食べられていないのかもね。」

隣から聞こえる会話に凱斗は反応を示さず、静かに顔を伏せたまま動かなかった。

──────────────

真っ暗だ。ここは何処だ?

俺は辺りを見回した。

遠くで僅かに光っている物が見える

俺はゆっくりとその光に近付く。

近付けば近付くほどに目を開けているのが辛くなるほど眩しくて、ほんのりと暖かい。

俺は腕で光を遮りながらその光の中へと足を踏み入れた。

「ここは……。」

俺が足を踏み入れた先は、子供の頃家族と住んでいた家のリビングだった。

自分の目線が低い。手が小さい。

……あの時の俺に戻っているのか…?

「お兄ちゃん!」

聞き覚えのある声。

「お兄ちゃんってばー!!」

グイグイと服を引っ張られ後ろを向く。

「香夜……。」

そこには光よりも眩しい程の笑顔を見せる妹が立っていた。

「ご飯ができるまでお庭で遊ぼうよー!」

服を引っ張るのとは逆の手に小さなボールが抱えられている。

「凱斗、夕飯が出来るまで遊んであげてくれる?」

俺は声が聞こえる方へ振り向いた。

「お母さん。」

ニコリと優しく微笑み、愛おしい者を見る目で俺と香夜を見つめる。

「お兄ちゃん!早く早くー!」

俺は香夜に手を掴まれ、外に出た。

見慣れた懐かしい光景が目の前に広がる。

ボール遊びをするには少し狭い庭に、色とりどりの綺麗な花が並ぶ。

その花の前でボールを転がし、へへへー、と笑いかけてくる愛しい人。

俺の視界は少しずつ歪んでいく。

また家族に会える日が来るだなんて、また家族と話す事が出来るだなんて…そんな事思いもしなかった。

俺はその場にしゃがみこみ、顔を手で覆った。

「お兄ちゃんどうしたのー?どこか痛いの?香夜が飛んでけしてあげるー!」

そんな俺の所に慌てて走り寄り、頭を撫でる香夜を思わず強く抱き締めた。

「お兄ちゃん?どうしたのー?悲しいのー?香夜もかなしくなっちゃったー。」

香夜はそう言うと、えーんと声を出して泣き出した。

その声を聞いたお母さんが家から出てきた。

「あらあらどうしたの?お兄ちゃんまで泣いてるし!二人共泣き虫さんね。」

お母さんは俺と香夜をギュッと優しく包み込む。

その温もりを感じた俺は、あの時と同じように声を上げて泣いた。

「どうしたんだ?騒がしい。」

背後から聞こえる声にピクリと反応する。

「あら、今日は帰りが早いのね?お帰りなさい。」

「あー!パパァ!おかえりなさーい!」

香夜はピタリと泣きやみ、走って俺から離れた。

「家の中に入りましょう?」

顔を上げると、お母さんが優しく微笑みながら俺の手を取る。

俺はゆっくりと立ち上がり、振り返る。

「なんだ?凱斗も泣いていたのか?」

香夜を抱き上げ、不器用な笑みを見せながら玄関へ向かうお父さんの姿を見て、また涙が溢れた。

「どうしたの?」とお母さんに聞かれたが、俺は「なんでもない。」と涙を拭い、お母さんと一緒に家の中に入った。

テレビをつけ、キャッキャとはしゃぐ香夜。

その横でお茶を飲むお父さん。

台所で夕飯の準備をするお母さん。

当たり前だったその光景は、とても大切な時間だったと気付かされる。

「あら!」

台所からお母さんの声が聞こえ、少し胸騒ぎがする。

「どうした?」「どしたのー?」

お父さんと香夜がお母さんに声を掛ける。

「やだー、私ったら…お醤油を切らしているわ。」

ドクンドクンと波打つ心臓。

「俺が買ってこよう。」

そう言い立ち上がるお父さんに、「他にも欲しいものがあるから私が行くわ。」とお母さんが言う。

「香夜もついてくー!」

香夜はニコニコとしながら自分の上着を手に持つ。

「もうすぐ暗くなるし、外は寒いから車に乗っていくか?」

お父さんの言葉に香夜が反応する。

「車やだー!新しい靴でいっぱい歩くのー!」

そう言うと綺麗な箱に入った靴を取り出し、えへへー!と笑う。


俺は知っている、この会話も、光景も。


テレビの横に飾られたカレンダーに目をやる。

そこには12月と書かれていて、俺は全てを察した。

今日は……あの日だ。俺が全てを失ったあの日だ。

どうにかして阻止すれば、もしかしたら未来に三人がいるかもしれない!

「行っちゃダメだ!!!」

俺は大きな声で叫んだ。

急に叫ぶ俺に三人は目を丸くしている。

「どうしたの凱斗?」

「お兄ちゃん、どうしたのー?」

「驚いた。急に大きな声を出すな。」

「醤油なんていらない、他のものもいらない。だから、今日は家に居て。」

俺が身体を震わせながらそう言うと、お母さんは困った顔を見せる。

「すぐ帰ってくるから。ね?今日はお父さんも早く帰ってきたことだし、お父さんと待ってて?」

お母さんはそう言うと俺の頭を優しく撫でた。

「お母さん!待って!俺が買ってくるから!だから、だから!!」

俺から離れ、テーブルの前で腕時計をつけるお母さんの背中に向かってそう叫ぶと、お父さんが口を開く。

「凱斗、いい加減にしなさい。急にどうしたんだ。」

少し顔を顰めながら俺をジッと見るその眼は暗く鋭かった。

玄関で新しい靴を履き「早くー!」と香夜が呼ぶ。

はいはい、とお母さんが鞄を手に取り玄関へと向かう。

俺は慌てて追いかける。

「お母さんっ…!」

靴を履くお母さんの背中を見ながら声をかけると、お母さんは立ち上がり振り返る。

「すぐに帰ってくるからね。行ってきます。」

「行ってきまーす!」

「いやだ、待って……待ってよ!」

俺の声は玄関扉の閉まる音に掻き消された。

俺は靴も履かずに外に飛び出した。

歩いて行く二人の背中を追う。

どれだけ走っても、二人に近付くことが出来ない。

「お母さん!香夜!」

どれだけ呼んでも二人は俺の方を見てくれない。

「待って!行かないで!お願いだから、お願いだから!!」

俺は涙で顔を濡らしながら大声で何度も何度も叫んだ。

二人はどんどん小さくなっていって、見えなくなった。

俺はその場に座り込み、声を上げて泣く。

手に届く距離にいたのに、それを掴めなかった。

俺は、またあの二人を護れない。

「凱斗。」

座り込み泣き叫ぶ俺の背後で声がする。

「靴も履かずに何をしている?帰るぞ。」

俺はヒョイと持ち上げられ、進んだ道から戻される。

逞しくて、力強くて、温かい。

家に着き、鍵を開けるお父さんに抱えられた俺はふと庭の方へと目をやる。

転がったボール、並ぶ花。

玄関に入り思い出す。

最期の会話、お母さんを困らせてしまった。妹に情けない姿を見せてしまった。

リビングに連れられてふと思う。

お母さんの料理、また食いてぇな。


沈黙の時間が流れた。

俺は全てを諦めていた。

これからおこる悲劇を知っているのにも関わらず、動くことが出来ない。

お母さんと香夜の笑顔を思い出す。

また、笑いかけてくれた。

十数年ぶりにみたその笑顔はあの頃と何も変わらない。

2人が家を出て15分が経とうとしていた。

あと45分もすれば緊急速報が流れる。

俺は知っている。

近付きたくてもそれは許されず、ただ泣くことしか出来ない俺にどうしろと言うんだ。

こんな時、「会長」なら、「桜庭」なら、俺になんて言う?

「会長と桜庭?」

お父さんの声に身体がピクリと反応する。

「会長と桜庭がどうした?お前桜庭に会ったことはあったか?」

お父さんは、うーん?と首を傾げる。

会長と桜庭……。

そうだ、この二人に言えば総龍の隊員達をこちらに送ってくれるかもしれない。

そうすればもしかするとお母さんと香夜は被害に遭う前に…!

「お父さん!会長に電話して!」

俺の言葉を聞き、お父さんは驚く。

「どうしてだ?会長は忙しい人。お前の遊びに付き合って───」

「遊びなんかじゃねぇよ!俺は真剣だ。」

お父さんはまた驚いた顔を見せるが、すぐに首を横に振った。

「凱斗が何を考えているかは知らないが、会長に電話をかけるなんて出来ない。」

お父さんはそう言うと新聞を広げる。

「じゃあ桜庭でもいい。電話をかけて、総龍の隊員を数名ここに送って欲しいとだけ伝えて欲しい。頼むよお父さん。」

俺は片膝を地につけ、頭を下げた。

そんな俺の姿を見たお父さんは静かに新聞を閉じる。

「どうしてお前が総龍の事を……それにそのポーズ……凱斗、総龍の事を知っているのか?」

俺がゆっくり顔を上げると、お父さんは真剣な眼差しで俺を見つめていた。

「ああ、知っているよ。

これから総龍、黒龍や白龍それに赤龍と青龍全部含めて戦うことになる敵の事も。」

俺の言葉を聞き、目をパチパチとさせるお父さん。

「なんでお前が黒龍や白龍まで…それにこれから戦うことになる敵ってなんだ?」

俺は立ち上がり、お父さんの前へと立つ。

「これから戦う敵は食屍鬼。

人肉を貪り生きる化け物。

第一被害者は…燈龍祥子と燈龍香夜。

遺体が発見されたのは今二人が向かったスーパーから少し行った所。」

俺の言葉を聞き、一瞬顔を強ばらせるがすぐに笑ってみせるお父さん。

「食屍鬼?何だそれは?凱斗、作り話もいい加減にしなさい。」

お父さんはそう言うとまた新聞を広げる。

幼い我が子の戯言だと笑うお父さんの姿を見て、俺の中で何かが崩れる音がした。

「……んな」

「なんだ?大声を出したかと思えば急に小さな声で喋って」

「ふざけんなっつってんだよ!!!」

俺はお父さんが手に持つ新聞を取り上げ叫ぶ。

お父さんは眉間に皺を寄せ俺の方を向き目が合うと少し身体を震わせた。

「俺がどんな思いで!12年間総龍にいたと思う!?

俺が、俺がどんな思いで!!黒龍の隊員達と食屍鬼を倒してきたと思う?!

目の前で何人も失ってきた。

憎い食屍鬼(あいつら)に何人奪われた?その度に……お母さんや香夜、それにお父さんを思い出して俺は、護れない自分を憎み恨み続けてきた。

何も知らず平凡に暮らしていたあの頃の俺とは違う!

俺はもう……大事な家族を失いたくないんだ……頼むよお父さん、黒龍の隊長だろ?

まずは家族を、自分の嫁と娘を助けてくれ…頼むから。」

俺は溢れる涙を止めることが出来ないまま叫んだ。

お父さんは黙って俺の話を聞き、ゆっくりと立ち上がり俺の頭を撫でる。

「凱斗が言っている事が理解出来ない。疲れているんだろう。部屋で休みなさい。」

そう言うとお父さんはリビングを後にする。

俺の思いは届かなかった。俺はまた、家族を護れない。

俺はその場に座り込み、何も考えられなくなった。

何でだ?これは神様が俺にチャンスをくれたんじゃないのか?

それとも、もう一度この苦しみを味わえ、という事なのか?

そうだとすれば神様、あなたは意地悪だ。

もう一度出会い話せた喜びと、もう一度見せつけられる悲劇。


俺は、どうしたらいい?

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