03
父と共に車へと乗り込んだ凱斗は、助手席でボーッと外を眺める。
スーパーへと向かう一本道。
この道を抜けた先からは少し建物が増える。
青いシートで囲まれたナニカが目に入るが、凱斗の目に映ったのは一瞬だけであった。
車内は沈黙のまま分かれ道へと差し掛かる。
片方は山への道。
もう片方は更に建物が増える都会への道。
車は山への道を進んでいく。
総龍会と呼ばれる組織の所有地である。
少し進んだ先に警備員が三人立っていた。
父は車を停止し、窓を開ける。
「お疲れ様です、燈龍さん。
会長からお話はお伺いしております。
どうぞお通りください。」
警備員がそう言うと、道を塞いでいた門が開く。
父は「ありがとう。」と声をかけたあと窓を閉め、車を進めた。
凱斗は黙ったまま外を眺めていた。
ゴツゴツとした山道を少し進んだ先に、大きな屋敷が見えてくる。
「凱斗、会長に会ったらまずは挨拶をするんだ。いいな?」
父は凱斗が頷くのを横目で確認すると、屋敷の門をくぐり中の駐車場へと向かう。
凱斗はゆっくりと前を向き、屋敷を視界に捉える。
屋敷の入口前には黒スーツの男が数名、頭を下げた状態で待機していた。
父は車を止めると、凱斗に「降りなさい。」と言うと先に車から降りていった。
凱斗は黙って車の扉を開き、ゆっくりと地へ足をつける。
少し遅れてパトカーが屋敷内へと入ってきて、父の車の隣へ停車する。
父は後部座席から大きなカバンを取り出し、凱斗の手を引き屋敷へと歩みを進める。
「お疲れ様です!!!」
屋敷の入口前にいた黒スーツの男達が大きな声で父へそう言うと、サッと道を開ける。
父は「お疲れ様。」と声を掛け中へと入る。
「凱斗、そんなに緊張はしなくてもいい。会長は優しいお方だ。」
父がそう言い靴を脱ぐと、凱斗も隣で靴を脱いで揃えた。
「会長さんに会うのはいつぶりだろう。
優しい人っていうのは覚えているから大丈夫だよ、お父さん。」
凱斗はそう言うと、父へ笑顔を見せる。
凱斗の笑顔を見た父は眉間に皺を寄せ、口元を歪ませた。
父の瞳に映る凱斗の笑顔は今までの笑顔とは違い、不安や悲しみに押しつぶされそうな表情で、無理矢理に作られたその顔は笑顔とは言い難いものであった。
屋敷内を歩いていると、すれ違う黒スーツの男達が頭を下げる。
屋敷の一番奥の部屋の前へと辿り着いた父と凱斗。
父は凱斗の手を強く握り、コンコンとノックをする。
「どうぞ。」
部屋の中から声が聞こえると父は「失礼致します。」と声を掛け扉を開ける。
扉の先には椅子に座り、此方をジッと見つめる着物姿の男が居た。
「会長、夜分に申し訳ございません。」
父はそう言うと片膝を付き、頭を下げる。
その姿を見た凱斗も父の真似をし片膝を地につけて頭を下げた。
「構わないよ。息子も一緒にそこへ座りなさい。」
会長と呼ばれる男がそう言うと父はゆっくりと立ち上がり、凱斗の手を引き椅子に座らせた。
凱斗は黙ったままチラリと会長を見る。
会長は凱斗の視線に気付くと、優しさに溢れた笑顔を見せた。
「燈龍、息子は知っているのか?」
会長が父に問いかける。
「詳しくは話しておりませんが、なんとなくは分かっているかと思われます。」
父は少し声を震わせたまま返事をし、俯く。
「そうか。察しが良いんだな。」
会長はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり窓に近付き外を眺める。
「燈龍、お前はどうするつもりだ?」
会長は此方に背中を向けたまま問いかけた。
「はい。
妻と娘を奪った者は私に対する報復で犯行に及んだと思われます。
ならばきっと私の近辺の者は調査済み、息子の事も存じていると踏まえた上で、第一優先は息子の保護。
犯人を捕まえるまではここに置いて頂きたいと考えております。」
父の言葉を聞いた会長は此方に視線を向ける。
「総龍会にいる以上恨みを買う事は普通に生きる者達よりも多いだろう。
犯人を特定するのは困難だぞ?」
会長は父と凱斗の前の椅子を引き、腰を掛ける。
「息子の、えーと名前は何だったかな?」
「凱斗です。」
「凱斗。そうだ凱斗だ。
凱斗は総龍会の事を詳しく知っているか?」
会長の問い掛けに凱斗は「いいえ。」と答えた。
「そうか。まだ幼い君は知らなくても良い。
ここに住むとなれば嫌でも知る事にはなるだろうが。
…凱斗はここに住む事は嫌じゃないかな?」
「嫌じゃないです。お父さんがいるなら僕は大丈夫です。」
会長は、「そうか。」とまた凱斗に笑顔を見せた。




