02
「っだぁ!くっせぇ!俺アイツ嫌い!!」
大橋が部屋を後にし扉が閉まると凱斗がムスッとしながら言う。
「アイツいっつも食屍鬼の血の臭いをさせてやがる。
実験体だとか言うけど俺は会長に頼まれてなかったらアイツに渡したりしねぇ。」
貧乏揺すりをする凱斗の背中を桜庭が優しく撫でる。
「そうは言っても被害に遭わず食屍鬼の研究をし続けているのは私が今知る限りでは大橋だけ。
彼が一番食屍鬼に詳しいだろう。
手伝える事は手伝い情報を多く貰いたい。」
会長の言葉を聞いて凱斗はジトっとした目で会長を見る。
「俺アイツが研究してる姿見た事ねぇけど何してんだ?1日中食屍鬼と一緒にいんのか?」
眉間に皺を寄せ激しく貧乏揺すりをする凱斗を見て、会長は少し困った顔をした。
「詳しい事は知らなくてな。
研究所の一室を自分の部屋にして朝から晩まで食屍鬼について調べていると聞く。
いつもは助手達が受け取りに来るか総龍から持って行くのだが、今日は珍しく大橋本人が来たのでついでに話を、と思ったが……そう機嫌を損ねるな。」
「ま、今回は俺も聞きたいと思ってたしいいけど。
でも結局アイツも知らない感じだったな。
大橋は新種と言っていたが……確か奴等の男の方が自分達は成功体だとか言ってたな。
大橋に言い忘れちった。」
凱斗が笑ってそう言うと会長はハァと大きく息を吐く。
「成功体、か。それは後で大橋に伝えておこう。」
会長の言葉を聞き「ごめんごめん」と軽く謝ると体を捻り腰の骨を鳴らす。
「さて、俺は一回屋敷に帰ってからまたアビスに行くよ。」
凱斗は立ち上がると桜庭と猫八も慌てて立ち上がり、会長に頭を下げ凱斗に続く。
「もう止めたりはせん。だがな、凱斗。もっと周りの人間を頼りなさい。」
会長の言葉を聞くと、ゆっくりと扉を開き手をヒラヒラとさせ玄関へと向かって歩く。
猫八は「待てよー!」と凱斗を追いかけ、桜庭はもう一度会長に頭を下げて部屋を後にした。
「成功体、か。なんだか嫌な予感がするな……。」
会長はポツリとボヤくと携帯電話を手に取り電話をかけ始めた。
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凱斗達が外に出るとそこには隊員達が立ちこちらを見ている。
「あぁ?先に帰れっつったろ。」
凱斗がそう言うと隊員達の中から陽平がヒョコッと顔を出し、凱斗に駆け寄る。
「アニキ達と一緒に帰りたくて。」
凱斗の服の裾を掴み、ニコリと笑ってみせるが少し手が震えていた。
そんな陽平を見て凱斗はポリポリと頭を搔くと、陽平の肩を叩き「帰るぞー」と隊員達に声を掛ける。
隊員達は車に乗りこみ、それに続き凱斗達も車へ乗ると総龍の隊員達に見送られながら屋敷を後にした。
ガタガタと揺らしながら道を進む車は黒龍の屋敷へと向かう。
凱斗は後部座席の窓を開け、煙草を取り出し火をつける。
桜庭と陽平は凱斗の隣で黙ったまま外を眺めた。
沈黙が続く中車はゆっくりゆっくりと進んで行く。
凱斗は外に向かい煙を吐き出しながら空を眺めた。
「アニキ、桜庭さん、俺のせいでごめんなさい。」
陽平が小さな声でそう言うと、桜庭はチラリと陽平を見る。
凱斗は空を眺めたまま、また煙を吐き出した。
「陽平のせいってわけじゃない。」
凱斗がポツリと呟くと、陽平は目に薄らと涙を浮かべる。
「俺が無理矢理アニキについて行った。
俺が屋敷で大人しくしていれば、あいつ達が俺を迎えにアビスに来ることもなかった。」
陽平は下を向き、声を震わせながら続ける。
「あの女の子に少し話そうと言われた時、皆帰ろうとしたんだ。
それを俺が少し位ならいいだろう、って。
あの時帰っていれば誰も……。」
ポタリと涙を零すと、桜庭が優しく頭を撫でた。
「貴方がした事、凱斗さんについて行った事は褒められることではありません。
ですが、あの場に現れた少女を放っておける人はあまり居ないでしょう。
最初に見た時、あの少女が食屍鬼だと私も思いませんでした。
悪いのは貴方が断れない事を知り近付いた食屍鬼なのです。」
桜庭の言葉を聞き、陽平は「桜庭さぁん」と抱きつく。
凱斗は後部座席に置かれた簡易灰皿に煙草を押し付け窓を閉めると、陽平の方へと目をやる。
「なんでお前だけ地下にいなかった?」
陽平は暗い表情をしながら凱斗の目を見て答える。
「紅茶を出されたんだ。でも俺はそれを飲まなかった。
帰ろうとした時、紅茶を飲んだあいつ達がバタバタと倒れ込んでいって……それをあの女の子は地下室へと運んで行った。
その間に俺は外に出てアニキ達に伝えようと2階に上ったんだ。」
陽平がそう言うと凱斗は少し首を傾げる。
「2階に上がったという事は玄関前の階段から上ったんだろ?なんで玄関から出なかったんだ?そこまで行けたなら玄関から出るほうが早いだろ。」
凱斗がそう言うと陽平は首を横に振る。
「最初は玄関から外に出ようとした。
でも鍵を開けてドアノブを回してもビクともしなかった。
そして、玄関の上の方にパスワードって表示されていた。
2階の窓も同じ仕組みで開けることが出来なかった。
唯一開けることが出来た別室の窓の下には鉄の棘が敷き詰められていて、飛び降りる事を許されなかった。」
桜庭は顎に手を当て、うーんと唸った。
「パスワード式の鍵、ですか。
人間を誘い込み地下へと連れて行く準備は整っている、という事ですね。
それにあの扉…凱斗さんが壊した玄関扉は他のものより少し厚い気がします。」
桜庭がそう言うと凱斗は袋に入ったペットボトルを取り出し蓋を開け一口含む。
「私が気になっていたのは、どうしてあそこまで凱斗さんがあの家を気にしたのか。
結果、中には新種と思われる食屍鬼が居ましたが……確信をついた上での行動ですか?」
凱斗はニコリと笑う。
「勘だよ。」
それだけ言うとまた一口含み、外を眺めた。
陽平と桜庭は目を丸くし、口を開けたまま固まる。
「貴方……貴方って人は!ただの勘で人様の家の扉を壊したのですか!?今回は結果的に良かったものの、もしあれが普通の人間の家だったらどうしてたのですか!?」
桜庭はヘナヘナと背もたれに身を任せる。
陽平は目をパチパチとしながら、悪びれた様子もなく外を眺める凱斗を見つめた。
「勘もあるけど、あとは臭い。」
「臭いですか?凱斗さんは他の者より鼻が利きますからね。」
桜庭は座り直し、凱斗の方へと身体を向け続ける。
「食屍鬼の血の臭いなら私にも分かりますが……それは相手が血を流しやっと分かるもの。
他の者も同様だと思われますが…。」
「俺だって斬って血が流れた時に感じ取る事が多いよ。
ただ、たまにいるんだよな。血を流さずとも食屍鬼の臭いを漂わせる奴が。
他のやつの血が付着し放っているのかは分からないが。
あの家からは食屍鬼の臭いがした。
ただ車にベタリとついた血液の臭いなのか判断し兼ねたが、その中に陽平、お前の匂いが微かに混じってたんだよ。」
凱斗はそう言うと陽平の方へと視線をやる。
「お前はいつも俺の為に、ポケットに入れてる物があんだろ?ソレの匂い。」
凱斗が陽平の胸ポケットを指さすと、陽平はゆっくりと自分の胸ポケットへ手をやる。
陽平が胸ポケットから取り出したのはピンク色の包み紙。
凱斗は口を大きく開いて陽平に向ける。
陽平はニコリと笑いその包み紙を剥がし、中に入ったピンクと白のマーブル状の飴を取り出し凱斗の口の中へと放り込む。
「あー、うめぇ。」
凱斗はニコニコとしながら飴を転がした。
「そういえば陽平さんはいつも、食堂に置かれた菓子箱からそのいちごミルクの飴を取り出していましたね。
余程気に入っているのだと思っていましたが……なるほど、凱斗さんの為に持ち歩いていたのですね。」
桜庭は頷きながらそう言うと、クスリと笑った。
「凱斗さんは甘い物を口にすると機嫌が良くなりますからね。
よく叱られる陽平さんにとっては必需品、というわけですか。」
クスクスと笑いながらそう言う桜庭を見て陽平は、へへへと笑った。
「結果的に中にコイツ達がいて、逃がしたのは痛いが新種の食屍鬼も見つけた。
謎は増えたがとりあえずは大橋に任せておけばいいだろう。」
凱斗はニコニコと飴を舐めながらそう言うと、遠くの方に赤い光が見える。
「着いたか。なんだろうな、久しぶりに帰ってきた、そんな気分だ。」
凱斗は赤く光る提灯を眺めながらそう言うと目を細めて微笑んだ。
「明日は全員で帰るぞ。」
桜庭と陽平は凱斗の言葉に頷いた。




