02
家の前へと着くと、父は車から降り走って玄関へと向かい鍵を開ける。
「凱斗!!!」
父は大きな声で名前を呼び、家の中へと入っていった。
警察は玄関で中の様子を伺いながら待機している。
「凱斗!!凱斗どこだ?!」
父の声は少し震えていた。
「お父さん!お帰りなさい!お風呂の準備をしていたんだよ。」
父はヒョコッと顔を出した凱斗を力いっぱい抱きしめた。
「凱斗、凱斗。無事で良かった。」
凱斗は急な出来事に戸惑いを隠しきれないでいた。
「どうしたの?お母さんと香夜は?」
凱斗がそう問うと、父はゆっくりと凱斗から離れ、涙を流す。
「ねえ、お父さん?」
「凱斗、母さんと香夜はな…」
父が言葉を詰まらせている時、警察から声がかかる。
「燈龍さん、息子さんは無事ですか?」
父は涙を拭い凱斗の手を握り、玄関へと向かう。
状況が読めていない凱斗は、父の顔を見上げながら抵抗出来ない力に身を任せた。
そして凱斗は、何かを察したかのように少し暗い表情を見せた。
「ああ、無事だ。」
父がそう言うと、警察は凱斗の顔を見て目頭を熱くする。
「無事で良かった。本当に…無事で良かった。」
警察はそう言うとその場にしゃがみこみ、声を押し殺しながら身体を震わせた。
そんな警察の姿を見た凱斗は、静かに涙を流す。
「お父さん、お母さんと香夜に会いたいよ。」
震えた声でそう言う凱斗に対して父は首を横に振る。
「会うことは出来ない。」
父の言葉を聞いた凱斗は下唇をギュッと噛み締め、流れる涙の勢いは増した。
「燈龍さん、このまま家に居ては危険です。
一度総龍会に掛け合いましょう。」
警察が涙を堪えながら父にそう言うと、父は少し考えた後に言葉を発する。
「俺はどうなっても構わない。だが息子はまだ八歳。
息子の事は会長に頼もうと思う。」
父の言葉を聞いた凱斗は、父の手を振り解き涙で濡らした目でキッと睨み付けた。
「俺はどうなっても構わない?!
お父さんに何かあったら…何かあったら俺は…俺は……!」
「……あのな、凱斗。
これはきっと、父さんへの報復なんだ。
お前が狙われる位なら最初から父さんが狙われた方がいい。
だがな、愛する家族を奪った者にタダで殺られるつもりは無い。」
父は凱斗の頭を撫でる。
凱斗を映すその瞳は愛と優しさに溢れていた。
が、その奥には悲しみと怒りに満ちていた。
父は警察に凱斗を見るように頼むと携帯電話を取り出し、リビングへと向かう。
「ねえ警察のお兄さん達。」
凱斗は涙を拭い、警察の目をジッと見る。
「なんだい?」
警察も涙を拭い凱斗に応える。
「どうして警察のお兄さん達もそんなに泣いてくれるの?お母さんのお友達なの?」
凱斗の問い掛けにゆっくりと頷く。
「凱斗くんのお母さん、祥子さんも元々は総龍会の人間でね。お世話になった事もあるんだ。
とても優しくて…皆のお姉さんみたいな、そんな存在の人で…」
警察は話しながらまた涙を流し、言葉を詰まらせた。
「お母さんも総龍会にいたんだ。お父さんだけかと思っていたよ。
そんな話聞いたことがなかった、教えてくれてありがとう。」
凱斗はそう言うとその場に座り込み、父の帰りを待つ。
凱斗のその姿を見る警察達の視界は歪んだままでいた。
父が大きなカバンを片手に戻ってくると、座り込んだ凱斗の前にしゃがみこみ「行くぞ」と声をかける。
その言葉を聞いた凱斗はゆっくりと立ち上がり、靴を履いて玄関を出ると、警察達も一緒に外へ出てパトカーへと乗り込んだ。
玄関の鍵を閉める父の姿を眺める凱斗の目にはもう悲しみの歪みは無かった。
ゆっくりと辺りを見渡すと、庭にあるボールが目に入る。
「香夜が好きなボール。」
その横を見ると、綺麗に植えられた色とりどりの花が目に入る。
「お母さんが好きな花。」
目に焼きつけるようにボールと花を交互に見たあと、凱斗は大きく伸びをして、ハァッと息を吐く。
「さようなら、お母さん。香夜。」




