02
「で?相談って何?」
前を走る黒のワゴン車の後ろを付いて走る。
「アニキは俺の事弱いと思う?」
陽平はチラチラと左右を確認しながら1本道を進んでいく。
「弱いって何が?戦う力?それとも心?」
凱斗はヨイショと身体を起こして外を眺める。
辺りは薄暗くなってきた。
「戦う力!俺はアニキに付いて食屍鬼を何匹か退治した!それでもまだ中級層。その中でも新入り…弱いのかな?」
ハンドルを握る手に少し力が入る。
凱斗は辺りを見回しながら答える。
「昼に現れる食屍鬼と夜に現れる食屍鬼、この違いを述べよ。」
「えっ?!」
陽平は想定外の質問に少し動揺する。
「えっと、夜に現れる食屍鬼より昼に現れる方が少し弱い…?」
陽平がそう答えると凱斗は立ち上がり助手席に乗り込む。
「うわぁ!アニキ辞めてそれ!怖いから!危ないから!!」
陽平は少し驚き車がヨロヨロとする。
「っせぇ。ちゃんと真っ直ぐ走らせろ。酔う。」
凱斗はそう言うと煙草を取り出し、火をつけ外側に煙を吐く。
「昼に現れる方が弱い。その捉え方でいい。中級層なら余裕だろ。
夜になると何故だか少し敵の力が増す。中級層でも厳しい奴はいる。」
凱斗はまた煙草を咥える。
「俺は夜にも出れる!前だって瑠璃さんの時!アニキが俺を呼んでくれた!」
陽平が少し興奮気味にそう言うと凱斗はプハーと煙を吐いてニヤリと笑う。
「そういう事。」
「……どういう事?」
「俺はお前の事強いと思ってるよ。じゃなきゃわざわざ連れて行かねぇ。」
車の灰皿に吸殻を捨て、陽平の頭をポンポンと軽く叩く。
「で、それ知ってより一層頑張ろうと思えたか?」
凱斗にそう聞かれた陽平は、チラリと凱斗に目線をやると真剣な目をした。
「俺、アビス地区に行きたいんだ。」
凱斗は「前見ろ危ねぇ殺す気か?」と陽平の頬を軽く抓り、大きく腕を伸ばした。
「アビス地区、ね。
……アビス地区は食屍鬼じゃなくて人間相手にしに行ってんの。だからお前は無理。」
凱斗はそう言うと鬱陶しそうに前髪をかきあげる。
「俺人間相手でも出来るよ!」
陽平が力強くそう言うと、凱斗は真っ直ぐ前を見つめた。
「人間相手となると心の強さが必要だ。
助けてくれ!お願いだ!そう泣きながら縋る奴の腕をお前は折る事が出来るか?足を切り落とせるか?腹を裂けるか?舌を切り落とせるか?どうだ?」
陽平は下唇を少し噛みながら黙る。
「心の強さ、というより心が無いのかもしれないが。
俺は食屍鬼も悪人も同じだと思っている。
食屍鬼は人の肉を喰らう。悪人は人の心を壊し身体までも滅ばせる。
俺はそんな奴に情なんて湧かないし、被害者と同様またはそれ以上の苦しみを与えられて当然だと思っている。」
陽平は真っ直ぐと前を見ながら凱斗の言葉を一語一句聞き逃すまいと耳に集中させた。
「実際、食屍鬼相手になら容赦なく仕留めに掛かれる奴が、人間相手となると躊躇する姿を何度も見てきた。
一人が躊躇してしまうと周りの奴らも動揺して一気に崩れる。
その結果被害者が増える。
それを防ぐ為に桜庭が送る人間を厳選している。
お前は今回選ばれなかった、それが答え。」
凱斗はそう言うと鼻をヒクヒクとさせた。
「アニキ…でも俺はもっと強くなって───」
「おい、車を止めろ。」
凱斗の声が少し低くなり、陽平は急いでブレーキをかける。
「え、急にどうしたのアニキ?」
陽平がソワソワしながら凱斗の方に目を向けると、凱斗は黙ってジッと外を見ていた。
「くせぇ。」
そう言うと凱斗は車を降りる。
「陽平、お前はワゴン追って本部に帰れ。桜庭に報告してこい。」
凱斗はそう言うと日が沈み出し暗さを増していく森の方へと走り出した。
「アニキ!!!」
陽平は大声で叫ぶが、既に凱斗の足音は消えていた。
シーンと静まり返る空間の中に、陽平の心音だけが響く。
「アニキ…アニキ……。」
陽平は不安に押しつぶされそうになりながらエンジンをかけ、出来る限りスピードを出して黒龍本部へと向かった。
陽平の視界は少し歪み、鳴り止まない不安の音が重くのしかかった。




