01
黒龍の部隊がアビス地区へ到着したと連絡が入ったのは、屋敷を出てから五時間を過ぎた頃だった。
凱斗は食屍鬼が出たと連絡が入り、数人を引連れて外に出ていた。
麗華は医務室で食屍鬼について調べ、瑠璃は桜庭と応接室にて食屍鬼の彼の話をしていた。
この時はまだ誰も、アビス地区の現状を知る者は無く、食屍鬼を装う愚かな人間を捕まえて帰ればいい、そう思っていた。
「では瑠璃さん、彼の事について訪ねますので、わかる範囲で結構です。お答え願えますか?」
桜庭は白い紙をテーブルの上に置き、ペンを持つ。
「はい。」
瑠璃は少しソワソワしながら答える。
「では、彼は日中普通に話していた、と言いますが夜間に話した事は?」
「無いです。
夜勤だと聞いていたので夜は連絡をとっていませんでした。」
桜庭は、なるほど。と相槌を打ち紙に文字を書いていく。
「では、彼の普段の食生活はどんな物だったか分かりますか?」
「一緒に居る時は、お腹がすいていない、と何も食べていませんでした。」
桜庭はまた、なるほど。と相槌を打つと紙に文字を書いていく。
「あ!」
「どうしました?」
「出会ってすぐの頃、日中は外に出てカフェに行ったりしていたな、と。
珈琲や紅茶を飲んだり、ケーキやクッキーを食べたり…」
瑠璃の言葉を聞き、桜庭は紙にメモをとる。
「最初の頃は普通に飲み食いをしていたが、ある日を境にしなくなった、という解釈で?」
「はい、合っています。」
「なるほどなるほど。これは研究者に報告せねばなりませんね。
では、彼と身体の関係を持ったり、という事は?」
瑠璃は桜庭の言葉を聞き、少し目を大きく開く。
「ない、です。
付き合い始めの頃にそういう雰囲気になった時、私が震えてしまい…彼は私が出来ると思った時でいいと言ってくれました。」
「そうですか。キスも無いですか?」
「はい……。」
瑠璃は少し顔を赤くして俯いた。
桜庭は「一先ず私達が聞きたいのはこれだけです。他になにか思い当たることがあれば教えてください。」と言い、クリアファイルに紙を挟む
「瑠璃さん。
ここに住まわれる、というお話ですがお父様とは話し合いはできましたか?」
桜庭はジッと瑠璃の目を見て問う。
「怒られました。帰ってこい、と。」
瑠璃は、ははは、と笑い俯く。
「まあ、そうでしょうね。
私達も親がいる方を無理矢理ここに住まわせる事は出来ないのです…瑠璃さんは未成年なので特に……。」
桜庭は小さく息を吐く。
「これは凱斗さんが知ったらきっと騒ぎ立てますね…。」
遠くを見つめる桜庭からは既に少し疲れを感じた。
桜庭が遠くを見つめている時、桜庭の携帯電話が鳴り響いた。
桜庭は慌ててポケットから携帯電話を取り出し、耳にあてる。
「っとっと。はい、桜庭。」
桜庭は少し話したあとファイルを手に持ち立ち上がる。
「今日のところはこの辺で。医務室の場所は分かりますか?」
「はい、分かります。」
「では、そこに麗華さんが居ますので、麗華さんにも休憩を取っていただき、二人でお話でもしていてください。」
桜庭は瑠璃にそう言うと、バタバタと応接室を後にした。
瑠璃も立ち上がり、医務室へと向かう。
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「タベ、タベテ、イイ?オイシノ?」
「うるせぇ喋んな。」
不気味な笑みを浮かべ近寄るソイツは凱斗の手によって始末された。
「くっせぇな……。」
辺りに飛び散るソイツの血液の臭いに顔を歪ませ鼻を摘む。
「あぁー!!アニキ!また一人で!!」
「っせぇな!陽平が来るの遅せぇんだろーが!」
武器を手に持ち凱斗に走り寄った陽平は、凱斗の隣に転がる物を見て叫ぶ。
「見つけたらまず報告!一人で相手にしないこと!!桜庭さんにまた怒られますよ!!」
陽平はムスッとしながら他の隊員を呼ぶ。
「それはお前達下級層と中級層の話。
お前達は一人の時に食屍鬼に出会したらすぐ仲間呼べよ。喰われちまうぞ。
ま、俺がいりゃお前達が喰われるなんて事ないけどな。」
凱斗は陽平の肩をポンと叩き、背を向け手をヒラヒラとさせる。
陽平と呼ばれ集まった隊員達は凱斗の後ろ姿を見ながら「かっけぇ…!」と声を漏らす。
「やっぱアニキは他の人達とは違うな!俺もアニキみたいに皆を守れるような強い男になるんだ!」
陽平は目をキラキラとさせながら、転がる食屍鬼の片付けをする隊員達に話す。
顔を歪ませながらソイツを布袋に詰め込む隊員達はチラリと陽平に目をやる。
「陽平さん、チャックあいてますよ。」
隊員の一人がそう言うと他の隊員達は肩を揺らして片付けを続ける。
陽平は自分のズボンを確認し、顔を赤くしながら慌ててチャックを上げた。
「い、いいいつから?!いつからあいてた?!」
焦りながらそう聞く陽平に隊員達は「さぁ?」とだけ答え、布袋を担ぐ。
「そろそろ行きましょう。」
陽平は布袋を担ぐ隊員達の後ろをトボトボとついて行った。
隊員達は荷台に布袋を放り投げ、隊員二人も荷台に乗り込む。
その姿を確認した運転席と助手席に座る隊員は車を発進させた。
陽平はトボトボとしながら黒のオープンカーの運転席に乗り込むと、後部座席で寝転んでいた凱斗が身体を起こす。
「は?陽平が運転?嫌なんだけど。ワゴン行くわ。」
凱斗はジトっとした目を陽平に向けると、車のドアを開ける。
「アニキ待って!」
陽平に大きな声で呼び止められ、凱斗は動きを止めてまたジトっとした目を陽平に向けた。
「なに?」
「や、あのーそのー……相談!相談したい事があって!」
へへへ、と笑いながらそう言う陽平を見て凱斗は頭をポリポリと搔く。
「ズボンのチャックが勝手に開かない方法教えて、とか?」
凱斗はニヤリとしながら陽平にそう言うと、陽平は顔を赤くして拗ねる。
「そんなんじゃないし!てかアニキも知ってたなら教えてよ!」
凱斗はヤレヤレとドアを閉め直し、ゴロンと横になる。
「屋敷内にいた時からあいてたぞ。ワザと開けて笑い誘ってるのかと思ったけど違ったか。」
凱斗の言葉を聞き、更に顔を赤くしながらエンジンをかけた。




