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減量、しませんか?  作者: あけはる


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転生したらデブ令嬢だった件


 目が覚めた瞬間、


(えっ、ちょ、腕が……太い! なんかお腹も……重ッ!?)


クラリス・ベリントンは理解した。ここは異世界であると。

そして、


とんでもない”デブ令嬢”に転生してしまったことを―――――――



 27歳OL、芹沢まどか。健康診断で「肥満注意」をもらい、ダイエットを志すも失敗続き。

 

 ある朝の通勤中――足元がふらつき、視界が真っ白になった。


 そして―――




次に目を覚ましたときには、ベッドの上(ふわふわ・巨大なレースの天蓋付き)だった。


(……ああ、無理して朝食抜いて、栄養ドリンク一本で出社したんだっけ・・・?

 あれ、低血糖だったのかな……)


 前世の死因は曖昧なままだったが、ひとつ確かなことがある。



(まさか、今世も、デブだなんて……!!)



 目の前には大きな姿見。

 せっかくの金髪は脂ぎってべっとり。

 ぱっつぱつで今にも張り裂けそうなドレス。

 顔は満月のようにまん丸で、真夏の海のように青かったであろう瞳は、周囲の脂肪に押し込められるように埋まり輝きを失っている。

 脂ぎった額、輪郭は首と同化し、頬に広がる赤いニキビ、肌は荒れ放題。鼻の頭には皮脂が浮きあがって、詰まりに詰まった毛穴角栓の数々。


(やばい…………金髪碧眼でポテンシャル高いとか言ってられないレベルで、やばい……)

 

 どう頑張っても褒めるところが見つからないクラリスのドレス姿。

 侍女たちは、かたくなに視線を合わせようとしない。


(……自分の仕えるご令嬢がこんな醜いんだものね。そりゃあ、誰も見たくないわ…)


 ではなぜこんなにも無理して着飾っているのかといえば、今日は王都での春の舞踏会の日なのであった。


 春を彩る社交界の華やかな場。

 

 初めからできるだけ目立たぬようにと、巨体をできる限り縮こませて、壁の花と化していたクラリスだったが・・・

 その目の前で交わされる言葉は、刃のように鋭く、容赦なかった。


「ねぇ、見て見て、あれが噂の“ベリントン嬢”よ、……豚令嬢…」

「“歩くたびに床がきしむ”って言われてる、あの」

「きゃっ、肌も吹き出物だらけですわ…」


 笑い声、嘲り、同情すらない冷たい視線。

 慣れない空間、緊張。

 脂でテカった顔面に、汗が次々に落ちていく。


 紳士たちは、一瞥もしない。

 舞踏の相手を探すどころか、声をかけられたら大変だというように、クラリスを避けるようにそそくさと通り過ぎていく。


(……前世でも、似たようなことあったな。見た目で全部決まるってやつ。見た目が良くないと、人生門前払い。

中身なんて一切見てもらえないって、わかってた、わかってたのに・・・しんどいな・・・)


(今世では、抜け出したい。

 この太ましい体をどうにかしないと―――)


(…でもそうよ、私、知ってる。どうすれば、この状態から抜け出せるか。前世の知識が、ある――!)


―――――――


 その夜、自室に戻ったクラリスは再び鏡を見つめた。


 脂と赤みでひどく荒れた顔。

 それでも、ほんのわずかな決意の色が宿っていた。


「よし、やろう、減量。

 今世こそ、私、痩せてみせる……綺麗になってやる……っ」


―――――――


 翌朝、まだ陽も昇りきらぬ時間。

 屋敷の裏庭に現れたクラリスは、

 動きやすいワンピース(ぱつぱつ)に身を包み、深く呼吸する。


 一歩、また一歩と、のっし、のっし、ゆっくり歩き出す。


 一日一万歩。

 前世でも挑戦した減量の基本のキ。

 実際には何度も途中で挫折した。

 でも、今回は諦めないんだから…!


 このクラリスの心変わりは最初、誰にも気づかれなかった。それどころか、「あのお嬢様が運動を?本当に?一時の気の迷いでは…?」と使用人の誰にもにも理解されなかった。


 裏庭を剪定していた庭師は「お嬢様がお庭で迷子?」とすら思ったらしい。


 けれど五日、十日と経つうち、

 ふうふうと息切らせながらも、

 歩み(のっしり)を止めないクラリスの行動が少しずつ周囲を変えていった。


 たとえば、ある朝、水を撒いていた老庭師ニックがクラリスに声をかけた。


「……お嬢様、まさか毎朝……歩いてらっしゃるのですか?」

「はい。そうなのですわ、目標は一日一万歩なのです。

 体を変えるには、まず歩くことからだと……」


 クラリスは汗をぬぐいながら、息を整え、それでも笑顔(むっちり)で答えた。


 その姿を見たニックは、たいそうな驚きをもって

「お、お嬢様は本気みたいだ…!」他の庭師たちに報告したそうだ。


 その翌朝、その噂を聞きつけたマーサという若い侍女がそっと申し出た。


「お嬢様……わたしも、少しだけご一緒しても……?」


「もちろんよ。さあ、歩きましょう、マーサ」

苦手な運動前だというのに、にこやか(むちり)なクラリス。

その姿に驚きを隠せないまま、一万歩ウォーキングにつきあったマーサ。

使用人仲間に、「お、お嬢様は本気のようです…!」と興奮気味に報告そうな。


そうして毎日欠かさずウォーキングを続けるうち。


見た目にこそあまり変化がなかったものの、

クラリスの行動面の変化に気づき始めた使用人が着実に増えていった。



1カ月ほど続けたあたりで、だんだん一万歩ウォーキングにも慣れてきたクラリスは考える。


 次は・・・食事の見直しね…


 クラリスの朝食の定番は、

ギルダチーズのオイル煮込み、大きなパン、

たっぷり脂肉のバター煮、甘果実酒のミルク割り、という、<脂質と糖質の化け物盛り>だった。


 対して、タンパク質はほんの一切れの高級赤身肉だけ。 胃に重く、栄養バランスは最悪だ。


(これじゃ肌が荒れるのも当然……ビタミンも足りてないし、脂質で皮脂が過剰。糖分で炎症も……)


 のっしのっしと、厨房に乗り込んだクラリス。

 前世の知識を元に、糖質、脂質、タンパク質のバランスの良いメニューを変更するよう頼むのだ。


「明日から、焼いたシュリムア魚にハーブをのせて、ライス豆のスープ、干し果実とナッツを入れたヨーグルト。それから、レモン水を添えてくださる?」


 料理長は最初こそ驚いたが、いざ、調理してみると――


「……うん、これは意外と素材の味が生きてる。程よく薄味だし、良いバランスだ……」


 周囲の反応はまだ冷たい。社交界でも嘲笑は止まない。


 だがクラリスは、確実に変わり始めていた。


自戒も込めて、ダイエット令嬢話を・・・短く数話のつもりです。

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