表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想いはまだ、エルノアに。  作者: 牛丼で死にかけた男
第1章 目覚めの理

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/19

第18話 夜風に揺れる想い

教会近くの小さな村——アスレイン。

その村の中心には、色とりどりの草花が咲き誇る広場がある。

村の多くの子どもたちは、昼から夕方までのほとんどの時間をそこで過ごす。


毎日、無邪気な笑い声が響き、駆け回る音がする。

しかし、最近はそこに新しい音が加わった。


———


「どうだっ! リネス!!」

チカラが"リネス"に向かって球を投げ、肩に命中させた。


「くっそぉっ……! にーちゃん、もう一回!!」

リネスは取り損ねた球を拾い、チカラに投げ返した。


「リネス…チカラにーちゃんの球、速すぎてとれっこないよ」

「オルトの言う通りよ! いい加減諦めなさい!

怪我するかもだし…」


"オルト"が頭を掻きながらリネスに近づく。

その隣にいた"ミレナ"は、腰に手を当て、頬を膨らませながら説教じみた口調で言った。


"リネス" "オルト" "ミレナ"。


三人は村の子どもで、もうすぐ六歳だそうだ。

以前、ジル爺とガルボアの肉をお裾分けに回った時に顔を合わせた。


その日から、俺とチカラ、アオバの三人は、闘気の修行の合間にこの広場で彼らと遊ぶようになっていた。


リネスは金髪と碧眼が美しく光る、負けず嫌いな男の子。

チカラとの遊びに負けては、また勝負を申し込むを繰り返している。


そして、いつもリネスの傍らにいるのが、オルトとミレナだ。


オルトは少し無気力そうな男の子で、目にかかるほどの緑髪と緑眼が風を感じさせる。


ミレナは少し棘のある性格だが、多分リネスのことが好きで、話の最後に少し照れることが多い。

リネスと同じ金髪で、長い髪と花柄のカチューシャがとてもよく似合っている。


そして、赤い瞳にはどこか芯の強さを感じる。


「チカラ〜、もうそろ修行に戻んで〜」

アオバが腕時計を見せるかのように腕をトントンと叩く。

もちろん、腕時計なんてしていない。


「わかった!……リネス、また今度な!

 次はもっと遊ぼうな!」

チカラが球をリネスに渡した。


「えぇ〜もう!? 

 にーちゃん達、いっつも修行じゃん!」

リネスが地面を踏み鳴らして不満を口にする。


「リネス、オルト、ミレナ。

 また今度ゆっくり遊ぼうな?」

"俺"は三人の頭を順番に撫でて言った。

見た目は大して変わらないのに、やはり年下となると頭を撫でたくなる。


「リンにーちゃんもそう言ってるし、三人で遊ぼうよ」

オルトが軽いため息を吐きながら言った。


「ちぇ〜、わかったよ」

リネスはようやく納得したようだ。


「ほなね〜」

アオバが三人に手を振り、そのままジル爺の平屋へと向かう。


「リネスのやつ、本当に負けず嫌いだな!」

チカラが笑顔で言った。


さっき二人がしていた遊びは、生前で言うところのドッジボールの1対1版だ。

球は布を限界まで丸めて皮で覆ったもの。

そのせいで全く跳ねない。


「チカラに憧れてるっぽいなぁ。

 ずっとにーちゃんみたいに強くなる、言うてるし」

アオバがニヤニヤしながらチカラを見る。


ガルボアの肉をお裾分けに行った時、

ジル爺が「こいつらが倒したんじゃよ」とリネスに言った。

その次の日、リネスは俺たちの修行を見るためにジル爺の庭を覗き見していたらしい。

その時のチカラがかっこよかったらしく、憧れているそうだ。


「いやぁ、素直に嬉しいなぁ」

チカラが恥ずかしそうに頭を掻く。


「最近はチカラの真似して、

 正拳突きばっかやってるもんな」

俺がチカラに言うと、さらに頭を掻いた。


「かっこいいにーちゃんでいるために、

 さらに強くならないとな!」

チカラが笑顔で胸を叩いた。


俺たちはチカラの言葉に大きく返事をして、ジル爺の家に戻り、気合を入れて修行を再開した。


——————


教会の夕方。


闘気の修行を終えた俺たち三人は、アルマンを探していた。

いつもなら出迎えてくれるはずが、今日は見当たらない。戻ってきたことを知らせたかった。


教会の裏にある祠に足を運ぶと、アルマンはカザネ、テン、アイコの三人と一緒にいた。


「アルマン! ただいまー!」

チカラが元気よく手を振った。


「おぉ! 三人ともおかえり!

 ちょうどよかった、見てほしいことがあるんだ!」

アルマンが手を振ると、隣にいたカザネたちも出迎えてくれた。


「みんな見てほしいことがあるの!!」

カザネは胸を張りながら、アルマンと同じことを言った。


「どうしたんだ、カザネ?」

チカラが首を傾げて聞く。

俺たち三人はテンとアイコの横に並んだ。


「カザネ、さっきからテンションがおかしいの…」

アイコが頭を抱えながら首を振る。


「いやいや、本当にすごいんだよ!? 

 ねっ!? カザネ!?」

アルマンもテンションがおかしい。


「アルマンもテンションおかしい」

テンが思っていたことを言ってくれた。


「それじゃあいくよ! みんなしっかり見ててね!!」

カザネが目を閉じ、両手を胸の前に組んだ。


すると——カザネの足元から赤い渦が現れる。


あの日見た渦だった。

体に緊張が走る。


「リン……信じて、見ていてごらん」

アルマンに止められた。

反射的に前に出ていたようだ。


「んぅ……はいっ!」

カザネの声と同時に、渦が波のように静かになり、消えた。


「これはカザネの加護の力だよ。

 前は暴走してしまったけど、練習して自在に出せるようになったんだ……どうだい!?」

アルマンがカザネの肩を掴み、ドヤ顔をする。


正直、渦が現れた瞬間は怖かった。

でもカザネはそれを乗り越えたらしい。

本当にすごいと思う。


「す、すっげぇ……」

チカラが目を見開き、驚いた。

その声に続くように、みんなも驚きの声を上げた。


「まだまだあたしの思う通りに動いてくれないけど、前みたいに迷惑かけることはないと思う!」

カザネが嬉しそうに言った。


「カザネ、やったな」

俺がそう言うと、カザネは「うん!」と元気よく頷いた。


——————


教会の夜。


カザネの加護を見た後、俺は庭で風にあたっていた。

生前では、外の風にあたりながらタバコを吸うのが習慣だった。


転生してからタバコは吸えていないけど、風にあたっているとやはり恋しくなる。


すると、後ろから足音が聞こえた。


「リン……」


振り向くと、カザネがいた。

心臓の鼓動が早くなる。


「どうした?」

声をかけると、カザネは首を横に振りながら

俺の右隣に座った。


「リンが外行くの見えたから、着いてきちゃった」


「……? 何か用があるんじゃないのか?」

チカラあたりに呼ばれてるのか、それともアルマンか。

この間、闇魔法の詠唱の写しを追加で欲しいって言ってたから、それかもしれない。


「ん? 着いてきただけだよ?」

カザネが首を傾げる。


「ん? 本当に着いてきただけ?」


「……だめ?」

カザネが眉を寄せ、膝を抱えた。


「いやいや、そんなことないよ……

 カザネならずっと隣にいてほしいぐらいだよ」


少し焦って、言葉を間違えたかもしれない。

ふとカザネの顔を見ると、目が合った。

少し恥ずかしくなって目を逸らす。


沈黙の後、二人とも吹き出してしまう。


「……リンの隣に座ると、あの屋上思い出すね」

カザネが夜空を見上げて言った。


「あぁ……ギターがあったら完璧だな」

俺も夜空を見上げながら言った。


——————


中学卒業後、軍付属の高校へと進んだチカラを除いて、俺たちは同じ高校に通っていた。


みんなの輪に入るようになって、同じ高校を受験して進学した。

それでも、まだ俺は「邪魔者なんじゃないか」って思ってた。


だから放課後や昼休み、少し距離を置くようにして、よく屋上でギターを弾いて歌っていた。

でも、その一方的な壁をカザネが壊してくれた。



——あの日の放課後も、いつも通り屋上にいた。



「あ! リン、ここにいた!」

カザネが腰に手を当て、大きな声で言った。

長い髪とスカートが風に揺れる。

寒がりなのかよく白いニットを着ている。


「あぁ……うん。どうした?」

突然のことで、うまく喋れない。


「どうした?……じゃないよ! 

 いつもすぐ消えるんだから」

カザネがそう言いながら俺の右隣に座った。

少し気まずくて、目を合わせられない。


カザネが続けて言う。


「ギター弾いてたんだ!

 チカラから聞いてたけど、初めて見るかも!」


「そうだっけ?

 ていうか、チカラから聞いてたんだ」

目は合わせられないけど、自然に話せているはず。


「うん! なんか弾いてよ!」

カザネが顔を近づけて言った。

声が大きい。あと近い。


「えぇ……」

そう言ってカザネの顔を見ると、目がキラキラしていた。


(……ちょっとだけやるか)


カポを移動させ、弦に指を当てる。

そして一息ついた。


「 Do whatever you want, my dear

 風のように生きていいのよ

 傷つくことを怖れずに

 あなたの道を、あなたのままで


 泣きたい時は泣いていいの

 強がらなくていいんだよ

 世界が背を向けても

 あなたの心はここにある 」


母の好きだった曲を、アルペジオで弾き語りした。


「……すごい! リンすごいね!!

 ギターもそうだけど、歌上手いんだね!」

カザネが顔を寄せてくる。やっぱり近い。


「……ありがとう」

褒められるのは素直に嬉しい。


「わざわざ、歌もありがとね!」

カザネの言葉に、少し恥ずかしくなる。

そうか、ギターだけでよかったのか。


「……あたし、リンのこともっと知りたい!」

カザネが突然そう言った。


それからほとんど毎日、俺が屋上に行くとカザネも後から来るようになった。


最初は、ただ俺が弾き語りをするのをカザネが聞いているだけだった。

でも、徐々に話すだけの日が増えていき、気まずかっただけの時間が、いつの間にか楽しみに変わっていた。


カザネと二人で話すようになってから、少しずつ彼女の癖がわかるようになった。


言いたいけど言おうか迷っている時は、一点を見つめる。


何か隠し事があると、やたらと早口になる。


悲しい時は、眉を寄せて作り笑いをする。


カザネが「知りたい」と言ってくれたから、俺も「知りたい」と思ったし、知ることができた。


みんなもそうだった。


俺が断り続けても遊びに誘ってくれたし、ずっと話しかけてくれた。

それはカザネと同じで、俺のことを知ろうとしてくれていたんだと思う。


それなのに、勝手に「邪魔者だ」なんて思って、一線を引いていた俺は、大馬鹿野郎だ。


もう遅いかもしれない。

それでも、みんなをもっと知りたい。

みんなと心の底から仲良くなりたいと思った。


——ある日の放課後。


「リン〜! この後、みんなでどっか行かん?」

アオバが俺の肩を掴んで言った。


「リンリン……どうかな?」

アイコも俺の顔を覗き込むように言う。


「…ボウリングとか……いきたい、かも」

アオバの目を見て、笑って言った。


「……! おう! ボウリングいいなぁ!

 テンはなぁ、ちょー下手くそやねん!」

アオバが笑うと、テンが顔を赤くして怒った。


「理論に体が追いつかないんだよ!」


アイコがため息をつく。

どこか嬉しそうで、表情は柔らかい。


「ほないくでぇ!」

アオバがカバンを背負って教室を出る。

テンとアイコもそれに続いた。


「リン! あたしたちも行こっか!」

カザネが笑顔で言った。

それに頷き、俺たちも歩き出した。


——————


「懐かしいな……」

夜空を見上げて呟くと、カザネも頷いた。


「久しぶりにリンの弾き語り、聴きたいなぁ」

カザネが足をパタパタさせながら言った。


「テンとアルマンに頼んで、ギター作ってもらうか」

冗談半分で言うと、「だね!」とカザネも笑った。


すると、カザネが一点を見つめ出した。


「カザネ? どうかした?」

俺が聞くと、カザネが慌てるように下を向き、それからゆっくり口を開いた。


「さっき……

ずっと隣にいてもいいぐらいだよって言ったよね?」

カザネと目が合う。

心臓の鼓動がうるさい。


「それって——」


「アルマン! アルマンはおるか!?」


カザネの言葉が遮られる。

その声は庭に響いた。


(ジル爺……?)


「……じ、ジル爺どうしたの?」

カザネが聞く。まだ顔が若干赤い。


「リン、カザネ! アルマンはどこにおる!?」

ジル爺は珍しく慌てているようだ。


「アルマンなら中でみんなと話してると思うけど」

俺がそう言うと、ジル爺は駆け足で中に入った。


カザネと顔を見合わせ、ジル爺を追いかけて中へ入る。


中では、アルマンがチカラたちと話をしていた。

みんなはジル爺に気づき、動きを止めた。


「ジル爺? こんな夜遅くにどうしたんだい?」

アルマンが聞くと、ジル爺は食い気味に答えた。


「リネスらが森に入りよった!

 村の大人が探しとる! お前も手伝え!」


(リネスたちが、森に? なぜ?)


「……!? わかった! 行こう!」

アルマンが立ち上がって言った。


その話を聞いて、俺たち六人は顔を見合わせる。


「アルマン! 俺たちも手伝う!」

チカラも立ち上がってそう言った。


「だめだ! 危険すぎる!」

アルマンが反対する。


教会から村への短い道でさえ、

あの日、魔物が出た。

それなのに、森だとさらに遭遇率が跳ね上がるはずだ。


「僕たちだって、そこそこ戦えるようになった。

 村の大人たちと大差はないはず」

テンが淡々と言い、アイコが頷く。


「そうやでアルマン。

 俺たちのこと、信じられへんか?」

アオバが続けて言う。


「でも……!」

アルマンがそう言いかけた時、ジル爺が被せて言った。


「こいつらなら大丈夫じゃ。

それに、こういう時のために力をつけとるんじゃろ」

ジル爺が真剣な眼差しでアルマンに言った。

その言葉に、カザネと俺も頷く。


アルマンが下を向き、拳を握る。

そして深呼吸した。


「……わかった。

 でも、無茶だけはしないでおくれ」


その言葉に、俺たち六人は一斉に頷いた。


それから、急いで装備を整え、

早足で森へと向かう。


——夜の静寂の中へと駆け出す。

胸に、焦りと決意を抱えながら。


今回は、新キャラの三人の子供、、カザネが加護の制御に成功する、カザネとリンの関係…

そして最後のリネス達が森へ行ったこと…

次はとあるキャラの加護が目覚めますよ!

ぜひ読んでください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ