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想いはまだ、エルノアに。  作者: 牛丼で死にかけた男
第1章 目覚めの理

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第17話 才能


お祝いの品をもらってから、約一ヶ月が経った。

俺、アオバ、チカラの三人はジル爺に付き添ってもらい、魔獣ガルボアの討伐のため、村から少し離れた森に来ていた。


ガルボアは、簡単に言えば――でかすぎる猪だ。

体長は三、四メートルほどで、牙だけでも俺たちより大きいのが一目でわかる。

茶色の毛皮は、剣を力任せに叩きつけても簡単に弾くほどの強度を持っていた。


ジル爺曰く、今のお前らならガルボア程度、工夫次第で倒せるとのことらしい。


(いや、めちゃくちゃ強いんだけど……)


———


森の中、少し開けた場所。


「おらっ!!」


チカラがガルボアの横っ腹に、籠手を装備した拳を叩き込む。

鈍い衝撃とともに、

巨体がぐらりと揺れる――だが。


「ブゴォォ!!!」


咆哮とともに体勢を立て直したガルボアが、チカラに向けて牙を振り抜く。


「おっと……あぶねぇな!」


チカラが大きく後ろへ飛び、ひらりとかわした。


ガルボアの攻撃そのものは避けれる。

問題は、俺たちの攻撃がほとんど効いていないということだ。


「お前ら! もっと色々考えい!」


殴る、斬る、魔法をぶっ放す――。

それを繰り返していた俺たちに、離れて見ていたジル爺が怒鳴る。


ジル爺は以前言っていた。

闘気は、身体の成長と戦いの経験によって質が変わる、と。

そして今の俺たちには、そのどちらも足りない。


なら、今ある力でどう戦うかだ。


———


「ブゴォォォ!!!」


ガルボアがアオバへと突進する。


「アオバ! 泥だ!」

俺が叫ぶ。


「りょーかい!」


アオバは即座に理解し、両手の短剣を鞘に戻して地面へと手をかざす。


「地の理よ。泥となり、形を崩せ!

 ――《マッド・スネア》!」


詠唱の声と同時に、

ガルボアの足元がぐにゃりと歪み、土が泥へと変わる。


巨体が沈み、ガルボアの動きが止まった。


以前のアオバなら、こんな規模の魔法は使えなかった。

だが詠唱を覚えてからは、魔法の質が格段に上がっていた。


「ブゴォ! ブゴォ!!」


暴れる巨体。だが、足場のない泥の中では立て直せない。


(よし――今だ!)


俺は勢いよく踏み込み、ガルボアの目へ剣を突き刺した。


「ブゴォォォォ!!!」


怒号のような悲鳴。

右手で柄を強く握りしめ、振り落とされぬよう耐える。

左手には水の理を集中させた。


「水の理よ。凍て、静寂の欠片を生み出せ!

 ――《フロスト》!」


左手が触れた瞬間、氷が走った。

鼻先まで凍りつき、ガルボアの動きが鈍る。


最近になってわかったことだが、俺には闇だけでなく水の適性もあった。

それでアイコと同じく、水魔法も扱えるようになっていた。


「チカラ、やったれ!」


アオバが叫ぶ。


「拳に集中……集中……集中……!」


チカラが右拳を握り締めた。

気を一点に集め、跳び上がる。


俺はそれを確認してから剣を抜き、素早く後ろへ飛んだ。


「おらぁぁ!!」


轟音。

ガルボアの凍った頭に拳が叩き込まれ、氷が砕け散った。

その衝撃が泥ごと地面を弾き飛ばし、ガルボアの巨体が固まったかのように倒れる。


静寂。


「お前らようやったのぉ! いい連携じゃったぞ!

 アオバが泥で拘束し、

 リンが剣と氷で弱点を作る、

 そしてチカラ……最後の一撃、見事じゃった!」


ジル爺が破顔して笑った。


安堵と達成感が胸を埋め尽くす。


だが、それよりもチカラだ。

横っ腹を殴った時と比べ、威力が桁違いだった。


「チカラ、さっきのなんだ?」


「そうやぞ! そのせいで俺とリン泥だらけやんけ!」


アオバが服をつまみながら叫ぶ。

確かに泥まみれだ。……アイコに怒られる。


「……できた、できた!!

 闘気を右腕に集めたんだ!

 でも右腕だけだと他が疎かになるから、右腕8、

他2くらいで……

 やってみたら本当にできた!」


チカラが興奮した様子でまくしたてる。


「お、おう……落ち着けチカラ……」


引き気味のアオバ。


ジル爺は笑って頷いた。


「よう気づいたのぉ、チカラ。

 お前らの闘気はまだまだ弱っちい。

 なら、それをどう使うか、じゃ」


そう言って、近くの木の前へ歩く。


指を鳴らし、軽くデコピンの構えを取った。


――次の瞬間。


破裂音とともに、木が粉々に砕けた。


「チカラの言った通り、闘気を集めるんじゃ」


ジル爺が笑顔で言う。


俺たち三人は、ぽかんと口を開けていた。


「ジル爺の前で調子乗るのはやめましょう」


アオバが耳元で囁いてきた。

それはお前だけだよ。


「お前ら三人とカザネは、これも無意識でできるようにならんとのぉ」


顎をさすりながら、ジル爺は続ける。


「じゃがな、全員がさっきのチカラのような威力を出せるわけではない。

 チカラはわしと同じように、恵まれた闘気を持っておるからのぉ」


ジル爺曰く、俺たちでも闘気の流れを一部分に強くしたりはできるようになるとのこと。

しかし、さっきのチカラの一撃はチカラの闘気があってこそのものらしい。

単純に言えば、才能だ。


だから、覚えるべきことは覚えて、あとは各々の得意なことを伸ばせとのこと。


「それじゃお前ら、ガルボア持って村まで帰るぞ」


ジル爺が淡々と言った。


「……ん?」


嘘みたいな話が聞こえて、思わず聞き返した。


「ガルボアの肉はうまいんじゃぞ」


ジル爺は本気らしい。

俺たち三人は顔を見合わせ、諦めた。


そして気合と闘気を振り絞って、ガルボアの巨体を村まで持ち帰った。


———


俺たちはガルボアを村まで持ち帰ったあと、

ジル爺が慣れた手つきで解体するのを見届けて、一緒に村の人にお裾分けして回った。


初めてゴブリンを倒した時も思ったが、血の出る魔獣を殺すのはまだ少し抵抗がある。

それでも、少しは慣れてきた。


そして「今晩はガルボア肉で宴じゃ」と意気込んでいたジル爺と共に、教会へと帰ってきた。


———


「おかえり! あれ? ジル爺も一緒かい?」


教会の扉を開けると、アルマンが出迎えてくれた。

その横にいたカザネは「ジル爺だ!」と言って駆け寄る。


「ガルボア肉を持ってきたんじゃ。

 アイコとカザネに料理してもらおうかのぉ」


ジル爺はそう言いながら、カザネの頭を撫でる。


「任せて! アーちゃんと頑張るね!」


カザネは袋に入ったガルボア肉を受け取り、走り去った。


「リン、とりあえず体洗わん? 汗と泥で気持ち悪いわぁ」


アオバの言葉に、俺とチカラは深く頷いた。


———


「あぁ〜さっぱりするわぁ!」


湯船に浸かるアオバが、気持ち良さそうに言った。


この教会にはお風呂がある。

元々は薬草と何かの花を混ぜた液体で髪と体を洗い、冷水で流すというものだった。


正直、男組はそれでもよかった。

だがカザネとアイコはそうじゃない。

記憶を取り戻したことで、生前の快適で極楽なお風呂のことも思い出し、テンとアルマンに頼み込んで色々と作ってもらっていた。


そうしてできたのが湯船とシャワー擬きだ。

テンが事細かに案を出し、アルマンが術式を書いて再現した。


それでも、この空間の大きさだけはどうしようもなかった。

本来なら子供二人でちょうどいい広さ。

なのに――


「ジル爺やっぱ筋肉すげぇな!!」

「チカラもだいぶ筋肉ついてきたのぉ」


今現在、この狭いお風呂を四人で共有している。

まじで狭い。


ふと、疑問が浮かんだ。


「この教会、なんで風呂とかあるんだ?」


ジル爺に聞くと、顔を拭きながら答えてくれた。


「なんじゃ、アルマンの坊主言っておらんかったのか。

 ここは教会でもあり、孤児院でもあったんじゃ。

 だからお風呂もあるし、お前らをすぐ引き取れたんじゃよ」


この教会がやけに広い理由がやっとわかった。


教会の門を開けると、建物が二つある。

一つは礼拝堂や懺悔室のある本堂。


もう一つが渡り廊下で繋がった奥の建物――風呂や寝床、書庫、アルマンの部屋があり、俺たちの生活空間。

そこが、かつての孤児院だった。


だから書庫には地理や伝記の本が多かったし、子ども用の寝床もあった。

そして、それらが迷わず俺たちを拾ってくれた理由であることも。


「なるほどぉ、そういうことやったんかぁ」


アオバが濡れた髪をかき上げながら言った。


「そういうことじゃ。

……さて、そろそろ上がるかのぉ。

 肉が待っておるぞ〜」


そう言って、ジル爺は湯船から上がる。

俺たちもそれに続いた。


ふと見えたジル爺の表情は、嬉しそうで――どこか悲しそうでもあった。


——————


子どもたちが寝たのを確認したあと、"私"は食堂でジル爺と話をしていた。


「アイコとカザネが作る飯は最高じゃのぉ」

ジル爺が満足げに腹をさすった。


「そうだね。毎日美味しいものを作ってくれてるよ。

 本当にすごい子たちだよ」


「それにしても、

本当にガルボアを倒しよるとはのぉ。

 才能が恐ろしいわい」


ジル爺が笑う。

その言葉が、心から嬉しかった。


「やっぱり、チカラはすごいかい?」


最近はカザネに付きっきりで、あの三人のことはほとんど任せていた。


「そうじゃのぉ……闘気の才だけで言えば、“ギル”と並びよる」


ギル。

この世界屈指のクランを率いる、ジル爺の息子であり――私の元相棒。


「ギルと並ぶとは、相当だね」


隣で戦ってきた私が一番知っている。

そのギルと並ぶと聞いて、自然と頬が緩んだ。


「チカラだけじゃないわい。

 リンとアオバ……ありゃ天才じゃ」


「アオバは魔法の才能もすごいね。

 リンはなんていうか……器用、かな」


私の言葉に、ジル爺は頷く。


「魔法の才能はアイコとテン。

 闘気はチカラ。

 その二、三歩後ろにアオバがいて、その五、六歩後ろにリンとカザネじゃのぉ」


「私もそう思うよ」


リンとカザネも才能はある。

けれどアオバたちと比べると、どうしても差はある。

それでも、闘気と魔法の両方を扱えるのは大きい。

我ながら、あの子たちは本当に誇らしい。


「それでも、リンは戦いにおいて六人の中で群を抜いておる」


ジル爺の言葉に、私も頷く。


「そうだね。視野が広くて、自分が何をすべきか理解してる。

 それに、頭で考えたことをすぐに形にできる。

 あれは天性のものだよ」


あの子たちが初めてドロムと戦った日。

真っ先に攻撃を通したのはリンだった。

まだ教えていなかった属性付与を実戦で見抜き、即座に体へ落とし込んだ。

あれには本気で驚かされた。


「じゃな……アイコとテン、カザネはどうじゃ?」


「三人とも、ジル爺の言う通りだよ。

 アイコは治癒魔法……に関しては、ほぼ完璧。

 水、光の魔法もかなりの精度で扱える。

 テンは正直、驚いたよ。七つの理、すべてに適性があるね」


「そりゃすごいのぉ……」


話を続ける。


「……カザネに関しては、まだわからない。

 間違いなく強大な加護を持ってる。

 だから、それを扱う修行を今しているんだ」


今は、それぞれが個別に修行をしている。


アイコとテンは、私の書き写した魔法の詠唱をひたすらに覚えては、実際に使ってみることを繰り返している。


チカラは完全に闘気の道へ進み、朝から晩までジル爺と共に鍛錬の日々を送っていた。


リンとアオバは、その両方を学びながら、チカラと三人で積極的に実戦を重ねている。


そして――カザネ。


あの日、血のような“なにか”が暴走した。

また同じことが起きないように、今はそれを制御する訓練をしている。


「カザネか……以前話しておったことかのぉ?」


ジル爺には、すでに一度だけ話したことがある。


「うん。多分、他の五人にも何かしら“特別な加護”があるはずだ。

 今のところ、兆しが見えているのはカザネとアイコだね」


私がそう言うと、ジル爺は目を細めた。


「ほぉ……アイコもか?」


「以前、カザネが怪我をした時、アイコが無意識に傷を治したことがあったんだ。

 今思えば、不思議な話だよ。

 理力を感じたことすらない子が、無意識に……それも、治癒魔法を使った」


「偶然ってことはなさそうじゃな……」


ジル爺が低く呟く。


「それに、確信した出来事があったんだ。

 この前、教会の庭に片足を失った鳥が迷い込んできてね。

 優しいあの子はすぐさま治癒魔法をかけた。

 すると、傷が治ると同時に――失われたはずの足が、生えてきたんだ」


「……なんと」


ジル爺が驚き、目を見開いた。


「あの子の力は、間違いなく魂層まで届いている。

 それは、もはや治癒魔法で括っていいものじゃない」


私は改めて説明を続けた。


「本来、治癒魔法は欠損した部位を再生させることはできない。

 切れた腕から、新しい腕が生えることはないんだ。

 ただし、欠損した部位を繋げた状態で魔法をかければ、再生はできる。

 つまり、治癒魔法はあくまで肉体にしか作用せず、表面的な傷しか癒せない」


私は、静かにテーブルの上で指を組む。


「肉体は――魂あってこその肉体だ。

 けれどアイコは、欠損した部位を新しく生やした。

 それは、魂本来の形を読み解き、

 魂そのものを再生させ、

 それに応じて肉体を再構築したということなんだと思う。」


ジル爺は黙って聞いている。


「それに、アイコが鳥を癒した時、痛みを感じていた。

 聞いたところによると、治癒魔法を使うたびに痛みを感じるそうだ」


私は少し間を置き、続けた。


「それが代償なのかもしれない。

 魂本来の形を読み解き、魂を再生させるというのは  

 痛みまでも読み取ってしまうということ。

 もしそうだとしたら、アイコは人を癒すたびに、自分を苦しめることになる」


しばしの沈黙ののち、私は静かに言った。


「あれは……神の業だよ」


その言葉に、ジル爺は難しい顔をした。


「なるほど……そういう力が、他の子にもあるかもしれんという話か」


ジル爺は腕を組み、深く考え込む。


「わからないけどね。

 ひとまず、カザネとアイコの加護に関しては――私が制御の仕方を教えようと思う」


私も昔、加護には悩まされた。

見たもの、感じたことを絶対に忘れない力。

それが、私の加護だった。


詠唱の内容や、一度つかんだ感覚を忘れないのはとても役立った。

しかし、全てを覚えるというのは一言で言うと、

頭がおかしくなる。

だからこそ、訓練で取捨選択をできるようにした。


すると、ジル爺が思い出したように口を開く。


「それより……“学院”の話はどうなったんじゃ?」


「あぁ…“アカデメイア”のことだね。

 あの子たちが八歳になったら、通わせようと思っている」


王立総合学院アカデメイア・アルテリオス

中央大陸アルテリオスの王都セリオンにある学院。

魔法や闘気は当然のこと、解剖学や薬学など、

専門的な授業も受けれる。

私の母校でもあり、この大陸で暮らす多くの者が学ぶ場所だ。


「それまでに、加護の制御と力をつけさせねばのぉ」


ジル爺が笑みを浮かべる。


「そうだね。……というか、私も行こうかな。王都。」


「なら、わしも行くぞ」


てっきり止められると思っていたが、ジル爺も乗り気だった。

思わず頬が緩む。


「ほっほっほ」とジル爺も笑った。


あの子たちが、私のもとに来てくれてよかった。

それを今日――改めて実感した。


今回はそれぞれの才能に関する話でした!

そして加護についても描かれました!

さらにさらに!最後に出てきた学院…とは!?

次回は話が大きく動くかもしれませんよ! 

ぜひ読んでください!

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