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想いはまだ、エルノアに。  作者: 牛丼で死にかけた男
第1章 目覚めの理

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第15話 初陣


出発の朝。


朝の空気は、いつもより重たかった。

俺たちはジル爺の平屋の庭に並び、装備を確かめていた。


体はまだ子どもで、しっかりとした鎧などつけられない。

それでも、革の胸当ての重みと、短剣の冷たさが戦いの実感をくれた。


「……本当に行くんだね」アイコが不安げに言う。


「もちろん! はやく自分の力を試してみたいんだ!」チカラが拳を握った。


「……油断しないようにしよう。初めてだからこそ、何が起きるか分からない」

テンが淡々と言う。落ち着いた声なのに、どこか自分にも言い聞かせているようだった。


「うわ、テンが怖いこと言う……」カザネが顔をしかめた。


「ええやん。気引き締まるやろ」アオバが笑い、場の空気を軽くする。


アルマンが優しい声で言った。


「いいかい。今日は勝つことよりも感じることを大事にしよう。

 理を感じて、魔法や闘気を実際に使ってみるんだ」


ジル爺が杖を地面に突き、短く言う。


「怖さを忘れようとするな。それが命を守る本能じゃ。

 考えすぎるな。感じたら、動け」


俺たちは小さく頷き、丘へ向かった。


——————



初めての魔獣――ドロム。


太陽の下、丘の先に黒い塊がいくつも蠢いていた。

ぬるりとした音を立て、泥のような体が形を変えている。


あの日見た狼の魔物とは違い、ドロムは“魔獣”だ。


魔物は元を辿れば魔獣だ。

その魔獣が汚染されたマナを取り込み続けたり、魔王の力によって魔物となる。

以前読んだ本にはそう書いてあった。


「うわぁ……これが、魔獣……」カザネが足を止める。


「思ってたより、気持ち悪いな……」チカラが顔をしかめた。


テンが冷静に言う。

「流動体……だね。僕たちの打撃じゃほとんど効かないかも。みんな気をつけて」

その声には、わずかに緊張の色が混じっていた。


ジル爺が「よう見とる」と頷く。

「ドロムは泥の魔獣じゃ。

 お前ら子供が普通に攻撃したところで、形を変えて受け流すぞ。

 闘気と魔法を使って、しっかり相手の芯に通せ」


アルマンが続ける。

「一つ一つを丁寧にしていこう!

相手がドロムだとはいえ、実戦だといつも通りにするのは結構難しいからね!」


その言葉で、全員が頷く。

初めての戦いが――始まった。


——————


少しの混乱の中。


最初に動いたのはチカラだった。


「いくぞっ!」

勢いよく踏み込み、拳を叩き込む。だが、泥が弾け、腕ごと押し返された。


「チカラ大丈夫!?」

アイコが慌てて駆け寄る。


「うわっ!?なんだこれ! 弾かれた!」

「拳で行くなら、闘気を使って芯に通せ!」ジル爺が怒鳴る。

「通せ!? どうやって!?」

「ただ殴るんやない、体で貫け!」


チカラは歯を食いしばって頷いたが、呼吸が乱れたままだ。


次にアオバが地面に手をかざした。


「よっしゃー、いくでぇ!」


地面の砂が震え、目の前のドロムに向かって勢いよく土が盛り上がった――が、途中で崩れた。


「……ありゃ? 途中まではええ感じやったのになぁ」

魔法がいつも通りにうまく発動しないアオバが苦笑する。


そんなアオバに、少し離れて見守っていたアルマンが声かける。


「焦らないよ!敵のことを考えるのはいいけど、まずは、魔法に集中だよ!

 無理に持ち上げず、押すように流してみるんだ!」


「押す……おっけいおっけい、次はやったるで」アオバが息を整えた。


カザネは両手を前に出して火の玉を作ろうとする。


「んぅ……燃えて!」


小さな火花が弾けて、すぐに消える。


「うそ、なんでぇ……!」


「火は感情と一緒に揺れるんだ!焦ると消える!

 深呼吸をしてから、ゆっくり温度を上げるんだ!」アルマンが言う。


「……やってみる!」カザネは頷き、もう一度息を整えた。


テンは腕をドロムに向けて、指先を光らせる。


「出力、少し下げて……」


雷が走る――が、逸れて空を焦がす。


「……あれ、もっとか……」


「次はもっと地を伝わせてみい!」ジル爺がすぐに叫ぶ。


「わかった…!」テンが再び姿勢を整えた。

その瞳には、一瞬の悔しさと静かな闘志が宿っていた。


俺も、テンが狙ったドロムの背後から短剣を構えた。


今ならいける――


一気に踏み込み、背面から突き刺す。だが、泥が柔らかく、刃が沈んだだけだった。


「……だめだ、全然効いてない」


その瞬間、ジル爺の言葉が頭をよぎる。

芯に通せ――


———


俺は一度下がり、息を整えた。


正直、芯に通すってのはよくわからない。

なら魔法で刃を覆ってぶっ刺せばいいんじゃないか。


俺はそう考えた。


闇を使って自分の気配を薄くする時と一緒だ。

まず左の掌に闇の粒を集め、形を保つ。

それを崩さず、右手に持っている短剣に纏わせる。


(難しい…けどできる…!)


刃が淡く染まり、黒の揺らめきが走る。


アルマンが後ろから静かに言う。


「いい……今のまま。押し出すんじゃない。

 息を吐くように、力を通して」


俺は一歩踏み込み、ドロムに短剣を突き刺した。


すると、ドロムが震え、泥が崩れて溶ける。


「よしっ…!」俺が呟く。


ジル爺が唸るように言った。

「ほぉ……通したか。思ったより早かったのぉ」


アルマンが目を細める。

「属性の付与……まだ教えてないのに…すごいなリン」


俺の一撃を合図に、全員の空気が変わった。


———


アオバが地を押すように両手をかざす。

「貫け!」

槍のような形をした土が地面からドロムを貫く。

「よっしゃ!」


テンは数匹いるドロムの内の一匹に対して雷を構える。

「地を伝わせる…」

雷が低軌道で正確に走り、ドロムの体を焦がす。


カザネも両手を突き出し、火を呼ぶ。

「いっけぇっ!」

炎が弾け、ドロムを包んだ。

「やった、今度はできたっ!」


アイコは水を球体にするのではなく、薄く形を作り、それをドロムに向けて飛ばす。


「んっ…!」

小さなその声と同時にドロムの体が斜めに崩れ落ちる。


それを見たアルマンが驚きながらアイコを褒めた。

「おぉ…!!すごいねアイコ! すごくいい感じだよ!」


ドロムの攻撃手段は少ない。

泥を飛ばす。泥の中にうっすら見える牙で、たまに噛みつこうとしてくる。

飛ばしてくる泥は速度がないし、命中率も低い。

噛みつきも口に直接殴り込むなどしなければ大丈夫だ。


俺はそれを意識し、素早く背後を取り、闇を纏わせた短剣でドロムを突き刺していく。


そしてチカラ。

拳を構え、腰を落とす。


「これで……どうだっ!!」


呼吸を合わせ、闘気を体に通す。

そして拳を真正面からドロムに突き出していた。


泥の破裂音。

静けさ。

そして、戦いの終わり。


——————


「はぁー疲れたわぁ」アオバが息を切らして言う。


「ふぅ…怖かったけど、なんとか……」カザネが肩で息をする。


チカラは拳を見つめて、笑った。

「よっし…! ちゃんと戦える!」


「威力すごいな、チカラ。ほんとに頼りになるよ」俺が声をかけると、チカラは照れくさそうに笑った。


すると、アイコがチカラの手を掴んだ。

「ちょっと、血出てる!」


ドロムを真正面から殴っていたせいか、時々ドロムの牙に掠っていたみたいだ。


アイコが両手を翳し、治癒魔法を使う。

淡い光が流れ、傷が瞬く間に閉じた。


「おぉ……とっちゃんすっげぇ!」

「ふふ、ありがと。教わった通りにしただけだよ」


アルマンはその光を見て静かに微笑んだ。



夕日が丘を染めていた。

俺たちは疲れきった足で帰路につく。


ジル爺が話す。

「お前ら、今日はようやった。

 敵を意識しながらの戦闘…

 初陣にしては上出来じゃのぉ」


アルマンが微笑んで続けた。

「君たちは今日、大きく前進したと思う。本当によくやったね!」


チカラが笑って拳を掲げる。

「なぁリンリン、俺ら結構やれたよな!」


「そうだな」俺が答えると、アオバが笑う。

「初っ端ボロボロやったけど、途中からよかったなぁ」


カザネとアイコが笑い、テンが静かに言う。

「もっと…知りたい」


俺はその言葉に深く頷いた。


七歳の初陣。

理を使って、魔獣と戦った。

生前では考えられない話だ。

でも、それが現実。


神に世界を助けてくれと言われ、転生したが、

正直、世界を助ける理由なんてない。

俺たちはただ一緒にいたかっただけだ。


それでも、この願いを叶えてくれた神の意思や想いには応えたい。

そのために、みんなと一緒にこの世界を生きる。

それが今、俺たちにできる事だと思った。


今回は初陣です!相手は魔獣ドロム!

低階級の魔獣ですが初陣には最適です!

そして無事初陣を終えましたね!

次話はカザネがあの力を制御!?

魔法の詠唱について!?

などなど、もっとエルノア世界の力について深掘りしていきますよ!


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