表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想いはまだ、エルノアに。  作者: 牛丼で死にかけた男
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/18

海を目指して

久しぶりに、全員で旅行に来ていた。

それぞれが別の道に進んでから、ようやく予定が合ったのだ。


運転席はアイコ。助手席はアオバ。

真ん中の席にカザネとチカラ。

一番後ろに俺とテン。


窓の外には、青い海。

アスファルトの照り返しが揺らめいて、遠くの山並みがぼやけて見えた。

車体をかすめる風は熱を含んでるのに、それすら心地いい。



チカラは、軍に入ってから二回りくらいデカくなった。

短髪を上に立ててるせいで、さらに威圧感が増して見える。

最近はもう「人間」じゃなくて「ゴリラ」だと思ってる。

でもその見た目とは反して、めちゃくちゃ優しくて繊細なやつ。

友達同士の喧嘩が嫌いだし、嫌われたらすぐ泣くし、若干乙女気質なゴリラだ。


筋トレ中はよく「限界を超えるッ!」って叫んでる。某ファンタジーゲーム七作目の主人公みたいだ。

あと、コンビニの鏡の前でポーズ取るのはやめてくれ。マジで。


アオバは相変わらずムードメーカー。

目にかかるくらいのセンターパートで、柔らかそうな髪が風に揺れる。

大学ではプロ球団に注目されるぐらい野球が上手くて、しかもめっちゃモテる。

すぐしょうもない嘘とイタズラをして、自分でめっちゃ笑ってる。

優しい時はほんと優しいけど、笑いすぎて息止まるタイプ。

あいつが死ぬとしたら、間違いなく笑死だと思う。


テンは仕事と研究に追われる毎日。

少し長めの前髪が目にかかってて、いつも軽く寝癖がついてる。今日は後ろ髪か……。

クールに見えるけど、意外と抜けてる。

飯炊けないし、左右違う靴で出かけることもある。

酒弱いのに無理して飲んでは吐く。そのたびに心配させるくせに、翌日ケロッとしてる。


アイコは面倒見のいいおかんポジ。

毛先がゆるくウェーブしたロングヘアで、前髪は真ん中で分けている。

喫煙者にめちゃくちゃ厳しい。

俺とチカラがタバコ吸って帰ってきたら、

必ず近寄ってきて匂いを確かめてくる。

で、「肺とお先真っ暗だね」って言ってくる。

この時の悪口だけはキレッキレだ。


医療系の勉強を頑張ってて、基本は真面目。

でも写真撮る時は絶対変顔する。芸人魂が眠ってるタイプ。


カザネは教育系の学校に通ってる。

毛先にワンカールかかったふんわりボブで、前髪が綺麗に整っている。

ちっちゃい子見つけるとすぐ目がキラキラする。

カザネが可愛い女の子だから許されてるけど、

同じことをチカラ(=ゴリラ)がやったら確実に職質されると思う。


そして俺。

軽く癖のあるウルフヘアで、theバンドマンって感じ。

で、見た目通り、音楽とバイトの生活。

いずれ父の会社を継ぐことになってるけど、正直あんま気が進まない。

俺の指はギターの弦を弾くためにある。

パソコンをカタカタするためじゃない。

反抗した結果、家を追い出された。

まぁ、きついところは多い。例えばお金。あとお金。さらに言うとお金。

でも、こうしてみんなといられるなら、それでいい。ほんと、それだけでいい。



「今日は絶対、あそこ行くぞ!」


チカラが運転席の後ろで吠えた。

あそこっていうのは、目的地の海の近くにある有名なハンバーグ屋だ。


「もう頭の中それしかないでしょ」

カザネが笑う。


大人ぶってツッコミ入れてるけど、たぶん本人もハンバーグのことしか考えてない。

しかも、いつもあんま食べないで「はい、あーん」って他人に食べさせようとする。

あのキラキラした目でやられたら全人類抗えない。

そのせいでアイコとアオバはだいたい残飯処理係だ。


「そりゃそうだろ! 食うために生きてんだよ!」

「名言っぽいけど浅い!」

ハンドルを握るアイコが笑う。


「出たな! とっちゃんの名言潰し!」

「誰がとっちゃんよ!」

「今も昔もとっちゃんはとっちゃんだろ!」

「……もー、好きにして」


とっちゃんはチカラがつけたあだ名。

アイコの苗字からもじったらしいけど、呼んでるのはチカラだけだ。


「とっちゃんって、響き悪くないよな」

俺がぼそっと言うと、

「リンリンまで!?」ってアイコが振り返る。


そういうアイコも、俺のことをリンリンと呼んでいる。

命名者はもちろんチカラ。

とっちゃんとリンリン。センスは……うん、終わってる。

韓ドラにハマった地元の女子に、アボジってあだ名つけた時はマジでドン引きした。

お父さんだぞそれ。


「だははっ! リンリンも味方か!」

チカラが笑い、車内がさらに明るくなる。



テンが窓の外を見ながらぼそっと言った。

「……ハンバーグって、パンで挟むほう?」


この天然発言に、アオバのターンが始まる。


「いやぁ、挟まんほうやで」

いつもの優しい声。


「今日のやつはなぁ、パンケーキの上にハンバーグ乗ってんねん」

「……え、そんなのあるの?」

テンの真顔がマジすぎて笑いそうになる。


「あるある。ケチャップとメープル混ぜんねん。日本のちょー有名料理人が監修してるやつやで」

「へぇ……それ、ちょっと気になるな」


「甘じょっぱいの、アリっちゃアリだろ?」

俺もつい便乗して言ってしまった。


テンが素直に頷く。

その瞬間、アオバの口角が上がった。


「――うっそぴょん」



「アオバっ!!」

テンが睨み、チカラが腹抱えて爆笑。


アオバの必殺技、うっそぴょん。

今回は誰も引っかからないと思ったが、テンが見事に餌食になった。


「だははっ! テン、信じるの早すぎ!」

うん、将来マルチに引っかかりそうで怖い。


「だ、だってありそうだったんだよ!」

テンの顔が真っ赤になって、恥ずかしそうにうつむく。

その様子がもう可愛くて、俺も笑いを堪えきれなかった。


「いいねぇ、そのピュアさ! 守ってこうぜ!」

チカラが笑いながら言う。


「守らなくていい!」

アイコが突っ込む。


「ええ反応やったわ〜」

アオバが満足げに鼻を鳴らす。


「テン、顔真っ赤だぞ」

「……リン、笑いすぎ」

「悪い悪い。でも今の顔、けっこう可愛いぞ」

「褒めてないよね、それ」

「褒めてる褒めてる」

また笑いが起きた。


夏の日差しが車内を照らす。

窓の外、山の緑が流れていく。

その光景が、なんだかやけに優しかった。



――不思議だな。

俺は窓の外を眺めながら思う。


もともと、この輪の中に深くいたわけじゃない。

みんなは小学校からの幼なじみ。

俺は中学の後半から混ざった、後入りだ。


それなのに、今じゃこんなに自然に笑ってる。

たまに思う。「俺、ここにいていいのかな」って。

でも、そんなこと言ったら、みんなに失礼だよな。


恥ずかしくて口には出せないけど、

俺は心の底から――みんなに感謝してる。



「なぁ……ずっと一緒がいいな!」


チカラが突然、笑いながら言った。

前を向いたまま、軽いトーンで。

だけど、その言葉だけは妙に真っすぐで、みんなの胸に刺さった。


一瞬だけ、車内が静かになる。


沈黙を破ったのはカザネだった。

「いいね! それ!」

「それな!」アイコが笑う。

「チカラらしいわぁ」アオバが肩をすくめる。


テンが腕を組み、真顔で言った。

「でもチカラ、いびきうるさいし」


あの流れでそれ言うテン、ほんとすごいと思う。

しかも事実だから何も言えない。

チカラのいびきは……うん、この世のものじゃない。なんかくちゃくちゃ鳴ってるし。


「だははっ! 今度特等席で聴かせてやるよ!」

「いらない!」

「癒し効果あるかもしれねぇぞ? リーダーの安眠サウンド!」

「寝れんくなるわぁ!」アオバが笑う。

「おいおい、それは失礼だな〜。高級スピーカー並みの音質だぞ?」

「そのスピーカー、ノイズしか出なそうだね」テンの冷静ツッコミ。

「間違いなく不良品だな」俺もつい口を挟む。

「返品交換は受け付けません!」チカラが爆笑。


西○カナかよ。


「それなら仕方ない……捨てるか」

「だははっ! 言うねぇリンリン!!」


笑い声が車内を満たしていく。

エアコンの風に混じって、笑いの熱が広がる。

その温度が、なんか心地よかった。


――やっぱり、この瞬間が好きだ。

チカラがさっき言ったみたいに、ずっと一緒がいい。


――どうなったとしても。


夏の匂いが、少しだけ濃くなった気がした。

そう思った、その時だった。



耳をつんざくクラクション。

アオバの叫び。

「アイコ!」

チカラの声が重なる。

「避けろっ!」


前を見た瞬間、逆走してくるトラック。

息が止まる。


アイコがハンドルを切る。――けど、間に合わない。


光と衝撃が混ざり合い、世界が真っ白に弾けた。


「……リン!」

カザネの声。

金属が潰れる音。ガラスが砕ける感触。

誰かの手が、俺の腕を掴んで――


世界が、静かになった。


……それが、最後に見た光景だった。


プロローグです!

仲のいい男女6人組が不運に襲われ、死んでしまいます!

次に目を覚ますと、そこは白い世界でした……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ