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運命の代行者

運命の大阪万博

第一章:運命の大阪万博、開幕

老人の声が響く。「…次の舞台はアメリカ。ホリエが求めていた場所。お前はそう信じていただろう」


ユウキは無言で頷く。だが、それは老人の最初の罠だった。日本の崩壊を背負い、ユウキは大阪の地に降り立った。


煌びやかな光に包まれた、夢洲の会場。世界中の野心と技術が渦巻く、この巨大な戦場こそが、彼が「運命の株価」での勝利と引き換えに辿り着いた、真の舞台だった。彼の戦いは、アメリカに行くことではなく、崩壊したこの日本で、世界を相手に戦い抜くことになったのだ。


「ようこそ、ユウキ。運命の大阪万博へ。ここからが、お前の本当の物語だ」老人の声が告げると、会場の喧騒が一気に高まる。そのざわめきの中、ユウキの目に飛び込んできたのは、煌びやかな中国パビリオンの前に立つ一人の女性だった。彼女の顔は、かつてユウキの心を揺さぶった、シンシアと瓜二つだった。


「シンシア!なぜ中国のパビリオンに…」


驚きと戸惑いで、ユウキは思わず彼女の元へ駆け寄っていた。だが、その手が彼女の肩に触れようとした瞬間、鋭い手でユウキの腕が払いのけられる。その顔は怒りに歪み、瞳には軽蔑の色が浮かんでいた。


「誰だ、貴様は!安易に他者に触れるな!」


凍りつくような冷たい声が、ユウキの熱くなった頭を冷ます。彼女の瞳には、ユウキが知るシンシアのような優しさや葛藤はなく、ただ冷たいプライドと、ユウキへの警戒心だけが宿っていた。


「…すまない。シンシアとそっくりだから、つい…」ユウキがそう呟くと、彼女は不快そうに顔を歪ませた。「私はリンだ。中国パビリオンの代表。シンシアは私の双子の妹だ。シンシアは貴様のような愚かな男に協力して、**『人脈』**の力を引き出させるとはな。だが、貴様の幸運は、私には遠く及ばない」リンは、そう言って勝ち誇ったように笑い、中国パビリオンの入り口へと姿を消した。


その時、ユウキの背後から小さな声が聞こえた。「ユウキさん…」振り返ると、そこに立っていたのは、ユウキが知るシンシアその人だった。彼女は怯えたように目を泳がせ、ユウキに助けを求めていた。


「シンシア!君は、なぜここに?さっき…」


ユウキがそう言いかけると、シンシアは慌ててユウキの口元に人差し指をあてた。「シーッ…。ユウキさん、今は話せないの。私の姉リンが…何か失礼なことをしたなら、ごめんなさい…」


ユウキはシンシアに話しかけた。「頼む、シンシア。協力してくれ。日本が崩壊し、力もお金も無い状態で、俺たちだけの力だけでは…」シンシアは顔を伏せ、静かに首を振った。「ユウキさん、今回は協力できません。私の**『人脈』**の力は、すでに…」彼女はそれ以上言葉を続けなかった。ユウキを助けたいのに、助けられない。その葛藤が、彼女の心を締め付けていた。


ユウキは日本のパビリオンへ戻ると、カオリが駆け寄ってきた。「ユウキ、大丈夫…?中国の代表は、どうやらあなたのことをよく知っているみたいね」


ユウキはカオリに話しかけた。「ああ、シンシアと瓜二つなんだ。彼女の**『人脈』**の力はとんでもないらしい。日本の力だけでは、勝てないかもしれない…」


拡声器から響く老人の声が、この戦いのルールを告げた。「万博のパビリオンは、各国の**『未来の運』**を賭けた戦いの場だ。負けた国のパビリオンは、現実世界から消滅する。それは、その国の歴史、文化、そしてそこに住む人々の存在が、世界の記憶から抹消されることを意味している。ゲームのルールは単純明快だ。一人の来客は、一つのパビリオンにしか入ることができない。一ヶ月後の来客数で、勝者が決まる。事業費はいくらかけても良い。そして最も重要なこと。不正行為は、運命の審判によって裁かれる」


大阪湾を埋め立てて造られた会場は、180カ国以上の各国の威信をかけて建てられた巨大なパビリオンで埋め尽くされていた。アメリカのパビリオンは、無数のロケットが並ぶ宇宙基地。代表のアダム・スミスは、傲慢な笑みを浮かべていた。「ケンジ・ホリエ…あの男の設計図さえ手に入れば、私の科学は完成する。運などという不確かな力に頼る必要はないのだ」


中国のパビリオンは、煌びやかな龍の形をした天空の宮殿。代表は、ユウキがリンと呼ぶ女性。ロシアのパビリオンは、巨大な氷の城。その代表は、冷たい野望を秘めた元特殊部隊員、イワン・ペトロフ。彼は無口で感情を表に出さない。その瞳は氷のような青を湛え、まるで獲物を狙う猛禽のように、ユウキをじっと見据えていた。


そして、日本のパビリオン。ボロボロの鉄骨がむき出しになった、みすぼらしいロケットの形をしていた。ケンジ・ホリエが遺した設計図を元に、わずかな予算と資材で作った、あまりに貧相な建物だった。そのパビリオンの中心にある玉座に、ユウキは座っていた。隣にはカオリが控えている。


ユウキは、玉座に座ったまま、瞑想するように静かに目を閉じていた。ユウキの**『運』の能力は、一度行使すると、再び力を貯めるのに時間がかかる。特に、前回の「運命の株価」ゲームで膨大な運を消費したため、すぐに動くことはできなかった。彼は、これから始まる激戦に備え、自身の調子を整え、『運』**を再び満タンにすることに集中していたのだ。


カオリは、そんなユウキの真意を知りながらも、周囲の視線に耐えなければならなかった。他の国のパビリオンが派手な演出で来客を呼び込む中、日本のパビリオンはまるで廃墟のようだった。


「…さて、開会式は以上だ。早速だが、いくつか残念なお知らせがある」拡声器から再び老人の声が響いた。「ブータンは、最後までこの場に留まることができなかったようだ」誰もがその意味を理解できなかった。老人が「…ブータン、さようなら」と呟いた瞬間、ブータンのパビリオンが光の粒子となって霧散した。人々は息をのんだ。このゲームは、単なるビジネスや外交ではない。これは、**「存在を賭けた、生き残りゲーム」**なのだと、誰もが悟った。その隣で、南スーダン代表のプンツォが、深い緑とオレンジの僧衣をまとったまま、日本の技術者たちに深々と頭を下げていた。「我々もお金はない。だが、日本の技術者たちが支援してくれた。たとえ消えても、私たちの心はここにある。我々も、最後まで戦うのだ」


万博初日、来客数で日本は最下位に沈んだ。だがその裏では、汚い駆け引きが始まっていた。 「カタールが、来客数のトップに立ちました。オイルマネーで、旅行会社やインフルエンサーを買収したようです」ユウキは眉をひそめた。その報告を聞いたカタール代表のファリードは、金の装飾が施された豪奢な衣装を身にまとい、傲慢な笑みを浮かべていた。「金で買えないものはない。安っぽい技術や幸運とは違う、本物の力を見せてやろう」


最初の来客数争いは、穏やかに始まった。人々は、興味のあるパビリオンへと散っていく。ユウキとカオリは、玉座に座りながら、タブレットに表示される来客数を絶望的な思いで見ていた。


万博初日:開会直後の来客数(推定)


カタール(35万): 潤沢な資金で、来客の意識を強制的に書き換えるという、最も古典的で卑劣な不正を働いた。虚偽の夢に過ぎない。


ロシア(30万): 冷戦時代の威信をかけて、パビリオン全体を巨大な氷の城として作り上げ、来客を圧倒的な迫力で引き寄せた。自国の能力を最大限に利用し、来客に**『力』**の未来を提示している。


アメリカ(25万): ロケット技術とトランプ大統領の威信が、桁違いの注目度を集めている。


イタリア(20万): 芸術と歴史の国。荘厳なパビリオンは、富裕層や文化人からの支持が厚い。


フランス(18万): 流行の発信地。最新のテクノロジーとファッションの融合が、若者を中心に人気を集めている。


中国(15万): まだ本気を出していないはずだ。これから、とんでもないショーを仕掛けてくるだろう。


ナイジェリア(8万): アフリカの未来を象徴するパビリオン。伸びしろは大きいが、まだ知名度は低い。


ペルー(5万): 神秘的で美しいが、他の派手なパビリオンに埋もれてしまっている。


日本(1万): ユウキたちのパビリオンは、最下位か。


そして、老人の裁きが早かった。「…カタール、失格」カタールの豪華な真珠のパビリオンは、轟音と共に崩壊し、跡形もなく消え去った。ファリードは、崩壊するパビリオンを前にして、狂ったように叫び、激しく地面を叩いた。彼の金銭至上主義という価値観そのものが、この場所で崩壊したのだ。「金に物を言わせただけの、安っぽい勝利だ。そんなものに、未来を賭ける価値はない」老人の声が、虚空に響いた。


第二章:マサトの来援とイワンの野望

万博開始から数日が経った。日本のパビリオンの来客数は、相変わらず最下位に沈んでいた。そんな中、見慣れた男がパビリオンの入り口に立っていた。前回の「運命の株価」ゲームで、ユウキに敗北したマサトだった。


マサトは、タブレットの画面に、自社が運営するSNSアカウントを表示させると、静かに言った。「俺も前回のことで、CEOを解任されてしまったが、協力するぜ。日本の良さを最大限に引き出す。日本を復興。そうして俺もまたいつか這い上がって見せる」


彼は、SNSを通じて関西の老舗旅館や、日本文化に関心を持つ層に働きかけ、万博への誘致を始めた。それは、派手な宣伝や巨額な投資とは程遠い、地道な活動だった。日本のパビリオンの魅力である「侘び寂び」や「おもてなしの心」を丁寧に発信し、一人ひとりの来場者に直接語りかけるような、心のこもった情報提供を続けた。


その結果、万博の中間報告が発表される頃には、信じられないことに、日本のパビリオンの順位は8位まで上昇していた。


万博中盤:中間発表(推定)


アメリカ(800万): テクノロジーの力で未来を提示し、来客の夢を膨らませる。来客が宇宙飛行士となり、火星への旅をシミュレーションできる。圧倒的なスケールでトップに躍り出た。


中国(750万): 圧倒的な歴史と文化をAIで再現し、来客の好奇心を掻き立てている。来客は、中国の五千年にも及ぶ歴史を、仮想現実で体験できる。


ロシア(600万): 冷戦時代の威信をかけて、パビリオン全体を巨大な氷の城として作り上げ、来客を圧倒的な迫力で引き寄せた。自国の能力を最大限に利用し、来客に**『力』**の未来を提示している。


フランス(400万): パリからルーブル美術館を丸ごと持ってきて、本物の美術品とAIが融合したアート体験を提供。来場者は、モナ・リザのAIが自分にだけ微笑みかけてくれる、という噂に魅了されている。


イタリア(280万): 芸術と美食の国。荘厳なパビリオンは、富裕層や文化人からの支持が厚い。有名デザイナーや料理人を招き、パビリオン全体を「移動するイタリア」としてプロデュース。まるで本物のイタリアを旅しているような体験が楽しめる。


ナイジェリア(180万): アフリカの未来を象徴するパビリオン。パビリオン全体を巨大な自然公園に見立て、アフリカのライオンや象を連れてきた。本物の動物と最新のホログラム技術を組み合わせ、来場者にアフリカの雄大な自然を体感させている。


ペルー(90万): 神秘的で美しいが、他の派手なパビリオンに埋もれてしまっている。しかし、彼らの作戦は「地道に増やす」こと。神秘的なインカの黄金やマチュピチュの遺跡を精巧に再現し、来場者に精神的な安らぎを与え、口コミでの拡散を狙っている。


日本(20万): マサトの地道な活動によって最下位から脱出。この数字は、まだ本当の**『運』**の力を反映していない。真の勝負は、これから始まるのだ。この戦いは、金や力に頼る者たちと、信じる心で立ち向かう者たちの、運命をかけた戦いなのだ。


その時、会場に警報が鳴り響いた。


「イワン…貴様は、まだ本気を出しておらんのか!このままでは、世界に我々の力が劣っていると見なされるぞ!これ以上、恥を晒すな!」イワンは、タブレットの画面に映し出された、プーチンの怒りに満ちた顔を見て、震え上がった。彼の焦りから、能力が暴走した。隣接するウクライナのパビリオンが、彼の能力によって徐々にロシアのパビリオンへと吸収されていく。ウクライナ代表のアレクセイは、自身の能力を最大限に引き出し、無数の小型ドローンを操って必死に抵抗する。


「無駄だ」


イワンは冷ややかに呟くと、右腕を軽く振った。その瞬間、彼の能力がドローンに干渉し、ドローンがウクライナの意志から離れていく。やがて、ドローンたちはウクライナのパビリオンを攻撃し始めた。同士討ちだ。その光景に、アレクセイは絶望的な表情で立ち尽くした。


徐々に、ウクライナのパビリオンは形を失い、来客を示すモニターの数字が、ロシアのパビリオンに統合されていく様子がはっきりと見て取れた。来客数は、ロシアの600万に、ウクライナの10万が加算され、610万へと膨れ上がった。その光景を静かに見つめていたイワンは、不敵な笑みを浮かべ、拡声器の老人へと視線を向けた。


「老人よ。力による支配は、未来にはいらないとお思いかな?ならば、この私の能力があれば、この世界すら掌の上で転がせることを証明してやろうか。お前の定めたルールなど、私の前では砂粒に等しい」


氷のような青い瞳に、強い野心が宿る。イワンは、勝ち誇ったように笑った。


「まあ、良い。このまま、最後まで見させてもらおう。この程度のちっぽけな戦いに、私の能力を全て費やすのはもったいない。私はこの場に残り、ゲストとして貴様らの愚かな争いを見届けてやる」


イワンは、そう言ってロシアのパビリオンを崩壊させることなく、静かにゲームから身を引いた。彼の決断により、ロシアは正式な勝負から外れることになったが、その巨大な氷のパビリオンは、静かに、そして圧倒的な存在感を放ちながら、会場に留まり続けた。まるで、いつでもこの戦いに介入できるとでもいうように。


その瞬間、拡声器から老人の声が響いた。その声は、静かでありながら、会場にいる全員の心臓を鷲掴みにした。


「…いいだろう、イワン。君は、力でこのゲームから降りた。だが、運命を操る者とは、力に溺れる者ではない。運命に愛され、運命を愛する者だ。君は、このゲームの先にある真実を知る資格があるかどうか、私に見極められる運命を選んだ。ゲストとして、最後まで見届けてくれ。」


第三章:運を分かち合う力と、中国の策略

中間発表後、ユウキは玉座から立ち上がり、カオリの手を握り、決意を固めた。「よし、ようやく運が貯まった。俺は、このタイミングで、運を使う。今度こそ、悪い方じゃない。良い方にだ」


日本のパビリオンの前に立つ、ごく普通の来場者たち。彼らは、日本の敗北を予感し、どこか諦めたような表情をしていた。ユウキは、パビリオンの入口に立ち、訪れる人々一人ひとりに、意識を集中させた。ユウキの力が、彼らの周囲に淡い光の粒子となって舞い、ほんの少しずつ、**『幸運』**を分け与えていく。そして、その光が、カオリの力によって運が安定し、増幅されていく。


最初に変化が起きたのは、小さな子どもを連れた夫婦だった。パビリオンを出た後、旦那はポケットに入れていた宝くじを思い出したかのように見て、その場で当選番号を確認した。すると、小さな数字ではあったが、見事に当選していたのだ。「…見てよ、あなた!当たってるわ!」夫婦は、信じられないという表情で顔を合わせ、満面の笑みを浮かべた。


別の来場者は、パビリオンを出た瞬間に、探していた就職先の担当者から偶然声をかけられ、内定が決まった。「…奇跡だ。まさか、ここで出会えるなんて!」


また別の女性は、長年探していた大切な指輪を、帰り道でふと見つけた。


『日本のパビリオンに行くと、ほんの少し運が良くなる』


そんなささやかなエピソードが、次第にSNSを通じて口コミで広がっていった。最初は誰もが信じなかったが、次々と幸運な話が報告されるにつれ、人々は半信半疑ながらも日本のパビリオンを目指すようになった。そして、そのパビリオンはいつしか、「奇跡のパワースポット」と呼ばれるようになっていた。


このゲームにおける、日本自国開催は、他のどの国にもない最大の利点だった。他国のパビリオンは、どんなに派手な演出やテクノロジーを誇っても、万博に来場した人々にしか運を分けることはできない。だが、ユウキたちのパビリオンは、日本の中心地にある。ユウキの「運を分ける」能力は、カオリの力によって増幅され、この会場だけでなく、モニターを通して見守る日本中の人々にまで届くのだ。


「ユウキさん…見て!来客数が、今までにない勢いで増えているわ!」ユウキは驚きを隠せないカオリの声に、確かな手応えを感じた。


その日の来客数は、中盤まで8位だった日本のパビリオンを、一気に他国を抜き去る勢いで引き上げていった。それは、金や権力に依存した他のパビリオンにはない、日本中の人々の希望と幸運の連鎖が生み出した、新たな**『運』**の力だった。


ユウキは、パビリオンに集まる人々を見つめた。彼らの瞳には、もう絶望の色はない。かすかな、しかし確かな、希望の光が宿っていた。「これが、俺たちの本当の戦いだ」ユウキは、そう確信した。


そして、この小さな奇跡が、最終決戦へと向かう大きな流れを生み出していくことになる。


その日の夜だった。ユウキが日本が上位まで来ていることに浮かれていた。すると、ユウキのタブレットに、シンシアからの通信が入った。「ユウキさん、喜ぶのは早いです。きっと、姉さんが本気を出してきます。姉さんの能力に気をつけてください。詳しくは言えませんが、接触してはなりません」彼女の言葉は、まるで何かに怯えているようだった。ユウキは、そのただならぬ様子に、リンの能力が単なる**『人脈』**ではないことを悟った。


運命のキスと芽生える感情


次の日、日本の来客数は、勢いは止まらず、中国を上回る勢いだった。その様子を見て、中国パビリオンのリンの勝ち誇った笑みが、みるみるうちに焦りに変わった。彼女はユウキに一歩近づき、その冷たい瞳が、初めて熱を帯びたように揺れた。


「ユウキ、貴様の力は…本当に**『運』**なのか? それとも、私が見落としている何かがあるのか?」


ユウキは、リンの焦りを見て、交渉の糸口を探した。「リン、俺は君と争うつもりはない。このゲームを降りて、元の生活に戻るべきだ。俺と一緒に…」


ユウキがそう言いかけた瞬間、リンはユウキの胸ぐらを掴んだ。その顔はユウキが知るシンシアと瓜二つなのに、表情には今まで見たことのない執着が浮かんでいた。怒り、嫉妬、そして…純粋な好奇心。彼女は、ユウキの**『運』**の力を探るように、じっとユウキを見つめた。


「ユウキ…!貴様のその力は、シンシアにはない。いや、この世の誰にもないものだ。私には理解できない。だが…どうしても手に入れたい!」


リンはそう叫ぶと、ユウキの体を力強く引き寄せ、そのまま玉座に押し倒した。カオリは、その光景を目にし、悲鳴を上げながらリンに駆け寄った。「やめて!ユウキさんの運が…!」


しかし、カオリの叫び声はリンには届かない。リンはユウキの唇に、ゆっくりと自身の唇を重ねてきた。そのキスで、ユウキの唇は激しい痛みが走る。リンは、ユウキの強大な**『運』**の力を、自分のものにしようと試みたのだ。その接触は、ただのキスに留まらなかった。彼女はユウキの身体に深く触れ、まるで二つの魂が混ざり合うかのように、二人の運命のエネルギーが荒々しく交じり合った。ユウキの『運』の力は、まるで津波のように彼女へと流れ込み、リンの体は激しいエネルギーの渦に巻き込まれた。そして、ユウキの身体は、快楽と痛みの両方が襲いかかり、やがて視界が白く染まっていくのを感じた。それは、自分の存在が、運命の奔流に押し流されていくような、抗えない感覚だった。


リンは、すべてを吸収しようと欲するあまり、自身の能力の限界を超え、苦痛に顔を歪ませた。その瞬間、ユウキは全身の力が抜けていくのを感じ、意識が遠のいていく。それは、命の源が吸い出されていくような感覚だった。


接触が離れた瞬間、リンはわずかに顔を歪ませ、ユウキの顔を見て、彼女の目が涙で潤んでいることに気づいた。彼女は、ユウキの運命の力に触れたことで、その巨大なエネルギーに圧倒され、力の反動から涙を流していたのだ。


その時、ユウキはリンの背後に、青ざめた顔で立ち尽くすカオリの姿を見た。カオリは、ユウキとリンの接触を見て、一瞬、心が凍り付くのを感じた。ユウキの能力を安定させ、増幅させるために、彼の側にいることが自分の役目だと思っていた。だが、リンがユウキに触れた瞬間、それが単なるビジネスや使命ではない、ユウキへの特別な感情が自分の中にあることを自覚した。彼女の瞳は潤み、拳を固く握りしめた。


リンは、そんなカオリの視線に気づくことなく、ゆっくりとユウキに背を向け、去っていった。ユウキの**『運』**の力を完全に奪うことはできなかったが、彼女の中で、このゲームの勝敗とは別の、新たな目的が芽生えたようだった。


第四章:真実の告白と中国の勝利

万博最終日を迎え、日本のパビリオンは中国に肉薄していた。しかし、ここにきてユウキの**『運』**の力が弱まり、来客数の伸びが鈍化していた。


最終日:来客数(確定)


中国(1,500万)


日本(1,400万)


アメリカ(1,350万)


フランス(410万)


イタリア(285万)


ナイジェリア(195万)


スーダン(98万)


ペルー(95万)


「信じられない……日本が…二位に転落しただと…?」


ユウキは、信じられない数字を何度も見直した。勝利の喜びに浸る間もなく、彼の心は絶望に沈んでいく。ケンジの夢を継いで、最下位からここまで来たのに、なぜ最後に…。


その時、中国パビリオンからリンの勝ち誇った声が響いた。


「ユウキ、貴様は愚かだ。所詮、個人の力など、私の**『人脈』**の力には及ばない。私は、この勝利のために、シンシアのすべてを奪ったのだ。そして、その力と、私の力が合わさった時、あなたの運は封じられる。この勝利は、私のものだ!」


ユウキは全身から力が抜けるのを感じた。リンとのキスによって、彼の**『運』の力が一時的に使えなくなっていたのだ。それは、彼の力だけでは勝てないことを意味していた。カオリも、ユウキの力が微弱になっていることに気づいていた。彼女は、悲しみと絶望に顔を歪ませた。その心には、ユウキがリンに心を奪われたのではないかという、小さな嫉妬**の炎が燃えていた。


「くそ…! なぜだ…!」


ユウキは玉座から崩れ落ち、膝をついた。無理に力を引き出そうとした反動で、激しい頭痛と吐き気が襲う。


その様子を目の当たりにした来客たちは、希望を失い、怒りを露わにした。「どういうことだ!全然運が良くならないぞ!」「詐欺じゃないか!」


怒号が飛び交う中、人々は日本のパビリオンから離れていった。カオリは、絶望的な顔でユウキに訴えかけた。「このままでは、皆が私たちを見限ってしまう…!」


第五章:アメリカの攻撃とホリエの登場

その時、会場に警報が鳴り響いた。


「アダム!奴らの希望の芽を摘み取れ!奴らに、アメリカの真の力を教えてやれ!」


アダム・スミスは、自身のタブレットに映し出されたトランプ大統領の命令に、傲慢な笑みを浮かべた。画面越しのトランプは、口角を吊り上げ、高慢な笑みを浮かべていた。


「フン。所詮、運などという不確かな力に頼った、愚かなショーに過ぎん。あの『運命の株価』で私を出し抜いたユウキめ。貴様の力など、我が国の科学と資本の前では無力であることを思い知らせてやる!」


アダムの言葉を合図に、アメリカのパビリオンから巨大な壁がせり上がり、夢洲全体を囲んだ。そして、壁の内側から、大量の海水をポンプで汲み上げ始めたのだ。


「な…何を…!」


各国のパビリオンの周囲に、急速に水が満ちていく。水はみるみるうちに水位を上げ、各国のパビリオンが水没していく。日本のパビリオンも、そのロケットの設計が功を奏し、水没を免れていたが、それは時間稼ぎにしかならない。


ユウキは、身体を襲う激しい痛みに耐えながら、目の前の惨状にただ呆然とするしかなかった。彼の**『運』**の力は、まるで底なし沼に吸い込まれるように消え去っていた。


その時、ユウキの耳に、罵声が叩きつけられる。それは、パビリオンの外に集まった来客たちの声だった。


「あいつは日本を崩壊させた野郎だぞ!」「また裏切ったのか!」


ユウキは、その声に目を閉じ、自身が抱える罪の重さを改めて感じた。その隣で、カオリは悲痛な表情でユウキの頬をそっと両手で包み込む。彼女の瞳は涙で潤んでいた。


「ユウキ…。どうして…。リンなんかに…」


その時、パビリオンの地下への扉が開き、一人の男がゆっくりと姿を現した。車椅子に座ったその男は、前回の「運命の株価」ゲームでユウキに全てを奪われたケンジ・ホリエだった。


ホリエは荒っぽい口調で語り始めた。「おい、ユウキ。あんたの**『運命の株価』**の能力に敗北して、俺は全部失った。だがな、絶望の底で気づいたんだ。俺の夢は金や権力に頼った脆いもんで、あんたの力は、それとは違う、人々の信じる心が生み出すもんだってな。あの日の敗北が、俺の鼻っ柱をへし折って、本当の夢を見せてくれたんだ」


彼の瞳には、かつてのギラつきはなく、静かで強い光が宿っていた。それは、敗北を乗り越えた者だけが持つ、真の強さだった。ホリエは、震える手でユウキに手を差し伸べた。


「俺の夢を奪ったのは、このゲームの支配者だ。そして、あんたの勝利は、この国を救うためのもんだった。俺は、あんたに負けたあの日から、この日のために準備してきたんだ。このパビリオンは、俺がこの日のために用意した、最後のロケットだ。俺の夢を、日本の未来を、託すぜ」


ユウキは、ホリエの言葉に、彼の瞳に宿る真剣な光を見た。彼は、迷うことなく、彼の手を握った。


「…わかった。力を貸してくれ、ホリエ」


ホリエは、ユウキとカオリを、パビリオンの地下にある隠された空間へと案内した。そこには、ユウキたちが知らなかった、このパビリオンの真の姿が隠されていた。


「このパビリオンは、俺が遺した、ただの建物じゃない。このパビリオンは、世界一のロケットだ。そして、このロケットは、日本の復興の希望を乗せて、夜空へと飛び立つためのもんなんだ」


日本のパビリオンの周囲の地面が、轟音と共にゆっくりと開き始めた。そして、トランプの号令と共に、アメリカのパビリオンから、無数のミサイルが日本のパビリオンへと向かって放たれた。


第六章:カオリの覚醒とイワンの介入

ユウキは倒れたまま、意識を集中させる。しかし、**『運』**の力は完全に失われ、ミサイルの軌道を変えることはできない。空から降り注ぐミサイルが、日本のパビリオンへと迫ってくる。


ドォォォンッ!


一発のミサイルが、パビリオンの側面を直撃した。火花が散り、激しい爆発音とともに、日本のパビリオンが大きく揺れる。パビリオンの表面を覆うボロボロの鉄骨が、まるで悲鳴を上げるように軋みを立てた。さらに、二発目、三発目とミサイルが命中し、パビリオンのあちこちで爆発が起きる。


アダムは、モニター越しにその様子を見て、高らかに笑い声を上げた。「ハハハハ!ざまあみろ!それが、お前が頼りにしている運命の力か!所詮、科学の前では無力な、ただのまやかしに過ぎん!」


彼の嘲笑が、コクピットに響き渡る。その時、絶望に打ちひしがれたカオリの顔に、悔しさと怒りが浮かんだ。彼女は倒れたままのユウキのそばに駆け寄り、彼の顔をそっと両手で包み込んだ。彼女の瞳は涙で潤んでいた。


「ユウキ…どうして…。リンなんかに…」


それは、ユウキの無力を嘆く声か、それともリンへの嫉妬か。彼女の心は、愛と使命、そして胸に刺さった小さな棘で、深く傷ついていた。その瞬間、カオリの体が淡い光を放ち始めた。それは、ユウキの**『運』**を増幅するだけの光ではなかった。ユウキという存在を失うかもしれない恐怖と、彼を愛する強い意志が、彼女の内なる力を覚醒させたのだ。


「私の…運命は…私が…決める…!」


カオリは、ユウキの頬を両手で包み込んだ。すると、ユウキの体から失われたはずの**『運』**の力が、再びカオリへと流れ込み、彼女自身の力と共鳴し始めた。それは、ユウキの力を借りるのではなく、彼女自身の意思で、空中のミサイルの軌道を操り始めたのだ。


「…何だと…!?」


アダムは、信じられないという表情でモニターを凝視した。ミサイルは、まるで巨大な見えない手に掴まれたかのように、急激に向きを変え、日本のパビリオンではなく、アメリカのパビリオンへと向かっていく。


ドォォォンッ!


一発目のミサイルが、アメリカのパビリオンの側面を直撃した。二発目、三発目と、次々にミサイルが命中し、アメリカのパビリオンは黒煙を上げて大きく傾いた。


「…馬鹿な…なぜだ…!」


アダムは、絶望的な声で叫んだ。


しかし、その時、会場全体を覆うように、氷の城と化したロシアのパビリオンから、冷たくも不気味な声が響き渡った。それは、ゲームのゲストとして傍観していたはずのイワンの声だった。


「フン。見事だ、日本の女。運命の力を、単なる**『愛』で制御するとは。だが、その力はまだ未熟だ。真の力は、愛などという不確かな感情ではない。絶対的な『支配』**こそが、未来を創るのだ」


イワンは、自らの能力である**「力の具現化」を発動させる。その能力は、物理的な力だけでなく、概念的な力をも具現化し、意のままに操る力だった。イワンは、パビリオン全体に張り巡らされた氷の構造を通じて、カオリが発動させた「愛の力」**に干渉し、その力を徐々に凍らせていく。


カオリの体から放たれていた光は弱まり、ミサイルの軌道は不安定になり始めた。日本のパビリオンは、再び絶体絶命の危機に陥る。


「イワン…! なぜ…!」


ユウキの叫びに応えるように、イワンの冷たい声が続く。


「私はこのゲームの勝敗などどうでもいい。私が欲しいのは、お前の**『運』の力、そしてあの女の『愛』の力だ。私の能力でそれらを手に入れれば、私は真の『運命の支配者』**となれる。ホリエが求めたロケット? トランプが探す地球の未来? 笑わせるな。私が支配する未来に、そのようなものは必要ない!」


イワンの能力によって、会場全体に冷気が満ちていく。そして、日本のパビリオンは、徐々に氷に覆われ、身動きが取れなくなっていく。


第七章:運命の羅盤と、真実の愛

その時、中国パビリオンの玉座で、ユウキとカオリの姿を見つめていたリンは、懐から一つのデバイスを取り出した。それは、金色の羅針盤のような形をしていた。


「イワン…! 貴様の力など、私の**『人脈』**の前では無力だ!」


リンは、イワンの介入を見て、自らの葛藤を乗り越える。彼女は、**『運命を操る羅盤』を手にし、イワンの「力の具現化」**と真っ向から対峙する。


「この羅盤は、持ち主の**『人脈』**のエネルギーを、他者の能力に干渉する力に変える。…ユウキ。私はシンシア。そして、リンでもある。私の心の中には、ずっと二つの心が同居していた。祖国のために勝利を求める『リン』と、あなたを愛する『シンシア』**が…」


彼女は涙を流しながら、真実を語り始めた。


「私は**『人脈』**の能力を持つ、ただ一人の人間。羅盤は、私の心の矛盾を、二つの人格として分離させたの。私はシンシアとして、あなたを助けたかった。でも、リンとして、勝利に執着しなければならなかった…」


リンは、羅盤に蓄積されていた中国の膨大な**『人脈』のエネルギーを、イワンの「力の具現化」**とぶつける。二つの強大な力が会場で衝突し、激しい光と衝撃が会場全体を揺るがす。


「でも…あなたの**『運』とカオリさんの『愛』**が、私が想像していたよりもはるかに強大だった。羅盤は、あなたの力に触れた瞬間、私の中にあった二つの心…国の期待に応えるべき『リン』と、あなたを愛する『シンシア』**を一つに統合させてくれた。これで、私の中の葛藤は終わったわ」


そして、リンは羅盤のエネルギーを日本のパビリオンへと供給し始めた。


ゴオオオオオォォォォォォォォォォッ!


強烈な轟音と共に、日本のパビリオンは、氷を突き破り、火炎と蒸気を噴き出しながら、ゆっくりと、しかし確実に、夜空の彼方へと上昇していった。


イワンは、自らの能力が破られたことに驚き、信じられないという表情でロケットを見上げた。彼の心は、初めて感じる**「愛」**の力に触れ、わずかに揺らいでいた。


第八章:エピローグ

日本のパビリオンは、ケンジ・ホリエの夢、そして日本の復興の希望を乗せて、夜空へと上昇を続けた。それは、単なるロケットの発射ではない。これまでの苦悩、犠牲、そして希望の全てを乗せた、日本という国の存在そのものをかけた、未来への旅立ちだった。


その頃、アメリカ大統領執務室では、トランプ大統領が、怒り狂うアダム・スミスを前に、静かに微笑んでいた。


「アダムよ。貴様は本当に愚かだ。ホリエの設計図は、この地球が滅びるかもしれないという、真実の危機を乗り越えるために必要だったのだ。そうしてまた、我々は、地球の運命を左右する**『運』の力を持った者たちを、この万博という舞台に集めた。ユウキ、リン、イワン…彼らの能力は、我々が探していた答えだった。そして、ホリエが求めていたロケットの真の目的。それは、地球滅亡の危機から人類を救うために、この星の『運命』**を操る能力を持った者たちを、新たな星へと移住させるための船だったのだ…」


「…では、あの時、ホリエの会社を買収しようとしたのは…!」


「そうだ。貴様はホリエの設計図を欲しがり、私はホリエの設計図を欲しがった。だが、貴様が欲しがったのは、単なる力。私が欲しがったのは、未来だったのだ」


トランプは、執務室の窓から、遠い宇宙の彼方を見つめた。そこには、小さな光の点となって消えていく、日本のロケットの姿があった。


その時、老人の姿が、宇宙空間に浮かび上がった。彼は、全ての運命を掌る存在。ゲームの主催者であり、プレイヤーたちの能力を監視し、その運命を紡いできた者だった。彼の瞳は、ユウキとカオリ、そして真実を明かしたシンシアの乗るロケットを静かに見つめていた。


「…ついに、見つけたぞ。私の後を継ぐにふさわしい**『運命の子』**を」


老人は、自らの姿を、宇宙の彼方に消えていくロケットへと同化させていく。


「ユウキ…そして、地球代表。宇宙大会の舞台で、君たちの成長を見るのが楽しみだ」


ユウキとカオリ、そして真実を明かしたシンシアは、日本の復興という使命を胸に、宇宙という未知の領域へと旅立っていった。


この勝利は、終わりではない。これは、新たな「運命」の物語の始まりだった。

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