表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・暗殺者の異世界ゆるふわスローライフ計画  作者: 希羽
第3章:王子と影の協奏曲

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/46

第43話:最終決戦は、即興の愛憎劇

 俺たちが最深部の大扉を蹴破ると、そこには広大なドーム状の空間が広がっていた。


 中央の祭壇には、赤黒い光を放つ『始祖の魔石』が鎮座している。


 そして、その前には黒いローブを纏った男たちと、彼らが召喚したであろう巨大なキメラが待ち構えていた。


「ククク……来たか、セオドア王子。だが一足遅かったな!」


 リーダー格の男が、魔石に手を伸ばしながら高笑いする。


「この魔石の力があれば、我ら『古き盟約』の悲願は成就す――」

「問答無用!」


 殿下が挨拶代わりに特大の光魔法をぶっ放した。

 男は慌てて障壁を展開するが、吹き飛ばされて壁に激突する。


「ぐおっ!? き、貴様、王族のくせに名乗りもなしか!?」

「急いでいるんだ。時間がない」


 殿下は焦っていた。なぜなら、扉の向こうからリヴィアの足音が近づいているからだ。


「総員、突撃! あのリヴィアが来る前に片付けるぞ!」

「了解!」


 俺、殿下、リュシアンの三人は、キメラに向かって同時に躍りかかった。


 だが。


 運命の神様は、とことん俺のスローライフを邪魔したいらしい。


 ギィィィ……。


 俺たちがキメラと激突する直前、背後の大扉がゆっくりと開いた。


「まあ……! ここから激しい愛の音が聞こえましたわ!」


 リヴィアだった。

 彼女はランタンを掲げ、巨大なキメラと、殺気立った俺たちを見て、目を丸くした。


「こ、これは……?」


 時が止まる。


 バレた。終わった。公爵令嬢が地下迷宮でモンスターと殴り合っている図なんて、言い訳のしようがない。


 絶望する俺の耳に、リュシアンの小声が届く。


『アイリス! ごまかせ! 演劇だ!』

「……は?」

『これは、君を巡る争いを表現した、サプライズ演劇の練習だと言い張るんだ!』


(……無理があるだろ!!)


 だが、他に手はない。俺は覚悟を決めた。


 瞬時に表情筋を操作し、「悲劇のヒロイン」の顔を作る。


「ああっ! 来てはいけません、リヴィア様! これは……わたくしたちの愛の試練なのです!」

「えっ? 愛の……試練?」


 リヴィアがポカンとする中、殿下が即座に反応した。さすが王族、機転が利く。


「そうだ! この怪物は、僕とアイリスの仲を引き裂こうとする『運命の障壁』のメタファーなのだ!」


 殿下は剣を掲げ、キメラに向かって大見得を切る。


「去れ、忌まわしき運命よ! 僕の愛は誰にも止められない!」


 リュシアンも続く。


「フッ……いいだろうセオドア。僕も手を貸そう。恋敵だが、この困難モンスターを倒すまでは休戦だ!」


 男二人の熱い(そして寒い)セリフに、リヴィアの目が輝き始めた。


「まあ……! 素敵! 愛の力で困難を打ち砕く即興劇ですのね! 観客がわたくし一人だなんて、なんて贅沢!」


(……信じたーッ!!)


 チョロすぎる友人に感謝しつつ、俺たちは戦闘を再開した。


 ただし、セリフ付きで。


「おおっ! なんて硬い皮膚なんだ、この『世間のしがらみ』め!」


 殿下がキメラの攻撃を剣で受け止めながら叫ぶ。


「僕の『真実の愛』で、弱点を見抜いてみせる!」


 リュシアンが短剣でキメラの腱を切り裂く。


「きゃあっ! 怖いですわ! でも、お二人がいれば……!」


 俺はか弱い悲鳴を上げながら、二人の死角からキメラの眉間に毒針を三本連続で撃ち込んだ。


 敵のリーダー(本物)が、混乱して叫ぶ。


「な、なんだ貴様らは!? ふざけているのか!?」

「黙れ、エキストラ!」


 殿下がリーダーを一蹴する。


「エ、エキストラだと……!? 我は『古き盟約』の幹部ぞ!」

「ああ、もう、セリフが長い!」


 俺はスカートの中から取り出した小型の鉄球を投擲した。

 ゴッ! という鈍い音がして、リーダーの顔面に直撃する。


「ぐべっ!」


 リーダーが気絶した。


「ああっ! わたくしの愛の重み(物理)が、彼を黙らせてしまいましたわ!」

「さすがだアイリス! 君の愛はヘビー級だね!」


 リュシアンが笑いながらキメラにとどめを刺す。

 ドスーン! と地響きを立ててキメラが倒れると、リヴィアから割れんばかりの拍手が送られた。


「ブラボー! ブラボーですわ! なんて情熱的な演技! まるで本物の戦いを見ているようでした!」


 俺たち三人は、肩で息をしながら顔を見合わせた。

 肉体的な疲労よりも、精神的なダメージが深刻だった。


「……二度とやりたくない」

「同感だ……」

「僕の黒歴史が更新されたよ……」


 だが、結果として敵は壊滅し、『始祖の魔石』は無事に確保された。


 リヴィアには「この場所は舞台セットだから、他言無用で」と釘を刺し、俺たちは何食わぬ顔で地上へと戻った。


 ◇◇◇


 校外実習が終わり、学園に戻った翌日。


 俺は、またしても新聞部が発行した号外を見て、頭を抱えていた。


『地下での密会劇! 愛の力で魔物を撃退!? 新ジャンル【ダンジョン演劇】爆誕!』


 記事には、リヴィアの熱烈な証言を元に、俺たちの恥ずかしいセリフの数々が事細かに記されていた。


「アイリス様! 演劇部の部長から入部勧誘が来ていますわ!」

「セオドア殿下とリュシアン様のファンクラブからも、『尊い』と感謝状が!」

「……放っておいてくれ」


 俺は机に突っ伏した。


 こうして、俺の二つ名には「フライパンの悪女」に続き、「大根役者の歌姫(実際は歌ってない)」という不名誉な称号が追加された。


 だが、俺たちの懐には、しっかりと『始祖の魔石』が収められており、国を揺るがす危機は(多大なる精神的犠牲のもとに)回避されたのだった。


「……報酬のスイーツ、倍にしてもらわないと割に合わないな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ