断罪
すぐ終わります。
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「聖女の名をかたり彼女の名を貶めようとした件、聖女にいわれのない罪を被せようとした件、聖女に毒を盛り殺害しようとした件、このすべての罪をお前は認めると言うのだな?」
「ええ、すべてわたくしが首謀してやったこと。その事実を認めますわ」
ようやくこの時がきた。
わたくしが断罪されるこの時が。
「なぜ笑っている? これから処刑されようというときに、元婚約者ながら吐き気がするな」
口元に笑みを刷くわたくしに、王子が嫌悪の表情を向けてくる。
その腕には可憐な少女――稀代の癒しの力を持つ聖女が縋りついていた。
彼女が王子の寵愛を一身に受けているのは公然の事実。そして平民が王族と結ばれるなど、歴史上あり得ないのもまた事実だった。
「最後の情けだ。なぜこんな愚行を犯した? 一応釈明だけは聞いてやろう」
「まぁ、愚行だなんて。わたくしは何も間違ったことなどいたしておりませんわ」
「まだ言うか! 救国の聖女の命を狙うなど、国への反逆に等しい行為。これを愚かと言わずしてどうすると言うのだ!」
激昂する王子を前に、後ろ手に枷を付けられたわたくしは、呆れたようにわざとらしくため息をついた。
「聖女だなんだと持ち上げられようと、その女はただの平民ではありませんか。王妃となるわたくしの邪魔をする方が余程愚かと言うものでしょう」
「貴様が王妃だと? 笑わせるな! 婚約は既に過去のもの。俺が妻として迎えるのは彼女以外あり得ない!」
庇うように聖女を抱き寄せる。
王子の腕の中で怯える聖女を、射殺さんばかりに睨みつけた。
「こんな平民女を王妃に据えるなど、正気の沙汰ではございませんわね。高貴な血筋のわたくしに取って代わろうなどと、とんだ女狐ですわ」
「貴様こそ血筋だけの狡猾な女狐ではないか! 父親に毒を盛り贅を凝らしてやりたい放題……領民も長きに渡り苦しめたこと忘れたとは言わせないぞ!」
「あら、心外ですこと。お父様には少しばかり従順になる薬を使っただけですわ。だってちっともわたくしの言うことを聞いてくださらないんですもの。それに領民など使い捨ての道具。一体どこに問題があるとおっしゃいますの?」
平然と言ってのけると、高みの見物に来ていた聴衆がどよめいた。
とってもいい反応ね。でもまだ足りない。
もっともっとわたくしの悪女ぶりを大勢の目に焼きつけなければ。
それこそ、後世に長く語り継がれるほどに。
「この悪魔め……あまつさえ国を救った聖女にまで手をかけようなど到底許されるものではない。こんな女を王妃にしていたら我が国は一体どうなっていたことか……」
吐き捨てられた王子の言葉に、ここにいる誰もが深く頷き同意している。
面白いくらい何もかもがわたくしの思い通りだ。
ここまで来るのに綿密な計画を立て、数えきれない努力を積み重ねてきた。本当に長い時間をかけて。