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速攻でトドメを刺しに行け!(莉緒視点)



 相合傘をしながら悠人を私の家まで誘導するという作戦行動中の、雨の下校道。

 雷人と風華のアドバイスを真に受けるなら、このタイミングで腕を絡めてキスまで持っていく必要があった。

 

 え、やりすぎじゃない?

 だって、まだ私たち、今日初めてお話ししたところなのに。

 慌てることなんてないのだ。私は彼と連絡先を交換し、こうやって一緒に下校する仲にまでなっているんだから。


 このまま順調に進めばデートの約束を取り付けることも十分に可能だと思うし、きっと「お買い物についてきてほしい」と頼めば悠人は来てくれるはずだ。

 彼に嫌われるリスクを犯してまで、強引な攻めを強行する必要があるのだろうか?


 冷静に考えればそうだった。

 けど、雷人の言葉が、思いのほか私の心に突き刺さっていた。

 

 ──持っている武器はなんでも使って、あらゆる方法で攻め落とさなければ必ず後悔することになる。

 それが、恋愛────。


 研究所を脱出するときに犯した致命的な失態が脳裏に蘇る。

 もう後悔なんてしたくない。二度と大切なものを失いたくない!


 今、私は彼のことを手のひらに載せるところまで来ている。なのに、いったん掬い上げた宝物が指の隙間からこぼれ落ちていくのをただ黙って見ているなんて、絶対にしたくない。

 あんな思いはもうたくさんだ。後悔するくらいなら、私はなんだってやってやる──!


 私は、これでもかと言うくらいに頑張った。


 胸が大きいのはコンプレックスだったが、恥も外聞もかなぐり捨てて悠人の腕にワザと胸を押し付け、超至近距離だということをわかっていながら彼のほうを見上げて見つめてやった。さすがにここまでやれば悠人もドキッとするはずだと思って。

 最悪……いや最高(・・)で、キスされる可能性も視野に入っていた。


 なのに…………!


 奴は半目で遠くを見たまま悟りを開いたかのような顔をしていた。

 そんな馬鹿な……この攻撃が効いてないっての!? 

 私、これ以上ないくらいに頑張ったのに……!!


 しかも悠人は「部屋に入ったからって手籠めにするなんて最低」みたいなことを口にした。

 あれ。私これから悠人のことを部屋に連れ込んで手篭めにしようとしてるんですが。 


 私が住んでるマンションへ到着すると、実は悠人も一緒のマンションに住んでいたという驚きの真実が判明する。

 驚きを隠せない私の頭の中で、またもや緊急会議が始まろうとしていた。






〜莉緒の脳内会話〜


【うむ。まあまあの戦いぶりだったと思うぞ、莉緒】


「ほんと!? よかった、悠人が無反応だったから自信無くしてたんだけど、私めちゃくちゃ頑張りましたよ」


『それにしてもさ、あのツンツンモード何とかならないの? 勘違いするなとかマジで最低だとか、突然暴言吐いちゃって要所要所で邪魔なんだけど』


「うぅ……反射的につい出ちゃって。でも、それ以外はかなりイケてたと思うんだけど」


『うーん。キスは自分から行っても良かったんじゃない? あの距離はもう刃圏内だよ、一撃で()れた。悠人は拒否しなかったと思うし、嫌われもしなかったと思うよ』


「そんなこと言われても初心者には怖すぎる」


【まあまあ風華。乳を擦り付けて引っ付きに行ったところは評価してやろうじゃないか】


「おっぱい評論家の雷人さんから上から目線で褒めてもらったわ。あーうれしー。大体ね、あの反応からして悠人も性的なコミュニケーションなんて望んでないんじゃないの? あんたらのアドバイスに疑いの念を禁じ得ないんだけど」


【まあ聞け。さっき相合傘をするために腕に抱きついた時の悠人の表情と、これまでの一連の流れの観察結果を総合的に考察したところ、今莉緒が言ったこととは真逆の結論が浮かび上がってきた。奴はただのおっぱい星人ではない。〝おっぱい聖人〟だ。奴がおっぱい好きなのは絶対に間違いない。にもかかわらず、乳の感触を確かに味わいながらも欲情せずに何食わぬ顔してやり過ごしやがった。只者じゃねえ】 


「どういうこと? 達人ってこと?」


【そうだ。聖者だ。並大抵の性的誘惑じゃ()れねえ】


「もはや性的誘惑にこだわらないようが良いのでは……」


【心と体は一つよ。体が堕ちれば、心も堕ちていく。最初から心を掴むなどなかなか難しいことだからな。もちろんそっちも並行してチャレンジしろ。しかし手っ取り早いのはカラダだ。お前は想定していないかもしれないが、他にも悠人のことを好きな女がいるかもしれないだろ】


「えっっっ!!?」


『そりゃそうでしょ。悠人は結構かっこいいし優しいのに、あんなのが手垢ついてないなんて超優良物件だよね。莉緒は気づいてなかったかもしれないけど、莉緒のことを責めてきた神田って女の子いるでしょ。あの子もしょっちゅう悠人のことをチラチラ見てるんだよ。ああいう女が悠人をカラダで誘惑し始めたら──いや、既にしていたら、最悪、悠人は今夜にでもそいつに堕とされるかもしれないんだよ?』


「マジか……。うぅ……私には、余裕ぶっこいてる時間はないんだね」


【その通りだ、理解が早くてよろしい。奴の家は、莉緒が住んでいるこのマンションだったな?】


「そうなんだよ、全然気づかなかった。なんでだろ?」


『莉緒の家はオーナー部屋だからね。出入口が一般の居住者とは違う。だからだろうね』


「そっかぁ……。でも、嬉しいなぁ。〝会いたい〟ってメールすれば、すぐに会えるかもしれないもんね。これはさすがに他の女の子と比べてもアドバンテージでしょ」 


『何甘いこと言ってるの? そんなんじゃダメだよ』


「え? 二人っきりで会えるんだよ!? 結構な進展じゃない!?」


『今すぐ部屋に誘うんだ。そして家に帰ったらすぐに下着を替えるんだよ、一番いいやつに』


「────っっっっ????」


【先手必勝ってことだ。ちなみに、ベッドインに持っていく必勝法の一つを伝授しよう】


「なんか色々頼りになるアニキやな……」


【あいつは間違いなくおっぱい好きだ。これはもう確定情報として取り扱え。なら、部屋に入ってくつろぎ始めたら、さりげなく床やらソファーやら、もしくはベッドやらにゴロゴロして、うつ伏せと仰向けの二種類の乳の魅力を見せつけるんだ】


『それにね、中庭でベンチに座ろうとした時、あいつ、風華が前屈みになっていたのをいいことに、アホみたいにお尻を凝視してたんだ。あれは完全に理性を消失してたね。男子なら誰でも好きだとは思うけど、あいつ、もう少しでよだれが垂れるんじゃないかと思うくらいイっちゃってた。

 きっとあれは悠人のツボ(・・)なんだ。だから、何かを探すふりをして、ワンワンスタイルで悠人のほうへお尻を突き出すんだ。それか、雷人の言う通りうつ伏せでゴロゴロしている姿を後ろから鑑賞させろ。

 その時は絶対に制服のほうがいいから着替えたりしちゃダメだよ。人の目のない密室でそうすりゃ、あいつは性欲が弾け飛んで襲いかかってくること間違いなし』


「なんで制服のほうがいいの?」


【夢だからだ】


「はい?」


【ともかくだ。騙されたと思って制服で行け。普段着を普段見るのは普通だが、教育の場である学校でしか着ないはずの制服姿がエロと結びつくことに男心は揺るがされるのだ。どうしてもそれ以外で行きたいなら、体のカタチがわかりやすい割と柔らかい生地のスウェットとか、パンツ一枚にブカブカTシャツのみのスタイルなどを推奨する】


「それ本当に信用して大丈夫なんだよね!? 個人の趣味じゃないよね!?」


【有史以来、絶対不変の原則だ】


「……わかったよ、とりあえず着替えなきゃいいんでしょ」


『あんた今日、インナー履いてたでしょ? あんなのは家に着いたら速攻で脱ぐんだよ』


「え? なんで?」


【興醒めだろが! 感動が薄れんだよ、こっちの】


「とうとう本性を表したなこの外道が、完全なる個人的見解でアドバイスしやがって! だいたいね、ワンワンスタイルはわかったけど本当に中身見せるわけじゃないでしょ!?」


【アクシデントというものは往々にして付き物だからな。それが奴の理性を決壊させる引き金になるやもしれぬ。わかってると思うが、奴の理性が崩壊したら中身を見せる云々の話には当然とどまらない。即ベッドイン、だ】


『それでもダメなら、最終手段は、悠人が莉緒の後ろから抱きつくような姿勢で座って映画でも見ることだね。これはもう映画が終わるまで耐えきれたらマジで仏』


 私はブルブルと震える。


『言っとくけど、いつものツンデレは今からは控えなさいよ。〝デレ〟はいいけど〝ツン〟は厳禁。莉緒が嫌がったり傷ついたりしてると思ってあいつが遠慮して引いちゃったらダメだから。今日は打って変わってエロエロの甘々モードの莉緒ちゃんでいくんだよ』


「えろあま……でも、私、今まで人を寄せ付けないように努力してきたから、ついツンツンが出ちゃうかも」


『ダメって言ってんでしょ! 絶対にダメ。悠人が離れていってもいいの?』


「う……いやだっ、それだけは!」


【それでいい。大方の段取りはわかったな? ツンツンは雨の降る夕方の路地先へ置いていけ。そしてエロあまモードに切り替えたら今すぐ悠人を女子の香り漂う密室へ誘い込み、お前の魅力で軟禁するんだ!】


 風神雷神──二人の神様はいつもはマジで頼りになるんだけど、今回に限って言えばただ言いたい放題なだけじゃない?

 どうしよう。二人の発言をそのまま実行すると、私、今日、初体験を迎えちゃうんだけど……。


 ふと気づくと、奴ら二人との脳内会話に夢中だった私に声をかけてくれていた悠人。

 私を心配するような彼の優しい顔を見た途端、好きな気持ちがブワッと溢れて私の行動方針は勝手に決まってしまっていた。





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