風神雷神の御子
謎のルールに則って行われる死闘がとうとう開始された。
一体どんな戦いになんの……?
「ふふ。あの頃みたいにキスしよっか莉乃」
「えっ、やっぱやってんじゃん! 莉緒の嘘つき!」
命懸けの戦いの最中に脳内会話で私を責めようとする風華。
だから余計なこと叫ぶ暇あったら逃げるか倒すかしろ!
私がツッコんでる間にも、ゼノは念動力で風華の手足の自由を縛ろうとしてきた。
ゼノの目つきから攻撃のタイミングを察知できる風華は、目に見えない力をウルトラスムーズな体捌きでするりと回避する。
「色気もクソもねーな、そんなの愛がねーんだよ!」
風華は悪態をつきながらも旋風を作り、それを大きくしてゼノの足元から竜巻のように巻き上げた。
「わっかんないかなぁ、この愛に溢れた僕の表現が」
ゼノはそれを察知して、風を相殺するための念動力で自分の体を覆いつつバックステップで回避する。
それと同時に繰り出したゼノの反撃の一手は、攻撃直後の隙をついて風華の手足を拘束する念動力だ。
「……っっ、やるなテメ」
この拘束は、ゼノの念動力のパワーを上回らなければ外すことはできない。
風華はこの戦いが始まってから、ずっと念動力のバリアで自分の体を覆って防御している。それはゼノの念動力によって自分の体を破壊されないようにするためだけど、ゼノは、風華が施す念動力の鎧の上から自分の念動力で覆って、体の自由を拘束したんだ。
「うああああああ!!」
風華は叫びながら念動力を振り絞る。
だけど、ゼノのパワーがよっぽど強いのか、かろうじて体を動かせる程度で行動の自由を確保できるには至らない。
体を動かすのは無理だと悟ったのか、風華は次に、これ以上ないと言って良いほどの大量の風刃を具現化してゼノを斬り刻もうとした。
しかしそれも、ゼノを護る念動力のオーラに打ち消されてしまう。
全ての攻撃を防ぎ切ったゼノは、余裕を持って悠々と歩いて近寄ってきた。
「くっ……」
「はは。まあまあすぐだったね」
風華が出す凄まじい旋風が渦を巻いて二人を覆う中、ゼノは風華の頬にそっと手を添えた。
そのまま風華に顔を近づける。
あと数センチで接吻完了、というところでゼノの顔色が変わった。
全力で抵抗する暴風の中をバリバリっ、と雷撃が駆け抜けたのだ。
まるでハリネズミのように、無数に電気の槍を全身から放出したのは雷人。
ゼノは念動力のガードを施していたはずだが、うめき声を上げ、両腕でクロスガードしながら距離をとる。
ゼノの両腕は焼け焦げていた。
「へぇ……もう一人のご登場か」
ゼノが回避行動に集中したためか、私の体の拘束はその瞬間に解かれていた。
「莉緒」である私自身は念動力を使えないけど、風華と雷人のやっていることはずっとこの体の中から見てきた。
それによると、念動力を発生させるにはとんでもない集中力が必要らしい。
さっき、ゼノが床のコンクリを破壊した時もそうだ。ゼノは視線を床に落とした。破壊箇所に意識を集中するためにその場所を見たんだ。
すなわちこれは、敵が念動力を使う時には、敵の体に何らかのアクションが発生することを意味する。風華や雷人はその予備動作的なものを察知して、敵からの攻撃を回避しているんだ。
だけど、今回ゼノが雷人の攻撃を察知したのはそれではなく、瞳の色だろう。
黄金色へと切り替わった瞳に猛烈な危機感を煽られて反射的に退避した。
「……あんま調子に乗ってんじゃねえぞコラ」
中指を立てながら、顎を上げてガンを効かす雷人。
雷人の体の周りを無数のアークがほとばしり、パリパリと殺意の異音を奏でている。
「こっちのほうが攻撃力は高いのかな。危なかったよ、キスをするときに目をつぶる主義だったら殺られていた」
「キスの間際まで女の顔をジロジロ見てんじゃねえよ。マナー違反だろがコラ」
「ふふ。じゃあ、ちょっと隙を作ろうかなぁ」
「あ?」
言うなり、ゼノは校舎の別棟に向かって廊下を走っていく。
その先は、多くの生徒たちがいる、教室棟────!!
念動力は集中力を必要とする。
それはすなわち、目で見えていないところに力を発生させるのは困難だということだ。
よって、ゼノが攻撃する場合と同じく、私たちがゼノの攻撃から生徒たちを護りたければ、ゼノが狙う生徒を視界に入れておく必要があるわけだが。
それはつまり、次にどの生徒をゼノが狙うかを予測し、かつ、奴より早くその生徒の元へ駆けつけなければならないことを意味する。
そんなこと、人間である「莉緒の身体能力」で実現できるわけはない。
今こうしている間にも、ゼノは私よりはるか先の廊下を走っているんだ。他の生徒とばったり出くわしてしまった瞬間、その生徒は死ぬことに──……。
『やるよ、雷人。〝風雷モード〟だ』
【いいぜ。あのクソ野郎、ぶっ殺してやる】
風神と雷神の合意が聞こえた。
雷人の人格が風華へ入れ替わる。かと思うと、風華だった人格はまた雷人へと入れ替わり、そしてまたそれは風華へと──。
どんどん早くなる入替速度。それはもはや、いくつもの画像が連なってアニメーション動画を作り上げるかの如く、雷人と風華は私の体を二人で一つのものにしていく。
交互に入れ替わる瞳の色は、青と黄が超高速で入れ替わっておそらく緑色に見えているはずだ。過去にも実験したことはあるが、風華と雷人が同時に能力を使えるこの状態を、二人は「風雷モード」と呼んでいた。
雷人の電気が、私の体内に流されていく。
私の体を操る電気信号を、雷人が制御する電気指令が塗り替えていく。強制的に筋肉へ電気信号を流し、限界を超えた身体能力を引き出す雷人の技が発動した。
瞬間、私の靴は廊下との摩擦を最大限に発生させ、人間離れした前進力を生み出すに至る。
クラウチングスタートのような低い姿勢から始まった猛ダッシュはあっという間にゼノの背中を追い越した。
と、階段を上がってきた生徒が目に入った瞬間、摩擦で煙が出るんじゃないかと思うほどのフルブレーキングで急減速し、風華がその生徒の周囲に念動力のシールドを張ると同時に、雷人はゼノに鋭い雷撃を突き刺した。
ゼノは雷人の攻撃を念動力のシールドで防ぎつつ生徒を攻撃しようとしたが、間一髪で、その攻撃は風華のシールドが打ち消した。
「へえ! やるじゃん、おっもしれー。めっちゃキスしがいあるわ」
「ばぁか。ぜぇ────っったいに、唇奪われないもんね!」




