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悟りをひらけば女の子にもムラムラしない?



 初めての海遊びはマジで大変だった。もちろん体力がどうとかではなくて、精神がすり減らされてもうヘトヘトという意味で。


 長い一日がやっと終わり、莉緒との関係もなんとか良好なまま終えることができたし俺としては上出来だ。

 ああ、今日はもう布団に入ってぐっすり寝ようかなぁとか甘いことを考えていたんだけど……

 マンションの前に着いた時、莉緒は立ち止まる。


「どうしたの?」


「……私のこと好きにできる券、どう使うの」


 ここを詰めてくる。

 俺が襲わないと決意している日に限ってどうしてこんな提案を……。

 マジで枷が外れた日にやってほしい。

 

「あの、また別の日じゃだめかな……」


「……別の日にも使っていいよ。でも今日も使える」


「えっ。何枚あるのその券」


「……じゃあさ、普通に二人っきりで過ごすってのはどう?」


「あ、うん。いいね! そうしようよ! 俺ももう少し莉緒と一緒に居たいし」


 めちゃくちゃいい提案だ。

 俺だって莉緒と二人っきりで一緒にいたい。デートとはいえ、今日は和也や結衣さんもいたから。


「……じゃあ、今日は私の家に泊まって、明日の朝に帰る感じでいいよね」


「はい?」


「私のことを好きにしないなら、代わりに映画見たり、マッサージしたりしてあげたいし。夕ご飯も食べ終わった時間帯だから、お泊まりにしなかったら二人っきりの時間がすぐに終わっちゃうでしょ」


「えっ……と、まあ、そう、だね」


 最後にとんでもないイベントが発生した。

 俺と莉緒は、莉緒の部屋で一夜を過ごすことになったんだ。


 このイベントは雷人くんと風華ちゃんも了承しているようで、付き合ったばかりの俺たちを祝福するための海デートだったのにそれがめちゃくちゃになっちゃったから二人で過ごしていい、という皆さんの計らいの賜物であるようだ。 


 着替えを取りに家へ戻った時、「今日は友達の家に泊まる」という超ド定番の嘘を俺は家族へ説明した。

 

「悠人。避妊だけはきっちりな」


「そうよ。避妊だけは」


「お兄ちゃん、生とかサイテーだからね?」


「だから友達の家だって言ってんだろ! なんで避妊が出てくる」


 彼女できたての俺の言葉を信じる奴は一人もいなかった。みんながみんなガチのワードを口にする。オブラートに包んでいる場合ではないという危機感の表れだろう。つまり「こいつ、今日だな?」と。

「友達の家に泊まる」という嘘は百パーセント見抜かれているんだなぁ……というか日中は彼女とのデートに行って、夜に帰ってきてから泊まりに行く時点でもう。


 でもな、安心してくれ家族の皆さん。俺は「今日は莉緒を抱かない宣言」をぶち上げているのだから。


 何をしても良いと言い放った莉緒はもちろん全てを許してくれるだろうが、そんなことをしたら俺は自分で自分が許せない。

「私のこと自由にできる券」は海デートで罪悪感を感じたが故の提案。しかも莉緒は過去に受けた性的虐待 (推測)による心的外傷に苦しんでいる。これに便乗して莉緒の体を欲望のまま貪ることなど決してあってはならない!

 よって俺は、鉄の覚悟を持ってこのお泊りに臨むことにした。

 

 莉緒の家へ着く。


 ただ単に遊びに来た程度でもまあまあ緊張するのに、女の子に手を出すことなく二人っきりで一夜を過ごすとなると、それはもう修行僧をはるかに超える忍耐力を必要とする。

 どんなに修行を積んだ高僧だって、可愛い女の子と一つ屋根の下で過ごせば──しかも「ヤっていい」とまで言ってくれている女の子と一緒に過ごせば、理性を飛ばして襲いかかるに違いないだろう。


 しかし俺には特殊スキル「聖人憑依」がある。

 煩悩を退散させるのは並大抵のことではないが、このスキルは煩悩を内に秘めたまま、すなわち女の子の魅力を十分に堪能しながらも対象の女の子を襲うことなくやり過ごすという、悟りを開いた者しか使えないアルティメット・スキル。

 なんらかの原因でそれが効かなかった場合も最終的には「自分で自分の顔を殴る」という直殴り殺法でなんとかなるところまで実証実験済みだ。対策は万全。


 ご飯を外食で済ませてきた俺たちは、一日遊んで疲れていることもあるし、部屋へ入るとすぐにくつろぐことにした。


 映画でも見ようかということになって、莉緒は俺のためにいつものホットコーヒーを淹れてくれた。

 そして自分には、これまたいつもの通りミルクティー。


 二人でソファーに座って映画を見る。

 高校生同士の恋愛映画で、制服姿の初々しい二人が甘酸っぱい恋愛模様を展開するものだ。

 映画を見ていると、莉緒は、ボソッとこう言った。


「……男の子ってさ、女の子の制服姿が好きなの?」


 突然問われた趣味趣向の話。

 なんなら性癖にも通ずる深い話題だ。一つ間違えれば大変なことになる可能性を秘めていて、今後のことも考えると回答には慎重を期したい。 

 ま、でも好きなものを好きじゃないと嘘をつく理由もないので、


「好きだよ」


 なんで? とゲスを見る目で問い詰められるんだろうなぁ、なんて俺が思っていると、莉緒は俺の回答には反応せず、スッと立ち上がった。


「どうしたの?」


「……じゃあ、着替えてあげる」


「えっ」


 唖然とする俺を尻目に、莉緒はさっさと自分の部屋へ。

 数分後、戻ってきた莉緒はいつもの制服姿だった。


 物凄い胸のボリューム感を余すところなく伝えてくる制服のシャツ。

 太ももの付け根が果たしてどのくらいのところにあるのか妄想を掻き立てられる短めのスカート……。


「……男の子って、どうしてこんなのが好きなんだろうね」


「夢だからじゃない?」


「はい?」


「なんでもありません」


 制服姿となった莉緒と、ソファーに座って映画の続きを見る。

 と、莉緒は眠たくなったのか、急にソファーの上にゴロンと転がった。俺の太ももを枕にして、はぁ〜〜っ、と背伸びをする。


「っっ────」


 気づいていなかったのだが、胸のボタンが一つ多めに外れているのか、胸の谷間がしっかり見えていた。

 というか、何この胸……。


 重力で横方向に少し広がって、しかも背伸びしたことで引き伸ばされたにもかかわらず、素晴らしい弾力がしっかりとその形状を保持した莉緒の胸は制服のシャツをぱっつんぱつんに引っ張っている。体を少し動かしただけでぷるんと細やかに揺れる様はプリンと相違なくもはや至高の芸術品。

 

 危ない危ない。まぁ若干意識は飛びかけたがまだ大丈夫だ。この俺の手にかかればこの程度のこと、聖人憑依を発動するまでもないわ! 


 強がる俺を尻目に、莉緒は立ち上がってキッチンへ何かを取りに行く。

 いつかと同じように手にお菓子の袋をいっぱい抱えていた。莉緒はテーブルにドサっとお菓子を転がすと、またソファーに横になったのだが……。


 今度は俺から少し離れて、うつ伏せに寝転がる。そのせいで、莉緒の胸はソファーに押し付けられて、むにゅ、っとその形態を変化させた。

 行き場のなくなった柔らかいおっぱいが多めに外したシャツの隙間から押し出されるようになる。莉緒は顔をテレビのほうへ向けているが、俺は莉緒の胸へ一直線に視線を固定していた。


 そのまま映画に夢中になってくれればいいものを、歯がゆいことに莉緒は不意にチロっと視線を俺に戻してきたりする。

 もちろん、俺はその度に慌てて視線を逸らす。


「……ねえ、悠人。私さ、思うんだけど」


「なんでしょうか」


「……欲望って難しいよね。自分のしたいようにすることは大切だけど、思いのままに解放すると、大変なことになっちゃうかもしれないんだもの」


「そうだね……いきなり何の話ですか?」


「この映画の話だよ」


 映画なんぞ一ミリも頭に入ってなかった。

 映画では、好きな気持ちを我慢できなくなった女の子が、男の子を押し倒しかけているところ。


「……でもね、私はいいと思う。状況を見れば一目瞭然って時もあるでしょ? 行っていいか、ダメなのかは。あとは度胸の問題だと思うんだよね」


 ジッと俺の目を見つめながら、小さな声で、しかししっかりと俺の脳へ直撃するように言う。

 キラキラと煌めく大きな目で俺を捉えながら、上半身を起こしてジリジリと俺に近づいてきた。

 

「……悠人は、どう思う?」


 わっ、わっ! やばいっ!! これはやばい気がする!

 ここだっ、繰り出せ「聖人憑依」っ!!


 俺は心頭を滅却し、頭の中でお経を唱え続ける。

 以前の聖人憑依はまだ未完成だった。汚いおっさんを思い浮かべるという手段をとっていたが故に、視界に女子が映っていると映像がミックスされてしまって妙な痴漢シチュエーションを発動してしまうという欠陥品だ。

 だが、頭の中でお経を唱えるという手段を発見し真の悟りに目覚めた俺は、莉緒の色っぽい胸の谷間を視界に収めながらもムラムラしない事が可能となっていた。


 下半身に集まっていた血が、霧散していくのがわかる。

 よし。収まってきた。この技はもはや無敵に近い完成度に到達した。


 俺の顔を観察するように覗き込んでいた莉緒は、うんざりしたような顔をしたかと思うとこれみよがしに大きなため息をつき、ソファーに座り直してお菓子をバリバリ食べながら映画の続きを見始めた。

 技の成功を確信していた俺であったが、


「……耳かきしてあげよっか。今日は海に行ったし」


 なんで急に耳かき?


 と思ったけど、莉緒の中ではもう決定事項のようで、俺が返事する前にテレビラックのところへ行く。


 どうやら耳かき棒はテレビラックの中にあるようだったが、彼女は床スレスレのところにあるラックの最下段を探すために四つん這いになっていた。

 つん、と突き出されたお尻が俺のほうへ向けられて、肉付きの良い太ももの付け根が出るか出ないかのところまで見えて──……。


 ガーン、と頭をぶん殴られたように衝撃を受け、意識がお尻のことしか考えられなくなった。

 聖人を憑依させようとする発想すらもがれて、俺は頭を空っぽにしながら短いスカートの裾のあたりをひたすら凝視する。


 ああ。ヤバい。これはヤバい。

 今わかった。俺、やっぱお尻はダメだ。

 マジでパンツ見たい。あのスカートをぺろっとめくれば、そこには。

 あの中はどうなってるんだろう。いったい、どうなって……? 


 学校の中庭の時と同じく、仮にどのタイミングでパンツが見えたとしても俺は断じて見逃さないほど集中し切っていたが、しかし莉緒が突然振り向いたことには一ミリも反応できなかった。


 下唇から垂れそうだった涎をジュルッと飲み込む。

 莉緒は何かの勝ちを確信したような微笑みを浮かべていた。


「さ、ここに寝転んで」


 ソファーに座った莉緒は、自分の太ももの上を手でポンポンする。

 俺は誘導されるがままに、ふらふらと莉緒に近づきそこへ頭を置いた。


 耳かきをされながら、映画を見る。

 ああ、気持ちいい……。


 すでに莉緒の魔力に引っかかっている。

 知ってるよ。それを言うならこの部屋に入った瞬間からこいつのテリトリー内だった。

 ああ、それにしても気持ちいい。


「……こっちは終わったよ。顔、反対向けて」

  

「んー」


 生返事をしたものの、あれ、と思った。

 

 反対?

 反対って……莉緒のお腹のほうへ、顔を向けるってこと?

 

 ドクンドクンとうるさい心拍。

 どっ、どうしようっ……!


「……早く」


「はいっ」


 俺は、その場で体をぐるっと回転させたのだが。

 その時、顔を、上側でなく、下側になるように回転させてしまった。


 視界が暗くなって、なんか妙な匂いがするなぁ、と思っていたら、どうやら俺の行いのせいでスカートがめくれあがって、俺の顔はまともに莉緒のパンツに突っ伏したようになっていたらしい。


「やんっ」


「あっ、ごっ、ごめっ……」


「んっ、くすぐったいよ……あんっ」


 パンツに顔を押しつけたまま喋って吐息を当てちゃった俺。

 完全にパニックに陥る。慌てて顔を離してソファーの上で正座し、即座に最大級の反省の意を表することが可能な謝罪の格好をとる。 

 

「ごめんっっ!! そんなつもりじゃっ……、」


「もうっ」


 頬を上気させて視線を床に落としていた莉緒は、おずおずと俺を見る。


「……ほら。反対側、しよ?」

 

「……はぃ」


 座り直した莉緒の太ももの上に、顔がお腹側になるようにして頭を置く俺。

 莉緒の体が、俺の頭を包み込む。


 女の子の匂いってのは、今の俺にとっては魔界の瘴気と同じくらい危険なものだ。

 それがこの体勢だと全ての防御措置を剥ぎ取られてしまって、まともに鼻腔に注がれ続ける。しかもこれ、胸が側頭部に乗っかってない? これってまあまあ重いんだね、初めて知ったよ。

 耳かきの最中にもお経を唱える俺。莉緒が「え、何?」と途中で言ってきたのでちょっとだけブツブツ言っちゃってたのかもしれない。


 ようやく地獄の耳かきタイムを脱出すると、すぐに莉緒は次の地獄を提案してきた。


「……ねえ、マッサージしてあげよっか」


「ま、ま、待って! マッサージだけは! それだけはダメ」


 血流が促進されるだけでもマズいのに、妙なところを押されたり揉まれたりしたらもう取り返しがつかない状態に変貌してしまう。


「大丈夫だよ。何もしないから。ほら」 


 何もしないって何……?

 莉緒は手際よく俺を床へ寝っ転がすと、うつ伏せの俺の上に(またが)って背中を押し始めた。


 ああ──……やめてと言ったものの普通に気持ちいいな……。

 まあ何もしないって言ってるんだし、いいか。


 足の裏などの体の末梢側から順に中枢側へと向かってマッサージしていく莉緒。

 途中、お尻とか太ももの内側とか結構キワドイところを指圧されたが、これもマッサージ的に気持ち良かったので俺は安心していた。


「……上向いて」


 上かぁ、と何も考えずに指示通り仰向けになる。

 莉緒は、俺の腰の上に(またが)った。体勢はマウントポジションみたいな感じだ。

 マッサージが始まるのかなと思ってたのに、莉緒はなかなか動かない。


「あの。これってどこ押すの?」


「…………」


 何も答えない。

 焦点がぼんやりしたような目で俺を見下ろしながら、はっ、はっ、と小さく息づいている。


「……莉緒さん?」


 聖人憑依を使わなければならないほどムラムラ感と闘ってきた俺にはわかった。

 これは理性が飛んだ顔だ。

 おいおいおい! 君が先に理性飛ばしちゃってんじゃないの!?


 俺は腹筋を使って上体を起こし、座位で莉緒を抱きしめた。

 抱きしめることによって()に進むことを回避する。


「大好きだよ、莉緒」


「……私も、大好きっ」


 これくらいの愛の表現はいいだろ。

 と思っていたら、莉緒はそれでスイッチが入ったのか俺の首筋に唇を当ててちゅうっと吸おうとしてきたので、俺は「ひゃいっ」と奇声をあげながら慌てて莉緒を体から離した。


「あっ、あのっ、あのさっ、そろそろお風呂、だねっ」


 時間はもう一一時三〇分。

 だから俺はこう言ったけど、それはそれで次の地獄の入口だったことに気づく。


「……うちのお風呂、結構大きいんだ」


「うん…………そ、それが何?」


「……ねえ、悠人。聞いて」


「はい」


「……ふと思った話なんだけどね。男でも、二言があってもいいと思うんだ。誰だって神様じゃないし。一度口から出したからって覆しちゃダメなんて、そんなの誰が決めたのって感じじゃない? 男らしくないって思うかもしれないけど、何が大切かを見極めて正しい答えに修正するのはむしろ大人として大事なことなんだよきっと。大人の階段を上がるってのは、そういうことなのかなあって、私、思うんだ」


 小さい声で、しかしはっきりと物申す莉緒。

 逃げ道を塞ぐように喋る莉緒にブルブルと震えながらも、しかし俺もこの程度のことで大人しく論破されているわけにはいかなかった。


「……莉緒、聞いてくれ」


「なに?」


「確かに莉緒の言うとおりだと思う。だけどな、俺の中で絶対に変わらないものもある。それは、莉緒のことが大好きで何より大切だということだ。その場の気の迷いで大切なものを傷つけてしまうことだけは避けたいんだ」


 莉緒はキュッと口を閉じて、「なんだこいつ」みたいな視線を俺に向けてから先に風呂へ入りに行く。

 シャワーの音が、シャアアア、とリビングにも聞こえてきた。

 と、お風呂から莉緒の声が。


「悠人〜〜っ! ちょっと来て」


 なんだ? と俺が風呂場へ近づく。

 だが、ここから先は洗面所兼更衣室的な感じだったはず。ここからは入っちゃいけない。

 薄く開けたドアの前で俺が耳を澄ましていると、シャワーの音が止まる。

 莉緒は何か話そうとしているようだ。


「どうした?」


「下着を忘れちゃった! ちょっと持ってきて欲しいんだ」

 

「おいおい、それはいくらなんでも」


「じゃあ、後で自分で取りに行くけど、その時は素っ裸で──」


「とってきます。どこにある?」


「私の部屋。このお風呂場のね、向かいにドアがあるよ」


 え、女の子の部屋に勝手に入って下着を漁るの?

 ってか、お風呂場の向かいにあるなら自分で取りに行かせてもリビングにいる俺からは見えないんじゃ……しかもバスタオルでも巻けばいいのに『素っ裸』って言ったな! 俺を脅すとはいい度胸だこのヤロー。

 

「莉緒! 上がってから自分で取れよ! ……莉緒!?」


 再びシャワーの音がしていて、きっと聞こえていないんだろう。

 しょうがないな……

 

 俺は洗面所のドアを開けた。正面にはお風呂場の扉があり、その向こうにはうっすらと人影が映っている。

 

「莉緒!」


 やっと俺の声が聞こえたのか、お風呂場の蛇腹式の扉がガチャっと音を立てた。

 扉を盾にして裸を見られないようにすることもなく、大事な部分を腕とかで隠そうとするでもない莉緒が、無造作に扉を開けてくる。


「っっっ────…………おまっ、それっ」


「なぁに?」


「いえ、なんでもありません……」


 裸を見てしまわないように反射的に回れ右をしていた俺。

 なんとなく、一瞬見えた莉緒の表情がなぜかニヤついていた気はするが……。


 水着売り場ではあれほど積極的に莉緒を辱めた俺が今さらこんなふうになっているこの状況が全くもって意味不明ではあるが、「今日は莉緒に手は出さない」という自らの確固たる信念を貫くには、このシチュエーションは猛毒以外の何者でもなかったのだ。


 下着を取りに行くと約束してしまった。

 くそ。これは、もう行くしかないよな……


 自分で自分を言いくるめながらドキドキしつつ莉緒の部屋のドアを開ける。

 照明をつけると、そこはリビングと同じように女の子らしさとかは特に感じないシンプルな部屋だった。

 衣装棚がどれか探す。めぼしい木製の衣装棚があったので、引き出しを順に開けていく。


 すると下着を入れている棚を発見。課されたミッションとしてはこれをパッと取って持っていけばいいだけの話ではあったのだが。

 俺は、理由もわからず、そこに入っているものをジッと見つめた。

 

 まるで下着ドロにでもなったかのような背徳感と興奮。

 ここまできたらどんなものが入っているのか確認しないのもおかしい気がしてきて。

 

 待て待て、莉緒が見ていなかったら何をしてもいいのか? と俺が正気を取り戻して引き出しにあった一つを持ち出そうとした瞬間。

 手に取ったそれ(・・)を視認した俺は絶句した。


 え……これ、Tバックじゃない?


 手に取った黒の下着はTバック。両手で広げてまじまじと確認したから間違いない。

 なんであいつ、こんなの持ってんの?

 最初から持ってたってこと? それとも、水着の試着で感覚が崩壊した莉緒が、とち狂ってこんな物を購入して?


 ……いや違うな。落ち着け。冷静に考えれば分かることだ。これは風華ちゃんの所持品に決まってる! よく見りゃガーターベルトがあんじゃねーか! 実物見たの初めてだよこんなの……ってか、見た感じTバックと普通の奴が半々なのが衝撃的だ。


 ……待てよ? 

 でも、莉緒はどれを持ってきて欲しいのか指示しなかった。

 じゃあ、Tバックでもいいんだ……。


 Tバックを履いた莉緒の姿を否が応でも妄想させられる。

 あの肉付きの良いお尻がほとんど隠されることなく露わになって……。


 Tバックとガーターベルトをセットで持って行ってやろうか散々悩んだが、かろうじて聖人憑依に成功した俺は、ほうほうのていで至って普通のやつ(・・・・・)を手に取った。


 更衣室に下着を置いて、俺はリビングで頭を抱える。

 

 その後、俺も風呂に入った。

 海で疲れた俺たちは、さすがにもう眠くなってきて、歯を磨いて寝ることにした。


 パジャマを着た莉緒と二人で鏡に向かって歯を磨いていると、なんだか同棲しているような気分になる。

 鏡越しに目線を合わせてるとなんだか恥ずかしくて、へへ、とお互いニヤけてしまう。

 

「俺さ、リビングで寝るからさ」


「……ダメだよそんなとこ、風邪ひいちゃうよ。疲れだって取れないし」


「じゃあ、どこにするの?」


「……私の部屋のベッド」


「莉緒は、どこに寝るの?」


「……同じところ」


「だっ、ダメダメ! 俺、そこまでなったら我慢できる自信ないよぅ。絶対に、襲っちゃう」


 とうとう弱音が出る。

 これ以上はもう無理だ。そんなところで莉緒の色気に暴露させられ続けたら、絶対に襲う自信がある。

 

「……それはもう諦めたよ。私のことを大事にしてくれようとする悠人の気持ちは嬉しいよ。でもね、私、夜は怖い夢を見ちゃうことがあって。だから、できればぎゅってしててほしいな」


 諦めたって何!?

 

 とりあえず修行の時間は終わったらしい。

 莉緒に悪夢を見せるのは俺とて本意ではない。だから、このお願いは聞いてあげようと思う。莉緒を抱きしめながら寝ると言っても、莉緒が純粋に寝ようとしているのなら俺もきっとムラムラを抑えるのはそんなに難しくないだろう。

 そんなこと言って、ベッドに入ったらじっと見つめてきたりするんじゃねーぞ。


 照明を消して二人してベッドに入ってから、俺は莉緒を抱きしめた。


 俺の胸に顔を埋めた莉緒は、疲れていたのか、すぐにスー、スー、と寝息を漏らす。莉緒の頭を撫でていると、大事なものができたんだなぁ、という実感が湧いてくる。


 そういやこの状況、風華ちゃんや雷人くんも見てるんだろう。あの二人、こんなことをしている莉緒を見て、もっと身持ちを堅くしろー、なんて思ってるんだろな、と俺は想像してニヤニヤしながら眠りについた。






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