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初めての海はなかなか大変でした




 和也と二人っきりで話したいと莉緒から告げられた時、マジで俺はショックを受けすぎて動けなかった。莉緒がそんなことを言うにはきっときちんとした理由があるはずなのに、現在進行形で莉緒と体の関係がある男だというのがやっぱりどうしてもツラくなってくる。


 でも、和也と二人で話をする理由を「悠人のことが大好きだからそうするんだ」と莉緒は言ってくれた。その時の真っ直ぐな視線で、俺は少し救われた気分になった。

 だからか、なんとなくわかったんだ。


 これって、互いの気持ちが通じ合っているからこそ恋人を信じられるし、心を強く持てるってことだと思う。


 これから先も二人でやっていこうとするなら、様々な試練が待ってるに決まってる。三重人格なんだしきっとまだまだこれからとんでもない試練が! マジで手加減してほしいんすけど。


 つまり、まあ……他の人より問題はたくさん発生するかもだけど、結局、三重人格者でなくとも原則的には同じことだろう。


「……私たちも、浮き輪で海に浮かぼうよ。言っとくけど、風華と和也くんの真似をしたい訳じゃないよ。私が、悠人と、そうしたいからだよ」


 ようやく来た俺たちの時間。

 何をするかを話し合っている時、莉緒は念には念を入れるかのようにこう言った。


 うーん。なんか気を遣わせてる?

 莉緒がそうしたいっていうなら何の異論もないけどね。

 いいさ、ガッツリ体を密着させてあの和也に見せつけてやろう。


 二人用の浮き輪を使って、海に浮かんでゆらゆら揺れる。

 先の二人のやり方を思い出して、お互い別々の方向へ足を放り出して八の字の穴へお尻をはめ込む。そうすると、俺の顔の真ん前に、反対を向いた状態の莉緒の顔がくる。 

 その状態で俺たちもキスをした。なんか新鮮で興奮してしまって、俺は下半身に集まる血をどうすることもできずにいた。

 莉緒の言う通り、あいつらの真似をするかしないかは重要じゃない。

 本当に心の底から、俺たち二人が楽しめることが大切なんだ。


 和也と何を話したのか俺は死ぬほど聞きたかったけど、なんとなく俺から尋ねるのは(はばか)られた。まるで問い詰めているかのようになってしまうだろうし……。

 そんな俺の心は、莉緒にはお見通しだったんだろうな。

 莉緒のほうからその話題に触れてきた。


「さっきね、和也くんと二人で話して、わかったよ」


「ん? 何が?」


「どうして悠人が和也くんを殴ったか。私が自分の意思で和也くんとエッチしてるって、思わせられたんだよね」


「それは、まあ…………」


 あいつ、そんなこと白状したの?

 何考えてんだ。


「……それで?」


「全部嘘だからね。私は一回たりとも和也くんとエッチなんてしてないし、風華と和也くんのエッチも見たことない」


 莉緒の言っていることが本当かどうか……なんて、思ったりすることもなく。

 迷いなくはっきりとそう言い切られただけで、心が安らいでいく。

 ああ、幸せだなぁ、って思わせられていく。


「……信じられない、かな」


「そんなわけないよ! 信じてる。最初っから」


 それはさすがに嘘だったけど。ちょっと疑ってたけど。

 だって、この世の中ではさ、信じられないようないろんなことが起こるからさ。

 俺だって心配で心配で──……


「……今回、すごく悠人を傷つけちゃったと思ってる。このままじゃ私の気持ちが済まないの。だからね、一つだけ悠人に、あげたいものがあるんだ」


「あげたいもの? 何?」


「今日、帰ったら、私に何をしてもいいよ」


 ……何をしても、と来ましたか。


 こういった場合「エッチなことしていいよ♡」みたいなことを思い浮かべがちだがまあ待て。早とちりするな。何をしてもという言い方は幅が広いし俺のことをすごく傷つけたとか言ってるからきっと軽く罰を与えていい的なやつだろう。

 例えばしばらく甘いもの食べちゃダメだよ、とかそういう可愛い感じの。

 多分そうだ。まぁ聞くまでもないと思うが一応詳細を確認しておこう。


「何をしても、と言いますと」


「私の体が欲しいなら、エッチしてもいい。私を悠人だけのものにしたいなら、その……私の中に、全部出してもいい」


「…………」


「そんなことをしたら育てるのが大変かもしれないけど……でも、私は覚悟して──」


「待って待って! ちょ……えっと。そうだっ! でもさ、そんなことしたら、ふっ、風華ちゃんや雷人くんは? 和也や結衣さんは? みんなの莉緒なのに、みんな怒っちゃう──」


「誰にも文句は言わせない。仮に風華や雷人が強い意志を持ってしたいことがあるなら私はそれを優先させてあげるつもりなんだ。だから、今回のは、私は誰にも譲らない」


 えっと。……子供を作ることを?


「それにね、何をしてもいいってのは〝ありとあらゆること〟だから。もちろん、私のことがどうしても信じられなくて許せないなら、私のことを殺してもいいよ。私が悠人にあげたいものは、私自身。私の全て、だよ」


 殺しても良いとかこっちの初期想定を超えすぎなんですが。

 でも、その一言のおかげで俺の頭はなんかスッと冷静になった。

 いや……むしろ沸騰させたのか? よくわかんないけど……

 一つだけ、わかったことはある。


 苦しんでいる俺の顔を見た莉緒は、きっと、ずっと悩んでたんだろうなぁ。

 真剣に悩んで、その結果こんなことを考えついて俺に言う。

 

 ハッ。女の子をこんなに思い詰めさせて、こんなことを決断させて、こんなことを言わせてるなんて、俺ってマジでダメな奴なんじゃないの?


 バッカじゃねえか。やっぱ俺はバカ野郎だ。

 こんなことを言う莉緒を安心させてあげたい。だから俺は、めいいっぱいに「好き」という気持ちを込めて言う。

 

「しなくていい。莉緒、今日は何もしなくていい。そういうのは、ゆっくりと、二人の準備ができた時にしたいんだ。今日は帰って、美味しいものを二人で食べて、ゆっくり寝よう。俺は、ほんとに莉緒のことが大好きだから、そんなふうに言わなくていい」


 正直すぐにでも愛し合いたいと思ったが、でも莉緒のことは優しく扱って、大切にしたい。

 だから俺はこう言ったんだけど……。


 莉緒は謎に悔しそうな表情をして、「チッ」と舌打ちしていた。





◾️ ◾️ ◾️





〜莉緒の脳内会話〜


「どうして!? あそこまで女の子に言わせておいて、あいつなんで私のことを抱こうと思わないわけ!? 私、なんか失敗した!?」


【あのなぁ。〝殺してもいい〟とか言うから引いちゃったんだよ! ほんとお前はサイコパスの片鱗を感じさせるようなことを平気で言ったりやったりするからよー。あの一言さえなけりゃ今日の晩はぜってー交尾してたぜ】


「そんな……また失敗しちゃったのか……」


『いいよね。うまく行ってる奴らは明るく楽しく喋ってさ。もうこうなったらどいつもこいつも皆殺しにしてやろうかしら……うふふふふふふ』


「まっ、待って待って! ごめんって風華。まさか和也くんがあんなこと言い出すなんて思ってなくて。まあ正直なんかあるとは思ってたけど、でもあれはさすがに酷くない?」


『そうだよね……ごめんね莉緒、和也のせいで。もう少しで莉緒と悠人の仲を引き裂いちゃうところだった。ってか、あいつドMのくせして何NTRで凹んでんだよ』


「和也くんはドMなの?」


『そうだよ。風華はマジで振り切った責めしてるから。そんな風華を全部受け止めてくれるの、あいつしかいないんだよね』


「あんた私の体使っていったい何やってんの……。ま、でもそれなら結局どっちにしても私、和也くんとは合いそうにないね」


『あんたと和也はどっちもクソッカスのMだからね。絶対に合わないと思うよ』


「言い方」


【傷ついた風神様は遠慮が無くなっているだけだ】


「え、いつも遠慮あったんだ」


【それより莉緒、お前なに勝手に中出し許可してんだ】


「もういいじゃん、その話無くなったんだから」


『何言ってんの、あんなのまだまだイケるに決まってんでしょ! 部屋に連れ込んで押しまくれば絶対に堕ちるに決まってんじゃない! だからどうでも良くねーんだよ、あまつさえ〝他の奴らには文句を言わせない〟とか言ってくれちゃったよね!? なかなか言うじゃない。表出ろコラ』


【風神様は荒れてらっしゃるから逆らわんほうがええぞ】


「勝手なこと言ってごめんなさい。私が悪うござんした」


『わかったらええ。これに懲りたら避妊は絶対だと肝に銘じろ。それと、ここからずっと莉緒が制御権持ってていいって言ったのに悪いんだけど、少しだけでもいいから和也と話させて欲しい……』


「いいよ。和也くんと仲直りしないと、風華がズタズタになっちゃうもんね」


『莉緒ぉ〜〜っ!! やっぱあんたは心の友』


 ということで、私たちの初めての海は幕を閉じた。






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