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相入れそうで相入れない



 せっかくの海日和なのに、風華ちゃんの彼氏である和也と喧嘩になってしまった俺。

 というか、俺が一方的に噛み付いただけで、和也はなんら喧嘩腰ではなかったんだけど。


 そこで雷人くんに恫喝された俺は、一瞬にしてシュン、ってなった。

 雷人くんが苦手ってこともあるが、雷人くんが言っていることにはとてもじゃないけど言い返せなかった。「莉緒を傷つけたくない」っていう自分の気持ちと真逆の行為をしてしまっているのを雷人くんに咎められたんだから。


「お前ら、先に俺と結衣が楽しんでくっからよ、反省がてら二人でしっかり話し合って関係を構築しろ。わかったな!」


 むしろ距離を置かせてくれたほうが助かるのに……と俺は心の中で反抗したけど、雷人くんに正面切って文句を言うのは、今の俺には無理だ。

 実は雷人くんは自分が一番最初に楽しみたかったんじゃないだろうか? そうだとしてももういいや。先に楽しんでください。メンタル的にちょっと小休止が欲しいので……。


 まさに莉緒が最初に買おうとしていたショーパン型の水着を着用した結衣さんと、俺が選んだエロビキニを着せられている雷人くんは、浜辺から少しだけ離れた沖にある水上アスレチックに二人で手を繋いで向かっていった。


 二人残された俺たちは、浜辺に建てたタープテントに入って椅子を並べて座る。

 

 雷人くんと結衣さんが海の上で遊び始めても、俺たちは無言のまま、二人並んでボケッとそれを眺めていた。

 どうせ話すことなんてないし、喧嘩しないようにしようとしたら話をしないのが一番無難。


 たぶん和也もそう考えている。電子タバコを吸いながら、海の家で購入したトロピカルジュースを手に持って、奴もまた俺のことなんてまるで居ないかのように沖のほうを見ていたから。

 ってか、こいつの飲んでいるのがトロピカルジュースであったことに、俺はマジで理性が飛びそうになった。


 なんで!? どうして!? そりゃ偶然かもしれんけど。

 莉緒。まさかこいつから影響を受けてたりしないよね? 気になってる人の好きなものを好きになってしまうパターンとかじゃないよね?

 こいつと、なんかあったりしないよね……?


「……で? 雷人くんから怒られちゃった訳だけど、君は俺と仲良くするつもりはあるのかな」


 タイミングが悪いというか、俺がこいつのことで頭を沸騰させている最中にこんなことを言ってくること自体が俺的にはもうこいつ無理、ってなる。

 一応、俺はできるだけ平静を装った。


「さぁ。莉緒が悲しむから表面上はそうしようかと思ってますけど。ってか俺が敬語で喋ってますけど、和也さんは何歳ですか?」


「二〇歳だよ。大学二年生」


 やっぱりそうか。雰囲気がめちゃくちゃ大人びていて、高校生ではないだろうとは思っていた。

 そりゃ風華ちゃんも惚れるか……。顔だって良いし背も高い。普通に考えたら俺なんかが太刀打ちできる男じゃないのかもしれないけど。


「じゃあ敬語で合ってますね」


「そうだね。別に敬語でなくてもいいけど、そんな仲でもないしね」


「そうですね」


 さっそく喋ることが無くなる。

 話したいなどとは微塵も思わないが……確かに雷人くんの言う通り、きっとこのままではダメなんだろう。


 こいつは完全に敵だが、風華ちゃんの彼氏だ。

 風華ちゃんがこいつと別れてくれない限り、これからも付き合っていかなければならない相手。莉緒の体を共有している限り、その権利(・・)を巡って争う相手にもなり得る。


 それに、俺の最終目的は「莉緒を悲しませない」だ。目的を達成するためには、仲良くとまではいかなくても喧嘩し続けるわけにはいかない気もする。

 少なくとも、こいつのことを何も知らないのは、危険なことのように思った。


「……和也さんは、風華ちゃんとはどうやって知り合ったんですか?」


「お、俺のことに興味があるんだ。意外だね」


 またいちいちこんなことを……まったく、人をイライラさせるのが上手いやつだ。

 一瞬どっかの漫画のセリフが頭をよぎってしまった。


「……別に、言いたくなけりゃ言わなくていいっすよ」


「風華がさ、ナンパされて困ってそうだったんだ」


 和也は話し始めた。


「後から聞いたら、どうやら休日には順番に人格を交代して出かけていたらしいね。まあ確かに、ずっと莉緒ちゃんだったら、雷人くんと風華はストレス溜まっちゃうもんね。

 それで、風華が体を操ってる時にナンパされたらしくてさ。風華はすごくモテるから、たまに気に入った男がいたら遊んでたみたいなんだけどね。でもその時は、断ってもなかなか引き下がってくれなかったんだって」


「……へぇ」


「たまたま居合わせた俺は、困ってる風華を見てて、なんか可哀想になっちゃってさ。それを助けたんだ。

 俺、こう見えて喧嘩はそんな弱くないんだよ? 風華の彼氏だって言ってちょっと凄んでやったら、相手の男は漫画の雑魚キャラみたいに舌打ちして引き下がっていった。そいつも、殴り合いしてまで風華をモノにしようとは思ってなかったみたいでさ」


 まるで俺と正反対だ。

 そういうところもまたムカつく。


「そんで、俺も用事が終わった訳だから帰ろうとしたんだけどね」


「はぁ。それで?」


「〝キミは、あたしのことナンパしないんだ?〟

 って言われてさ。確かにすごく可愛いんだけど、めっちゃ自信過剰な奴じゃん、って。だから俺は、

 〝何でしないといけないの? 俺は別に女には困ってないし〟

 って返してやったんだ」


「…………」

 

「そしたらさ。

 〝ふーん。そうなんだ。でもさ、それって本当に好きな人はいないってことだよね〟

 とか言うんだよ。俺は、はあ? ってなって。そりゃなるよね、こんなこと言われたら」


 和也はクスクスと笑いながら話す。


「…………まあ。そうすね」


「その後、あいつなんて言ったと思う?

〝じゃあ、あたしのこと絶対に好きだって言わせてみせる。お試しでいいから、一ヶ月間だけ付き合ってみてよ〟

 だってさ。結局落とされて、このザマなんだけどね」 

 

 和也は楽しそうに話している。顔がニヤついているがこれは無意識じゃないかと思った。

 不思議なことだが、俺は、この和也の顔にはイライラしなかった。

 俺と莉緒に二人だけの思い出があるように、こいつと風華ちゃんにも思い出があるだろうから。


「今度は君の番だよ? 莉緒ちゃんとの馴れ初めの話」


 こいつに自分のことを話すなんて全然気が進まなかったが、こいつが話したんだから俺も話さないわけにはいかなかった。

 仕方がないので、莉緒との関係が始まった最初の出来事を思い出す。 


「……学校で、みんなで文化祭の催し物を作るってのに、莉緒はやりたくないって言い出して」


「はは。莉緒ちゃんなら言いそうだね」


「はい。そんでクラスの奴らに攻撃されたのを見ていられなくて、俺が助けたんすけど。そのお返しだったのか、その後、莉緒は不良に絡まれている俺を助けてくれて」


「ふぅん。俺と真逆だね」


「……ええ、まぁ。次の日になって、急に莉緒は俺をお昼に誘ってくれて。まあ、それは風華ちゃんだったんですけど」


「……風華が、君のことを誘ったの?」


「はい。あ──……えっと、それは、莉緒がどうやら頼んだらしいんですけどね」


「どうして莉緒ちゃんが風華に頼むの?」


「さぁ。きっと恥ずかしかったんじゃないですか」 


「……そう。莉緒ちゃんなら言うかもね……」


 俺たちの間に、また無言の時間が割り込んでくる。

 ちょっと和んだような感じもあったのに、途中でなんかまた空気が悪くなった気がする。

 そんなにマズい会話があったか?


「……君と莉緒ちゃんはさ。もうした(・・)の?」


「え!? ああ……その、まだ、ですけど」


「そうなんだ」


 同じ女性のカラダを共有している男同士でこういう会話をするのは、何だか不思議な気分で、恥ずかしくて、どこか嫌悪感というか、言いようもない拒絶感がある。

 でも、だからこそ彼氏としては気になるところだ。俺だって気になってる。だから、こいつがこんなことを尋ねてくる気持ちも理解はできる。


「和也さんは、その……もちろん……」


「うん。もう数えきれないほどにね」


 そんなふうに言わなくても……と思った。

 改善傾向にあったと思っていた怒りと嫌悪感は元に戻った。せっかく少しだけ近づけたのかと思ったが、やはりこいつは俺の感情を逆撫でしてくる。

 嫌な奴に違いはない。ちょっとでも心を開きかけた自分に、無性にムカついた。


「でもね、セックスしてるとき、風華はたまに変になるんだ」


「変?」


「うん。風華って、いつもすごく色っぽい顔をしてるんだけどね。急に表情がウブな女の子みたいになったりしてさ」


 ドクン、と鼓動が大きく暴れる。

 

 絶対に現実であってほしくなかったことが、今、まさに目の前にいる宿敵の言葉によって証明されようとしている。

 息が切れ始め、脳が沸騰し、何もかもが手に負えなくなっていく。


 こいつと話なんてしたいと思ってなかった俺は、これまであまり和也へ視線を向けていなかった。けど、今俺はこいつを視界から外そうとは思っていない。

 むしろ視線は和也に完全固定され、これでもかというほど力を込めた拳は次に敵が口にする言葉を待っている。


「何だろうね。いつもと違って喘ぎ声も全然違うし、色っぽいというより恥ずかしがっているようでさ。カラダだってちょっと優しく触れるだけでビクッてなっちゃったり、突かれてイっちゃう場所も全然違──」


 瞬間的にぶん殴る。

 頬におもっくそ俺の拳を受けた和也は吹っ飛んで椅子から転げ落ちた。


 砂浜に倒れた和也はゆっくりと上半身を起こす。

 奴の目は全く動揺してはいなかった。口に溜まった血をペッと砂浜に吐き、下から俺を睨め上げる。

 そうだろうな。敵対するつもりじゃなければ、最初からこんなことを言ったりしないんだ。


「……立てクソ野郎が。何度でもぶん殴ってやる」


「ははっ……何を怒っているのかな」

 

 余裕面を浮かべる和也へ、俺はすぐさま覆い被さるように掴みかかる。

 和也は喧嘩に手慣れているのか、マウントを取られたのにもかかわらず下から俺の顔面を的確にぶん殴り、俺もまた地面に転がった。

 と、そこへ雷人くんと結衣さんが戻ってくる。


「おい! お前ら何やってんだコラぁっ」


 二人に止められた俺たちは、それぞれ別の人に歯がいじめにされながら、それでも互いに視線を外さず睨み合っていた。





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