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第1話

「なんでーーーーーーーーー?!」

静香はありったけの声で周囲に響かせた。


「んなぁ~、あんまり大声で叫びなさんなぁ。」

と後姿の船頭さんが、振り向きもせずに言った。

が、何かおかしい、船頭さんの持っている物、竹竿(たけざお)ではない!


「パドル?なんでパドル?」

まだパニック状態なのにあまりの違和感にニワトリのように首を振りながら

静香は言った。


と同時に、


「ヘッドギアとライフジャケット?」

あまりの唐突さに少し冷静になった静香は、だんだん状況をつかめてきた。


すると船頭さんが突然


「はい、みなさま~こんにちはー、サンズランド、サンズリバーの旅へようこそ!

 私が船頭のサルです。これからみなさんを危険がいっぱいのサンズへと

 ご案内いたします。何が起こるか分からないサンズ。二度と戻ってこられない

 かも知れません。


 ああ、それから

 現在情報によりますと餓鬼が一匹行方不明、との報告がありました。

 みなさま~となりで魂を食べている人がいないか確認して下さ~い。」


ハンドマイクを片手になれたセリフを流れるようにしゃべる。


「サル?」

博物館で能のイベントに行ったときに買った

大飛出おおとびでというお面のアクリルキーホルダー。

そのお面をかぶった船頭に話しかけた。


「それでは、出発進行~、みなさんしっかり漕いでくださいね~」」

取り付く島もない様子だ!


他のお客さんと呼ばれた人たちは同じようにパドルを持ちヘッドギア、

ライフジャケットを着て、一分の隙もなく、まるで訓練でも受けたように


「さあいくゾ!、オー、力を抜けよ!、オー、

もう心配いらない、オー、苦しみも、オー、辛さも、オー、

 もうおさらばさ!、オー、これぞ我らのハンニャシンギョー!、オー」


━ なんだこの一体感とパドルさばきは?しかも般若心経なの?━


静香はそう思いながらも、このテンションに抗えずリズムに合わせて漕ぎ始めた。

水しぶきが飛び散り、ボートは激流を進んでいく。


どんどん船は…

気が付くと船は船でもゴムボートだった。

ボートは右に左に、突き出ている岩に当たり、はじかれながら、

気を抜くと外に放り出されるほどのスピードになっていた。


「左だ!もっと力を入れろ!」と、サルが指示を出す。


ほかの乗客は相変わらずハンニャシンギョーを舌を噛みながら唱え、漕いでいた。


「ねえ、ちょっと、これ本当に大丈夫なの?まるでラフティングじゃない!」

静香はサルに叫びかけたが、サルはニヤリと笑うだけで答えなかった。


すると突然、前方に巨大な岩が現れた。


「ちょっと、避けなさいよ!あんなのに当たったら木端微塵よ!」

静香の叫び声は激流にかき消される。


サルは気にせず、イベントお兄さんぶりを発揮しながら、

「みんな、準備は良いか?これからが本番だ!」と声を張り上げた。


なぜか乗客たちは、左右別の方向にパドルを漕ぎ始めた。

そして、ボートはグルグル回転しながら岩に向かって進んだ。


「いやぁああああああああ!」静香は叫ぶ。


シューッ


なぜか、岩だと思っていたらジャンプ台だった。

いや、ジャンプ台の形をした岩だった。


空中に勢いよくジャンプしたボートは回転しながら飛んだ。

その回転に合わせて、静香とサル以外の乗客は四方八方に飛び散った。


「ええええええええええええっ!」

パドルとボートの端を必死に抱えた静香は、落ちていった人たちを見た。


川に落ちた他の乗客は、相変わらずハンニャシンギョーを唱えながら、

ライフジャケットを着ているのにも拘わらず、沈んでいった。


「ちょっと、サル!みんな沈んじゃったわよ!」

相変わらず轟音を立ている激流の川に負けじと、静香は叫ぶ。


「ナムー!」ひょうひょうと片合掌でサルはつぶやく。


そして、静香に向かって、

「瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ」


今度は前方に巨大な音が響き渡る。

静香はその音の正体を確認しようと前を見ると、目の前には

巨大な滝が現れた。


「なんでこんなことに…」静香は目を閉じ、次の瞬間、ボートは滝の淵に達し、

彼女たちは一気に落下を始めた。


「ぎゃあああああああああ!」

静香の叫び声と同時に、ボートは滝壺に突っ込み、派手な音と共に

彼女の視界は失われていった。


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