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95,少女は空を飛ぶ

 魔術円の中に精霊文字の風を描き、水を描き、雷を描く。カメレオン烏や郡民コオロギのキング討伐時には知らなかった魔術で、リティアがこの1週間で頭に叩き込んだ中級魔術陣の1つだ。ソラの言ったようにテスト勉強も大切だけれども、できるだけ早く自分を両親に認めて貰うためにはハルドやラド、兄のリルドの手伝いをしていた実績作りも必要だと考えた。まだ魂喰いセイレーンを倒せていないし、ラドから体術も教えてもらっていないが、とりあえず今できることをやっている。この前の烏について自分達に何の危害も加えていないのに、こちらから倒しに行ったことはどうしてもひっかかるが、そうであっても今のリティアに立ち止まる時間はない。

「吹き荒れて下さい。」

リティアが発動させると、手が届かないほど上部で緑と青の精霊が混ざり合って大きな白い雲が発生し、そこに紫色と黄色が吸い込まれて真っ黒い雷雲が出来上がると、蛾の群れの統制が乱れ、一目散に四方八方で逃げる蛾と、勇敢にも立ち向かう蛾、抵抗できずに雲の中に吸い込まれる蛾に分かれていく。立ち向かった蛾も吸い込まれた蛾も、雷雲の中で身体を分解されたり、焦がされたりと絶命していき、それ以外の逃亡者は、真剣に戦うセイリンとディオンによって見えなくなるまで倒されていった。一通りオオカブト蛾の群れが消える頃には、リティアの魔術の効果も消失して黒い死骸が土の上に転がっている。

「り、リティ…今のは何だ?」

魔術発動からずっとあんぐりと口を開けたテルではなく、額から汗が滲み出ているセイリンが驚きつつも近づいてきた為、

「中級魔術です。最近、魔術陣の暗記しようと頑張っているので試してみました。」

リティアはセイリンをしっかりと見据える。2人会話を聞いていたハルドは、

「セイリン君が先程発動させた百合の傘も中級だよ。まだ入学したてなのに凄いよ、将来が楽しみだ。」

ニコニコと笑顔を振りまきながら麻袋を新たに広げて、スティックを使うふりして風の力で蛾の死骸を袋に入れてしまう。

「ハルド先生は、一度も戦わなかったですね。」

ディオンが魔女茸の麻袋を拾い上げて指摘すれば、ハルドの笑顔が消えて真顔になり、

「過保護ではないのでね。」

その麻袋と一緒に蛾を入れた麻袋もディオンに手渡すと、ディオンも嫌な顔せずに受け取り、

「相手と味方の力関係を理解しているとも言えますね。」

「それはないな。相手は分かっても、君達は未知数だから、今後も期待しているよ。」

ポンとディオンの肩に手を乗せれば、また笑顔を咲かせると、森全体に降り注いでいた朝日が途切れ途切れになっていく。

「あれ?空が暗い…」

テルの呟きと同時に、誰もが顔を上げると巨大な影が森より更に上空を移動している。小柄であるリティアの視界には皆の顔が映され、口を開けるテル、目を凝らすセイリンとディスク、ハルドだけが大きく目を見開いて影の動き方を目視する。この近辺をぐるぐると旋回しているようだった。

《ケルベロス!こいつは、魔術士団が仕留め損ねた飛行型魔獣だ!》

リティアの頭にハルドの声が届けば、

《そうか、近くにいる娘達を先に外へ運ぼう。お前達は来た道を走っていれば、我らが迎えに来てやる。》

《子ども達だけお願いするよ!俺1人なら戦える!》

リティアが聞いている中、ケルベロスとハルドはアイコンタクトを取りながら脳内で会話をし終わると、ケルベロスがボンっと馬のような大きさに変わった。

「おお!ケルベロスすごー!」

テルが目を輝かせて触りに来る前に、リティアが急いでセイリンの手を握り、

「セイリンちゃん、ケルベロスさんの背に乗りますよ!」

「なっ!?」

ぎょっとしたセイリンの傍でケルベロスが伏せ、リティアが先に乗ってその後ろを手で黒い背中を軽く叩くと、セイリンの唇がきつく結ばれてからその背を跨いだ瞬間、ケルベロスは力強く地面を蹴り上げて空高く飛び上がった。ケルベロスが空気を蹴るごとに視界が森の草木から暗い空へと変わり、リティアは黒い毛を強く握り、セイリンも左手だけで掴む。その勢いに圧されたテルは後退りし、ハルドにぶつかってまん丸い目をハルドに向ける。ハルドがその背中をバシッと背中を叩いて、

「2人とも!来た道を戻るよ!走って!!」

「ええ!?」

「承知しました!」

突然のことにおどおどとするテルの腕をハルドの代わりに察したディオンが引っ張って走り出す。空を飛んでいるリティアは首を回して、その光景を生い茂った葉の間から垣間見てから、セイリンに声をかける。

「私達より更に高いところを旋回しているあの魔獣はかなり強いようです。」

「それがこの森に降りてくるかもしれないから、急いで逃げるんだな?」

セイリンの確認にコクリと頷くと、ケルベロスの頭も下がり、馬車が待機している森の入口へと急降下を始める。後ろのセイリンが倒れ込むように姿勢を低くして、リティアの身体は巻き込まれるように上体をケルベロスの真ん中の首に押し付けられた。どんどん視界に大きくなる馬車の外にはギィダンが立っていて、目を擦りながらソラが扉を開けてこちらと目が合う。ケルベロスが馬車に突っ込む瞬間に身体を小型犬に戻し、リティアが馬車の屋根より高い位置で投げ出される形になると、セイリンの左腕が腹部に回されて、彼女は足の屈伸を使って地面に着地した。その後にセイリンの身体を降ろされて、ケルベロスは再び森の中へと向かった。

「ふ、2人共どうしたんだ?」

「皆で逃げるんです!怖い魔獣が森に降り」

「リティ!こちらに向かってきているぞ!」

馬車を降りたソラの疑問に答えている最中にセイリンの警告が耳に響き、慌てて上空を振り返れば、旋回していた黒い影に見えていた魔獣の赤い目は確かにこちらに向いていた。その魔獣の片腕は肘までしかなく、右の瞼に3本の切り傷があり、翼を1度羽ばたかせればググッと距離を縮めてくる。ギィダンがすぐさま指を剣に変えて構えた傍で、リティアが魔術陣を描き始めたらセイリンが同じ魔術陣を真似て、少し遅れたソラの魔術の方が先に発動して水の槍が放たれたが、魔獣の口からも放たれた炎の玉が槍を蒸発させて、そのままリティア達を燃やしに来た。次にリティアの魔術が発動すると空に虹色の雨傘が開き、視界を覆い尽くすほどのサイズの飛んできた炎を最後まで吸収して効力が消えると、寸前のところまで魔獣の残っている手が伸びてきていた。応戦する為にギィダンが剣を振り上げ、リティアももう一度魔術陣を描き始めると同時にセイリンから百合の大輪が咲き、魔獣の腕が百合の花弁の中へと飲み込まれて花が消滅すると、一度腕を引っ込めてから魔獣の猿のような口が大きく開き、この至近距離で炎を撃とうと喉の奥から燃え上がるものがあった。


ザシュ


ハルドの飛龍牙が背後から魔獣に襲いかかり、片翼を削ぎ落とした。魔獣の絶叫と共にゴトンと落ちたが、発生している炎は更に巨大化し続けていて、軽いステップで跳び上がったギィダンがその下唇を斬りつけると、魔獣は痛みに苦しみながらも緑色の太い舌を器用に動かしてギィダンを追い返す。口の中から漏れ出すほどの炎の塊は火の粉を飛ばしながらリティア達に迫り、ギィダンとセイリンがリティアの盾となるように前へ飛び出すと、彼らの目の前に小さな白い花弁、中心に鮮やかなレモン色を引き立たせたカモミールが無数に咲き乱れて、視界を覆い尽くす。少し後ろで再度発動させたリティアは、そのカモミールのすぐ傍で馬車を守るように再び虹色の雨傘を具現させれば、放たれた炎を取りこぼすことなく、防御魔術に無効化され、魔獣は雄叫びを上げた。

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