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94,少女は遭遇する

 セイリンが落としたスティックをハルドが拾い上げれば、セイリンの目線が自然と上を向く。

「先生…」

「君達はまだ魔術士の卵なのだから、ここで挫折するのは早いよ。たまたま、ディオン君は風の精霊と相性が良かっただけ。」

ハルドが微笑みながらスティックをセイリンに返し、

「俺も風を得意とするよ。他の魔術士も自分と相性の良い精霊を探し、魔術を使う。そういうもの。良いかい?」

腰を曲げて手を差し伸べると、微かにセイリンの頬が紅潮している。

「は、はい。」

セイリンは、ハルドの手に形だけ手を乗せて立ち上がってパンパンとズボンの埃を叩くと、ハルドは魔女茸を抱えながら心配そうにしているディオンにそこを少し離れるように指示を出すと、自らのスティックで魔術を発動させれば、フワフワと切り落とされた魔女茸が宙を浮き、また別の魔術陣を描いて麻袋の中へと飛び込ませる。リティアの目には、その魔術を補強する精霊がいくつも映り、見る人が見れば分かる魔法と魔術の併用であった。それを知らないテルは、大はしゃぎしてハルドに抱きつこうと飛びつき、セイリンが咄嗟に止めに入る。

「なんでなんで!凄かったよ!この興奮をぶつけたい!」

「猪のように突進するな!先生が受け止めきれなければ、怪我をさせるんだぞ!」

セイリンに不満をぶつけるテルは、リスのように頬を膨らませながら腰に両手を当ててバチバチと火花を散らしていて、魔女茸を袋に入れたディオンが鉄壁の笑みを作ってテルを至近距離で覗き込み、

「テルさん…私の大切なセイリン様を困らせてはいけませんよ?」

「ひぃ!?目が笑ってない!」

ブルッと身震いするテルは、今度は勝手に採取を始めているリティアに縋りつく。

「ディッ君が苛めるんだ…」

「テルさん、少しはしゃぎ過ぎかもしれませんよ。」

「…ごめん。」

苦笑いを浮かべたリティアにピシャリと指摘され、まん丸い目になりながら素直に謝るテルを見ながら、ハルドは麻袋の上を締めて左肩に背負うと、

「ほら、次の所に行くよ。人にぶつけなければ、魔術発動の練習しながら歩いて良いからね。」

そう言って誰よりも先に歩いて次の目的地へと誘導する。テルは小走りでハルドの横にくっつき、後ろに下がって習った魔術を懸命に練習するセイリンの隣に目を伏せたディオンが寄り添う。リティアは全員が視界に入るように少しだけ横に離れたところを歩く。この方が採取にも丁度良いというものもあるが、

「セイリンちゃん、手首が硬くなってて円が歪になってますよ。」

「ああ、分かった。」

セイリンにアドバイスをして、彼女の魔術陣の誤発動を防止に努めた。カサカサと足元の草が揺れて視線を傾けると、ケルベロスが大牙蟻の頭を踏みつけて害虫駆除をしていた為、蟻から尻から滲み出す体液を屈んで小瓶に掬う。

《おいおい、これも採取するのか?》

「はい、蟻酸は自己防衛に使えますから。」

コソコソとセイリン達に口の動きを見られないように手で隠しながら、ケルベロスに小声で説明する。

《傍から見たら変人だぞ。心の声で話しかけろ。》

ケルベロスから冷たい視線を受けてリティアの身体に緊張が走り、チラッと他のメンバーの様子を窺う。テルは体ごとハルドに向けていて、ハルドから屈んでいるリティアへと笑顔を向けられ、魔術練習をしていたはずのセイリンは青筋を立てて、隣を肘でどついた。

「ディオン…何故練習しないんだ?怠惰か?それとも私への傲慢か?」

「滅相もござまいません!!」

左手を腰に当てて睨みつけるセイリンに、ディオンは顔が外れるくらいの勢いで横に振る。

「私に気を使っているつもりなら、お門違いにも程がある。私がお前に引け目を感じることは私自身の問題だ。それをお前が気にする必要はない。」

セイリンがここで一呼吸置くと、瞳が揺れ動くディオンが口をパクパクとしているだけで言葉を繰り出せない姿を凝視し、

「そのせいで、お前が窮地に立ったときに己の力を出し切れずに死ぬようなことでもあったら、愚かしい自らを怨み、この首を落とすだろう。」

スティックを剣に見立てて自分の首を斬る仕草をしてみせると、サーッとディオンの血の気が引いていき、

「そのようなことは絶対にさせません!」

「ほう?では、しかと励め。お前の主は、無駄な死を認めないぞ。」

セイリンが睨みつけていた瞳を瞬きさせれば、スティックを再び外側に向けた。その姿に唾を飲み飲むディオン。

「怖い事言っているね。大丈夫、全員まとめて先生が守るから。」

不穏な空気を感じたハルドが、ニコッとセイリンに微笑むと彼女の耳が赤くなり、

「自分の身は自分で守ります!それにリティも」

「私もスティックがあればある程度戦えますので自分の事は大丈夫ですよ。」

そう意気込めば、リティアからの返答で明らかな動揺を見せる。

「リティ…!?」

「リティも採取ばかりにかまけてないで、練習しなよ。あとテル君も。時間は有限だよ。」

この話はおしまいと言わんばかりにハルドが手を叩けば、豆鉄砲を食らった顔のテルは魔術の練習を始め、リティアも空に向けて描いたことがない魔術陣の練習をしてみる。それを見たセイリンはリティアの動きを真似して、更にディオンも少し外れて真似てみると、先に発動したリティアの魔術で虹色の雨傘のように開く。セイリンも日傘のサイズで発動した後にディオンも雨傘になり、セイリンが首を傾げ、

「これは??」

「これは衝撃吸収の防御魔術です。二段発動すると相手の攻撃を反射することがありますと、本に書いてありました!」

リティアが声を弾ませながら説明すると、セイリンの傘が先に閉じた為、もう一度発動を試みると、セイリンの身体を覆い隠せるほどの大きな純白の百合が咲いた。

「おお!キレイ!」

それを見て喜んだテルが魔術陣を描くことを途中でやめてしまい、リティアが慌てて打ち消しを発動させる。

「おお、お見事。セイリン君は防御魔術と相性が良いのかもしれないね。青、緑、白い精霊が関係してくるものだから、今のは結構高度な魔術だ。」

「傘の状態と何が異なるのですか?」

パチパチと拍手するハルドに、グイグイと迫るセイリンをディオンが間に腕を入れて止めた。何も言わないハルドが視線をリティアに注げば、全員がリティアに注目して、リティアの瞬き回数が増える。

「…百合だけではなく、ダリア、椿、ハイビスカス、薔薇、向日葵、牡丹など色々あるそうですが、花のタイプは魔法攻撃だけでなく、物理攻撃すらも無効化可能だったはずです。」

「正解。その具現した花によって有効範囲がある程度決まっていて、百合が1つ咲くだけで建物を4軒は守れるよ。」

リティアの説明の後にハルドが微笑みながら補足すれば、セイリンの表情はグッと明るくなり、ディオンの青白かった顔にも血の気が戻ってきた。

「ガルルル!」

木々の間でハルドが突然立ち止まると、それと同時にケルベロスが開けた森の一点を睨みながら唸った。

「では、魔術の実践といこうか。実は君達より早く来たのは討伐以外に、手頃な魔獣をこの近辺に誘い込むためでもあったんだ。」

麻袋を後ろに放り投げたハルドがスティックを構えると、セイリンとディオンはハルドの右側に移動し、セイリンが前方を、ディオンが右斜を警戒する。また、テルもそれに習ってハルドの左側で前方を、リティアは数歩下がって全体を見ると、黒いモヤが森の奥から近づいてくる。

「オオカブト蛾の群れ!!」

目を凝らしたテルが声を張り上げると、くるんとスティックを回して緑色の精霊を自らの傍に引き寄せてから先程習った風の刃を二段発動させて、飛んでくる蛾を2体だけ倒した。セイリンは氷の槍を連発させて、ディオンも風の槍を二段発動させる。氷の槍で1体を串刺しに、一回り大きい風の槍は3体の胴体に突き刺さった。

「…。」

リティアは誰よりも複雑な魔術陣を描くことに時間を費やし、上空まで迫ってくる蛾と目が合うまで描き続けて、蛾の群れの口が開いた瞬間に発動させた。

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