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374,少年は羨望する

 飛行型魔獣が逃げるその後ろ姿を見届ける魔法士達。リルドは、ディオンの代わりに金剛剣を空中で掴む。

「本当に君とは仲良くできない。」

《お前なんぞ選んでやるか。》

リルドと金剛剣が喧嘩している声が聞こえてくる。魔獣を見送ったバフィンがくるくると宙を舞うリーフィを抱えて、階段を蹴ってこちらへと飛んできて、ジャックと黒髪の魔法士の盾に蹴りを食らわせる。衝撃で地面が震えたが、割れる音は聞こえず、

「かてぇ!」

バフィンが呻いた。リーフィは彼の腕から自由になり、巻きスカートを靡かせて着地する。ジャックは笑いながら盾を消失させ、

「ねぇ、可愛い聖女様に何があったの?」

ディオンの顔を覗き込んできた。彼はリティアを知っているという事。リルドとも知り合いのリティアだ。彼の仲間が知っていてもおかしくはない。または、リティアが助けた『ジャック』本人なのかもしれない。ハルドの友人。初めて出会った時は、炎そのものという魔獣だった。魔法士が何らかの力で魔獣と化すのか?ディオンは、顔面に力を入れてこちらの思考を気取られないよう注意しながら、

「ええ。ただ、どこまでお話して良いのかは、ラド先生に尋ねなくてはなりませんが…」

今ここにいないラドに投げると、ジャックの身体がブルッと震えた気がした。

「ラドさん、そろそろいらっしゃいますね。」

リーフィがニコリと笑顔になると同時に、姿は見えずとも蹄の音が届いてくる。あの速度では跨る人間を選ぶが、本当にヒメの脚力は目を見張るものだ。宙を浮いていたリルドが、ディオンの元に剣を運ぶと、剣自らディオンの手に収まる。炎や雷で焦げている事もなく、普段はひんやりと冷たい柄が熱くなっている。剣先についていた魔石がなくなっていて、

「その剣は、食事が終わって満腹だと思うよ。けれど、俺達は空腹。そこの街まで歩くと大変だから馬車で移動しようか。ラドもついてくるさ。」

リルドがそう提案すると、バフィンの魔法なのか、裂け目が閉じて馬車が地面ごと運ばれてくる。

「ラド先生ともお知り合いなんですね。」

「まあ。ハルの後輩だしね。」

リルドの厚意で馬車に手招きされた時、彼に確認がてらの前準備として聞き出すディオン。何も疑わず話す彼にもう一手と鎌をかける。

「ラド先生は、ジャックさんの弟さんと伺っております。」

「まあ、血の繋がりはないけどね。俺も君の事、カルファス君やリティからよく聞いているよ。あと、君の叔父さんの事も。」

ラドの身元からハルド達の事を導き出せると思った自分が甘かった。仮面を下を見せないこの相手は、こちらが知らないところで他の人間と繋がっていて、口で言わずとも圧力をかけてきている。これ以上彼らの関係性、ディオンが本当に知りたいリティアとの関係について、深く聞く資格はないという事だ。

「リルド兄さんは、お知り合いが多いですものねー!」

隣に座った純粋な笑みを浮かべるリーフィの言葉に違和感を覚えて、すかさず切り込みに行く。

「あれ?リーフィさんのお兄さんなのですか?リティアさんの話だと…」

「僕の本当のお兄さんよりもお兄さんらしいので、慕っているんですよ。」

リーフィがうっとりと瞼を閉じると、それに合わせてリルドが頭を撫でた。

「気がついたら、妹が2人に増えてるんだ。可愛いよね。」

小動物のように扱われているリーフィは、もっともっとと頭を差し出し、彼もまたそれに応えると、

「隊長は一人っ子ですよね。勝手に兄弟を増やさないで下さい。」

「ケー君、良いんじゃないのー?てめぇが口出す事じゃねぇぞ?」

ケーと呼ばれる黒髪の魔法士が肩を竦め、彼の隣のジャックだけが仮面を外していて、その瞼を片側だけ大きく開いた。赤い目がぎらつき、いかにも危険な人間に見えるのだが、

「やべーやつだ。麗しと通常のジャックが混ざってる!」

「ジャック、穴だらけにして良いんだよな?」

リーフィを挟んで反対側に座っているバフィンが豪快に笑い、ケーは弓をジャックの首に突きつける。

「ギャハハハッ!できるもんならやってみやがれってんだ!」

ケーの弓を掴んで舌を出すジャック。ディオンからしたら強い魔法士集団の喧嘩ほど怖いものはない。この狭い空間では、確実に巻き込まれる。

「感電したいのは誰?」

リルドの冷ややかな声のみで、一触即発状態になっていたケーとジャックが鎮火した。馬車の横まで激しい蹄の音が近づき、バフィンが扉を開けると、そこにはヒメに跨ったラド。ここで、ギィダンの馬車が停まる。誰よりも先にジャックが降りると、ラドの焔龍号を首元に突きつけられ、

「いじめちゃやーよ?ギャハ!」

怯む素振りもなく、ジャックは楽しそうに笑った。リルドとディオン、リーフィは反対側から降り、顔のないギィダンを見上げる。

「ギィは、普通の人には顔があるように見せているから、問題はないよ。それじゃあ、リーフィ。こちらは仕事があるから。」

「はい、また後で落ち合いましょう。それではこちらへ。」

リルドにそう教えられ、彼に頭を下げたリーフィは、ディオンの手を取った。


 喫茶店に連れて行かれたディオンは、リーフィと同じテーブルでまともな食事を摂る。他の客の女性達がチラチラとこちらを覗っているが、リーフィは全く気にする事なく紅茶を楽しんでいた。

「ディオンさん、何か気になる事でも?」

女性達からの好奇心に満ちた眼差しに肩を竦めたディオンに、小首を傾げるリーフィ。この仕草は女性らしいが、食事をしているだけならば男性ぽさもある。これは目を引くとは思う。

「え、まあ。色々と。リーフィさんは、女性に注目されている事に慣れておられるみたいですね。」

とりあえずディオンは、当たり障りない形で聞いてみる。彼女はカップを静かに置いて、

「そうですね…どんな目を向けられるのも慣れましたし、慣れないとティアちゃんと遊びに行けませんから。ティアちゃんに何があったのですか…?」

表情を曇らせた為、ディオンはこの数日であった出来事を話す。ジャック達を警戒して話さなかった自分が、心配している彼女には自然と口が滑ってしまった。旧校舎の存在、歴史上の存在であるレイン、精霊人形もまとめて話すしかない。彼女は何度も頷き、

「精霊人形アリシアですよね。僕の周りにもギィダンさんやロゼットさん、今は眠っておりますがカノンさんもいらっしゃいますから、信じますよ。」

ディオンが知らない情報を与えてくれた。だから、ギィダンは頭がなくても動けるのか。確かにあの魔獣も『人形』と言っていたと、納得をする。

「…そうなんですね。」

「しかし、レインさんと結託するなんてあるのでしょうか…。アリシアはルナ様の人形ですよ。リンノ兄さんに聞いても分からないでしょう…リルド兄さんなら何か知っているかもしれませんね。」

瞼を閉じて悩むリーフィ。魔術士である兄を持ち、魔法士と親密な関係を持つ彼女を見ていると、恐らくリティアもそうなのだろうと理解できる。もしかしたら家族ぐるみの長い付き合いか。そうだとしたら、本当にリルドに対しての恋愛感情はないかもしれない。彼女を怒らせてしまった手前、謝る方法も考えなくてはいけない。

「…しかし、凄いですね。魔術士一族は、魔法士一族との交流があるのですね。騎士は全くその交流がない…。」

サンドイッチを食べるディオンの口から、ポロッと彼女への羨望の言葉が溢れる。リーフィが少し思案したかと思うと、

「魔獣退治を生業にしてますから、魔術士も魔法士の皆さんとも面識がありますよ。騎士の方の中にも、そういう方はいらっしゃると思います。」

ニッコリと笑顔を見せてくれた。

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