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357,少女は姿見に立つ

 ダイロは呆気なくリンノにホテルの1室に連行され、その途中で女子生徒に囲まれて身動きが取れないハルドに出会った。テルのハルドを探す声が外で聞こえてくるが、女子生徒の壁によって窓に近づく事もできなかったようだ。

「ハルド先生は、今から侵入者の尋問をしますので、関係ない生徒は退きなさい。」

リンノの落雷のような一言に、玉が弾けるように散っている女子達。そのうち何人かは、頻りにこちらを振り返りつつ、去っていった。手がやっと空いたハルドが1番最初にした事は、

「テル君!リティ達と合流したから戻っておいで!」

窓を開けて叫ぶ事だった。ハルドとリンノを交互に睨むダイロと、怯える少女は、そのまま部屋に連れて行かれ、リティア達は締め出しとなった。間を置かずにメイド服姿のリーフィが退出してきて、

「ティアちゃん、そろそろお着替えしましょうか。」

「あ、はい。あの、大丈夫ですか?」

その格好でリンノに怒られなかったかが心配だ。とりあえず、リーフィの目が腫れている感じはない。

「心配せずとも兄さんの説教を延々と聞かされるだけですよ。しかし、ああいう人って物覚えが悪いのでしょうかね。去年も兄さんの怒号が飛んだ人ですよ。」

リティアの心配は、リーフィに向けられたものだったが、彼女は連行された人の事だと思ったらしい回答が返ってきて、

「…という事は、ダイロ様とリンノ先生は顔見知りですか?」

「兄さんの嫌いな性格の人なんで、仲は良くないかと。ああ、皆さんはホールでお待ち下さい。ティアちゃんは、こちらの部屋ですよ。」

セセリからの鋭い確認が入るが、リーフィはのらりくらりな返しをして、リティアの手を取る。考えて発言をしているというよりは、言われた言葉にパッと反応しているだけに見え、リティアは用心深く彼女の下瞼を覗き込んだ。

「フィーさん、寝不足ですか?」

「す、すみません…」

目の下に隈。ファンデーションで隠していたようだが、近くで見ればその不自然さに気がつく。彼女は逃げるように、ダイロが連行された部屋の隣へとリティアを誘い、リティアはついてこようとしたセイリンに手を振って、

「セイリンちゃん。そのコーディネート、お似合いです。では、また後で。」

彼女の足が止まった瞬間、扉を閉めて鍵をかけた。


 カーテンが閉め切られた部屋のテーブルに並べられたメイク道具と香水瓶、椅子にはアクセサリーボックスが積まれている。リーフィが、まず手に取ったのは、湿らせたタオル。身体を軽く拭うのだろう。リティアは、リーフィに背中を向けながら制服を脱ぎ始めて、聞いてみる。

「あのダイロって人は、以前どうしてリンノさんに怒られたのですか?」

「あー。四番隊は、王都近郊の巡回の任に就いていて、その日、通常の巡回ルートよりも先にある10年ほど前に焼け落ちた集落跡地まで足を伸ばしたの。そこで幼子を生き埋めにして、スコップで頭をかち割ろうとしたあの男を発見した兄さんが蹴り飛ばして。隊の1番後ろから見ていたんだけど、人間ってあんなに綺麗に弧を描いて飛ぶんだーって感心したなー。」

ペラペラと話してくれるリーフィは、リティアの首からポンポンと優しく拭いた。ところどころくすぐったい。

「その後、子どもはどうなりました?」

「勿論、保護して孤児院へ。あの男を囲んでいた従者達の目の前で、兄さんの説教が始まり、自分達も終わるまで延々と聞かされたかな。」

子どもが無事で良かったと思いつつも、その光景は何となく想像に容易い。先程のあの調子で説教されたのだろう。それだけの説教をされたのに、ダイロが憶えていない事に妙に引っかかる。リティアは、用意されたストッキングとパニエを穿いてから、以前贈られた純白のドレスに袖を通す。背中のファスナーをリーフィに閉めてもらいながら、

「リンノさん、お強いですね。」

「あの兄さんだから。あの後は、暫く見かけてなくて…。ティアちゃん、レースグローブは最後で大丈夫。先にメイクをしようね。」

手袋を手に取ろうとすると、彼女に椅子へと促される。

「お願いします。フィーさん、スカートについて何も言われませんでしたか?」

「ハルドさんが、兄さんの前で声をかけてくれてさ。ティアちゃんの身支度を手伝うのに、男装は目立つと。兄さんも、自分に抵抗なければ変装すると良いって言ってくれたんだよ。」

リーフィは、リティアの顔にメイクを施しながら、今回の格好について教えてくれた。

「流石ですね。」

「本当。そのお陰で、叱られずに堂々と歩ける。と言っても、ティアちゃんも兄さんに色々と僕の事を言ってくれたみたいで、以前よりも優しく接してくれてね。」

ハルドの掌で踊らされるリンノも想像に容易い。

リーフィがリティアの髪を櫛で梳かした後に、豚毛ブラシで撫でるように整える。

「私も再会するまで、凄く怖い人だったので…。彼への誤解が解けて良かったと思います。」

「僕もだよ。目つきが悪いって、ティアちゃんに指摘をされたらしくて、それについての謝罪もあって笑っちゃった。」

リーフィはクスッと笑みを溢し、白いパールの連がついた薄紫色の細身のレースを手に取った。リティアの視界から後方へ消えたレース。

「そこまではっきりは…言ってないような。そのレースリボンをどうするのですか?」

「ティアちゃんの髪と一緒に編み込むよー。」

リーフィは嬉々とした声でそう言うと、手際良くリティアの両サイドの髪を三編みしていき、その2つの三編みを後ろで合わせる。どうなっているのか、見たいのに今は見られない。うずうずとしながら、彼女の手が止まるまで我慢する。今度は幅がある同じ色のレースが目の前から持っていかれ、シュルっと擦れる音が聞こえてくる。更にリーフィは、立体的に編まれた白レースの小ぶりな花束のコサージュまで手に取った。リーフィの手からコサージュが無くなったと思うと、彼女はラベンダーアメジストのビーズで作られた揺れる藤の花のイヤリングをリティアの耳につけた。

「あれ?以前、ドレスと一緒にイヤリングを頂いてますが…。」

「実は、ティアちゃんのメイクをさせてもらえるって話が来た時に、どんな風に仕上げるか考えて、イヤリングを新たに用意してみたの。」

リティアが首を傾げると、頭の位置を戻されてしまう。そして立ち襟の前には、大粒の紫パールのネックレスがかけられた。均一ではない色味のグラデーションが見え隠れして、これ1つだけで味わいがある。

「こ、これは…高価すぎて、グレス兄さんに買ってもらったから、その。うん。」

「そ、そうなんですね。ぶつけないように気をつけます。」

スッとグローブを手渡されて、リティアは着けながら気持ちスキップしながら、急いで姿見の前に立った。唇に自然な紅色が乗せられて艶があり、アイシャドウにぼかされた薄紫色とキラキラと銀色のラメが輝く。姿見に映る笑顔のリーフィが後ろから鏡を持ってきてくれて、後ろの髪も見せてもらえた。銀髪の両サイドの三つ編みに編み込まれたレースの色が際立ち、その2つを更に大きなリボン結びでまとめられて、リボンの中心に先程のコサージュ。凝りに凝っている髪型を、リティアは顔を左右に動かして、色々な角度から楽しむ。

「気に入って頂けたかな?」

「はい!とっても!私が私ではないみたいです!」

振り返って笑顔を向けると、リーフィからも満開の笑顔が咲いた。リーフィは、鏡をテーブルに置いてから香水をいくつも手に取り、

「じゃあ、仕上げしようね。」

リティアの前でハンカチに香水を当てた。

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