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338,従者は問う

 昨日は、半ば強制的に大物取りの作戦会議に参加させられ、調合室を出た瞬間に冷ややかな眼差しのディオンと、燃えゆる闘志に満ちた睨みを効かせてくるセイリン達の視線を全身に浴びながら、寮室へ戻った。そして、今日もまた調合室に招集される。教師として赴任してきたリンノは、堂々と校内と男子寮を行き来していて、他の男子生徒が不思議そうにこちらを見ているのだ。

「他の先生方が寮を歩く事は殆どないのですが、何故リンノ先生はなさるのですか?」

カルファスが昨夜不思議がっていた事を、代わりにセセリが問うと、

「何故だと思いますか?」

前を歩くリンノに質問を返されてしまう。セセリが隣を歩くマドンに目を向けると、その深い紫色の髪を軽くかき上げながら、

「失礼な発言になったとしても、宜しいでしょうか?」

「そんな発言でしたら、赴任してからずっとリティアにぶつけられてますよ。」

発言の許しを得ようとすると、軽く苦笑するリンノ。その表情には不快感は示されてなく、どちらからというと少し嬉しそうにも見えた。

「…あのリティア様からですか。」

「それだけ心を許しているのでしょうね。」

マドンの眉間にシワが寄り、セセリがリンノの表情から考えられる事を言ってみると、

「嫌、心底嫌っているんだと思いますよ。御友人の皆さんには言いませんし。」

「それは違うと思いますよ。リティは、あまり他人と関わる事が得意ではありませんから、私達を『友人』と言いつつも、一線引いているんだと考えます。」

リンノは肩を竦めたが、すかさずカルファスからの指摘が入った。寮を出て校内を歩けば、夕陽が窓から差し込み、赤い絨毯を更に深い赤へと変えていく。

「そうですかね。彼女と仲良くなれれば、下の弟とも話せる気がするので、もう少し頑張って関わりましょうか。それで、どうです?何故寮に居るんでしょうね?」

「秘密で魔獣を飼っている…なんて。まあ、それはいくらなんでも」

何気なくしたセセリの質問に話が戻されて、1階の接続通路を通りながら、マドンが必死に考えてくれたが、

「リティアの寮室には、2体の魔獣が寝泊まりしてます。全員とは言わなくても知っている生徒は数多いでしょう。どうせ、秘密で飼うなんて無理ですよ。」

「確かにそうですね。寮に棲まう魔獣が居て、捜している…は如何でしょう?」

ヤレヤレと肩を竦めるリンノへ、カルファスが答えてみる。

「基本的に寮内には、外からの悪意の侵入は不可能。もし、迷い込んだならば、内部の人間の仕業でしょうね。」

「では、生徒の顔と名前を一致させようと?」

不正解だったようで、マドンが更に当てずっぽうで言ってはみたが、

「それであれば、毎日話しかけに行けば良いのですよ。」

階段を昇りながら首を横に振るリンノ。

「寮に泊まっているは、どうでしょう?」

「いえ、街にあります。」

セセリも必死に考えてみたが、リンノから即答され、

「ええっと…」

「アリシアさんに会いたいとか?」

3人で頭を捻らすと、調合室からひょこっと顔を出したリティアもこの談笑のようなクイズに参加してきた。男子寮から始まったこの話を何処から聞いていたのか。それを考えると背筋が凍る。マドンの瞳も見開き、カルファスは喉を鳴らす。ただ一人、リンノだけは驚く素振りすらない。

「リティア…」

「あ、正解ですかね。」

リンノの声のトーンがあからさまに下がり、リティアが良い笑顔で喜ぶと、その後ろから顔を出すハルド。

「意中のお相手なら、しっかり興味を引かないとねー。」

「お二人共、何処から聞いてました?」

クックッと小さめに笑うハルドまで、ズイズイと大股で彼に迫るリンノに、

「ここから、精霊を使って。」

「…。」

ハルドは愉快そうに笑いながら、無言になったリンノを教室内に引っ張り、こちらに手招きをする。カルファスに続き、自分達も入室すると、

「拗ねない拗ねない。さあ、始めようか。魔獣化した存在の捕獲作戦をね。」

扉の裏に居たらしいラドが、こちらを睨んでいるように見えた。


 1冊の本を片手に倉庫の扉を開けるハルド。1番後ろにはラドがついてきている。ハルドの隣を歩くリティアが振り返ってニコニコと笑顔をこちらへ向けると、

「リンノさん、行ってきます。クラゲさん、この手にいらしてください。」

カルファスの後ろをわざわざ陣取っていたリンノに手を振り、その手の中に透明な傘が突然現れて、一瞬セセリの息が止まる。隣のマドンの瞳も大きく揺れ、

「リ、リティ、遂に魔法が使えるようになったのかい…?」

カルファスの感極まって震えた声。

「いえ、クラゲさんの方から来てくれただけです。」

「捉え方は人それぞれ。まあ、リティの良いところではあるよ。」

リティアが嬉しそうに傘を抱きしめて、ハルドも振り返って目を細める。大きな動きで肩を竦めるリンノが、

「はあ…こんなのが魔法であるわけないでしょう。リティアは精霊の中継地点とされて、恥ずかしくないんですか?」

リティアに攻撃的な発言をした瞬間、紅い柄の槍が、セセリとマドンの間から突き出されると、

「貴様、背後を取られているという事が分かっているのか?」

「これだから、ジャックの弟はー。兄弟揃って喧嘩しか脳がないんですよね。」

セセリの前に水の壁が出現する。あー、ヤダヤダ、と首を横に振るリンノの魔法なのだろう。

「リンノ、売り言葉と買い言葉って分かる?お前が売ったの。」

「私は、何を言われても構いませんよ。使えないのは事実ですし。」

ハルドがため息を吐いたが、傷つけられた筈のリティアはケロッとしている。

「先輩方に首を落とされる前に退散しますよ。リティア、勝手に突っ走るのではありませんよ。死なれては困るのですから。」

「精一杯のデレが出た。」

リンノが倉庫の隅へ退けると、ハルドから笑いが溢れた瞬間にセセリの視界が暗転した。ゆっくりと視界が広がると、ずっと前から魔術士団で話には聞いていた旧校舎のロビーに立っていた。カルファスは、目を輝かせてキョロキョロと見渡していて、彼を挟むようにセセリとマドンは並んで歩く。リティアの顔から笑顔が消えて、ラドが彼女の隣につく。ハルドは先頭を行くようだ。

「すぐに会えるかは、俺にも分からないから。」

「会えますよ、だってとてもお優しい方ですもの。ハルさんが来たって分かったら、手を貸して下さいます。」

ハルドから警戒しろという忠告とセセリは捉えたが、リティアはそうでなかったようで、彼へと真剣な表情からふわっと微笑んだ。

「リティ、君が優しいよ。そうだね、あの呼び方で呼ぶかー。」

フフッと笑みを零すハルドを見ても、セセリの捉え方で正解だったようだ。長い通路に足を踏み入れたところで、

「『麗しのジャックちゃん』!!俺達と話をしよう!」

ハルドが声を張り上げた。その声は不思議なくらい木霊して、風の魔法を使ったのだろうと推測できた。しかし、何かが動く音はせず、待つこと数分。

「炎の精霊が増えないね…」

ハルドは肩を落とす。駄目だったのか。足で探すしかないだろうと、通路を歩き始めた途端の事だった。

「あ!ジャックさんは、こちらですって!」

リティアが勝手に近くの階段を昇り始め、ほぼ同時にハルドとラドの腕が伸びて彼女を止める。

「勝手に動かないで。」

「す、すみません。」

ハルドに怒られて、落ち込む彼女。ラドが代わりに階段を見上げ、

「確かに、炎の精霊がこちらの様子を伺っているみたいだ。しかし、どうやって?」

「色んな精霊さんが、こっちだよーって教えてくれました。」

ラドが怪訝そうにハルドと目を合わせると、リティアの嬉々とした言葉に、眉間にシワが寄る。これは、魔法ではないのか?セセリは、心にモヤを抱えたまま、彼らと共に階段を昇って行った。

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