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330,教師は差し出す

祝!330話!

麗しのジャックちゃんは、ハルドの事が分かったのか…

ジャックちゃんと焔龍号を扱うラドの攻防を書きたかった…(書くスペースを見つけられなかった)

という事で、まだまだジャックちゃんをよろしくお願いしまーす!

 夕方の職員を集めた会議は、混沌とした。魔術力剥奪の議論は白熱し、マークの母親が泣き始める程だ。長らく口を開かなかったラドが立ち上がり、教師達の注目が集まる。

「魔術力剥奪理由は、他人を殺そうとしたからです。けれども、自分の身を投げ捨ててでも他人を守ろうとした少年が、本当に同級生の死を望むものでしょうか?私は、彼の意思ではないと判断します。」

体育教師としての顔で話し始めると、休日出勤した教師に動揺が広がる。試験時にマークを違反者として突き出したのは、紛れもなくラドだ。

「私自身は、まだ知らない事が多くありますが、発言する事をお許し下さい。魔術士は、入団する前から上司に命令を受けると聞いた事があります。もしマーク殿もそうであった場合、剥奪をしてしまうと取り返しのつかない事態を招きます。今一度、お考え直し下さい。」

リンノがマークを擁護した途端に、教頭とゴーフルが手のひらを返して擁護に回った。校長は試験時の会議と同じで、静かに耳を傾けるだけで発言する事はない。これが彼のやり方なんだとは思う。教頭とゴーフルは上が同じだが、マークは異なるという事か。あの紙には、セセリの名が書いてあった。もしかして教頭またはゴーフルが、マークを脅したのか。はたまた…

「で、では、ですよ。」

突然ミィリが口を開き、ハルドの意識が彼女に向いた。

「『魔獣被害者の被験又は保護規則』を適用されては如何ですか?」

それは、シャーヌのように長期間被害に遭った存在に適用される保護規則。今回のマークは、捕まっていた期間が短過ぎた。職員室内がざわつき始め、その規則が古いのなんのと他の議論まで湧き上がる。そんな中、

「ミィリ先生、とても素晴らしい案であると考えます。」

遂に校長の口が開いた。珍しい人間の声に、場が静まり返る。

「その保護規則によると、被害生徒は魔術が使える大人の監視下に置かれ、この学校から一定期間離れる事になります。彼の心の傷を癒す為にも、そして今後の将来の為にも、ハルド先生は何処で保護を受ける事が妥当だと考えますか?」

「そうですね…」

校長から振られた話を教師の雑音の中で、考える。口を動かしている教師にラドの視線が向くと、何人が静かになった事か。

「アランティアの町にある魔術士養成学校は、如何ですか?」

「あの田舎に、こんな危ない生徒を押し付けるのか!?」

色々考えた結果のハルドの提案に、探索器具や実験器具を駆使して魔獣の体液を抽出する事を専門としている初老の男性教師が、反対を意味する声を張り上げた。

「アランティアは、私の故郷付近の街でありまして、こちらからも1人お目付け役をつける、で良いですよね?」

ハルドは、敢えて声を抑えて重ねるように提案をすると、ハルドの話が聞き取れない他の教師からの視線を浴びて、初老の男性教師の喚いた声は止まる。

「それでしたら、安心して預けられますね。それでは私から手紙を送りましょう。ハルド先生の御親戚と、アランティアの学校から受諾の返答を受け取り次第、マーク君は転校となります。」

しっかりと聞こえていたらしい校長からの決定で、職員室は拍手が巻き起こる。マークの口が開いてしまい、何が起きたか分からないようだった。その彼の手を取りにラドが立ち上がり、

「マーク君、今度は『国の中核』で再会できる事を楽しみにしておりますね。頑張って下さい。」

「あっ…あっ…ラド先生、ありがとうございます!」

ラドが暗に『王国団』の事を匂わせると、マークは涙を流してラドと握手する。マラノクがすかさず立ち上がり、深々と頭を下げて、

「先生方、我が息子の件を考え直して下さり、深く感謝しております!」

礼を言い終わるまで待ってから、ハルドも教師達に頭を軽く下げ、

「では休日出勤して頂き、ありがとうございました。この後は、関係者のみでの話し合いとなります。また明後日からも宜しくお願い致します。」

ここで解散をさせた。ミィリの機転と、校長の英断に感謝しつつ、次にすべき事へ動き始めた。


 校長室での話し合いが終わると、ゴーフルが通路でリンノを待っていた。ハルドへ視線を送ってきたリンノに軽く頷けば、ゴーフルに保健室へと連れて行かれた。こちらは盗聴できるように精霊を配置しておいてあるので、どんな話が飛び出すかが楽しみでもあった。ラドはかなり堪えながら、マークの話を何度も何度も聞いてやっていて、母親は校長と今後のマークの行き先についての相談をしていた。マラノクを連れて職員室に戻り、ハルドはあの件を切り出す。

「中距離通話の時のお話を覚えてますか?」

「はい、紙がどうのって。」

しっかりと憶えていてくれて話が早い。ハルドが引き出しから取り出したあの紙を、彼に差し出す。眉をひそめながらそれを受け取って眺めるマラノクに、

「これ、本物の指示書です。買収された教師の所から手に入れました。ここに、セセリ君の名前があるんです。」

「本当ですね。待って下さい、ハルド殿もありますし、あのお嬢様まで名前が挙がっているではありませんか。しかも、差出人は団長ですと…」

指差して該当箇所を注目してもうと、ぐぬぬと唇を噛む彼。彼の頭の中は、今大忙しだろう。

「ここに関しては、代筆か、名を騙っただけか。今そこが不鮮明でして。文字が彼のではなさそうですよね。」

「言われてみれば…。分かりました。息子の未来を守って下さったこの恩を胸に、こちらでも探ってみます。」

リティアが指摘していた事をあたかも自分が考えた事のように指摘をすると、彼も簡単に納得して協力を取り付けられた。

「はい、よろしくお願い致します。頼りにしておりますよ。」

「お任せ下さい。」

いつも通りにハルドが微笑めば、深々と礼をするマラノク。彼への情報提供が吉と出るか凶と出るか、それが分かるのはまだまだ先になりそうだ。


 王都から南東部に位置して、この学園都市から東に只管進み、更に二山超えた先にあるアランティア町の魔術士養成学校は、学園都市と呼ばれるこの街のこの魔術士養成高等学園から派生した学校だが、国内での知名度が低く、魔術を教えられる教師も充実していない。そして、アカデミー兼研究施設へ進む道もない地方の学校である。進みたければ、こちらの試験を突破して入学なり、編入をしなくてはいけない。

「交流しようと思えばできるんだけど、こっちの長が口出しするんだろうな…」

ハルドはポリポリと頬を掻きながら、今日最後の用事を済ませる為に、手土産にお気に入りのロールケーキをぶら下げて、喫茶スインキーの扉を開いた。

「いらっしゃいませー!って、おっさーん!あそこの席開けるから少し待ってて!」

あれだけの事があったというのに、いつも以上に元気なシャーリー。疲れ果てたであろうリティアがテーブルにうつ伏せで寝息を立てていて、その肩から背中に紺色のチェック柄のブランケットがかけられていた。テーブルの上は本とメモ紙、インクがついた万年筆。シャーリーが他のテーブルを片付けしている間に、リティアのテーブルを簡単に整えた。

「おっさーん…起こすなよー?」

「起こさないよ。今、忙しい?」

シャーリーにテーブルへ案内されながら小声で話す。椅子に腰をかけてから、

「いや、一応配膳は落ち着いたかな?」

「じゃあ、これが差し入れ。閉店後に食べて。」

ぐるっと店内を見渡した彼女の手に紙袋を握らせれば、

「お、気が利くー。んで、今日もハンバーガーと珈琲?」

「うん。それでお願い。」

目を輝かせてスキップしながら厨房へ戻っていく。あそこに寝ているリティアは、責任持って連れて帰ろうと、珈琲を待ちながら眺めていた。

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