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326,少女は守られる

 夜遅くに部屋に戻ってから次の動きまで、4時間もない。一旦、ベッドで休んでから、昨日みたいに日が昇る前に玄関で待ち合わせた。今日は、学校が再開してから最初の休日。他の生徒達の動きが変わるので注意が必要だったが、まだとりあえず皆は眠っている時間で、シャーリー達と合流後、倉庫へ向かった。

「とりあえず、デーティ殿とリファラル殿のペアで動かれるとの事で、お二人は先に行っております。」

倉庫に先に着いていたリンノの説明を受けて、リティアはたまたま傍にいたソラの手を取る。彼に丸い目を剝けられた事は気にせずに、虹の床に進んで旧校舎へ降りた。ロビーには既にラドが来ていて、後からディオンとセイリン、シャーリーとハルドペア、リンノが降りてきた。ハルドを先頭にして、その後ろすぐにリティアが歩く。ラドとリンノが最後方を歩き、周りを警戒する。セイリンはシャーリーをエスコートするように手を繋ぎ、それを挟むようにソラとディオンが横一列で歩いていた。

「文字を探さないとね。正解なら、塔に入れるはず。」

「不正解だとどうなるんですか?」

独り言を言うハルドに質問すると、少しだけ驚かれたが、

「強力な魔獣と戦う事になる。」

ニッコリと笑顔を向けられて、リティアの背筋が凍る。けれども、3階まで昇ると不正解の心配はなさそうだ。あの精霊文字が浮かび上がった後に、塔に橋が架かったのだ。

「リティが心配だ。」

ハルドの呟きの意図が分からず、リティアが首を傾げると、

「窓を見ると土に埋まっているのに、向こうに塔が見えるっておかしくないか?」

「橋が架かる空間も存在しているからね。全てが常識から外れているよ。」

ソラが穴が開きそうなくらい窓の縁や橋を構成する植物の蔓を凝視しながら歩き、ハルドが軽く答えていた。

「下らん事を言ってないで、行くぞ。入るまで当たりを引き当てているかすら、分からない。」

後ろのラドに注意されたソラは、慌ててリティアの隣に並んできた。ハルドが飛龍牙を構えた時点で、リティアは傘を、ディオンは剣を、セイリンとソラはスティックを、それぞれ己の武器を握り、塔の扉から入る。

《リティ…リティア…ちゃん》

入った途端に、脳内に流れ込む聞き馴染みのある声で、リティアは辺りを見渡すが、この薄暗い部屋の中で探している彼女の姿を見つける事はできない。

《カノンさん、どちらにいらっしゃいますか?》

《だい…大丈夫だから。衝…撃から…皆…守る…から》

リティアの声が届かない。返事には聞こえないその言葉の意味は、すぐに分かった。部屋が大きく揺れて、ハルドの腕がリティアとソラを抱きしめ、セイリンをラドが、シャーリーはディオンが守る。リンノの身体がふわっと浮かんだと思えば、そこから全員真っ逆さまに落ちていく。否、上へ上へと飛んでいるのに、感覚としては落ちていた。顔が青くなるソラをハルドが自分の胸に押しあて、リティアはキョロキョロと見渡し続ける。そうしていると、リティア達に追いつくように茶色の魔石の欠片が向かってきた。

「カノンさん!」

《皆を待ってた!テルちゃんもこの上にいるよ!》

カノンの明るい声に、涙が溢れるリティア。

「今、カノンの声が聞こえたよな!?」

「はい!」

セイリン達にも聞こえたようで、ディオンも頷いた。

「テルを助けられる…!」

顔色が悪いままのソラの瞳に光が入る。リティアが傘を持っていない手を魔石に伸ばすと、彼女の方から擦り寄ってきて、

《カノンちゃんが、守るから!》

強い意志を感じる声を聞いた瞬間に、全員が地面へ打ち付けられた。リンノとハルドは、ほんの少しだけ浮いていて、風を操る事に感心するリティア。ラドはセイリンを抱えて背中から落ち、ディオンもシャーリーを引き寄せて左腕から落ちて転がるが、

「痛みが来ない。」

ラドの言葉と共に、ディオンもすぐに立ち上がった。リティアの手の中に収まったカノンの魔石が少しだけ光っている。

「カノンさん、ありがとうございます。」

リティアはカノンに守られた事にお礼を述べると、魔石はあっという間に暗い色になった。精霊にお願いして集まってもらうと、焦げ茶から赤茶まで色は戻ったが、カノンの声は聞こえない。セイリンがリティアに駆け寄り、手の中の魔石に口づけを落とす。

「勇敢な少女に敬意を込めて。」

「感動している暇はない。行くぞ。」

セイリンを無理やり連れて行くラドがハルドを小突くと、

「もう、すぐそこに気配があるよ。」

ハルドの表情が引き締まり、先頭へと躍り出た。


 灰色の大鎌切の複眼がリティア達を見下ろし、その鎌を口を使って手入れしていた。足元には、制服姿が3人。パッと顔が明るくなったテルと、その隣にぐったりとした少年、その2人の前にはシャーヌが立っていた。

「お姉ちゃん!」

シャーリーが駆け出そうとしたところ、リンノの腕が彼女を捕らえる。怒る喚くで、眉間のしわが寄ったラドの槍まで彼女に向けられた。

「シャーリーなの?」

「そうだよ!会いたかった!!一緒に帰ろう!」

シャーヌがスティックを口元に寄せて首を傾げると、シャーリーが嬉し涙を溢した。

「でも…駄目よね。」

シャーヌのスティックがリティアへと向けられて、リティアも応戦の為に傘を開いて前方へ構える。

「大鎌切様のお食事を用意しなくちゃ。出来が悪くても、最期くらい頑張ります。」

「シャーリーちゃんのお姉さん!」

魔術陣を描き始めたシャーヌを止めようとするのは、テルの声。

「こら。今は見守るしかないんだ。機会を伺え。」

ぐったりとした少年の瞼が開かれ、肩で小突かれるのはテル。ソラのスティックも動き始め、セイリンがリンノと役割を交代する。泣き叫ぶシャーリーを抱きしめてその額に優しくキスをする彼女は、誰よりも勇ましい。ディオンもすぐに武装して、シャーヌではなく、大鎌切を斬り込みに行ってすぐに後退してくる。シャーヌから発動された隕石の攻撃は、クラゲの傘で簡単に弾き飛ばせて、大鎌切へと当たる筈だった。

「ここまで予想通りだな。幻影だ。」

ディオンとリティアの攻撃で、大鎌切の動きを見ていたラドが、あのチップを見えない天井へと投げ飛ばし、リンノの風が煙をコントロールして、ハルドがチップが落ちてこないようにチップ自体に風圧をかける。これはリティアにしか分からない事。既に彼らの中で作戦は練られていたのだ。ソラの魔術が局所的雷雨で、慌てて退避するシャーヌをディオンが壁へと追い詰める。一気に間合いを詰められると、魔術陣を描く時間すら取れないのだ。ドン!と音がした時に、シャーヌは壁に背中をぶつけて、力無く転がった。ディオンが彼女の状態を確認しようと屈んだ瞬間、天井から大鎌切が落下してきて、飛龍牙が空を舞った。飛龍牙の攻撃を避けるように動く大鎌切は、ディオン達から離れた位置に着地して、シャキシャキと牙を鳴らす。

「テル!」

大鎌切との距離が掴めたらすぐにソラがテルに駆け寄り、リティアも彼らを守る為に傘を大鎌切に向けながら移動する。セイリンもシャーリーの手を掴んで壁へと寄って、倒れたシャーヌの元へ行かせる。教師3人は、リティア達から少しだけ距離を取って大鎌切に3方向からにじみ寄っていく。大鎌切の頭に煙が立つチップが落ちた瞬間、ジュウウウと焼ける音がして、大鎌切の鎌が振り上げられ、

「お姉ちゃん、息してる…!」

こちらの様子を見る余裕がないシャーリーの歓喜の声が上がった。

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