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310,黒少女は目が泳ぐ

祝!310話!

メインの舞台が学校付近に戻ってきました。近々、教師として赴任する『彼』と、ハルドの軋轢が心配ですが、見守りお願い致します。

 開店して間もなく、夫婦の客が来た。いつも通りに接客していると、何度も男性からの視線を感じて、厨房で料理をするリファラルに相談をする。

「そうですね、ハルド殿からの言伝てがあったお方だと思うので、こちらを代わって下さい。」

「はい。」

彼がやっていたハンバーグを煮込みながら、パンを焼く作業を代わった。少しして帰ってくると、

「やはり、マラノク殿でしたね。彼は、ハルド殿に打診されて、シャーリーさんの生活費と学費を工面して下さる方ですよ。」

「ふぁい!?」

目尻にシワを寄せて教えてくれて、こちらの声が裏返る。どういう事なのか、昨日の今日で話が進み過ぎである。食事を運んで挨拶をしてきなさい、と言われて、重い足取りでテーブルへ向かう。本を読んでいるリティアと目が合うと、ふわっと微笑んできて、これはこれで心臓に悪い。あんな人畜無害の少女の命を狙っているリゾンド達が理解できない。これはこれとして、目の前に迫りくる問題と向き合い、テーブルに配膳してゆく。

「貴方がシャーリーさんで間違いはないかな?」

「はい、シャーリーと申します。」

マラノクから声をかけてきて、無礼のないように頭を下げると、

「そうか、ハルド先生から聞いたよ。頑張って学費を貯めているらしいではないか。」

「あ、そ、そうですね。」

ほろりと涙を流す彼を見て、シャーリーの目が泳ぐ。身を隠す為と、生活費の為にしているこの仕事が『学費』の為としたのは、絶対にハルドの仕業だ。

「それで、勉強の程はどうなのだろう?手伝える事はあるか?」

「そ、その。まだ教材になる物が手元にありません。お、恐らく、私の意気込みに賛同して下さったハルド先生が、用意して下さるかもしれませんが…」

勉強なんて全くしてないから、最早嘘すら吐けない。ハルドへ精一杯の意趣返しをしてみたが、後で彼が頭を抱える事はないだろう…とは思うから悔しい。顔をしかめる彼に、申し訳なくなってきていると、

「私が、勉強を教える約束をしております。」

リティアという鈴の音が響いた。シャーリーも夫婦も彼女に注目すると、見るからに本の虫と分かる状態。その山のような本を持ってきたのはハルドなんだろう、とはシャーリーでも分かる。

「なるほど…そういう事でしたら、来年度の入試に間に合うでしょう。ところで現在のお名前を伺っても?」

マラノクが不思議な発言をして、シャーリーは眉をひそめる。『現在のお名前』って何だ?

「私は、リティア・サンディです。」

「サンディという事は、リコ殿のご実家ですね。承知致しました。彼女の事を頼みます。」

リティアは首を傾げる事なく答えて、彼も納得している。シャーリーと彼の奥さんは、蚊帳の外。奥さんの丸い目がキョロキョロとよく動く。

「シャーリーさん、頑張りましょうね。」

「はい!」

そして突然こっちに話が戻ってくるのだから、シャーリーの目がまた泳いだ。


 ランチの客が全員帰ってから、1度「CLOSE」の札をかけると、爽やかに手を振ってこちらに向かってくるハルド、その後ろからラドが見えて扉を慌てて閉めると、

「ハルさんが来られましたか?」

「な、何で分かるんですか!?」

読み終わった本を隣の椅子に積んでいくリティアに微笑まれて、シャーリーの心臓が飛び跳ねた。

「シャーリーさんはハルさんに会うと恥ずかしがると、ハルさんが仰っていたので。」

「何ですか、それ。自信過剰にも程があるでしょ。」

ハルドの戯言を鵜呑みしてるリティアを見て、シャーリーが小さくため息を吐くと、

「あながち間違ってないよね?」

音を立てずに扉を開けたハルドに後ろから頭を撫でられた。飛び跳ねるように店内の中心に逃げて距離を取る。

「いらっしゃいませ。如何でしたか?」

「駄目でした。完全に行方をくらましたようです。」

トレーに2人分の珈琲を乗せて厨房から出てきたリファラルに、肩を竦めるハルド。シャーリーは、本日2回目の蚊帳の外だ。全くもって何の話か分からない。

「そうですか。相手の特徴は分かりますか?」

「はい。以前、カノンちゃんから教えてもらいました。魂の処刑人である大鎌切だと。」

リファラルの質問に答えながら、勝手にリティアの隣にテーブルを移動して座るハルド達。リファラルに注文したので、シャーリーも厨房についていこうとすると、優しく断られてこの場に残る。

「では、悩みを持つ人間を拐う魔獣にハルさんのご友人は」

「あ、リティ!その話ではないんだ。先程、生徒が1人誘拐された…。」

先程まで静かにしていたリティアも話に入るが、ハルドからすぐに否定が入って、

「…そんな。それは、テルさんですか?ソラさんですか?」

沈む彼女。ここでテルの名前が出てきて、シャーリーは動揺を隠せない。

「そこで双子の名前が出てくるのね。大丈夫、2人ではないよ。」

「ん?テルは、双子なのか?」

ハルドの言葉に、シャーリーは胸を撫で下ろしながら、首を傾げた。

「そうだよ。瓜二つのソラ君って子が居るよ。」

「…へぇ。」

珈琲の香りを楽しむハルドから教えられ、どんな感じだろうかと想像する。あの元気ハツラツが2人も居たら、楽しい家族だろうな。

「ソラさんは普段から物静かで、探究心のお強い方ですよ。」

リティアから更に追加で情報を貰って、真逆な性格の双子である事を理解した。

「まあ、あの2人は近々ここに来るから、その時を楽しみにしておくと良いよ。さてさて、本題に入ろう。」

「本題?」

ハルドに手招きされて、シャーリーは首を傾げながらテーブルに近づくと、

「リティ、シャーリーの為に貴重な時間を割いてくれてありがとう。」

「いえいえ。」

ハルドがリティアに礼を言い、彼女は微笑む。どうも受験勉強の話のようだ。

「ここで勉強をする事になるから、こっちでリファラルさんにまとめて支払いしておくから、好きに注文して過ごしてね。」

ハルドの発言から、金に余裕が十二分にある事が分かる。やはり、こいつに教材を用意してもらおうではないか。

「わぁ!ありがとうございます!では、シャーリーさんにホットサンドを沢山作ってもらえますね!」

「おっ、勉強を教える相手に作ってもらうの?」

喜ぶリティアに、苦笑するハルド。確かにそうなのだが、

「わ、私で良ければ!」

彼女のおかげで作る練習ができるのも事実。ここは、喜んで話に乗らせてもらう。昨日のように、失敗しても怒られる事はないだろう。

「ふふふっ。よろしくお願いします。」

「こちらこそ!」

口元を軽く押さえて笑顔を向けるリティアと、今度こそ握手をした。

「さて、勉強道具でも用意しないとね。」

ハルドが、いたずらっぽい笑顔をシャーリーに見せてきて胸騒ぎがしていると、リファラルがビーフシチューとバーガーを持ってきて、

「シャーリーさんはここの仕事もありますから、お手柔らかにお願い致しますね。」

シャーリーを紳士的に庇うと、

「勿論、未来の生徒に入れる愛の鞭は程々にしますよ。こちらも、やる事が山積みなので…」

ハルドが辛気臭いため息を吐いた。こちらが心配になってくる。

「倒れるなよ…おっさん。」

「倒れる時は、死ぬ時だな。」

こちらが心配しているのに、ラドが軽口のように酷い事を言い放ち、キッとシャーリーが睨んだ。

「お二人共、絶対に死なせませんからね。」

リティアの透き通る声が、波紋のように広がった。シャーリーだけでなく、誰もが彼女から目を離せなくなる。どういうわけか、瞬きすらも許されない厳粛な空気になった。いつになく真剣な表情のハルドが立ち上がって、

「この命尽きても尚、貴女様を御守り致します。」

彼女の隣で膝をつく。

「この命は貴女様の為に。どうぞ、お使い下さいませ。」

ラドも少し遅れて席から立ち上がり、敬礼をした。リティアは、可哀想なくらいに動揺しているように見えた。

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