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301/838

301,四番隊隊員は勇気を振り絞る

 リガが出て行った事も、自分が知りたい事を聞いていた事も全く何も知らずに眠っていたリーフィは、荒々しいノック音で目を覚ます。ふかふかの毛布をかけられていて、リガがかけてくれた事を理解しつつ、リガを探しながら寝ぼけ頭で扉を開ければ、

「おい、リガはどうした?」

「リダクトさん?リガさんは、居ませんよ。」

自分の父よりも高圧的なリダクトが見下してきて、リーフィは扉の持ち手を掴んだまま身震いをした。

「この役立たず。」

《こいつ、俺の器を持っていった奴だ。》

リダクトの言葉に被せてきたロゼットの発言に耳を疑う。

「え?」

「聞き直すのか、これだから出来損ないは。」

リダクトに聞き直ししたわけでは無いが、いかにも不機嫌極まりないという表情で見下され、リーフィの足が震える。

《リーフィ、聞いたところで答えないさ。ろくな事に使ってないとは、思うけどさ。》

「リダクトさん、お人形さんを壊しましたか?」

諦めかけているロゼットの為に、今にも逃げ出したい気持ちに鞭を打って、勇気を振り絞る。今のリティアであれば、逃げないで彼を見据える筈だ。彼女に仕えるのであれば、立ち向かわなくてはいけない場面だ。

「馬鹿言え。人形に興味があるように見えるか。」

「興味もないのに、精霊人形を拐ったんですか?」

ケッ、と吐き捨てるリダクトに、無意識に一歩踏み出すリーフィ。彼の瞳から目を離さない。

「何だと…?」

《リーフィ!やめるんだ!暴行されるかもしれない!》

身体を仰け反らせるリダクトに、また一歩と近づけば、ロゼットからの制止が入ったが、

「ロゼットさんは、今どちらに?」

「何処で知ったのかは知らぬが、貴様と話をする時間が無駄だ。リガをとっ捕まえねば。」

この口は止まらないし、身体の震えは嘘のように止まった。沸々と湧き上がる感情が、彼への恐怖に勝った。気味悪そうに見下しながら、踵を返すリダクトの腕を掴み、

「僕は、貴方に聞いています。」

「気安く触るな!」

その瞳を覗き込むと、手を払われた。ドス黒い物が心を覆い尽くし、それが身体から出ていく。そう、リーフィの影の蛇達。リーフィの膨れ上がる感情に従う蛇達は、リダクトの身体に絡みついて簡単に押し倒す。慌てて手に出現させた岩の剣を振り回すリダクト。リーフィが見下す形となり、

「僕の可愛い毒蛇ちゃん、聞いた事に答えないその使い物にならない口を喰い千切って。」

自分から出たとは思えない言葉に動揺する事なく、ただただ斬れもしない剣を振り回す彼を見下す。

「なっ!何をする!無能のくせにて!」

無能のくせに…?リーフィの怒りが煮えたぎる。『くせに』って何だ?僕達の大切な『聖女』様を害する異端者のくせに!リーフィの蛇は、頭の中を駆け巡る感情に感化されて、1人飲み込める程の大きさまで膨張する。リダクトの息を呑む音が聞こえ、

《感情を揺さぶり過ぎだよ!それでは、魔獣化してしまう!》

ロゼットの緑色の精霊が目の前でチラついて、蛇が消えていき、リダクトが自由の身になってしまう。至極迷惑そうに立ち上がり、パンパンと服の汚れを払っていた。汚い物を見るような目で見下してくる。だが、父よりも怖くはない。直接的な危害を加えられていないからだろう。深夜の寮で靴音が響き、

「何事だい…?」

「リルド兄さん!リダクトさんが、聖女へ背信をしているのです!」

制服を着たリルドが、こちらにランプ代わりの光体を飛ばしてからゆっくりと近づいてくる。リーフィからしたら、リルドは味方だ。勢いを取り戻した蛇が、再び躍り出る。

「リダクトさんが?」

状況が飲み込めていないリルドが首を傾げると、

「ふざけるな!戯言も大概にしろ!この出来損な…っ!?」

リダクトがリーフィに手を上げたが、緑色の精霊が人のシルエットに変化して、その手を緑色の手で払い、そしてその手でリーフィの蛇も消失させてしまう。

「ロゼットさん!」

「そういう事か、これは面倒だ。」

リーフィを守ったロゼットにリダクトの視線が動くと、リダクトは吐き捨てるように今度こそ踵を返す。追いかけようとすると、ロゼットに阻まれ、リルドも駆け寄ってくる。全く情報を引き出せていないというのに…。

《危ないだろ!》

「ううう…すみません。」

ポコンとロゼットの拳が頭に落ちてくる。あまり痛くはないが、リーフィが怒られている事くらい分かる。

「精霊人形ロゼット、リーフィを守ってくれてありがとう。」

《いえいえ。あいつが、俺の身体を何処かにやったのは事実なんだけどなー。》

優雅に頭を下げるリルドに、ロゼットは人の形をやめて、彼の周りを緑色の光がくるくると回る。

「そうなんだね。王都で公演していた劇団に、翡翠の脚を持った男性の踊り子がいたって聞いたな。その劇団とリダクトの間に、何かしら繋がりがあるのかもしれない。」

リルドからの情報を得たリーフィの背中から、蛇が揺らめく。人形に興味がないから、あるべき場所から引き剥がして捨てたという事か?聖女の人形に何てことをしてくれている!

「許せない許せない許せない許せない許せない!」

《落ち着け!》

蛇達が大きくなり始めた瞬間に、緑色の精霊達がリーフィごと覆って身動きが取りづらくなる。払おうと手を動かすと、その手はリルドの両手に包まれる。

「リーフィ、ありがとう。代わりに怒っているんだろう?言葉にするって、勇気が必要だ。よく頑張ったね。」

「兄さん…。」

ふわっと微笑むリルドに毒気が抜かれたのか、蛇達が身体へ自ら戻っていく。彼は包んでいた手をリーフィの頭へ乗せて、

「今日のところは、もう休みなさい。護衛も調査も疲れただろう?リティも今頃、馬車の中で眠っているだろうし…。楽しめたかな?」

良い子良い子と撫でた。リーフィは、そのくすぐったさと心地良さに身を任せながら、ふとある事を思い出し、リルドに笑顔を向ける。

「そうでした!ティアちゃんに、格好良い恋人ができました!」

一緒に喜んでくれると思ったリーフィは、まるで時が止まったかのように動かなくなったリルドを見て、首を傾げる。そしてそのまま沈黙が流れ、

「…あれ?兄さん、大丈夫ですか?」

おかしいと思ったリーフィが、彼の肩を揺らしても反応がない。

《あちゃー。》

ロゼットの小さな声が、リーフィの頭の中に届いた。2人で相談するもリルドの硬直をどうする事もできず、リガが荷物抱えて帰ってくるまで揺すっていた。


 放心状態のリルドをこの部屋に入れるには、申し訳なくなるぐらいに作りかけの服の山が広がっている。しかし、そのままにしておくわけにはいかず、とりあえずベッドに座らせてから、

「リーフィ…」

「ごめんなさい。喜んでくれると思ったんです。」

沈んだ顔のリーフィを見ると、背中を丸くして謝ってきた。元はと言えば、父親がここに来た事で出会った2人だ。どの話の流れで、リティアの恋愛事情が漏れたのかまでは、興味がない。ただ目の前のリルドは、どうにかしなくてはいけない。いずれは彼の従者になり、年上でもあるリガが、彼に声を荒げるなんてするべきではないのだが、

「リルド様も、いい加減になさって下さい!彼女は、もう成熟した女性です!彼女が幸せなら、それで良いではありませんか!」

祖母が孫を叱る時のように彼と目を合わせて、はっきりとした声で怒ると、彼の瞳が揺れ動き、

「そんな事言われても…。リティが俺の傍から離れてくなんて…」

やっと反応を示したリルドは、リティアを取られて拗ねているだけだった。これでうだうだされると、こちらも作業が進まない。だから、

「兄妹でずっと引っ付いている方が、大問題です!」

リガが、トドメを刺す役を買って出たのだった。

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