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298,教師は連れて帰る

 こちらの仕事も終わり、ギィダンも到着した次の日、帰省の準備を、と考えていたところに、顔色の悪いリーフィから相談を受ける。

「では、君の父親がリティを害そうとして精神を乗っ取ろうとしてきたんだね?」

「はい…。申し訳ございません。」

リビングでケルベロスを抱き締めながら震えるリーフィ。リティアはまだ部屋で荷物をまとめていて、ラドが小さな木箱と最低限の荷物をまとめて降りてくる中、優しく接するハルド。

「謝らなくて良いよ。君が心配しているのは、リル宛ての『報告書』だね?」

ラドの視線に怯えながら、無言で頷くリーフィの背中は丸くなっていくので、その頭を撫でる。

「リティを守る君は、もっと自信に満ちた姿勢でないと。あいつに負けるわけないから。大丈夫、俺がついてる。」

「もし、父に『神の心臓』の隠し場所が知られてしまうと、彼女の命が危険に晒されます。」

こちらは励ましているが、彼女の耳に届かないらしくてボロボロと涙を流し始める。

「泣かないで。大丈夫だって。君と一緒に王都へ向かうから。というか、俺が連れて帰るからさ。」

ケルベロスが彼女の顔を舐めようとしたところを手で阻み、指で涙を掬う。帰る間際に、唾液で顔がベトベトになるのはあまりに可哀想だ。ケルベロスを引き剥がして、玄関から外へ放り投げると、スズランもケルベロスについていく。リティアが大荷物抱えて降りてきたところで、こちらに木箱を放り投げたラドが代わりに彼女の荷物を受け取り、

「ではリティア様、馬車に乗りましょう。ここでハルド達とは別れます。」

「え、そうなのですか?皆で帰らないのですか?」

こちらの話を知らないリティアに丸い目を向けられたハルドが、

「うん、リーフィを王都に送り届けてから帰るから、先にラド達と帰ってて。」

笑顔で手を振ると、リティアがニコニコと笑顔でリーフィの手を握る。

「分かりました。フィーさん、またお会いできる日を楽しみにしております。」

「僕も。その時にはもう少し可愛いアクセサリーを作っておくね。」

リーフィも泣いていたのが嘘のように柔らかい表情で、彼女の馬車が動き出すのを見送った。

「よし、片付けしたら俺達も出発するよ。」

「はい!」

リーフィに声をかけて、2人で掃除を始める。リルドが別荘をこの後どうするかは知らないが、できるだけ綺麗な状態を作ってから外へ出れば、夕日が沈みかけていた。町の魔術士達に挨拶してくる、と言ってリーフィが詰め所に入ったので、ハルドは建物の外で待つ。それ程長く滞在しなかった町だが、この平穏はこのまま続いて欲しいと願ってしまう。学校に帰れば、またあの魔獣達との戦いが待っている。心を無にして海を眺めていると、ワイワイと楽しそうな声が聞こえてくる。屋台に客が入っていくようだ。

「リーフィ様、もし宜しければこの後1杯だけひっかけませんか?」

「ロディさん、すみません。先輩を待たせておりますので…」

魔術士ロディに縋られるリーフィが、逃げるようにハルドに駆け寄ってきたので、その頭を引き寄せて撫でやる。魔術士の目は、こちらの仕草に釘付けで、リーフィの頬も赤く染まる。

「じゃあ、行こうか。」

「王都行きの馬車の最終は、もう出発した後ですよ!」

こちらの仲の良さを見せつけても、諦めの悪いロディに、

「ああ、俺達は馬車を使わないからさー。」

ハルドは、笑顔で手を振って町を出た。


 魔術士が追いかけてきていない事を確認して、人々の行き交う姿が見えなくなったところで、リーフィを抱きかかえる。身体が女性寄りだからか、結構軽い。ラドを連れてきた時とは大違いだ。慌てる彼女が落ちないように、腕でしっかりと抱き止めてから、

「今から大風に乗るからね。振り落とされないようにね。」

「は、はい!」

説明をすると、その細い腕を首に回してきた。頬と頬が擦れる感覚にくすぐったさを感じながら、ブウォッと上空へと舞い上がって、風の波に乗った。王都まで2日あれば余裕で到着する。魔法士団本部の屋根にでも降りれば、わざわざ門番に止められる事もないのだから、このまま眠る事もせずに飛ぶつもりだ。リーフィは勝手に意識を失うかもしれないが。

《おい、優男!もう少し女の子を大切に扱いなよー!》

《ロゼット、煩いぞ。》

ブーブー言うロゼットを怒るのはハルドではなく、飛龍だ。最近は、ただ静観しているだけの彼がこうやって出てくるとは。折角だからこちらから声をかけてみる。

《飛龍は、彼を知っているのかい?》

《勿論だとも。この前のアリシアの混ざり物とは異なり、正真正銘のロゼットだ。》

飛龍からの太鼓判が押された。リーフィが所有している精霊石の中に、ロゼットがいるようだ。期末試験時にはリティアが持っていたはず。彼女の手に渡ったのであろうか。

《脳内会話って結構便利ですね。》

この風の中、目を瞑るリーフィはまだ意識があったようだ。満天の星空が現れ始めるまでにまだ時間はある為、そこまで眠くはないのかもしれない。

《ちょっとリーフィ!そんな事より、もっと大切にして下さいって怒るところだぞ!》

《へぇ、精霊人形に愛されているねー。》

必死にリーフィを怒るロゼットに、ハルドは笑いを堪える。風の流れに身を任せて突撃してくる虫達をロゼットの風魔法が弾き、

《お前よりは、格段信用できる人間だからね!》

《ロゼット!私が手を差し伸べた者に、何たる暴言を吐いてくれる!》

ワーワーとロゼットが騒ぐと、飛龍が突っかかりにいく。飛龍が言う程の暴言を吐かれた記憶はないが、こちらを気にかけている飛龍には感謝をしなくては。

《飛龍、俺は気にしてないから大丈夫だよ。怒ってくれてありがとう。》

《ロゼットさんが、ご迷惑おかけしております。》

こちらが眉を下げると、何故だかリーフィが謝ってきて、

《え!悪いの、俺なの!?リーフィ!君を守るナイトになったんだよー!!》

《手懐けるのは、大変そうだねー。》

動揺して早口になるロゼットに、ハルドは我慢できずにクックッと笑いが溢れた。

《器があれば、こんな優男に蹴り1つくれてやれるのに!》

《そうだ、人形本体は何処なんだい?学校?》

好戦的なロゼットから気になる言葉が飛び出したので、この流れのまま聞いてみると、

《いや、君達が沢山の生徒を連れてきた教会の地下室にずっとあったんだけど、春頃にサンニィール家の中年男性に引きずり出された。》

隠す事なく答えた。春か…旧聖教会にあるはずの精霊人形が無くなっていると、リグレスが言っていたのは彼のようだ。

《あ、でも。リーフィの親父ではない。》

こちらはまだ何も言っていないのだが、付け足しするロゼット。リーフィの事を思ってなのだろうか。

《今はその身体の居場所は、分からないのかい?》

《分からない。けれど、恐らく別の心臓を放り込まれていると思う。あいつ、いくつも魔石を俺の器にぶつけていたからね。》

他にも何か情報が手に入れば、と思って聞いてみると、ロゼットから不思議な発言を得る。器に入れる核が当人でなくても動くという事か。そしてそれは、

《他の人格が入って動かしているという事かい?》

《そうだねー。全く俺の身体を何だと思っているのだろうか。》

今にもロゼットからため息が聞こえそうだ。

《私は、お前達の身体の構造は知らぬ。だが、そのような器に合わぬ核で扱うのは、かなり危険な行為ではないのか?》

《そうだよ、あのナックのようにぶっ壊れてしまう!》

飛龍からの質問に、ロゼットは鼓膜が破れる程の大音量で叫んで、リーフィが両手でハルドの耳を押さえた。ハルドも必死に耐えたが、頭に直接響く声は耳を押さえたところで小さく聞こえるわけもなく、仕切り直す為に王都よりもまだ南にある森へと降りて行った。

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