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219,精霊人形は繋がる

 陽の光が直下で降り注ぐ昼下がり、門が開く音が聞こえたらソファで食べていた大きなジャムパンをテーブルに置いてから、パタパタと玄関へ駆けていく。カノンが扉を見上げると、ゆっくりと扉が開かれてにこやかなハルドが帰ってきた。

「おかえりなさい!!」

カノンが足に抱きつくと、買い物袋を玄関に置いてから抱き上げるハルド。カノンは、猫のようにスリッと頬擦りを彼に甘えていると、なかなか扉が閉まらない事にここで気がついて振り向くと、

「カノン嬢、お邪魔しても良いでしょうか?」

山ほど紙袋を抱えたリグレスが、扉が閉まらないように肩で押していたのだ。

「あら!いらっしゃい、リグレスちゃん!悪巧みは上手くいったの?」

「その話はリビングで話すからね。」

カノンが歓迎し、ハルドが先にカノンをリビングに連れていくと、やっと玄関の中にリグレスが入ってきた。ソファに丁寧に降ろされたカノンは、食べかけのパンをまた頬張る。絶対にハルドが買ってこないようなパンだったもので、彼の首が傾いた。

「そのパンって、すぐそこのパン屋さんのだよね、どうしたんだい?」

「ラドちゃんがくれた銀貨握りしめて、買ってきたの!たくさんおまけしてくれたから、ハルドちゃん達の分もあるよ!」

ご機嫌で教えるカノンは、早朝にハルドが出て行った後、まだ家に居たラドにパンをねだり、代わりに小遣いを貰ったのだ。ハルドのため息が聞こえ、

「お釣りは返ってきたかい?」

「うん!!」

ワンピースのポケットからじゃらじゃらと銅貨を取り出して見せると、彼に取り上げられてしまう。

「ええええ!?なんでー!」

「すぐ返すから待ってて。」

慌ててソファの上で立ち上がるカノンより高い位置に手を上げると、リグレスが紙袋から兎の模様の巾着袋を取り出して、ハルドから銅貨を受け取った。その中に銅貨を仕舞うと簡単にピンクの紐を縛って、見上げていたカノンの額の上に置く。

「お、お財布?」

「そう。それ以外にも色々買ってきたよ。」

パンを片手に、巾着袋ももう片手に持ったカノンの前に広げられる紙袋の中身達。うさ耳がついた白いポシェット、兎の刺繍が入ったハンカチ、ワンピースだけでなく、Tシャツやズボン、キュロットスカート、それ以外に子ども用の下着が数枚、靴下はフリルがついている。見るからに両手で掬っても乗りきらないほどの髪留めをテーブルに並べられた時には、歓喜の悲鳴を上げた。巾着袋とパンをテーブルに置いてから、キラキラと光る髪留めに手を伸ばす。本来の年齢と外見年齢がかけ離れているカノンの事を、ハルドはしっかりと理解していて、身長から考えると大人服は着られないので、そこは子ども服だが、こういう年齢が関係しない装飾品は、上品な物を選んできてくれる。コットンパールが通されているヘアゴム、ビジューがあしらわれたヘアクリップ、シンプルなヘアピンなど、カノンが1つ選ぼうにも目移りして選びきれない。その間にハルドがテーブルに卓上ミラーを運び、彼の手によってカノンの試着会が始まる。鏡に映る次々と変わっていくコーディネートショーに心躍らせるカノンの鼻を甘い香りがつき、

「ハルドちゃん、ここにいるよね?」

鏡に映り込んでいるハルドの手を掴むと、

「あー、リグレスがキッチン使っているんだよ。」

ふわっと頭を撫でられて、離れて手が名残惜しくて自分の方から頭をくっつけに行く。そのまま見上げると微笑むハルドが視界に入り、カノンも笑顔を浮かべた。


 リグレスが作った甘夏のタルトを完食した後は、ハルドが2階で忙しなくカノンへの贈り物の片付けをしていて、カノンは手持無沙汰になった。ソファで本を読むリグレスの隣に座ってみると、視線がこちらへと動いて微笑み、

「ああ、カノン嬢。もしよければ、この核が誰のか確認して頂けますか?」

彼の胸ポケットから見覚えのある精霊石が取り出されると否や、幼い男の子の笑い声が聞こえてくる。じーっと観察すると、紫多めと少しの緑色の精霊が中に籠もっているのが分かったが…

「どっちのだいじ?」

むーっと首を左右に傾げる。

「ギィ曰く、アリシア様の核らしいのです。」

「えー?」

リグレスに説明を受けたが、やはり目で見る限り分からない。アリシアにしては不要な色が多すぎるし、ロゼットにしては色が少なすぎる。こちらを成形している精霊を当てて確認をしようと手に取って、

「…!!?」

後悔する羽目になった。紫色の精霊が体内へと少ない量だが一斉に流れ込み、頭の中で『アリシア』が満面の笑みを浮かべる。カッとリグレスの目が大きく開き、青い精霊をカノンの体内に循環させてくれたが、居座ったアリシアはその存在を外へと放出させまいする。身体の中で精霊がせめぎ合う激痛に、カノンは堪らず絶叫しながら精霊石をラグの上に落として自らも転がり落ちそうになったが、リグレスの見た目より逞しい腕に抱き止められて事無きを得た。すぐさま、ブウォンと突風が吹き荒れてハルドが目の前に現れて手を取ってくれるが、彼から流れてくる微量な緑色の精霊でも紫色は蔓延って動くことはない。感覚的にどうなったかが分かるカノンは適切な言葉を探して、

「…繋がったみたいなの。」

「どういう意味だい?」

伝えたが、心配そうに覗き込むハルドには理解できなかったようで、

「アリシアちゃんが、カノンちゃんの中に居座る状態になっちゃった。」

少し言い方を変えれば、リグレスが壊れ物を抱き締めるようにカノンを優しく抱き上げ、

「やはり、先程の精霊の異常な流れ込みはそうでしたか!!私のせいで」

「リグレスちゃん、悪くない。その芽がなければ起きない事だから。元々、意識混濁は起きていたから、アリシアちゃんにカノンの大事を回収された時点で彼女の侵食は始まっていたんだと思う。」

リグレスの目に先程の侵食が見えている事に感心しつつ、カノンは彼の首に抱きつきながら誰にも責任がない事を必死に伝えると、

「どうやったら、彼女を取り除けるんだ?」

「分からないけど、勝手に身体を使われるのはヤダ。」

ハルドの大きな手が頬に触れ、自然と落ちていった涙が掬われた。カノンの心が悲鳴を上げているようだが、カノン自身もどうすれば良いか分からなかった。

「…この精霊石をハルドに託して、カノン嬢は私と共に王都へ如何でしょう?アリシア様御本体から遠ざかれば、干渉を受けづらいはずです。幸い、王都はここからの遠隔魔法の範囲外に位置します。」

「ううう…ハルドちゃん、寂しくない?」

ふむ、としばらく考えたリグレスの意見を聞いたカノンが、リグレスからハルドへと手を伸ばすと、その両手を微笑みながら優しく包み込まれて、

「カノンちゃんが無事ならそれで大丈夫。やってみないと効果の程は分からないね。」

「カノンちゃんは寂しい!!!」

そう言われると、ハルドと離れる事に心が嫌がるのでそう声を張り上げれば、

「そう言ってくれて嬉しいよ。でも、それ以上にアリシアの悪戯でカノンちゃんにもリティにも傷ついてほしくないな。」

ハルドはカノンの思いではなくてリティアの身の安全を優先したことが、カノンの頭でも理解ができた。レインが言っていたように建前と本音は違う。それを見えないふりをしていたのはカノンの方だ。

「…守るって言って欲しかった。」

「それは約束できない。飛龍と共にあるだけで、俺もマインドコントロールを受ける可能性が高いんだ。」

子ども姿のカノンは心のままに不満を打ち明ければ、ハルドは目を伏せながら首を横に振っていた。

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