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202,教師は血眼になって探す

 ラドがリティアを女子寮に送り届けて帰ってきてから、やっと2人の話し合いの時間が始まる。怒りが抑えられない程に職員会議は酷かった。ハルドが良い焼き色のついたカップをゴミ箱へ放り投げて、新しいカップをラドの前に置く。

「それで、誰。」

「教頭とゴーフル。ミィリを始めとした力を持たない教師が複数人で反対意見を出したが、校長が無言を貫き、教頭の1人勝ちだ。」

すぐに本題に入ったハルドに、夕方の会議の有様を伝えると、

「そこ2人は確実に買収されたと。やはりこの前の訪問の本当の目的はそれか。校長は微妙だな。警戒しておくに越したことはないね。」

フンフンと軽く頷いていたハルドが、机に広がった軽食の中の切られていないバケットを乱暴にラドに投げつけてきて、

「でも、あのあまり気の強くないミィリ先生が積極的に会議の場で反対するなんて珍しいこともあるものだ。」

ラドに渡した物よりも遥かに食べやすい菓子パンをモグモグと食べながら、ラドから聞いた感想を言うハルド。職員会議の後に他の教師に捕まって2食抜けていたラドも空腹だった為、バケットを切らずに食らいつく。

「リティア様のメルスィンに関する報告書の中の記載でも、ミィリが心配していたとあったから、彼女を気にかけてくれているのだろう。」

頬いっぱいにバケットを食べながら答えると、

「使わない手はないよね。」

ニィと口角を引き上げるハルドに、反射的にラドの身体が反れる。お前は悪役かとでも言いたくなる宜しくない表情を浮かべるハルドに、

「そこはお前に任せる。俺は明日中に、隠れている愚か者を潰す。」

「…」

そう断言すると、今度はハルドの口角が下がって無表情に変わった。ラドは5杯目の珈琲を口に運びながら、

「何とでも思え。絶対に見つけ出す。」

ギロッと睨むと、数回瞬きをしたハルドに、

「まだ俺は何も言ってないぞ?あと、生徒の命を優先してくれ。」

眉間に人差し指を当てて頭痛に耐えるような顔をされ、ラドは少し間をおいてから頷き、

「…それは、恐らく大丈夫だ。」

「うわぁ…」

しっかり頷いたというのに、真横でハルドが頭を抱えて屈み込んだ。


 2日目は全くと言っていい程手応えがなく、3日目を迎える。とりあえず、生徒達の怪我人が少ない所からも他の場所に移動した可能性もあった。ハルドとミィリが気にかけているリティアのチームも何事もなく試験を熟し、採取が上手くいかないチームからの襲撃を女子2人が中級魔術で返り討ちにしてしまったと、昨日の職員会議で盛り上がったくらいだ。セイリンのチームは、ディオンのチームと合同であり、2人のネームバリューのおかげか他のチームからの攻撃はなかったようだ。ソラとテルのチームは、危害を加えてこようものなら、ソラが相手を潰す勢いで魔術を連射し、凄い剣幕の彼をテルが宥める構図が出来上がっていた。このチームに関しては、ラドも仲裁に入る程にソラのテルに対する保護欲が強く出ていて、要注意チームとして教師間でも情報共有されていた。

「入学当初の兄弟関係の方がまだマシだったのでは?」

そう呟きたくなる程、あの兄弟の関係性は歪み始めていた。テルが勉強にのめり込むソラを立てる入学当初、2人が友達感覚で仲良くする学校生活に慣れてきた頃、ソラがテルを傷つけさせまいと何でも敵と見做す一学期末。仲良し小好しのセイリンとリティアもパワーバランスが崩れたら衝突しそうだと考えていたが、それよりも先にこの兄弟がぶつかりそうだ。無意識にため息を吐いたラドは、旧聖教会前で軽くストレッチをしてから昨日と同じようにまず1年生の生徒達の安否確認の為に旧聖教会近くの森の中を走り回った。猛スピードで走るラドの視界に映る生徒達に対した問題は起こっていなさそうだ。旧聖教会に戻る途中で湖の近くを見渡して、何もない事を確認してから定位置に戻り、次は目当ての魔獣のみに焦点を当てる。2、3年生が主に戦いを挑んでいる旧聖教会の裏から進んで奥地へと駆ければ、静かに異音を探して立ち止まるハルドの傍をすり抜けてため息を吐かれたところまでは覚えている。それ以降は血眼になってリゾンドが放った魔獣を探す。岩蛙や顔のある人面鳥は放っておき、ここで見たことない物を求めて、がむしゃらに走っていると、カルファスとマドンを囲む生徒達の中に突っ込んだ。これに関してはラドも驚いたが、囲んでいた生徒達も驚いてボールが散るように逃げていった。カルファスが優雅に頭を下げ、

「ラド先生、ありがとうございます。まさかああやって潰されそうになると思いませんでした。」

「彼らは規則違反です。落第か退学となります。」

礼を述べてきたので、一度立ち止まって対応する。2、3年生は人間を殺められる威力の魔術を習っている為、生徒間の争いは禁止されているのだ。

「本当にそうでしょうか?彼らが、私が攻撃してきたと告げ口すれば、落とされるのは私達となります。」

こういうものは言ったもの勝ちですからとカルファスが笑うと、ラドがムッとする。

「阿呆。俺の目に映したのですから、潰されるのは彼らですよ?全学年の体育を担当しているので、全員呼び出して自白させることも可能なのでやっても良いのです。」

「かなり怖い事を言っておりますが、ではラド先生のご厚意に甘えて私達は討伐の続きをして参ります。」

若干引き気味のカルファスがもう一度頭を下げると、

「助かりました。では失礼致します。」

マドンも礼をして、この場から離れていった。1日目も2日目もカルファスが首位を陣取っている。敵対する他の魔術士一族が仕組んだのだろうとは容易に想像でき、そもそも彼らとカルファスでは決意が異なると言う事が理解できない可哀想な生徒がいるらしいということでもある。逃げ出した数人の生徒を追いかけてポンと肩に手を置いて、無言でハルドのような笑みを向けてやれば、早いこと。彼らは口を揃えて命令した生徒達の名前を口にした。

「と、言うことです。ハルド先生、ゴーフル先生。」

「分かりました。ラド先生、御報告ありがとうございます。引き続き見回りをお願い致します。」

ハルドの傍に一度戻ると、ゴーフルもそこに居合わせて、教師として報告をし、ゴーフルが頭を下げたので、こちらも下げてからまた走り出す。あれ以降、カルファスを狙う生徒は居ないようだ。ラドの興味が生徒から魔獣へと逸れるとすぐに、最深部で男子の悲鳴が響いた。ラドが他の生徒達を置き去りにして飛ぶように駆けると、鉄の臭いが鼻を掠め、その臭いが強くなった地面にセセリが首から血を流して倒れていた。そしてその近くの太い幹に姿を隠したつもりになっている生徒。ラドはすぐに気配を消して、隠れている彼に忍び寄り、その頭を押さえ込んで地面に強引に押し倒して直前の記憶を垣間見て確信し、

「違反者が出るなんて先生は悲しいです…よ?」

うなじに決定的な手刀を落として気絶させると、違反者と被害者を肩に担ぎ、セセリへと魔力を流して傷口を小さくなるように治療しながら、旧聖教会へと急いだ。ラドの代わりにハルドが急患の対応をして、ラドは教頭の前に気絶している違反者を突き出し、

「違反行為を目撃しましたので、保護者同伴の話し合いと『魔術力剥奪』と退学処分の準備をお願い致します。」

「わ、分かりましたっ!」

獣の眼差しで睨みつければ、教頭の顔面の血の気が一瞬で引き、体育で男子と同じ事をやりたかったセイリンにしていたようなうだうだと反対意見を言う事は、今にも襲いかかりそうなラドには絶対にしなかった。どんな愚か者も自らの絶体絶命の危機を理解しているようで…ラドは安心していた。

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