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164,少女は説明をする

 右に座っていたテルが気を利かせて花の形のクッキーをカノンに手渡そうとすると、カノンがあーんと口を開けて待つ。テルの目が一瞬まん丸くなったが、その可愛らしい口に食べさせてあげる。

「おいしー!もう1つほしいな!」

「はい、どうぞ。」

カノンが喜ぶと、隣のセイリンがテルの代わりに食べさせてくれている間に、ディオンから本の中にセイリンが拐われた話を聞いているハルドに、リティアは脳内で話しかける。

《カノンさんが言っていた聖堂の行き方って、分かりますか?》

《君が夏期休暇で行くクピア町の近海に沈む海底遺跡のことだよ。紙は駄目だろうね。》

そうか、その通りだ。水の中ではインクどころか紙も繊維が解けてしまう。リティアは、珈琲を飲むふりをして目を伏せた。

《ギィダンさんのお顔を直せればと思ったのですが、残念です。》

《とりあえず、行ってみることはありだけど。期末試験までに海中に行ける方法を探すか…》

セイリンがディオンの話に入ってきて、中年男性の顔を蜘蛛やレインという少年との遭遇について説明している。

《マナイタンにお願いできれば…!》

《まさかの魔獣に飲み込んでもらうのかい。やめておきなさい。》

マナイタンは、本当にまな板のように板のような魚で口の中で子どもを育てる為、そこに入れて貰えればと思ったが、ハルドから呆れ声が返ってきてしまった。

「リティアちゃん!あーん!」

口元にクッキーの食べかすをたくさんつけたカノンが、リティアの唇にココアの丸いクッキーを食べさせてくれた。

「ありがとうございます。それで、セイリンちゃん。レインさんは、この学校にずっと閉じこめられたと言っていたんですか?」

「ああ、レイン様も、聖女ルナも、アリシアもその頃の王や政治的な策略によって閉じ込められたらしい。酷い話だろう、英雄だぞ?」

ハルドに呆れられたリティアは、セイリンの話に首を突っ込むと、ディオンが怪訝そうな面持ちになり、

「しかし、それが本当の話とは限りませんよ。」

「…いや、それは本当の事なんだろう。ではないと、聖女がここに長年居られる理由が分からない。」

ハルドが、ディオンの意見をすぐに否定した。

「これに関しては俺が他の教師と協力して解決方法を考えるから、君達は無闇に関わらないように気をつけてほしい。相手を刺激して、使役しているという魔獣を放たれてくると君達にも他の生徒達にも被害が及ぶ。」

「はい。」

ハルドからの警告をリティアが誰よりも先に返事をして、他のメンバーも釣られて頷く。一度無言になった教室は、珈琲で喉を潤す音だけが聞こえ、皆が思い思いのことを考えていることはよくわかり、そこでリティアが口を開く。

「レインさんが造ったっていう腕長岩猿とクレイジードレインウルフのキメラを倒せた理由をまだ説明していなかったので、今説明しても良いでしょうか?」

「ああ!聞きたい!」

「むー!せーちゃんぎゅうぎゅう来ないの!」

身を乗り出したセイリンの腕をカノンがポコポコと叩くと、

「せ、せーちゃん…」

セイリンは反省よりも、呼ばれ方で驚いたようだった。2人のやり取りを微笑ましそうに見る男子達。

「まずクレイジードレインウルフは、魔法や魔術が効かない魔獣ですが、物理攻撃は有効です。今回何故、金剛剣の攻撃が通らなかったのかと言いますと、金剛剣自体が魔法剣と言っても過言ではないという事です。」

「この剣が魔法剣?これが、勝手に炎を纏ったり、雷を飛ばしたりするところは見たことありません。」

リティアの説明が始まるや否や、ディオンが驚いた。セイリンは、カノンに押し返されて目が点になっている。

「はい、それは持ち主が魔法を使えれば、纏わせられると思います。金剛剣は、龍の鱗を使用した珍しい素材を鍛えた物です。普通の鉄の剣とは造り方が異なるのです。憶測ではございますが、恐らくは精霊の力を借りて鍛えているのだと思います。」

「それがどうだと言うんだ?」

セイリンが首を傾げると、カノンも真似する。

「魔術が精霊を利用するように、魔法も精霊を使います。その精霊を使って鍛えた剣でしたら、精霊で攻撃していることと同義です。」

「なるほど、見た目は物理攻撃だが本当は魔法攻撃ということか。」

ここで口を挟んだのは、ソラだった。リティアは、皆に見えるように大きく頷き、

「ほう、リティアはよく分かったな。」

「懸命に考えました…」

セイリンに感心されて、リティアは兄の話を思い出せて良かったと内心ホッとしていた。

「そういう理由でクレイジードレインウルフは、騎士団にしか倒せない魔獣なんです。」

「だからあの頃、父達は討伐に行ったのか。納得だな。」

リティアの説明が終わると、セイリンは1人納得していた。

「本当に皆お疲れ様!俺、何の役に立たなかったけど…」

しょぼんと頭を垂れるテルの頭をカノンの小さい手がヨシヨシと撫でて、

「何言っているんだい!?君が市場まで来て教えてくれなければ、こんな事件のことを知らなかったよ!ありがとう!」

ハルドもガシガシと乱暴に撫でた。

「そうなんですね!!テルさん、ありがとうございました!」

リティアも大きく両手をパチンと叩き、ハルドに合わせるように大袈裟にお礼を言うと、テルの耳が赤くなっていく。

「テル、助かったぞ!」

「そう、テルのおかげで俺もスティックを持って本の中の皆に脱出方法を教えられたんだ。」

セイリンもソラもテルにお礼を言い、更にたたみかけるように、

「もしリティアさんがアリシアさんにお会いしなければ、ソラさんが教えてくれた方法で帰ってきていたはずですし。テルさん、ありがとうございます。貴方のおかげでセイリン様を助け出せました!」

ディオンが立ち上がって、垂直に頭を下げてお礼を言えば、テルはようやく顔を上げ、

「本当に皆が無事で良かったぁ!」

ボロボロと大量の涙を流して机に池ができた。


 ハルドにスティックを返却して調合室を後にした頃には、月が夜空に浮かんでいる。カノンはハルドの頬にキスして別れて、リティアの腕の中に収まっていた。

「…疲れたな。」

「はい、本当に。流石にお腹減りました。」

セイリンのモヤも晴れたのか、良い笑顔をリティアに向けてきて、リティアも笑顔を返すと、

「ふふ、私もだ。早くシャワーを浴びたい。」

セイリンが頭をリティアの頭に軽く当て、

「リティアが助けに来てくれて本当に良かった。」

「私もセイリンちゃんが無事で嬉しいです。」

感謝されると、純粋な思いをリティアも伝える。アリシアとの会話は、ハルドに伝えるかすらも悩んでいる。ディオンに寄り添っている精霊の存在自体は既に知っているだろうが、レインはその精霊ならばカノンを起こせると考えていたというほどに、『強力』な守護精霊であるという事だ。あんなことをディオンに言っていたレインは、何よりディオンの助けを求めていた。そして、引っかかるのは、『器』。これは伝えようと思う。何か嫌な予感がしてならない。

「じゃあ、また明日!」

男子達と手を振り合って別れて寮に戻ると、女子達の視線がリティアの腕の中の幼女に集まり、中には声をかけてくる生徒も居た為、リティアは一貫して、

「ハルド先生の親戚の子が遊びに来てしまって暫く一緒にいるつもりです。」

と説明をした。部屋に戻るとまず、

「カノンさん、宙を浮いたり、飛んだり、魔法を使ったりしないで下さいね?」

「あと、精霊人形であることも秘密にするんだ。」

リティアとセイリンで、ここで住む為の注意事項を説明すると、

「はーい!」

ニッコニコのカノンは、元気よく手を挙げた。

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