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150,少女は理解が追いつく

祝150話!140話の前置きの続きを。

好きな食べ物

カルファス…モンブラン、マロングラッセ

セセリ…クリームパスタ

マドン…丼ぶり物

ハルド…簡単に食べられるサンドイッチ、ハンバーガー

ラド…肉全般、特に牛肉

 ひんやりと涼しい夜風が頬を撫でる中、ラドは口を開く。

「その種の魔獣は、俗に古代種と言われる。古代魔獣がそれだ。だから、ケルベロスもその気になれば出来るだろうが…彼の価値観ではあのまま絶滅の一途を辿るのだろう。」

「ケルベロスは番いが居ないのですね?」

セイリンは綺麗な星を眺めながら、御伽話の話を聞いている気分になって、彼の話の間で反応して話しかけてしまうが、

「恐らくは魔獣侵略戦争時には同種が居たはずだ。だが、あの頃にかなりの数の古代種が、亜種によって喰い散らかされた。」

「…そんな。」

不思議と嫌がられずに答えてくれた。魔獣侵略戦争…有名な話の中に、セイリンの知らない世界が広がっているようだ。

「聖女は、そんな古代種を護るために立ち上がったというのに、人間は都合の良いように利用して、聖女すらも罠に陥れた…と言ったら否定するか?」

「…私には判断材料が少なすぎます。ただ、リティならその話を肯定する気がします。」

空を眺めたままのラドに質問されて、既に知らなかった事柄を聞いたセイリンは、正しい答えを持たない故に慎重に答えると、

「彼女は、牙を剥かぬ魔獣には優しく接するからこそ、魔獣へ心を傾けるだろう。だがまあ、話はそこではない。その頃に遡るだけだ。」

「…。」

セイリンの答えには触れずに、リティアの場合について返答するラドに、話を振っておいてそれかと思う気持ちが沸々と湧き上がるがここは口唇に力を入れて我慢した。

「ある古代種の1頭が、自らの愛妻を喰い殺した亜種の四肢を喰い千切りって孕ませた。そして愛妻との愛娘が、その時の亜種の息子に喰われて…」

唐突に始まったであろう本題がなかなか刺激が強くてセイリンの表情が石のように固まったが、暗がりでラドには見えていないらしく、

「気持ち悪がって良いんだぞ?」

無反応だと思われたようでこちらに顔を向けてきたので、セイリンは、それが人間なら…と当てはめて、

「恐らく、その古代種は戦略として亜種と無理やりしたのです。ただ、世代を超えて傷を負うことになったと。そこまで愛された奥様と娘さんが羨ましい…」

考えを口にしたら、意図せぬ自分の感情が溢れてしまい、涙が伝う生温さを肌に感じた。

「…お前も可愛い1人娘だろ?騎士団初の女騎士になるには、それなりに親の地位も関係してくるだろうし、親に反対されてはできないぞ。」

ラドの表情は見えないが驚いているのだろう。親の地位?親の意向?それらを考えると笑いが止まらなくなり、

「あはは!反対されているに決まっているではないですか!だから、ラド先生が言ったように」

「小さい声で話せ。」

腹を抱えて笑い始めたセイリンの耳にも届くほどの低音で叱られて、破裂寸前の感情が萎んでいく。

「うっ…すみません。…だから、団長の構想に飛びつくしかなかったんです。両親は私を騎士にも魔術士にもさせる気はなく、ただの血を絶やさない為の道具です。」

「そうか…それは誤解していたようだ。すまない。」

他の令嬢と変わらない親の扱いを暴露すれば、ラドは素直に謝罪して、涙が溢れているセイリンの顔にハンカチを投げつけてきた。優しいのか何なのか…ハンカチは有り難く使わせてもらうと、

「…話を続けよう。その残された古代種は暴走する。それが雌木だろうが、動物だろうが、魔獣だろうが、人間だろうが、また年齢など関係もなく、捕えた獲物を片っ端から犯していった。」

再開された話は涙が乾くほどに恐怖的な話になってきた為、泣いていたせいで目は熱かったが、反対に肝は冷えていく。

「そこに子が産まれるが、全てが全て歪な肉体を持つ。芽吹いた子は、幹を持ちながら毛深い枝をつけ、その根に目を持つ。動物は、その小さな身体では魔獣の特性を受け止めきれずに大きくなる前に肉体が壊れて他の魔獣の餌食になった。」

「っ!?」

想像するとあまりにもグロテスクな光景で、悲鳴を上げそうになって慌ててハンカチで口を覆う。まだラドの話は続き、

「魔獣との子は何事もなく群れを成し、人間との間の子は生まれながら奇形児だ。どれだけの数が生き残っているかは知らんが、魔獣の兄弟の輪の中に入れない間の子は、何度も命の危機に晒される。母親は無理やり孕ませられて産むまで自由にならず、出産して自由になった途端にその赤ん坊の首を絞めようとして古代種に喰われるか、自らの命を断つか…。ただ1人だけはその子を懸命に育て、人の言葉を覚えさせて病気の為に絶命した。」

魔獣や間の子は奇形について詳しく述べてこなかった為、セイリンは呼吸を整えることができた。

「幼くして母を亡くした間の子は、父親である古代種が他の魔獣の兄弟と共に引き連れた。ただ自分達と異なるという理由だけで弱者は、兄弟に幾度となく殺されかける。そんな奴がお前の前に現れたら?」

後味の悪さだけ残して、今回のクレイスライムの件に重ねてくるラド。ハンカチを口から外したセイリンは、彼へと顔を向けて、

「…その間の子の話がぶった斬られた気分になるのは何故でしょうか?」

この話は恐らくまだ続きがあると、セイリンは直感的に理解したが、

「バッググラウンドを知れば良いだけだ。それでこのような事が環境が存在する魔獣達は、同種同士で殺し合う人間と何が異なる?」

これ以上は話す気がないようで、更に質問をぶつけてくるラドに、間の子と、魔獣と、人間と、必死に何が正解か考えたが、魔獣と戦うラドを見ているセイリンからしたら、殺生するなと言っているわけではないことしか分からなく、

「そ、それは。しかし、先生は殺すなと仰っているわけではないですよね?」

一応確認をしてみると、隣に転がるラドからため息が漏れた。

「無知で殺戮するお前と、魔獣の状況を知った上で戦うリティア君は、あまりにも異なる。」

話の中で何回も話している友人のことを比較対象に出してくるラドにとって、セイリンはリティアより劣っていると言うことなのか?

「リティア君は、衝動的に動いたテル君を守る為に持っていたナイフを投げようとしたが、お前は動揺して立ち竦んだだろう。」

テルの動きから今朝の事だと理解し、セイリンの息が止まる。セイリン達よりも後ろにいたリティアがそのような行動を取っていた事への衝撃が大きかった。自分達は、後ろの人間を守っているとそう勘違いしていたのか、現にリティアは戦う意志があったということだ。

「それは覚悟の問題であり、守るべき者の順位付けはすべきだ。間の子が襲ってきたら倒すべきだし、こちらを害さないならする必要はない。それは人間でも同じだろう?」

最初からこれだったんだ。セイリンの頭は、やっと理解が追いついてきた。以前のヒメの時もそう、今回のスライムもそう、そしてこの間の子も。全てを一括りの魔獣としたセイリンからしたら討伐すべき存在だったが、形が異なるだけで、異種同士間で築かれる信頼関係も、同種同士の争いも、排他的行動も、魔獣も人間も変わらない。それをどうするかって…

「…私は覚悟ができていないから弱いのですね。知っても尚、魔獣に剣を向けられるかと言われれば、私はその間の子が弱って転がっていても斬ることができない。喰われておしまいですね。」

荒れる心の赴くままに腕を地面へと振り下ろせば、ラドが上体を起こしてセイリンの額を指で弾く。

「…美味しそうには見えないけどな。」

「人の神経を逆撫ですることがお好きなようで…」

叱咤されると考えていたのに予想と異なる発言を受けて、セイリンの頬がリスの頬袋のように膨らむ。

「殺戮なら誰でもできるが、お前達には無差別殺戮を繰り返す大人になって欲しくはない。」

こちらの顔を上から覗き込む彼の口元は光の加減か、微笑んでいるように見え、

「…自分でも改めて考えてみます。まず謝罪しなくては。ヒメにそのような壮絶な背景があるとは存じ上げず」

セイリンが彼の目を見つめてヒメへの謝罪意志を示そうとしたら、

「…はっ?」

ラドは、本日2回目の不快感を表した。

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