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145,少年は贈り物を受け取る

 今日はリティアに会えなかったが、体調が悪いのなら仕方ない。明日は、一緒に出掛ける約束しているから会えると良いなと考えながら布団に潜れば、すぐに次の日を迎える。今日は10日!心が朝から踊り出し、まだ起床時間ではないが目が覚めてしまって、いそいそと制服に着替えたら、既に制服姿のソラから控えめにカーテンが開かれた。

「おはよ。」

「おはよう。そして今年も誕生日おめでとう。」

笑顔のテルへ、ソラから2冊の本が手渡される。それは、少し年季の入った料理のレシピ本だった。ソラからキーホルダーやハンカチ以外の物を貰うことは初めてで、ソラと本を何度も見比べてへニャと口元が緩んだ。

「うへへ〜、ありがとう!リファラルさんに厨房借りて作ってみる。」

「ど、どうだ?本当に嬉しいか?」

パラパラとページを捲り、見たこともない色んな料理の絵が描いてあって楽しくなると、ソラが眉を下げて確認してくる。

「うん!まさかソラからこういうの貰えると思ってなかったから、めちゃめちゃ嬉しいよ!どんな味になるんだろー、楽しみ!」

「よ、良かった…」

最近、自分で料理することも楽しくなったテルからしたら嬉しくて堪らない。テルが白い歯を溢して笑顔を見せると、ソラはふぅーと安堵した。もしかして…

「リティちゃんが頼んだんじゃなくて、ソラが相談したんだねー?」

「うう…その通りだ。」

テルの方からこの前の出来事を確認すると、ソラは白状して頭を下げた。

「へへ、俺なんかの為に考えてくれてありがとう!俺からもー。」

「…なんかじゃない。」

他人を頼らないソラにも珍しいこともあるもんだと思いながら、ベッドの下の籠からゴソゴソとプレゼントを引っ張り出すと、ソラの小さな声が聞こえて首を傾げる。

「ん?」

「他ならないお前だから必死に考えたんだ。これがディオンなら、それほど迷惑にならなそうなハンカチでも贈る。」

じっと目を合わせてきたソラに、何となく気恥ずかしくなり、

「そっかー?へへ、ありがとう。はい、これ。きっとこれから採取サークルで必要なるはずだから。」

軽く流して、テルからも箱に入ったプレゼントを渡す。ソラの視線がそちらへ注がれて、心のどこかでホッとした自分がいた。

「トレッキングシューズか…確かにこれは助かる。良いのか?」

「勿論!」

蓋を開けて驚くソラにニィと笑うと、

「ありがとう、テル。大切にする。」

「どういたしまして!」

ソラの顔が綻び、テルは朝から最高の気分になった。


 午前中に自分とリティアの外出申請をしておいたテルは、放課後にソラと一緒にとりあえず調合室に顔を出すと、一足先にディオンとリティア、セイリンが座っていた。ニコニコしているハルドに手招きされて軽い足取りで近寄れば、引出しから片手で持てるほどに2つの小さな紙袋が出されて、

「ソラ君もおいでー。」

「は、はい。」

いつものように席に着こうとしたソラも呼ばれて2人でハルドの前に並ぶと、ハルドはその紙袋を片手に1つずつ持って同時に2人の前に出した。

「お誕生日おめでとうね。これは俺からのプレゼントだよ、受け取って。」

「ありがとうございます!」

ニコッと笑顔を向けるハルドに、2人の声は重なって笑顔を溢しながら受け取って中身を確認すると、青緑の蛇の革柄の細いヘアピンが2本ずつ入っていた。テルが右にも左にも首を傾げると、

「2人とも、それは俺が飛龍の鱗で作ったヘアピン。お守りだから、身につけてくれると嬉しいな。」

「これ、手作りなんですか?先生、料理もできて、こんな細かい作業もできて凄いですね。」

ハルドが簡単に説明をして、ソラはヘアピンを掴みながら驚いた。すぐさま貰ったヘアピンで左側の前髪を留めたテルは、ソラからも取り上げて彼が声を上げる前に向かって左側の前髪を留めた。2人で並べば、異なる方向にペアルックでつけていて、嬉しくなったテルの口角が緩む。

「お二人共、お似合いです!」

今日は体調の良さそうなリティアがパチンと両手を叩き、皆からおめでとうと祝福されると、テルの胸の辺りがポカポカと温かく感じた。


 ハルドからのプレゼントを貰ったテルは、約束通りリティアと街へと遊びに行く。と言っても、スインキーのアルバイトがあるから本当に少しの時間だけだ。それでもテルは心が踊り、リティアの手を引いてスインキーではない他の喫茶店に入る。テルも初めての店だったが、見たことのある生徒がそれなり席に座っていて、何となくリラックスしながらリティアと向き合えた。テーブルに置いてあるメニューを2人で悩みながら、ケーキセットを頼めば、ケーキが届くまでの時間でも胸が高鳴り、リティアの笑顔を直視出来なくて店内をキョロキョロと見渡してしまうと、

「あの…」

「!?えっと…どうしたの?」

リティアから控えめに声をかけられると、テルは心臓が飛び出そうになるのを必死に堪えて、平常心を保とうとして顔面に力を入れた。

「本日はお誕生日おめでとうございます。私の手作りで、細やかとはなりますがプレゼントをどうぞ。」

彼女はバッグから透き通ったオレンジ色のスクエアの瓶を取り出して、テルの前に差し出した。

「いいの!?本当に!?」

「勿論です。もしよければお使い下さい。」

テルがその瓶を持ち上げて色々な方向から見上げると、中に詰まっている液体がゆらゆらと小波を立てていた。しっかりと目で楽しんだ後、蓋を開けて香りを嗅ぐと、夏を感じる爽やかな香りと、主張しすぎない花の香りが混じり合い、少し感じる程度に甘い香りが鼻に届き、テルは首を傾げる。

「わぁ!良い香り!オレンジと…ローズも入っていそう。んん、この甘い香りは何だろう?」

「バニラです。男性は、甘い香りは使用しないかもとは思ったのですが、テルさんなら似合いそうな気がして作っちゃいました。」

リティアが片手で口元を隠して少し恥ずかしそうに微笑むと、テルの心臓は弾んだ気がして、

「それって、俺の為だけのブレンドってこと!?」

「はい、テルさんの為に作った香水です。」

香水瓶をヒビが入りそうなくらい両手で握りこみながら確認すると、リティアはテルの欲しい言葉を言ってくれた。

「うわああ!幸せ過ぎる!リティちゃん、ありがとう!」

勢い良くテーブルに頭を打ち付けて大きな音が響こうが何も気にならない。テルは、ケーキが運ばれてくるまで今の至福に浸っていた。運ばれてきたチーズケーキをリティアと別々に楽しみながら、試験の手応えから始まり、好きな食べ物など他愛のない話でこの時間を過ごす。好きな物を聞いたときのリティアは、ハルドのことをよく話していた。

「森の中に建っていた祖母宅に、よくお兄ちゃんと一緒に来ていたハルさんは、その辺では珍しい植物を新鮮な状態で分けてくださって。」

「実家に居た頃は、ハルさんのお土産がすごく楽しみで。」

「この前ハルさんに連れて行ってもらったビュッフェで食べた揚げ物がプリッとしてて。」

「ハルさんからこのペンダントと、今は着けてませんがイヤリングを頂きまして。目の前で作って下さったのですが、本当に丁寧に作られてました。」

等とハルドとの話は尽きないようにも思えた。最初は大好きなハルドの話だったから、喜んで聞いていたが、ここまでくるともしかして…が頭の隅を掠める。ハルドからは、リティアとはないと断言されたし、彼はライバルではないと思っていたが、ケーキに二口三口しか手を付けないで、ここまで楽しそうに話すリティアはそうとしか思えない。

「リティちゃん…」

「はい?」

ケーキにやっとフォークを刺したリティアに、テルは勇気を出して切り込みにいく。

「…俺と一緒に居て楽しかったこととかってない?」

「それはもうたくさんありますよ!まず最初お会いした頃の轟牙の森で」

キラキラと輝く瞳のリティアは、ハルドの話からテルの話へと変わり、それを聞いたテルの顔の温度が急上昇していった。

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