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142,一番隊隊員は嗤う

 男共をグールの街に落下させるように調整しておいた魔法罠が解除された途端、グールが鮮肉に手を伸ばし、男共は逃げるわけでも殴りかかるでもなく、グールを前に腰を抜かした。盛大にため息を吐いたジャックは、

「あー。ちょっと行ってくるねー?」

ケーフィスに笑顔のまま軽く手を振って、生きたまま肉を引きちぎられそうになっている男共の周りに火柱を立てて、群がっていたグールは灰と化した。

「助かった…のか?」

主犯格の男が勢い良く燃え上がる火柱を見ながら呟くと、ジャックはスキップして彼の前へと躍り出る。

「どうだったー?スリル満点で楽しかったよね?」

「ひぃ!?」

ガタガタと震えて互いの腕にしがみつく男共の前に、唾を吐き捨てた。

「そう、怖がらないでよ。俺は、君達から雇い主と、何て指示されたかを教えてもらいたいだけだからさ?」

ニコッと爽やかに笑顔を向けて、自らの手に火炎玉を発生させれば、中の1人がジャックを指差して、

「ば、化け物!!」

「魔法士なんで、そう言われるの慣れているよ?ほーら、あのグールも燃やしちゃおう!」

罵声らしきものを浴びせてくるが、ジャックには何も響かない。火炎玉を近寄ってくるグールに投げつけて燃やすと、ジャックはその惨めな終わり方に大笑いをする。

「…で、言う気になった?良いんだよ、別に言わなくても。俺ちゃんは魔法士だから、君達の頭かち割って脳みそを取り出すと中身見えるからさ?」

笑いすぎて涙目になりつつ男共を振り返り、一番近くにいる1人の頭に手を置いた。見上げてくるその男は、今にも眼球が飛び出るのではないかと思うほどに目が見開いて面白い。

「遊び過ぎだ。背後を取られるな。」

ケーフィスの声が耳に届き、グールの断末魔の叫びが背後から聞こえると、その喉には光の矢が突き刺さっていて絶命と共に矢は消失する。

「ヒヒヒッ、ごめんねー?さて、どうやって遊ぼうか?」

「い、言います!言いますからどうか命だけは!?」

反省の色のないジャックが、男の頭に乗せた手に力を入れてミシッと音をさせると主犯格が土下座をしてきて、あまりの可笑しさに嗤った。


 街全体を燃やしても良かった。だが、それだと生き残りが居たときに助けることができない。骨の折れる作業だが、失神した男共を馬とともに縛り付けてケーフィスと共にグールを一体ずつ着実に息の根を止める。笑いをやめて普段の表情に戻ったジャックは、炎を帯びた双剣を振り回して向かってくるグールの首を落とす。

「結構多いのだけれど、これまでにどれだけ倒せたの?」

「この2ヶ月で、70体はやったと思うが…正直ここまでとは思わなかった。」

ジャックの質問に、短弓で光の矢を連射するケーフィスは眉間にシワを寄せながら答える。

「そか。もっと早く動けたら、救済できた人も居ただろうに。しかし、異様だね。」

「ああ。この街だけ溢れている。」

ここ以外、人食いの被害報告は上がっていないということは、リグレスから既に伝えられていたことだ。実際、3ヶ月滞在した隣町ではそのような騒ぎを知らないで生活している。右側から飛びかかってきたグールの腕に右に持っている剣を1本刺すと、身体を開くように腕から首へと斬り落とし、更にその後ろから手を伸ばす他のグールの首には、ジャックの髪にすれすれで通った矢が刺さる。

「ほら、あれより先に行かないから馬たちも襲われない。これは、わざわざグールを閉じ込めたみたいにも思える。」

覆いかぶさってきた切り離したグールの一部を跳ね除けて、ジャックはくるんと向きを変えて馬を指差すと、

「…誰が何のために。」

ケーフィスがグールを蹴り飛ばしながら、ジャックの隣に駆寄って声を潜める。

「同じ魔法士さ。一番隊を足止めしたいのだろう。身内同士で潰し合うなんて馬鹿げている。」

ジャックは小声にすることなく、軽く談笑をしている感覚で詰められた距離を自ら開いて、群がってくるグール達へ火炎玉をお見舞いして、

「彼の一族の後継者争いかねー、確か噂だと本家筋の兄弟が居るんだろう?」

蹴り飛ばした相手へ矢を連射するケーフィスへと振り返った。

「…隊長からそのような話は聞いたことはないが、隊長が可愛らしい店に入っていったところは見たことはある。」

ケーフィスはこちらを振り向かずに、家から出てくるグールの喉に的中させると、軽く頭を掻いた。

「あー?あの方にそんな趣味があるというのか!」

「喚くな、俺を燃やすな。燃やすならグールにしておけ。」

突如口が悪くなったジャックは、火炎玉を両手で発動できるだけの数をケーフィスに投げつけると、彼は短弓の柄で器用に弾いて周りのグールにぶつけていき、

「おい、ジャック。そんなことよりもあそこの死体見ろよ。」

「おー、別の身体同士がくっついていく。」

最後の玉を弾いたケーフィスが指差した先には街の広場。そこで、倒したグールの身体が見えない何かに引きずられて集められると、首のない傷口と他の胴体、首と首でくっつく。これはもう、

「探すかー。」

「だなー。それをもぎ取れば終わるね。」

ケーフィスのため息交じりの声に同意し、グールを倒すことを程々にして時計台がある広場へと歩みを進める。

「魔法罠を探そっかねー。」

ジャックがグールの成れの果ての肉塊を切り刻んでお目当てのものを探し始めると、ケーフィスは何も言わずに上空へと矢を放つ。その光に気がついたジャックは、やり始めたことを放棄して全力疾走でケーフィスの傍へと駆けた。

「間に合った…」

そうジャックが呟いた瞬間、辺り一体に光の雨が降り注ぎ、肉塊達に無数の穴を開けていく。それを雨の当たらない所で2人眺めるが、

「肉塊の中にはなさそうだな。」

「だねー。ただこの時計台が怪しいかも。」

ケーフィスが肩を竦め、ジャックは肉塊の地面を踏みつけながらお目当てを探しながら、質素な木製の時計台をコンコンとノックする。

「…燃やすか?」

「喜んでーー!」

ケーフィスからの許可を得て、ジャックは自分を中心として炎の渦にまとわりつかせて、渦と共に踊りながら火力を上げていく。火の粉達が1本の蛇を形作ったところで、ジャックが上空を右の剣ごと指差せば、炎の蛇は空へと飛び上がって時計台の屋根目掛けて降下した。燃えた時計台の木材が炭と化しながら崩れ落ちていき、文字盤が燃えることなくジャックの足元に転がると、それをじっくり観察して長針を外す。その長針の先端を力尽くでへし折ると、中から細長く研がれた白濁して灰色になった魔石が出てきた。ジャックは剣をしまってその魔石を握り、中に閉じこめられている精霊を1つずつ火の精霊を纏った指で取り外していくと、最後に残った精霊は、黒と赤が無理やり接着されて不自然な動きをしている。

「今、開放してあげるからね。」

赤い精霊を自分の火の精霊に吸着させて、そこで一体化させると、歪に合わさっていた黒の精霊は眩しい光を放ちながら消失する。のろのろと近づいてきていたグール達も実体が透けていき、何事もなかったかのように消滅した。

「ジャック、見ろ。街の人が家から出てきた。」

ケーフィスの声に目線を上げれば、燃やした時計台も元通りに建っていて、大欠伸をかく中年男性や、窓を思いっきり開く子ども達が目に映る。

「あー、ケーフィス。帰ろっか。」

「ああ、怪しまれる前に帰ってしまおう。」

2人は善良な住民達の視線が降り注ぐ前に、馬を括り付けていた街外まで走る。そこには伸びたままの男共が落ちていたが、ジャックは縄だけ外して放置して、馬に跨るとその後ろにケーフィスも乗ったのでジャックは振り返った。

「荷物はー?」

「元々、ポーチ以外持っていない。」

ケーフィスはジャックの腰へと手を回して身体を固定すると、馬の腹を軽く蹴って走らせる。手綱を掴んでいるのはジャック。軽く2週間はかかる王都への帰路に着いた。

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