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127,少女は賭け事を嗜む

 他に様子を見ていた女子生徒達が席を立とうとすると、ディオンが爽やかに挨拶をしながら入室してきて、リティアを見下してきた女子生徒含め、自分の席へと颯爽に帰っていく。

「リティアさん、おはようございます。お迎えにあがれなくて申し訳ございません。」

「ディオンさん、朝からお疲れ様です。本当に助かります。また放課後にでもよろしくお願いします。」

朝のホームルームまでさほど時間がない中、リティアの席まで、ディオンがわざわざ謝りに来たので、感謝を込めて微笑みながら頭を下げると、ディオンは視線が宙を泳ぎ、歯切れも悪くなる。

「あ、それが…少し断れない誘いがありまして。後でメモしてお渡ししますので、本日は欠席致します。」

「そ、そうなのですね…分かりました。」

リティアは別段理由を聞くことはせずに、軽く目を伏せて放課後の予定を考える。メモを早めに貰えれば、休み時間のどこかでハルドに会えるだろうから、その方が魔石のことからも都合が良い。けれども、あの女子生徒達が執拗についてきたら面倒なので、ついてきていると分かった場合は疾走して撒いてしまうのも1つ。あとは対話しても良いけれど、一言目から何を言っているのか分からなかったし…悶々とするリティアは、ぷくーっと頬が膨れる。ディオンがわざわざ目線を合わせるために中腰になり、リティアの手の甲に優しく触れてきて、

「リティアさん、この穴埋めは必ず致しますからっ!」

「へっ?いえ、お気になさらず。ご用事を済ませてください。」

小声でも少し強めの口調で言ってきた彼の眉が下がり気味になっていた。その表情の理由が分からないリティアが首を軽く左右に振ったが、彼の顔色は段々と青くなり…始まりの鐘が響いた。


 3限終わりには、ディオンが他の男子生徒から話しかけられる中、リティアに便箋にかかれたメモを渡した。囲まれている彼を置いて、リティアは音楽室への移動前に調合室へ寄り道しようと教室から出てすぐの接続通路を渡っていると、今朝の女子生徒達に囲まれた。今朝の通り気が付かないふりをして、相手からの動きを待つリティアに、ご丁寧に前にまで回ってきて歩行を妨げる。相手は腰に手を置いて、小柄なリティアの顔を覗き込む。覗き込まれる事自体慣れっこのリティアからしたら、わざわざ覗き込まなくても顔を上げるのに…と思い、小さく息を吐いてから顔を上げた。

「早々からため息吐くの!?貴女、本当に自分の置かれている状況を分かっていないのね!」

「囲まれていることくらい分かりますが、囲んで何なさるのですか?」

わーわー!と騒ぐ相手と、その取り巻き達の隙間の中で間隔が開いているところから、リティアは足をバネのように弾ませ、半身でその隙間から抜け出して通路を再び歩く。彼女達から間抜けな声が聞こえてきたが、気にせずに歩みを進めるとまた囲みに来る。

「この人数に囲まれて怯えないとは、よほどセイリン様やディオン様からの庇護を受けられると勘違いしているのね。」

「…本当に何のお話ですか?私は今からハルド先生に相談に行くのですが、ついてくるおつもりですか?」

はあはあと息を切らす彼女達は、リティアの歩行速度についてこれず、徐々に距離が離れていく。

「なっ、わざわざ先生に告げ口にいくのね!?」

ワーワーと騒ぐだけ騒いで本題を言わない彼女達を放置し、調合室の扉をノックすると室内から扉が開いてラドが出てきた。リティアよりも先にお辞儀し、ふわっと微笑を浮かべる彼を、リティアにやっと追いついて目撃した女子生徒達が黄色い悲鳴を上げる。

「ラド先生、こんにちは。中にハルド先生いらっしゃいますか?」

「ええ、どうぞ。しかし、リティア君にしては珍しい御学友をお連れですね。」

リティアも笑顔でラドを見上げると、ラドは後ろからついてきた女子生徒に視線が動き、眉をひそめた。

「…朝から騒ぎながら勝手についてきているだけです。」

「ちょっ!?リティアさん!放課後、女子寮のロビーでお待ちしておりますからね!いいですね!?」

彼女達のやりたい事が全く分からないリティアが正直に答えると、朝からずっと声をかけてくるリーダー格であろう女子から金切り声を上げながら、他の取り巻きを連れて逃げるように階段を駆け上がっていった。その姿が見えなくなるや否や、ラドが眉尻に指先を当てて目を伏せる。

「セイリン君とディオン君も、ああいう生徒達に今朝から引っ張りだこでしたね。」

リティアが欲しい情報を得る為に、色々な人に声をかけているから起きているんだろうとは理解でき、リティアは申し訳なくなって、深くため息を吐いた。

「リティ、どうしたんだい?」

「ハルさん、少しで終わるのでお時間ください。」

室内にいたハルドに声をかけられ、リティアはラドと入れ替わるように入室した。


 放課後の予定を変更させられたリティアは、いつの間にか人数が増えた女子生徒達に遊戯室に連れて行かれる。遊戯室は、トランプやルーレットができるカジノテーブルが6台も置いてあり、その他にビリヤード台が2台、壁にダーツボードが4つはあり、大部屋4部屋を合わせたくらいに広い。リーダー格の女子が1つのカジノテーブルに座り、リティアを手招きする。逃げられらないように後ろから迫る他の女子生徒達と一定の距離を取りながら、そのテーブルに向かい合って座ると、リーダー格がトランプの山を台の上にトンと置き、

「私がカードで貴女に勝ったら、セイリン様に今後近づかないでちょうだい。貴女が負けたときは安心して。私の部屋にセイリン様を招くわ。」

「それで、私が勝ったら?」

自信ありげに口角を引き上げた彼女に、リティアは何の感情も表情に出さない。

「私達は貴女に近寄らない、でどう?」

こちらの変化に気が付かない彼女は、テーブルに身を乗り出してリティアを見下しながら指を指してくるので、

「それはフェアではありません、貴女方が勝手に私に付きまとっているのでしょう。トランプは中身を確認致します。」

リティアは、テーブルに膝を乗せて相手の前からトランプを素早く奪い、テーブルの上にトランプの中身を広げてイカサマが出来ないように、テーブルを囲む他の生徒の目に触れさせた。

「また、ゲームを選ぶ権利はホストの貴女ではなく、私が頂きます。そうではなければ、やることがたくさんありますので帰ります。」

「うう…いいわ。ゲームは選ばせてあげる。それで何を要求するの?」

リティアが怖気づくことなく自らの要求を通すと、彼女は頭を抱えて小さく唸る。

「貴女方全員に、『今まで通り』を要求致します。セイリンちゃんに執拗にまとわりつかなかった数日前の貴女方に戻ってもらいます。」

「どういう意味よ?」

リティアの要求に彼女は首を傾げる。今までセイリンに興味も示さなかったくせに、セイリンが少しでも声をかけたらつけあがって…リティアの心の中で何かどす黒い物が広がり、

「そのままの意味ですよ。ではゲームを始めましょう。ポーカーで3戦して勝ちの回数が多い方が勝利ということで。この中にディーラーはいないでしょうから、互いの前に置いた山から引きましょう。互いに混ぜましょう。」

「あ、貴女、やったことあるの!?庶民がやる遊びではないわよ?」

絶対零度の眼差しで見据えると、血の気を引いていく彼女。リティアは気にせずにトランプを混ぜると形を整えて、相手に渡して、

「何を勘違いなさっているのか存じませんが、私は貴族に属しませんが、それなりに昔から続く一族ですので、ある程度の教養は受けてきております。」

「ま、魔術士の一族ってこと!?」

淡々と話すリティアに、身震いをしながら彼女も丁寧にトランプを切って、2人の前に置いた。

「では、時間が惜しいので始めましょうか。」

冷えきった表情のリティアは、彼女に先にトランプの山から引かせた。

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