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125,少女は並べる

 いつも通りにディオンが寮まで迎えに来て、男子達で決まったことを教えられた。リティアとしても、いくつか証拠品が手元にあれば、何かが分かるかもしれないと期待できる。セイリンもこの話に乗り、教室に入るまでに数人の女子生徒に声をかければ、簡単に広がりつつある噂や、手元に戻った服を借りる約束を手に入れられていた。またその後ろでディオンが微笑んでいるだけで、意気込んで手伝ってくれる女子が増え、その間のリティアは、極力邪魔にならないように影に隠れた。授業の休み時間もディオンは、教室内の誰かに声をかけていて、すぐに彼の周りには人集りができる。放課後になるまで、セイリンとディオン以外と話すことをせずに、リティアは静かに過ごした。いつものように調合室の扉を開けば、先に来ていた制服姿ではなく、探検者のような素肌を出さない服を身に纏ったカルファス達が、本を置いて帰った机の上に借りた人の名前を書いたメモをつけて服や櫛などを並べていた。ハルドはというと、手作りのカップケーキや、クッキーをいつもの机に広げていた。

「ハルド先生、その菓子の山は?」

「今日のフィールドワークに向かう前に女の子達から貰ってたんだよ。1人で食べきれないから皆で食べよう。今、紅茶を用意するからね。」

あまりの量の多さにげんなりしているセイリンに、にこやかに答えるハルドが、隣にいるリティアにすかさずクッキーを摘んで口元に持っていき、条件反射のように口を開いてしまった。サクサクと軽い食感でバターの香りが広がり、セイリンの視線が突き刺さる。

「リティ、美味しい?」

入れたハルドから感想を求められれば、うんうんと頷く。そうしているうちに、セイリンとディオンも集められた証拠を他の机に並べていった。

「皆さん、本当にありがとうございます。」

リティアが礼を言うと、作業中のカルファスが笑顔を向けて、続くように他の人も目を細める。

「分担すれば、できることも増えるからね。テル君達がきたら、魔獣の痕跡がないか調べようか。それまで…」

カルファスが、チラッとハルドにアイコンタクトを送れば、

「お茶会を一足先に始めよう!」

ハルドがカップにダージリンティーを注ぎ、その香りに誘われるように一同がお茶会に参加する。ディオン、セセリ、マドンが毒見をしてから、セイリンとカルファスは口に運ぶが、リティアはひっきりなしに笑顔のハルドによって口に運ばれて雛のようだ。

「セイリン姫、得意でないものも多いのでしょう。あまり無理なさらないでくださいね。」

「あら、カルファス殿はお優しいのですね、しかしご心配なさらず、美味しく頂戴しておりますから。」

心配そうに声をかけるカルファスに、セイリンがにこやかに返答すると、青くなった従者達がざわめいた。

「セイリンちゃん、このメレンゲクッキーも美味しいですよ。」

リティアが、セイリンの興味をもぐもぐと食べている自分に向ければ、向こうからふぅと息を吐く音が聞こえてくる。リティアが1つだけ指で摘んで、セイリンの下唇に触れされれば、手首を掴まれてパクッと食べられ、セイリンは恍惚の表情を浮かべた。ハルドやカルファスにもその光景を見られていて、密かにリティアの耳が赤くなっていくが、セイリンからお返しのチョコレートを口に押し込まれてしまった。味わっているリティアからも笑顔を返せば、ご満悦のセイリンが出来上がる。

「失礼しまーす…皆で美味しそうなもの食べてるー!」

「紅茶を用意するから2人も食べて。」

そろーりと入ってきたテルとソラに、ハルドが新しいお茶を用意した。


 ある程度お腹が満たされたテルは、いそいそと既に並べられている机の横の机に自分が持ってきた証拠品を並べ始めて、セイリンもリティアも手伝う。ディオンは食器を洗い、マドンとセセリは、ハルドから渡された紙袋に余ったお菓子を袋詰していく。リティアは、並べられた品々に紛失と返却の日時と場所のメモをつけるだけでなく、既に洗われて綺麗に畳まれている服や磨かれた靴には、ハルドから赤い色紙をもらって置いていく。ディオンが返ってきたものをリスト内でチェックをいれていると、カルファスとマドンが顔を見合わせた。

「全てが戻ってきているわけではないけれども、大体この1週間の間で返ってきたものは、大体1~2日後には持ち主の手元に戻っているようだね。」

カルファスが気がついたことを周りに共有すると、

「…ですね。」

リティアがブツブツと呟いて、口元を指で押さえると、誰も何も言わずに視線を集中させる。

「戻ってきている物と、戻っていない物で何か差があるのかと思いましたが、それもなくてまるで場所も種類も無作為に戻されているように思えます。それと、ぬいぐるみに関してはこれ以外は戻ってきていません。このぬいぐるみって手作りと見受けますが、何か知っている方は居ませんか?」

「あ、それ!ケールの昔飼っていたわんこの毛や髭を使ってお母さんが作ってくれたんだって!」

リティアが聞いたことを、元気にテルが答えた。リティアはお礼を込めてテルに微笑み、他の人にも質問を投げかける。

「なるほど、ありがとうございます。知っている範囲で構いません。この人達の中で動物を飼われていたか分かりますか?」

「あー、セセリなら分かるかな?」

頭を捻ったカルファスが、最後の袋詰しているセセリに話を振ると、

「そうですね、こちら3名は飼っていたと思います。」

「ガードン様も子豚を可愛がられていた記憶がありますし、メイナ様も小鳥を飼われていました。ハクソ君はトナカイに乗って狩りをしていたと仰ってましたね。」

セセリが手で指し示しながら答えた後に、続けてディオンも口を開いて指差す。

「そういう話なら、俺が借りた人達は牧場とか、養鶏場が実家だよー!」

テルが挙手をしてからリティアに笑顔を向けたので、リティアもニコニコと笑顔を見せれば、テルの頬が赤く染まる。

「では、リストで名前があがっている人達は、飼っていない…?」

「少なくとも俺達は飼ってない。」

セイリンがこの流れで出てくる疑問を口にすれば、ソラが淡々と答え、

「…動物の匂いを好まない魔獣ってことか?」

「テリトリー内に捕食対象以外の匂いがつくことを好まない魔獣は存在するよ。」

セイリンが首を傾げれば、不要になった袋を片付けたハルドが補足的説明を入れた。

「その可能性はあります。少しじっくり眺めても良いですか?」

「勿論、どうぞ。」

リティアが確認を取れば、カルファスが皆を数歩後ろに下げて、歩く道を作った。リティアは、自分の目に映るものから違和感を探す。まずは獣の匂いと思ったが既に別の匂いがあるのでそこは参考程度にして、纏わりついた精霊が色を視る。1つ1つ手に持って確認をすると、洗われていない服の全てから茶色の精霊が逃げていき、服を持ち上げるときには、机に白い砂が数粒だけ落ちている。最後にぬいぐるみを持てば、ファーの一部分の毛がくっついていて、くりくりと指で擦ると白い砂が落ち、その砂を指につけて眺めると、キラキラと輝いていた。これは…

「…乾燥した泥と砂金ですね。土属性の魔獣が関わっているのは確実となります。」

「まさか、その砂は魔獣の物ってことかな?」

その砂をリティアが、カルファスの手に乗せると彼はうーんと悩んだが、

「何故他の動物の匂いがするものを返してくるのかは分かりませんが、白い砂と砂金を混在させて使用する魔獣でしたら、沼の魔獣のクレイスライムでしょう。」

リティアが自信を持って断言すると、後ろにいる誰かの喉が鳴った。

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