124,少年は証拠を集める
指名されたセセリは静かに頷き、1人ずつの目としっかり目を合わせてから話し出す。
「まず可能性が無限大であることが前提条件でございますが、その中で言わせて頂けるならば、やはり圧倒的な証拠不足です。失せ物が手元に戻ってきた生徒達に話を聞くことと、物を見せてもらうべきです。リティア様のお考えは、あの限られた中で物語を作り上げているようでした。」
「今のリティは昔と違って、他人と話すことに苦手意識があるからね。出来るなら彼女も自分で調べたいだろう。」
やはりカルファスは、ソラの意見を聞いていたときのようにコクコクと頷いており、カルファスの皿にカリフラワーのチーズ焼きを少量乗せたセセリは話を続け、
「私達が今彼女の為にすべきことは、憶測を飛び交わせることではなく、証拠集めです。」
皿に視線が降りたカルファスの表情が固くなった。ソラはその姿を見ながら、ただ甘やかすだけではないと言いたいのか?と考える。
「そっか…リティちゃんみたいに考えて…って思ったのですが駄目でしょうか?」
「悪くないと思いますが、それは彼女と異なる切り口から考えないと難しいと思いますよ。」
眉が下がり気味になるテルは、リティアに約束したときのような勢いが失せていたし、セセリに一刀両断されて、どんどん頭が重くなっていくように見えた。カルファスが強く目を瞑ってカリフラワーを食した後に、何事もなかったようにディオンへと話を振る。
「ディオン殿はどう?」
「私は、リティアさんの意見を推したいと個人的に考えております。」
誰もリティアの考えの詳細に触れない中、ディオンだけが彼女の意見へ肯定を入れる姿に、自然とソラの目が向いた。
「ほう?」
「嫌がっていた彼女に、無理に言って頂いた考えですから、否定をしたくないのです。それを確実なものにするために必要な証拠集めは任せてください。実物もお借りしてきます。これでも顔は広いので、皆さん貸してくれますよ。」
ディオンからも魔獣の話などの詳細は出てこず、ソラの興味が弁当の余り物へと移っていく。
「これは心強いね。こちらも3年生と2年生からは話を聞いてみよう。女子生徒達にはハルド先生の手伝いと言えば、結構集められそうだし、セイリン姫に頼んでみよう。」
そう話すカルファスは、セセリに目配せして棚の何かを取らせて、頭を軽く掻きながらマドンに笑う。
「マドンの考えはどう?」
「カルファス様と同じかと思います。魔獣は複数体関わっていると考えております。」
2人は目を合わせてクスッと笑いを零し、
「そうだね、その後は?」
「カルファス様もありませんよね…」
簡単な言葉で和むその関係は、ソラとテルの関係みたく言わずに分かり合っているようにソラの目に映った。
「そうだね、うまくまとまらないよ。本当に情報が足りな過ぎる…」
カルファスが呟けば、棚から何かを持ってきたセセリが、ディオン達の斜め後ろから栗が詰められた小袋を1つずつ渡された。ソラがまじまじとその中身を眺めると、
「それはマロングラッセって言うんだ、是非持ち帰って。ただ、洋酒使っているから食べる時間は考えたほうがいいよ。」
「わあ!リティちゃんと食べよう!」
「…ありがとうございます。」
喜ぶテルに釣られてお礼を言うソラは、隣の恍惚の表情を浮かべるディオンに目を引かれた。
「メルティのマロングラッセを頂けるなんて!ありがとうございます!」
「そこまで喜んでもらえると嬉しいよ。では皆、また明日。互いにこの案件の解決に尽力しよう。」
大切そうに自分のバッグに仕舞うディオンの姿に、自然と笑みが溢れるカルファス。立っているセセリに扉へと促され、ディオンとテルが手早く弁当を片付けようとすると、
「それは残しておいて良いよ、マドン達とまだ話し合うことがあるからその後片付けるからね。ごちそうさま。」
カルファスに止められて、2人は目を見合わせながら手を引き、忘れ物がないように確認しながら自分達の荷物を持って部屋を出た。寮内を歩いている生徒が殆ど居ない中、3階まで何事もなく階段を降りたソラが別れる前にディオンに話しかける。
「ディオン、今回のリティアさんの考えについては誰も触れなかったな。俺は魔獣についての知識がないから話せることはないと思っていたが、まさか彼らまでそこを話題に上げなかった。」
「それは魔獣の確定ができないからもありますが、何よりリティアさんを否定するための意見をまとめるために集まったわけではありませんから。」
ディオンが諭すような口調でソラに言い、それでは、と手を振って部屋へと戻っていった。
「明日にでもリスト見せてもらおうか…」
「うん!」
ソラに笑顔を見せるテルと共に部屋に戻れば、剣の話題が尽きていないルームメイト達に捕まった。
日が昇ってから食堂へと向かったソラ達は、同じ組の数人目の前に置いた食事を取らずに今にも喧嘩でも勃発しそうな険悪な雰囲気を醸し出していて、すかさずテルが近づいていった。ソラは一緒には行かずに、2人分の朝食が乗ったトレーを彼らの傍の空いている席に持っていこうと振り返ればここまで声が届く。
「絶対こいつが盗んだんだ!」
「テル、本当に違うんだよ!朝起きたら足元に落ちていたんだ!」
恐らく同じ話をぐるぐると繰り返しているのだろう。涙目のラワンを指差して怒鳴るケールは、人の目を気にせずに攻め続け、テルが間に入る。
「まあまあ、少し落ち着いて聞いて。俺達なんて、剣が突然天井から降ってきたから!」
「それは落ち着けねえだろ!テル、ぶつからなかったか!?怪我は!」
まるで自分の身に起きたかのように言うテルに、ケールが青ざめながら本気で心配すると、
「大丈夫だよー、よくつるんでる友達の剣が勝手に無くなって、俺達の部屋に出てきたみたい!」
「まじかよ!じゃあ、ラワンが持ってきた俺のぬいぐるみも…」
簡単に何が起きたのかを説明すると、ケールも肝を抜かれたようで、先程の怒号の勢いが消えた。
「恐らくそうだと思う。ハルド先生やラド先生も失せ物が多発していると言っていた。」
「そうなのか、ラワン疑って悪かった。このぬいぐるみは本当に大切なものなんだ。」
「誤解が解けてよかったよ…」
テルが先生の名前を出せば、効果てきめんだった。ケールとラワンが仲直りしたところで、本題に入る。
「ケール、申し訳ないんだけど、ハルド先生に今回のぬいぐるみの件を伝えたいから、いつからなくなったのか教えてほしいのと、今日一日だけで良いからその可愛いわんこを借りれないかな?」
「ああ、一昨日の朝に気がついたんだ。テルならいいぞー、俺のヒビキを貸してやる。」
テルはいとも簡単に欲しい情報を聞き出し、更にケールから証拠品である犬のぬいぐるみを手渡される。テルは両手で大切に預かると、汚れないようにソラが持ってきたトレーの外に座らせる。
「ありがとう!ソラも持ってきてくれてありがとう。」
テルは、ケールとソラに順番に笑顔を向けてソラが置いたトレーの前に座った。ケールも良い笑顔になり、
「ああ、飯を食おう。」
「んじゃ、皆で頂きます!だね。」
テルが笑顔を見せれば、誰もが和む。ラワンもほっとしながらパンに手を伸ばし、ケールもサラダを食べ始めた。テルのこういうところは、ソラには無いもので、ずっと羨ましいと感じていた彼のスキルの1つだった。テルが俺を羨望するなんて考えられない、俺があいつに向けている感情だ。笑顔のテルと比べてソラの表情は、徐々に曇っていった。




