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122,少年は剣を抱える

 怯えているルームメイトが言うには、他の人に分からないところを質問しようとして、ベッドから降りたら突然天井から剣が降ってきたらしい。そしてその剣はとてつもなく重くてルームメイト3人でも持ち上がらないと言う。ソラは2人分のバッグを自分のベッドへ投げると、3人がしゃがみこんでいる円の中心を上から覗く。それは黄金で鱗がうっすらと見える大剣で、ソラにとって見覚えのある剣で、

「その剣の持ち主知っている。」

手を伸ばすと、ルームメイト達が驚いた表情で振り返り、顔にぶつかると思って慌てて手を引っ込めた。

「え、ソラ、いつ帰ってきた?」

「今。」

「テルに見せようよ、喜びそう。」

「あいつ、これ見たことある。」

「お前、本当に存在感ないよな。」

「今も存在してる。」

3人と一問一答のやり取りをすれば、再び手を伸ばして剣を掴み取る。男子が重くて持てない物を貧弱な自分が持てるのかは分からないが、羽根のように軽々と持ち上がった。おおー!と下から感嘆が聞こえたが、あまり気にすることなく、自分の背より大きな剣を両腕で抱えながらディオンの元へと走る。料理を作っているのだから、生徒用の厨房だ。失せ物がどこかに返されるということはこういうことなのかと、自分なりに納得しつつ、階段を駆け下りると、階段の段差が途中で消え、後ろを振り返ってもそれは同じだった。つんのめりながらも、つま先でグッと堪えた。また魔獣の仕業か、これが初めてではないソラは、周りをぐるぐると見渡して曖昧な記憶を辿りながら剣を構える。ディオンの身長でも頭が出る剣が、長身の彼よりも10センチ以上低いソラでは更に長くなっているが、それでもこの軽さならば動かすことができた。

「あらあら、結界が壊れかけているようですねー!ソラ君、そのままそこを動かないでくださいね!」

ルナではない女性の声、テルのように無駄に明るい声が空間で響くと、透き通る紫色のガラスの階段が目の前に現れた。

「誰か分からないが、助けてくれるのか?」

「はい、今回は手助け致しますね!とりあえず、会いに行く予定の人は誰ですか?」

声しか聞こえない女性へ問えば、やはり明るい声で返ってくる。

「ディオン。」

「ああ!リティアがときめいているあの顔の良い男性ですね!」

質問に答えながら、現れた紫色の階段を剣で突くと、カンと音を立てる。本当にそこにあるらしい。女性が何を雑談しようがソラには興味がなく、耳の外へと流れていく。

「…そうか。で、連れて行ってくれるのか?」

知りたいことだけを聞きながら、ゆっくり足元を確認しながら降りていくと、

「魔獣が消した床も階段を作りましたが!恐らく空間自体が歪まされていますので、自分の記憶を頼りに本来あるべき目的地まで行って下さい!もし扉がなくても、そこに『あります』!」

「…わかった。」

テルみたく拗ねることはなく、しっかりと説明をしてくれ、ソラは自分が立てた音以外が聞こえてこないか注意しつつ、剣を構えながら歩みを進める。革靴で歩く音はあまり響かず、時折後方で何かがぶつかる音が耳に届くと、警戒しながら後ろを振り返っても別段変化はなかった。踊り場が紫と白のマーブルになっていて、白を踏んだらぐにゃと沼のように足に絡みついてきた為、足を持っていかれる前に引き上げた。トンと白を飛び越えて紫の床に着地すれば、白が下から手を伸ばす。

「魔獣か。」

軽い剣を振れば、白い手は何の感触もなく簡単に斬れて、そのまま白い床に飲み込まれて、また新しい手を生やしてくる。何度も斬っても同じことの繰り返し。きりがないと思ったソラは、飛石の要領でトントンと紫の床へと飛べば、手がいくつも伸びてソラの腕を掴もうとしてきて、避けようと身体を逸らそうとすると、剣が勝手に動いて引っ張られるように、ソラの腕ごと振り上げられて白の手を斬り落とした。

「はっ!?」

「古代龍の剣ですので、古代龍の意志がそれをさせるのですよ!貴方を守るために、貴方の手に取れる所に現れて貴方だけが抱えられるようにしているのです!」

驚きで声を漏らしたソラに、また女性の声が聞こえてきて、今の現象をご丁寧に説明までしてくれた。

「そうなのか、その意志に感謝しよう。」

再び飛び越えながら、次の階段へと降りていく。


ダン


階段が何者かに下方から叩かれて、ソラの身体はバランスを崩して尻もちをつく。透き通った階段の裏からソラの足の裏ほどの大きさがある獣の目が、ソラを見ていた。その姿は放課後に読み漁っていた図鑑で見た…

「しゃ、シャークドッグ!?」

図鑑の通り、犬の身体でありながら頭は平たい魚のようだ。白い舌が踊り場へ伸びていて、もちろん踊り場には白い手が伸びている。これに関しては図鑑と異なり、目を大きく開いて唾を飲み込んだ。

「これは、シャークドッグと、沼の魔獣クレイスライムのキメラ体ですよ!貴方には無理ですので、頑張って逃げて下さい!」

「この剣を使うディオンならば、倒せるのか!?」

女性の強い口調で慌てて体勢を戻して、伸びてくる手を剣で払いながら、紫の階段を2段飛ばしで駆け下り、

「…いえ、貴方ごと彼の守護精霊に守ってもらうだけです!」

「守護精霊?ってなんだ?」

息を切らせながらソラが色々と女性に質問し続け、その間もソラの動きを止めようと、階段を叩く魔獣。

「全くやかましいのですよ!質問なんて明日にでもリティアにでもしてください!逃げ切ることが最優先です!」

「わ、わかった。」

頭にガンガンと響くほどの大声で怒られて、まだ聞きたいことが溢れてくるソラでも口を閉じた。

「1度目をつけられた人間は何度でも襲われるんですから、落ち着いたら対処方法を考えてください!」

1階の踊り場にたどり着けば、目の前に石の壁が立ちはだかり、その手前に目的地の左側ではなく、右側のみに通路が現れた。

「見えないだけで道はあるんだったよな!?」

「あります!その金剛剣を落とさないようにだけ気をつけてください!」

その言葉を聞いたソラは、後ろからの手を剣を振り回しながら切り落として壁へ突進した。ドロっと纏わりつくが、壁の中を歩けそうだ。見えない前方は自分の記憶で補完する。剣をその粘土に持っていかれそうになり、もう一度両手で抱え直した。記憶の中ではロビーを抜けて、今は食堂付近だ。あと少しだ、と自分を奮い立たせて、粘土の抵抗を感じながら重い足の歩みを進めたら、肩を後ろから掴まれた。まずい!と振り返れば、突然現れた紫色の鉱石が目の前で輝いて、女性の姿へと変化する。

「リティアの大切なものにお前のような三下が触れる権力なんてないのですよ!」

全身紫の鉱石の彼女が腕を振り下ろせば、バチバチと紫色の雷が発生して、その白い手を粉々にしていく。

「ソラ君!見惚れていないで行きなさい!」

「あ、ああ。」

先程まで手助けしてくれていた女性であると理解したソラは、言われるがまま扉を手探りで探している間も雷が投擲武器のように飛び、見えない視界が少し明るくなる。これが魔法なのだろうと思いながら、取っ手に手が当たった。それを回して扉を開けると、目の前が嘘のように開けると、ディオンがフライパンにオイルを注いで鶏モモを良い音立てて焼いていた。ハッとしてもう一度振り返れば、扉の向こう側はいつも通りの風景で、抱えていた剣が突然鉛のように重く感じて、ガランと手から落ちていった。

「あれ?ソラ、凄い汗!?」

「私のファルシオンが何故そこに?まさか失せ物として動かされていたのですか!?」

テルとディオンがこちらに気がついた。ほっと気が抜けたソラはそのまま床に座り込むと、

《お疲れ様でした!!色々と本当に驚いちゃいました!それと》

先程までの女性の声が頭の中に直接聞こえてきて、

《貴方のズボンのポケットに入れた石をリティアへ渡してください。忘れ物ですよって。》

クスクスと笑う声が耳に最後まで残った。

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