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119,少年少女は読み漁る

 リティアの隣、いつもハルドが座っている席に微笑を崩さないカルファスが座り、その後ろにマドンとセセリが控える。テルはいつも通りリティアの左側、その隣にソラ、ディオンと座る。

「いつもこうやって集まっているのかな?」

「はい…」

カルファスの笑顔の裏が怖いと感じるリティアは、体を縮めつつもメモ紙を見せないように裏返した。

「そうなんだね、ハルド先生から見てもリティは可愛いだろうから自分の視界に入れておきたいっていうのは理解できるけど。窮屈ではないのかい?」

「え、別にそういうのはないですよ。ここで楽しく皆さんと勉強して、ハルさん、ハルド先生からお茶と茶菓子もらってます。」

穏やかな口調ではあるがまるで尋問のようだ。どんどん近づいてくるカルファスの顔に対抗するかのようにリティアが笑顔を作ると、乱暴に扉が全開になった。血相を変えたセイリンが大股で近づいて、カルファスとリティアの間を隔てるように山積みの本を置く。マドンもセセリも動じずに見ているだけで、またその後ろから紐で縛った多数の本を束を抱えたラド、女子生徒達にニコニコと手を振るハルドが入室し、

「マドン君、セセリ君が居るってことは、俺の席に座っているのは…」

「こんにちは、ハルド先生。お邪魔しております。」

ハルドはニコニコと、セイリンが置いた本の隣に自分が持っていた本も置き、微笑むカルファスの肩に手を置いた。

「カルファス君は席を変えてくれるよね…?」

「これは失礼致しました。」

ペコリと頭を下げたカルファスは、他の島の机へと移動してマドンとセセリも座らせる。鼻息が荒いセイリンは、他の机の椅子をカルファスとリティアの間の机間に持ってきてドスンと座って腕を組んで、ラドから頭の上に紐で括られた本を乗せられた。

「いくら気に入らないといえど、やることが子供ですよ。椅子を戻しなさない。」

「ううう…すみません。」

ラドに叱られて撃沈したセイリンが椅子を戻そうとして、素早く傍へ来たディオンが代わりに戻す。

「ごめんね、普段使っている机の縦半分は壁につけてるから使い辛いよね。カルファス君達が座っている机にならぐるっと囲めるし、そっちに…」

一度置いた本をカルファスの前に置いてから、ハルドら首を大きく傾げる。

「ん?待って、君達何でいるんだい?」

「ハルド先生、結構お疲れですね。もしかしたら最近、物が無くなる被害が多発しているのは、魔獣の仕業ではないかと言う話になりまして、そちらの専門でもある先生にご教授を願おうかと思いまして。」

笑顔で答えるカルファスに、ハルドは額を人差し指で叩き、その光景に冷ややかな視線を送るセイリン。リティアは、一旦中断した思考の海へ落ちていく。魔獣は、3階を移動しやすい特性を持つ収集癖か。それを返すとはどういうことなのか。失せ物に何かしらの罠がかけられているとか…

「ハルド先生、この本を失礼します。」

外野の声は聞こえてくるが入ってこないリティアは、魔術考案図の表紙や背表紙、そして中に違和感を覚えるところがないかを念入りに1枚1枚確認していくが、それほど時間はかからずに背表紙を閉め終わってしまった。

「…。」

魔術考案図を静かに睨む。何も起きる気配はないということは、これ自体に細工はされていない。では…と失せ物リストを見直そうとして、ラドに取り上げられた。

「…何でですか?」

「それはリティア君の悪い癖です。1人でなさらないでください。これだけの人間がいるのですよ、分担しましょう。」

ラドが紙を掴んだ手を広げれば、1人一冊の本を開こうとするいつものメンバー、そして微笑を浮かべるカルファスと傍に控える2人が、リティアの狭かった視界に飛び込んでくる。

「ラド、カルファス君達を巻き込むのかい!?」

「巻き込むも何も、カルファス君達はわざわざこの為に来たのでしょう?」

ガシッとラドの両肩をハルドが掴むと、ラドの視線はカルファスへと注がれ、

「ラド先生は、分かっていらっしゃる。生徒達の平穏のため、私達も尽力致します。」

カルファスもそれに応えるように微笑をやめて、真剣そのものの瞳を向けた。


 カルファスのいる机を皆で囲んでから改めてリストを見直したリティアは、どんな特徴の魔獣を探してほしいかを全員に伝える。

「収集を好む、平行移動を得意とする。あと、姿が隠すことが上手、極端に小さい魔獣の可能性があると考えております。」

「それか、狩りが上手に行えないような弱い魔獣かもしれないね。」

まだ魔獣に関する情報が少ない中で、リティアの考えに付け足すカルファスは、ハルドが淹れた珈琲で口を潤す。

「…なるほどね。魔獣の子どもや、老いている可能性はあるかもしれない。」

いつもの席に無事に座れたハルドが感心し、その隣に当たり前のように座るラドは、そのハルドに反論する。

「子どもの可能性は否めないが、老獣はないでしょう。若かれし頃はここの生徒達を貪っていたということになります。」

「老いて逃げ込んできたとかはないんですか?」

テルが挙手して元気に質問をすれば、ハルドがニコッと笑顔を向ける。

「この学校の中に逃げ込むことは極めて困難だ。大昔に張り巡らされた結界で守られているからね。自らの意志では入ってこられない。」

「内部に手を付けられない魔獣を閉じ込めているとも言えますよね。」

カルファスがすかさず意見を述べれば、ハルドは笑顔を崩すことなく、

「口が過ぎるよ、そんな所を生徒達の学習の場にできるわけないよね。」

「これはこれは失礼致しました。」

注意をすると、カルファスは自分の意見を引っ込めて頭を下げる。

「子どもという線を考えると、収集癖が消えて、全ての魔獣が当てはまってきます。あ、でも手があるかもしれません。」

「どういうことだ?」

カルファス達からの意見を聞いて、リティアは考え込みながら次の考えを伝えると、セイリンの視線が刺さった。

「手か尻尾か。失せ物を咥えるタイプの魔獣ではないと思います。この紙によると見つかった失せ物は、変な液体がついているとか、穴は開いてないようでした。実際、この本も何もついていませんでした。」

「そうなると、膨大な魔獣でも結構減らせそうだな。」

魔術考案図を手に持って表紙と背表紙を皆に見えるように動かすと、セイリンは納得したようにノートに考えられる特徴のメモを取り、時間が惜しいと言わんばかりに本を開く。

「はい、紙切れだけどメモ兼栞にして。」

ハルドが、大量の短冊を4つのクッキー缶に入れて机の真ん中に置くと、早速ソラが手を伸ばしてメモを書き、既に始めていたピックアップした魔獣のページに挟んでいく。それに続くように誰もが本のページを捲っていった。リティアの頭の中には、魔獣のシルエットが出来上がりつつあったが、確証を持てなかった為に口を閉ざし、ページを捲りながら考える。手が届くものを取る、または尻尾で身体を持ち上げることができる魔獣。誰の目撃情報もないところから、闇夜に隠れられる闇の属性持ちの可能性あり。そして、それが壁をすり抜けられるとしたら土属性も持つ。リティアは、その魔獣がクローゼットを開けることができないと見ていた。無くなった衣服は殆どが外行き用ではなく、パジャマやルームウェアで、セイリンが使っていたような大部屋で寝ている生徒の多くは収納スペースが少なく、ベッドの下にある籠や、ベッドの上に乗せている可能性が高い。身体が小さいのだろう。また、もしもこれが成獣としたならば、ずっと前から生徒達を悩ませていたはずだ。そうではないところからも子どもの確率が上がり、襲われたという話を聞かないところからも、肉食ではないのだろう。子どもが居るなら親もいる。次の本へと手を伸ばして本を広げていく。1時間も経たないうちに1冊2冊と、人によってペースは様々だが机の上へと確認が終わった本が積まれていった。

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