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118,少女は読み取る

 昼休みのセイリンもどこか心ここにあらずの状態で、薬を返しに来たテルに額を触られていた。

「セイリンさん、熱はなさそうだね。」

「心配かけてすまない。具合が悪いわけではないんだ。」

それを聞いてホッとするテルに、セイリンが笑顔を作って手を振れば、ベンチに座っているディオンの隣にソラが立つ。

「とりあえず、報告。アギーは男子寮で休んでいる。ゴーフル先生が様子を見に行ってくれるようだ。」

「ありがとうございます。寮に帰ったら見舞いに行きますね。」

「俺も行くー。」

ディオンが頷けば、テルが弁当を押さえているディオンの手に自らの手を添えた。

「あ。」

上を見上げたセイリンが呟けば、ベンチから見える2階の実習棟の通路をハルドとラドが並んで歩いている。それに気がついたテルがブンブンと大きく手を振ると、窓側のハルドがにこやかに手を振り返した。ボーッとその光景を眺めているセイリンと2階の2人を、ディオンは険しい表情で見比べ、

「セイリン様、昨夜はお2人とディナーでもなさったのですか?」

「…!?」

ポッと頬を染めて俯くセイリンに、いつものメンバーが注目する。

「セイリンちゃん、ハルさんを誘って今度ランチでも行きます?」

キラキラと目を光らせたリティアがパチンと両手を合わせると、セイリンは首を横に振る。

「それはリティが行っておいで…?」

「セイリン様。今ここで私から叱られるのと、本日の貴女様の行動を省みるのとどちらがよろしいでしょうか?」

冷めた目をセイリンに向けるディオンに、血の気が引いていったセイリンの目が泳ぐ。

「うっ…すまない。上の空だったんだ。スインキーでた、食べたビーフシチューが美味しかった。」

「え!スインキーってリファラルさんのところだよね!いつ行ったの!?」

ずるい!と、セイリンのフォークを持った手を握って大きく振るテルに、言い辛そうに口を開くセイリン。

「さ、昨夜。ラド先生に鍛錬の相手をしてもらってから、ご馳走になった。」

「そこにハルさんもいたのですか?」

リティアはじーっとセイリンの顔を見ながら聞けば、

「ああ、既に先に食事を終わらせていたぞ。」

血色が軽く戻ったように見えるセイリンが教えてくれる。ふむふむと、リティアの中でセイリンの想い人はハルドだと確信して、今度2人っきりのランチは緊張してしまうだろうから自分も一緒に行こうと、密かに考える。

「セイリンさん、外出許可は取られていたのですか?」

「いや…。何も気にせずホイホイとついて行ってしまった。」

リティアが真剣に考えている間に、ソラから見下される形で尋問を受けたセイリンは更に気まずそうになり、

「あああ…すまない。今後は気をつけるからそんな目で見ないでくれ。」

自分の膝で顔を隠すセイリンに、冷ややかな視線を浴びせるディオンから押し殺したような低い声が漏れれば、

「…ラド先生を問い質せば良いですかね。」

「ディオン、勘弁してくれ。」

セイリンが素早くその肩に抱きついて泣きついた。

「?」

どうしてラド先生を?と疑問に思ってリティアが首を傾げれば、テルがリティアの空っぽの手を柔らかく握り、

「り、リティちゃん!今週末、俺と!ご飯食べに行こう!」

「はい!皆で、セイリンちゃんが美味しいって仰ったスインキーのビーフシチューを食べましょう!」

リティアと目を合わせて唇を引き締めるテルに、リティアは満面の笑みで答える。今から食べるのが楽しみで、口元が緩みそうだ。テルが大きく目を大きく見開いて瞬きが止まらないところをソラがポンと肩に手を乗せる。

「おお…これはなかなか刺さるな。テル、飯を食いに行くぞ。」

「リティアさん…」

ディオンから小さな呟きが聞こえれば、セイリンがバッとリティアを抱き締めて、

「本当に美味しかったから、是非皆で行こうか。」

良い笑顔で頬擦りをしてきた。


 放課後、見舞いに行った男子達と別れて調合室の扉を叩く。ハルドが珈琲を淹れてから、

「リティ、図書室で本を探さないといけないかもしれない。」

「どんな本ですか?」

眉をハの字にするハルドに、珈琲のカップを揺らしながら聞けば、

「魔獣侵略戦争以前に書かれた魔術陣考案図が、厳重保管場所からなくなっているんだ。」

「…、それってこれですか?」

ディオンから解読に時間がほしいと言って借りた図鑑をバッグから取り出すと、自らの額に手を置いて顔を振るハルドがいた。

「待て待て、何で君が持っているんだい?」

「ディオンさんが、今朝から読んでましたので、解読するためにお借りしました。」

持っている理由をしっかり伝えると、ハルドはリティアから本を受け取ってパラパラとページを捲る。

「…これだ。ディオン君が盗むとは思えないから、やはり何か学校内で起こっているな。」

「あ。そういえば今朝、ソラさんとテルさんも手持ちの常備薬が無くなったって困っておりました。」

ふぅとため息を吐くハルドに、考え込むリティアを見たセイリンは、勉強するつもりだった古代語の教科書を閉じてバッグに仕舞う。ハルドは、視線をガラスポットに固定したまま動かない。

「…失せ物の話は、今朝の職員会議でも出てね。先週から少しずつ増えてきたみたい。」

「魔獣の仕業でしょうか?」

ハルドの吐き出された言葉にセイリンが素早く反応する。

「俺はそう見るけど、今のところ何もわかっていないんだ。」

「早速、レイピアを持って」

一瞬だけ苦い顔をしたハルドを確認して、セイリンはバッグを持ち上げると、考え込んでいたリティアから制止を受ける。

「セイリンちゃん、まずは相手を知ることから始まります。セイリンちゃんもハルさんも図書室の魔獣に関する本をここに持ってきて頂けませんか?私は、何が無くなっているのかを知りたいので職員室に」

「一覧なら持っております。」

足音もさせず、扉を開く音もさせずに、ラドが1枚の紙を持った状態で調合室に入ってきていた。セイリンの背筋が自然と伸びた。

「ラド先生!ありがとうございます!」

「早急なる解決を。貴女様の解読なれば、それ程時間はかからないでしょう。」

嬉々としてそれを受け取ったリティアは、書き込まれた情報を目を皿にして確認していき、突然ハッとして顔を横に振る。

「わ、私はそれほど」

「はいはい、ラドも行きますー。セイリン君も手伝ってね。リティ、紙とペンは引き出しから出して使っていいよ。」

ハルドが口を開こうとしたラドの口を押さえて、そのまま調合室の外へと押し出すと、セイリンに手招きする。

「リティ、とりあえずいくらか持ってくるから待っていろ。」

「よろしくお願いします。」

慌てて出ていくセイリンに頭を下げると、静かになった調合室で、ハルドに言われた通りの引き出しから紙を抜き取る。失せ物リストに書かれた発生場所を洗い出すと、3階で多発している。ソラとテルも3階に部屋があるか聞いてみなくては。失せ物が他の人の手にあるということもあるようで、見つかったものに関しては誰が持っていた、どこにあったかが書かれているが、こちらは3階でなくても見つかっているようだ。

「…魔獣は複数いるのか、それともアリシアさんが関わっているのか。」

そして欲しい物は何なのか。失せ物は様々で、教科書、衣服、櫛、靴など共通点が見当たらない。よく無くなるのは男女問わず、衣服、櫛。

「アリシアさんの新しい身体に着させるお洋服…?」

いくらなんでも彼女はそんな荒らしはしない気がする。欲しい物があれば、こちらに働きかけてきそうだ。よってこの憶測は消去される。そう頭を働かせていると、ノック音が聞こえてきて扉が開かれた。テルが手を振りながら入ってきて、考え事をしているソラは前にいるテルにぶつかり、ディオンが2人を前へと押すと、その後ろからカルファス、マドン、セセリが入室してきた。

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