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108,少年少女は脱出する

 ガアに抱えられながら、崩れ去ったゴーレムの死骸の上へと降り立ち、ごろんと落ちている眼球に毒牙を刺した状態の毒鼠を炎の槍で燃やし尽くす。壁も崩れてきてリティアの視界は砂埃で塞がれそうになり、スティックを踊らせるように虹色の傘を開き、自分達を守る。

「ここは、離れの塔だったのでしょうか?」

壁が崩れた先も同じ煉瓦が崩れ落ち、至る所の毒鼠がその煉瓦の下敷きなり、緑色の血を飛び散らせる。罪人をわざわざ怯えさせて拷問するのか、殺すのか…壁に開いていた穴は覗き穴または、拘束具の設置位置か、そのような施設に見えた。

「ガアアア…」

「ガアさん、すみません。少し考え事をしておりました。それにしても…」

傘を開いたまま動かなくなったリティアを心配してか、ガアはピンと張った白い髭でリティアの頬を撫でてきた。それはケルベロスに顔を擦り付けられる時のようにくすぐったい。壁が全て落ちて、枠組みだけになった空間をぐるんと見渡し、

「どうやって出ましょうか?」

リティアは頭を傾げる。アリシア本人か、アリシアの棺を探していたはずなのに、そのようなものは見つからない。歩きづらい煉瓦の山を先程練習した風で端へと飛ばせば、ツルツルした素材の床が姿を現す。所々に水垢があり、ここで死体処理でもして、その血を水で流したのではないかと憶測できる。すぐに考え込むリティアは、ソラからの伝言を思い出し、

『今度こそ私の元へたどり着いてね。』

アリシアとルナは何を伝えたいのか、辿り着いた先に何があるのか。学校という仮面を外したら、どんな錆が出るのだろう。

「ガアア?」

いつの間にか離れたガアが、突然紫色に光り始めた床をダンダンと叩き、リティアが小走りで近づくとその光は力を増す。

「ご丁寧に。やることが終わったら出口を用意してくれたのでしょうね。」

ふぅと小さく息を吐けば、何となくだが良いように利用されたことを理解した。最初からアリシアは、リティアが贈り物を貰っただけで話を終わらせないと思っていたのか、それともまた誘うつもりだったのか。ケルベロスとハルドを奪って…と、要は私だけに用事があるということだ。

「ガアさん、行きましょう。もうここには何もなさそうです。」

「ガア!」

ガアがリティアを力強く抱えると、その上で一度だけ飛び跳ねた。あったはずの衝撃を受けることなく、そのまま床の下へと落ちていった。光なんて一瞬で、目に飛び込んできた景色は魂喰いセイレーンの張り付く無数の蔓。その下では、アギーが大きな白いものを抱えてうずくまり、青い炎を纏う大剣がリティアの前で、人間の頭らしきものに刺さり、蔓を巻き込んで燃え上がった。ガアが、ドスンと下の階の床に着地すれば、

「リティアさん!?」

「ディオンさん…どうしてここに?」

地面から受ける衝撃を吸収できるように両膝を軽く曲げて、構えていたディオンが斜め後方にいた。そしてその頭上でふわふわと泳ぐのはアリシア。

「あー!リティア、無事で良かったですぅ!」

「アリシアさん…色々とお聞きしたいことがあります。」

リティアの頭上にもきてふわふわするアリシアは、ガアが抱えていない左手で追い払う。

「んー。私も色々お話したいのですが、見て見て!」

ガアの手から逃れたアリシアは、大剣を無邪気に指差す。

「鮮肉食カズラは燃え上がっております。この後はどうなります?」

「アギーさん!」

青ざめたディオンが、炎の海を目の前にして動かなくなったアギーを救出にいく。リティアは、結構ものになった風の魔術で大剣を自分へと引き寄せて抱えてから、渦を描いて赤い精霊をガアの元へと誘うと、新たに燃えようとする炎はその勢いを落ち着かせて、代わりにガアの身体の炎が元気になる。ガアも喜びの雄叫びを上げる。

「ゴーレム退治お疲れ様でした!とっても助かりました!」

リティアの隣に降り立ってきたアリシアは、ニィーッと白い歯をこぼし、

「私ではなくてもできたはずですよ。」

「貴女には、沢山見て頂きたいものがあるのです。そして感じてください。こんな所に捨て置かれた少女の心を。」

キッと睨んでみせるリティアと目を逸らすことなく、向き合ってくる。

「アギーさん!手を伸ばしてください!」

ディオンが炎の海へと手を伸ばすが、アギーは涙を枯らして首を横に振ると、ガアがリティアを丁寧に降ろして一気に駆け、自分とは異なる炎の中へと飛び込んだ。ジュウウと肉が焼ける匂いが漂ってくる中、火傷を負いながらも固まるアギーを天へと持ち上げて…投げた。そのアギーの落下位置へとディオンが走って、抱きとめる。

「ガアアア!!!!」

ガアが一鳴きすると、炎の上を飛び越えようして足に火傷を負ってリティアの方へと転がってくる。リティアは、大剣から手を離して急いでガアに近づいて抱きしめると、精霊が集まってその火傷を治してゆく。

「ガアさん、ありがとうございます。」

「ガアさんとおっしゃるのですね、助かりました。リティアさん、ここを出ましょう。この炎は、普通の炎はと異なりそうです。」

手離した大剣をディオンが背負い、放心しているアギーを抱き上げた。介抱しているリティアがアリシアをチラッと見れば、ニコニコと返ってくる。

「はい、これは獄炎です。精霊に触れられる者が精霊を潰すことで創り出すことが可能なものです。対象物を燃え尽くすまでは消えることはありません。」

「帰り道はどこなのですか?」

自分がやりましたと言わんばかりの口振りに、リティアはムッとしつつ、

「お顔立ちの良い方と桃色君は、向こうへどうぞ。」

リティアの表情を見ても笑顔をやめないアリシアが、指を差す方向の壁には先程のような紫色の光が溢れ出す。それを見たディオンが、鋭い目つきをアリシアに向ける。

「リティアさんは!?」

「リティアも帰りますよー、この子は燃えないけど、ここに残す理由もありません。」

アリシアがまた指を差せば、炎の海が迫りくる壁へと紫色の光を出現させる。

「何故分ける必要があるのですか!?」

「それは来た道が違うからですよ。リティア、さあ行きましょう。」

怒鳴るディオンに、アリシアがサラッと返答すればリティアの手を引き、新たに作った光へと誘う。リティアもディオンに手を振り、

「ガアさんが守ってくれるので心配しないでください、では後ほど学校でお会いしましょう!」

元気になったガアに抱えられながら、光の中へ潜っていきつつ、心の中でハルドを呼んだ。

《ハルさん、どこですか?何処に》

景色が変わった先には、アリシアの姿はなくなり、見たことのない校内の真っ直ぐと続く通路だった。ガアの顔に身体を傾けて不安を和らげようとすると、ガアも応えるかのように逞しいもう片腕でしっかりとリティアの身体を固定してくれる。

《娘、あれを呼ぶでない。今は身動きが取れないのだ。》

ハルドではなく、ケルベロスから返事が返って、唸り散らし始めたガアがどこかに向かって駆け出す。リティアも落ちないようにしがみつき、

《では、ケルベロスさんはどちらに?》

《なに、すぐにでも合流できるぞ。お前の出入り口付近にいるのだから。》

通路の突き当りにぶつかる前に階段が見えてきて、ガアが何段飛ばしかでドスンドスンと降りていく。ロビーかと思うほどに広いフロアに辿り着くと、神殿に建つ支柱がいくつも目に飛び込んできた。

「ここ、知っている気がします。」

「ガア?」

リティアの瞳は極限まで開かれて、その顔を首を傾げながら覗くガア。そうだ、スインキーの旅行戦記の挿絵だ。

《スインキーの作者は、ここを知っているというの?》

《すぐそこまで来ているなら戻ってこい!緑の娘が大泣きしているぞ!》

ケルベロスの叱責で現実に戻されたリティアが、ガアを見つめると、

「帰りましょう!」

《承知しました。また後ほどお会いしましょう。》

初めて脳内で会話をしてきて、その声は。

「ラド先生…?」

ブワァと精霊が巻き上がり、リティアの身体を攫っていった。

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